ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと姉妹と約束と 第9話」 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 3/16)




「消えた!?スズノが・・?」

「そう言って、タマモちゃんが飛び出しちゃったんです!・・スズノちゃんを追いかけるって・・。」

涙目で叫ぶおキヌに・・美神は大きく目を見開いて・・

・・・・。
・・・・・・。

予感が・・的中してしまった。やはり遅かったのだ・・すべてが。

(一体、どういうこと!?・・・・こんな時ばっかり勘が当たるなんて・・)
美神は唇を噛みしめると、すぐさま玄関へと飛び出した。

胸騒ぎがする・・これを無視できるほど自分は楽天家ではない。
動いているのだ。・・失踪などという生易しいものではない・・もっと大きな何かが・・・

「・・・横島くんと西条さんは?」

「先生はタマモと一緒に・・西条殿も心当たりを探すと言って出て行ったでござる!」

後に続くシロとおキヌを一瞥して、車のドアへと手をかける。
何が起こっているかは分からない・・ただ、スズノが姿を消すほどに思いつめているというなら・・・おそらく時間は残り少ない。

「乗りなさい、2人とも!飛ばすわよっ!」

「?・・スズノが何処にいるか分かるのでござるか?」

「分からないから飛ばすんでしょーが!ほら、乗った乗った!」
言って、美神はアクセルを踏みしめたのだった。



〜 『キツネと姉妹と約束と その9』 〜



「・・っ・・!・・せめて・・方角ぐらいは分からないか?」

「・・・ごめん。あの時、私がもっとしっかりしていれば・・」

並走するように隣を駆ける横島に、タマモは表情を消したままうつむいた。


かれこれ走りつめて3時間。
霊力を全開にしたところで、闇雲に探していては然したる手がかりも掴めない・・・・・そう、分かりかけたころ。

タマモの足取りがふらつき始めたことを見てとると、横島は彼女の腕を取り・・


「・・は・・離して・・!私・・・まだ・・」

「いいから少し休め!ここでぶっ倒れてもしょうがねぇだろ・・!」

荒げられる声に、タマモは大きくかぶりを振る。

「でも・・・っ・・だけど・・!」


「いいから!!」


「・・・!!」

なおも無理に動こうとする少女を横島は両手で彼女を抱きしめた。

・・・。



「・・・・大丈夫だから・・。落ち着けよ・・お前が無理したって、アイツ、喜ばないぜ?」


・・・。
言い聞かせるようにつぶやく横島の腕はあたたかくて・・・
・・・だから、自分の胸に顔をうずめ・・『あたたかい』と笑ったスズノの姿が頭をかすめて・・・



「・・・っ・・・私・・っ・・・どうしたら・・・っ!」


気付けば、タマモの目からは・・涙がこぼれていた。

横島の服にしがみつき、彼女は子供のように泣きじゃくる。
抱きしめてくれるくれる腕より・・さらに強い力で抱き返して・・・・・

「・・・・タマモ・・。」

『らしくない』・・とは思わなかった。
いくら、落ち着いているように見えても・・彼女はやはり、年相応の少女なのだ。
スズノが消えて・・今、一番に動揺しているのはタマモのはず・・それだけは間違いない。


(・・・何やってんだろうな・・オレ・・)

・・判断が甘かった。
スズノを思いつめる理由が何なのかを・・自分は・・自分だけは知っていたのに・・
スズノの持つ強大な力に・・暴走を促す存在に・・。自分は・・・気付いていたのに・・

まだ時間は有ると・・そう思っていた。
スズノの浮かべる笑顔にばかり気をとられ、その内面まで踏み込むことができなかった。

・・・。


(・・タマモは・・鋭いから、分かっちまったんだな・・)

『さよなら』とは別れの言葉だ。
永い永い・・・・もう手の届かない・・お別れの・・・・

それならば、スズノがタマモに向けた『さよなら』の意味は・・・・・


(まさか・・・・本当に死ぬつもりなのか・・・?スズノ・・・)

                           
                           ◇


「・・ここもハズレ・・か。」

焼け焦げた野原を見つめながら、西条は拳を握り締める。彼の額にはじっとりと汗がにじんでいた。

スズノの様子がおかしくなったのは3日前。
自分がここ近辺で頻発している小火の話を持ち出してからだ。もしや・・と思い、1つずつあたってみたのだが・・・

・・これで5件目。全ての場所を調べつくしたことになる。

スズノが消失した直接の原因は自分かもしれないというのに・・・

「・・無駄足を・・踏んでしまったな。」

スズノの・・あの無垢な笑顔が目に浮かぶ。・・そして、自らに歯噛みする・・。
自分は・・・あんな小さな少女一人守ることができないのか・・。


―――・・・。


「・・・・無駄足では・・・ない。」

瞬間だった。
背後から放たれる強烈な殺気・・・。それに西条は振り向いて・・・



「・・・・コカトリス・・・。」

「もう春だというのに・・冷える晩だな、西条殿。」

・・・風が吹く。
視界の先に立つのは・・大鎧に日本刀を差した翼人。

「・・悪いが、今日は斬り結べない。攻撃してくる分には構わないが・・僕はスズノちゃんの捜索を優先させてもらう。」
一瞥もくれず、大股で西条は前へと踏み出して・・・

・・・しかし・・・

「それがしが、スズノ殿の居場所を知っていてもか?」
抑揚のない声で翼人がそう、つぶやいた。

「・・・・何?」


冷たい・・夜だった。月だけが冴える・・・どこか悲しい夜。

「手合わせ願おう・・。それがしに勝てば、居場所は教える。負ければ・・それまでだ。」

射抜くような眼光。
旧敵の言葉に・・西条は静かに霊剣を抜き放つ。


「・・・・・怒りに震えるのもいいが・・・そんな太刀ゆきで僕が斬れるとは・・・思わないことだ。」

淡い月光。
刹那・・・残音とともに、二つの剣が旋律を奏でた。

                       
                           ◇

「・・・大丈夫か?タマモ・・」

どれぐらい、そうしていただろう。腕の中をのぞきこみながら、横島は気遣わしげに声をかける。
それに・・・
タマモはどこか深刻そうに押し黙って・・・・・・

「・・・タマモ?」
いぶかしむ青年に、やがて、意を決したように口を開いた。

「・・・・横島には・・話しておいた方が・・いいよね。」

「?」

震える声。
大分、平静さを取り戻したものの・・タマモの声はやはり重く・・・・うわ言のように空ろな口調。

「・・・横島は・・私が、スズノの本当の姉じゃないって言ったこと覚えてる?」

「?ん・・あ・・ああ。」

・・・・。
初めてスズノとタマモが対面した時のことを思い出す。九尾の狐に血縁者はいない・・・、たしかに彼女はそう言って・・・

「妖狐はね、永い年月を生きるために転生を繰り返すの・・。
 一つの体に限界がきたら次の体・・それも駄目になったらまた次の体・・って。」

「・・お前が殺生石から出てきたのも・・・?」

横島の問いにタマモは首をふり・・・

「あれは・・・少し違う・・。完全に封印がほどこされてたから・・。
 普通は、流産した狐の幼児の体を借りて・・それで大人になるまでは普通の狐と同じように、家族たちと一緒に暮らすわ・・。」

タマモは、どこかなつかしそうにそんなことを言って・・・
もしかしたら、スズノと接することで過去の記憶の断片を垣間見たのかもしれない。

「・・・じゃあ、スズノは・・・」

「・・うん。私が3度目に転生したときの姉妹・・・・同然に育った子供。
 私が九尾の狐だって気づいても・・ねーさま、ねーさま・・ってなついてきて・・・・」

そこで、タマモは・・横島のジャケットを握り締める。少しつらそうに目を閉じながら・・・

「・・・・だけど、あの子は霊力のポテンシャルが高すぎた。私の霊気に触れることで、あの子まで妖狐になりかけて・・。」

「このままじゃスズノの為にならないって・・そう思った当時の私は、あの子を残して・・予定より早く都に出たの。」


・・結果は最悪だった。
まだ未熟だった自分は、簡単に正体を見破られ・・・そしてスズノは・・・、妖狐となる道を自ら選んだ。

「・・・・私・・・バカみたい・・。結局、何も・・・それどころかスズノは私のせいで・・・・」


・・・・。

「『不幸になった』っていうのは無しだぞ?」


・・・?
再びうつむきかけたタマモは・・頭上から聞こえる優しい声に顔を上げる。

「・・で・・・でも・・」

「あいつが不幸かどうか決めるのはオレたちじゃないだろ?それに、スズノは多分、そんなこと思ってない。
 お前にもう一度会えるって・・・ずっとそう信じて・・しかもついさっきまで願いが叶ってたんだからな。」

言いながら、横島はタマモの頭をポンポンとたたいて・・・


「・・・まだ、間に合うよ・・タマモ。無くしたんなら、取り返せばいい。」

・・・。

そう・・・まだ取り戻せる。
スズノはルシオラとは違う・・・ちゃんと生きているんだから。

「スズノに悪いと思うなら・・これから先、幸せにしてやることだけを考えろよ・・。
 だから、あんまり自分を追い詰めるな・・・・O.K.か?タマモ」

微笑む横島をタマモは瞬きもせず見つめ続ける。
彼の笑顔は・・眩しかった。穏やかな何かが・・・自分の中に戻っていく・・。それを感じて・・・

やはり自分は・・・この青年が好きなんだと・・・
顔をうずめながら・・そう思う。


「・・・・・タマモ・・悪いんだが・・首が・・苦しいんだけど・・」

冗談抜きで苦しそうな声が聞こえ・・ハッとして顔を上げると・・・

・・・・。

服の裾を強く掴んだことで・・横島の首がちょうど絞まる形に・・・というより、彼の肩から上が紫色に変色している。

「・・・あ・・!ご・・ごめん。」

弾かれたように離れるタマモ。

「あ〜・・気にすんな。それにスズノが消えたこともな・・・。重大責任者ワーストワンはどう考えてもオレか西条だし・・。」

・・・これは正真正銘本音だったりして・・・
頭をぽりぽりとかく横島に、少女は・・少しだけ苦笑する。



「・・・・・・ありがと。」


「ん?何か言ったか?」


「・・・・・何でもない。」

振り向く横島に、タマモは恥ずかしそうに視線を逸らすのだった。



〜appendix.8 『抗う者たちの夜』


「・・さ〜て・・休憩終了。スタミナの回復だけは文殊でも無理だからなぁ・・気合入れるか・・。」

腕を回す横島もある程度、余裕を取り戻していた。休んだことは正解だったかもしれない。
時間にしてわずか数分だが、それでもいつもの調子を思い出すことができた。

すぐにでも走り出そうとする横島を、タマモが静かに押しとどめて・・・

「?どした?」

「・・・・頭が冷えたおかげで、ちょっと思いついたことがあるんだけど・・」

言いながら、タマモは思案顔で腕を組む。言葉の通り、彼女はいつもの冷静さを取り戻したようだ。

「なんだよ?思いついたことって・・。」

「・・・人海戦術。」


―――・・・。


「なるほど、それで僕たちに声がかかった訳ですか・・。」

「うおおおおお!!!わしにも・・・わしにもようやくセリフが!!!!」

「・・・難儀ね。タイガー君。」

・・・・で、集まったのはこのメンバー。ピート、愛子、タイガーの毎度お馴染み(一部お馴染みではないが)除霊委員である。

そして・・・・

「横島さん・ドクターカオス、今がんばってます。」

「あいつはデスクワーク向きだもんな。で、代わりに来てくれたのか・・サンキュー、マリア。」

・・・なんてことを言いながら、横島が頭を撫でるとマリアはどこか調子悪そうに立ちすくんで・・
(気になる方は作者短編『マリアとキスと煩悩少年』をご参照ください(激爆))
・・・カオスには例の調べごとを一手に引き受けてもらっている。
下手に自分たちが手を出すのは返って逆効果だと・・ピートと愛子がそう、判断したのだ。

結果的に駆けつけてくれた4人に、タマモは安心したような表情を浮かべ・・・・

「・・・・うん。人海とまではいかないけど・・・これで大分、マシになると思う・・。みんな・・お礼・・」

「うおおおおおおおおおお!!!!!」

・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。ちなみにトラと思しき影が勝手に一人で飛び出していってしまったが・・
それに・・・・タマモはこめかみをヒクヒクさせて固まっていたりして・・・・


「・・・こんな軽いノリでいいんでしょうか?横島さん・・。」

「な〜に・・らしくなってきたってことだろ?んじゃま、捜査再開といきますか!」

冷や汗をかくピートに言いながら、横島は大きく空を仰いだのだった。


『あとがき』

いやあ・・・乙女モード爆発ですね、タマモさん(笑
彼女の場合、『らしさ』を失わないように・・冷静なところもきちんと書かないといけないんですが・・(第7話冒頭みたいに)
今回は、タマモの持っている弱さとか脆さに焦点をあててみました。

とりあえず、appendix.1 の謎はこれで解くことができた・・かな(汗
そして・・・西条とコカトリス・・ついに激突ですね。
第12話とか・・・本当にこの2人しか出てこなかったりします・・うう・・読んでくださっている方に見捨てられないか不安です・・。

さてさて、物語はどんどんクライマックスに・・・次回はついにスズノが・・・・
それでは〜10話でお会いしましょう。

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