ザ・グレート・展開予測ショー

今昔首切草子  二の首


投稿者名:777
投稿日時:(04/ 3/14)

 雪之丞は物陰に身を潜めていた。背を壁につけているから後ろから襲われる心配はない。たまに視界に首のない霊がふらふらと彷徨っているのを見かけるが、雪之丞に気づいている様子はなかった。ただ彷徨っているだけか。警戒しつつ、雪之丞はこれからの身の振り方について思考を進める。

 情報が足りない。それが雪之丞の悩みの種だった。この村を脱出するための方法がまるで見えてこない。手がかりといえるだけの情報を雪之丞は所有していないのだ。情報を得るためには探索をせねばなるまいが――

「戦いは避けられねぇだろうな…。腹も減ってるってのによ」

 もう何日も食事を取っていない雪之丞の肉体は既に限界近いはずだ。霊的戦闘は普通の戦闘よりも体力を使う。そう何度も戦ってはいられない。霊をやり過ごしつつ情報を集めることができるだろうか。

 あるいは、ここでこのまま夜を明かす事も選択の内に入るかもしれない。雪之丞が村に入ったときは確かに悪霊はいなかったはずだ。家にあがりこんで無防備に眠りこける雪之丞をあの女は殺せなかった。それは即ち何らかの制限があるということ。雪之丞はその制限を時間だと考えている。悪霊たちは夜にしか存在できないのではないだろうか。

 朝を待つのはいい案だと思う。だが、もしも霊が雪之丞に気づいてしまったら? 逃げ場のないここで霊の大群が押し寄せてきたら、打つ手はない。それに、敵は悪霊だけではないだろう。村をこんな風にした黒幕がいるはずだ。何者かは分からないが、隠れるなどという手段はそいつには通用しない気がする。

「どうせ、待つのは性にあわねぇしな。動くか」

 雪之丞は物陰から立ち上がる。観察したところ、首のない悪霊はどうやら感覚が鈍いようだ。すぐそばを横切ったりしない限りは早々見つかったりしないだろう。問題は首の方だが、首にはおそらく戦闘能力はないと思う。断末魔をあげさせる前に仕留めることができれば、それほど体力を使わないはずだ。

 意を決した雪之丞はそのまま近くの家に上がりこむ。鍵はやはりかけられていなかった。家の中で、雪之丞はまず血痕を探す。――あった。埃の積もった座敷の右隅に、どす黒い血痕が残っている。血痕の中でやはり首が――今度は若い男だ――悪意に満ちた笑みで笑っている。雪之丞は一足飛びで移動し、霊力を込めた右腕で首をわしづかんだ。そのまま握りつぶす。――成功だ。首は悲鳴を上げることなく消滅した。

「これはこれで疲れるが――何とか保ちそうだ」

 雪之丞はようやく一息ついた。これなら首が霊を呼ぶこともないだろうから、安心して探索が進められる。それでも警戒は緩めることなく、雪之丞は家の中を見て回る。

 暫らく探索を進めたが、手がかりになりそうな情報はつかめなかった。強いてあげるなら家の中が全く荒らされていないことだろうか。家人が殺されたというのに、家の中は何も壊れているようなものはない。争わなかったのだろうか? おとなしく死に殉じたとでも言うのか。何故だ。

 わからない。首を切られて死んでいるのだからまさか自殺ではあるまい。抵抗するまもなく殺されたとでも言うのか。だが、最初に首だけの女と接触したあの家でも荒れた様子はなかった。まだ断言するわけにはいかないが、村人は抵抗せずに殺されたという可能性も出てくる。

「次の家に移るか…? くそっ、これで本当に合ってるのか?」

 まだ一つしか探索していないが、出鼻をくじかれたことが雪之丞を不安にさせていた。通常なら例え気の短い雪之丞でももう少し我慢が聞くのだろうが、空腹と疲れが雪之丞を焦らせる。家を探索するのがはたして正しいことなのか、もっと別の方法があるのではないだろうか。

 もやもやとした物を抱えたまま、雪之丞は家から出る。時計を持ってきていないから時間はわからないが、夜はまだまだ明けないようだ。嫌な雨もまだ止む気配がない。なぜだか、この件が解決するまで雨はやまないような気がした。

 近くに霊がいないことを確認して次の家に走る。扉に手をかけて――また、焦燥感が雪之丞を襲った。本当に、これでいいのか。扉にはまたしても鍵がかかっていない。先ほどとほとんど変わらない条件。中では争われた形跡さえなく首だけの霊がいて、そしてまたしても手がかりはない。悪戯に体力を消耗するだけの愚行――。

 的を絞らねば、と雪之丞はようやく思い立った。闇雲に目に付いた家を調べるのは愚行だ。的を絞って調べなければ意味がない。たとえば長者の家、あるいは村役場、あるいは病院、寺や墓場に的を絞らねばならない。こんな何の変哲もない家など調べるだけ無駄だ。手がかりのありそうな場所を調べなければ。

 扉から手を離す。この家には何もないと見切りをつけた。もっと手がかりのありそうな場所はどこだ? 自然、視線が村の奥へと向く。悪霊の数は確実に増えるだろう。あるいは悪霊だけでなく、別の何かすら出るかもしれない。だが、たとえ危険に直面しようと、今は決断するときだ。

 雪之丞は村の奥へと足を向けた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「と、言うわけで現在手がかり捜索中の瑠璃すけ他一名でありますっ!」

「誰に説明しとるんだね、瑠璃君」

「画面の向こうの君にっ!」

 誰だねそれは、と尋ねる七篠に見向きもせず、瑠璃はつったかたーと歌いながら屋敷の中に駆け込んでいった。先ほど殺されるかもしれないなどと言っていたくせに、無警戒にも程がある。七篠は瑠璃に続こうとせず、彼女が入っていった屋敷を見上げた。

 首切り村でおそらくは一番大きな屋敷であろう。それもそのはず、ここは村長の屋敷なのだ。手がかりを探すならばやっぱり権力者の家でしょう、と瑠璃が言ったためだった。特に反対する理由もなかったので七篠も行動を共にしている。

 結局、七篠たちの方針は二人で固まって手がかりを探すことになったのだった。ばらけるには危険が大きすぎるし、かといって行動を起こさないわけにもいかなかったからだ。そして今、早速ばらけている。

「きょっ! きょわーーーーー!!!」

 突然、屋敷の奥から瑠璃の悲鳴――あるいは奇声――が聞こえた。七篠の足は彼自身の意思に従ってくるりときびすを返して立ち去ろうとする。教え子を救うつもりなどさらさら無かった。

「逃げる気満点ですか、教授」

 瑠璃の呆れた様な声を聞いて七篠はまたくるりと振り向いた。屋敷の入り口で瑠璃がじとっと七篠を睨んでいる。特に気にすることなく七篠は言い返す。

「悪いかね?」

「そんな教授が素敵ですっ!」

 瑠璃は満面の笑みを浮かべて笑う。七篠もニヒルに笑い返した。こういうとき、馬鹿は都合がいい。頭がよい馬鹿は使いやすいと心から七篠は理解した。

「それで、一体何があったんだね? 奇声をあげていたようだが」

「いえ、特に何も。あたしが悲鳴あげたら教授は助けてくれるのか気になりまして」

 いい笑顔で笑う瑠璃を、七篠はとりあえずぶん殴っておいた。痛い、と頭を抱えてうずくまる瑠璃を見下ろし、やはり馬鹿は駄目だと考え直す。瑠璃を見捨てて逃げようとしたことなど、とっくの昔に忘れてしまった。都合の悪いことは忘れるに限る。

 痛いなぁ、とぶちぶち文句をいっている瑠璃を置き去りに、七篠は屋敷に足を踏み入れた。いつのまにか緊張が解けている。瑠璃のおかげだと言えるが、だからといって大声を出すことはないと思う。もしもここに殺人者がいたならば声を聞きつけて向かってくるかもしれないのだから。

 そう、殺人者が問題だ。瑠璃が言うには、異空間脱出物は大概『殺人者』あるいは『トラップ』が付き物らしい。つまりは他動的に殺されるか自動的に死ぬかの違いである。七篠もまさか殺人鬼がうろついている等とは思わないが、だが超常現象相手に理屈は通用しない。何かがいるということを仮定して動かなければ。

「わっ!」

 だからこそ、殺人者を警戒しているからこそ、突然背後から大声を出されれば反射的に反撃する。例えそれが教え子の声であってもだ。七篠は声の主に向かって回し蹴りを繰り出し、当然それを避ける体力のない瑠璃は蹴りをもろに食らって吹き飛んでいった。

「――この状況で何故真面目になれないんだね、君は」

「シリアスタイムは1日1回しか使えないんですよぅっ!」

 顔を抑えながらの瑠璃の反論に七篠は愕然とする。それは、それはつまり――

「君は、役立たずか…」

 ため息をつく七篠を見上げながら、瑠璃はニコニコと笑っていた。



 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 大きな屋敷の前に雪之丞は立っていた。おそらくは村の中で最も大きな屋敷だろう。悪霊を避けながら村の奥へと踏み込んだ雪之丞は、幾つかの調査候補を上げた末にこの屋敷に踏み込むことに決めた。

 見る限り、村の権力者の屋敷という風である。元は村の情勢を把握する場所であったろう。少なくとも何らかの手がかりが残されているだろう事は間違いない。まさか脱出法が分かりやすく残されているとは思わないが、思考の材料になるものさえあればいい。

 雪之丞は屋敷への扉をくぐる。おかしなことに、扉は開きっぱなしになっていた。雨風に晒されたせいか、玄関口が荒れている。そんな些細な変化が雪之丞には嬉しい。手がかりが残されている希望が湧く。

 警戒しながら屋敷に踏み込む。これだけ巨大な屋敷だ、住人も一人や二人ではないだろう。あるいは何らかのトラップが仕掛けられているかもしれないし、警備員のような役目をもった者もいるかもしれない。まさか友好的な生きた人間がいるとは思わないが、案外ばったりと黒幕と出会うことになるかもしれない。ここが力の使い時だ。

 暗闇に目を慣らしながら廊下を歩く。出来るだけ音を立てないようにと心がけても、古い木造はぎしぎしと音を立てる。闇の中で何者かが息を殺して潜んでいる、そんな得体の知れない不安が雪之丞を襲う。構わない、来るなら来い。

 だが、雪之丞の気負いもむなしく何かが起こるような様子はない。廊下を進むうちに幾つか扉を発見したが、何故か鍵がかかっている。蹴り破ってもいいのだが破壊音が響くのは避けられないだろう。出来ればどこかで鍵を見つけたかった。

 鍵の開いている扉を求めて廊下を行く雪之丞の目線が白い何かを捕らえた。廊下にぽつりと何かが落ちている。罠を警戒しながら近寄れば、どうやら女物のハンカチらしいことが分かった。こんな村にはありえない、どこか垢抜けたデザインのハンカチだ。拾い上げて裏返すと、アルファベットが刺繍されていた。

「RURI…瑠璃? 名前か、これは?」

 いつ誰が落としたものかは定かではないが、少なくとも何年も前のものではなさそうだ。村の者が皆殺しにされた後、何者かがここを訪れたとでも言うのだろうか。

 ふと気づいて廊下の床に顔を近づける。埃の積もった廊下には、紛れもなく誰かが通った後が残されていた。それも埃のつもり具合からして――ごく最近のこと。

 生きた人間がいる! 雪之丞の胸に希望が湧いた。おそらくは自分と同じく迷い込んだ人間であろうが、誰かがいるという事実は雪之丞の心に安堵をもたらした。もしも食料を持っていれば分けてもらえるだろうし、脱出するための手がかりを持っているかもしれない。

 雪之丞の歩みが軽くなる。この奥にもしかしたら人間がいるかもしれないのだ。早く会いたいと心がはやり、雪之丞は知らず警戒を緩めていた。油断してしまったと言って良い。

 廊下の曲がり角をほとんど警戒せずに曲がった雪之丞に鎌が振り下ろされた。致命傷にならなかったのは運が良かっただけだ。錆びた鎌の刃は雪之丞の右肩をえぐる。驚いて目を見張れば、鎌を振り下ろした男とは別に二体の悪霊が待ち構えていた。待ち伏せされていたのか。

 おかしなことに、それら三体の悪霊には首が残っていた。村の中で見た悪霊にはどれも首がなかったというのに、目の前の霊には確かに首が付いているのだ。一瞬雪之丞は人間かと見間違えたが、だが悪意に満ちたその表情は確かに霊のそれだ。血を噴出す肩を抑えながら雪之丞は魔装術を纏う。

 魔装術さえ纏ってしまえば、三体の悪霊など雪之丞の敵ではない。またも振り下ろされた鎌を装甲で弾き、そのまま右腕を一閃した。大した反撃を食らうことなく霊たちは拡散する。

 暫らく辺りを確認して安全を確かめ、雪之丞は魔装術を解いた。途端、肩を押さえてがくりと膝をつく。流れ出る血に、右腕が真っ赤に染まっていた。体力が万全でない現状、少しの出血が命取りとなる。服を引き裂いて包帯代わりに強く巻きつけた。浅くはないが深くもない傷だ、多分これで止まるはず。

 立ち上がると不意に眩暈がした。壁にもたれかかるように立ち尽くす。どうやら相当体にがたがきているらしい。眩暈に吐き気に寒気、相当不味い状況だ。疲労と貧血がひどい。今もし戦闘になれば――おそらくは負ける。

 引き返すべきか、あるいは進むべきか。霞む意識で雪之丞は思考する。霊たちは雪之丞の進む方角から来た。奥に進めば残りが襲ってくるかもしれない。引き返すべきか。

 だが、引き返したところでどうなるというのだろう。休息して再挑戦しろとでも言うのか。食料がないこの状況、時間がたてば雪之丞の体力が回復するというわけではない。進むべきか。

 ハンカチの落とし主についても考える。もしも奥に生きた人間がいるなら、食料を分けてもらえるかもしれない。何か腹に入れることが出来れば体力だって回復する。だが、もし悪霊が待ち構えていたなら。

 霞みがかった思考ではなかなか決断することが出来ない。ベストな選択肢など存在しない。何がよりベターなのか。雪之丞は悩む。

「へっ、こういうときは前進すりゃ良いんだよ。死中に活があるのはいつものことだ…」

 呟いて、雪之丞は屋敷の奥へと歩みだした。一歩一歩ゆっくりと、壁にもたれかかったまま前進する。

 屋敷の奥から、がたりと物音が聞こえた。動く何かが――この先にいる。

 皮肉げな笑みを唇に乗せ、雪之丞は闇の先を見据えた。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ひらけゴマ! ひらけゴマ! ひらけゴマ! …あきません、教授!」

「当たり前だろう」

「ちなみに今のは関西弁のあかんと開かないをかけた洒落ですっ!」

 知らんよ、と呟いて七篠はため息をついた。屋敷を探索することにしたは良いが、廊下に面した扉にはどれも鍵がかかっている。開かなければ諦めればいいものを、瑠璃はそのたびにいろいろな方法――たとえば呪文を唱えるとか――を試しているから時間がかかってしょうがない。そろそろ夜が来るのではないだろうか。

 瑠璃がまた奥へと走っていった。この状況で浮かれたように走れる神経がうらやましい。全く警戒せずに走り回るのだから、もし何かが待ち伏せしていても先に死ぬのは瑠璃だろう。その時は何もいわずに逃げようと七篠は考えている。

 と、角を曲がって消えていった瑠璃から白い何かが落ちるのが見えた。近寄って見るとそれは白いハンカチだった。埃だらけの廊下に落ちたハンカチなぞ、拾ってやる義理もないから七篠はハンカチをそのままに角を曲がる。

 ――瑠璃の姿が消えていた。

「瑠璃君?」

 呼びかける声が闇に消える。暗いとは言え、先を見通せないほどの闇というわけではない。にもかかわらず、瑠璃の姿が見えない。まさか――

 きびすを返しかけた七篠の足をとめたのは、扉の開くぎぃと言う音だった。廊下の突き当りにはどうやら扉があったらしい。その扉からぴょこりと瑠璃の顔が覗いている。こちらに向かってひらひらと手をふりながら、瑠璃は笑っている。

「ここ、どうやら書庫になってるみたいですよ、教授。何か資料があるかもないかも」

「心配させるな、瑠璃君。勝手に先々行かないでくれ。思わず引き返そうかと思ったぞ」

「はぁ。実はびびりですよね、教授」

 七篠は無言のまま扉を蹴りつけた。うぎゅ、と変な声をあげて瑠璃は扉に挟まる。気にせず、七篠は扉の中へと足を進めた。本棚が幾つか並んでいるそこは、確かに書庫のようだった。

 明かりをつけようと壁を探るも、スイッチがない。ふと気づいて天井を見上げれば、そもそも電灯がなかった。どうやら蝋燭を照明手段としている村だったらしい。不便なことだが、人のいない村に電気が来ている訳もないからどうせ同じ事だった。

 備え付けられた文書き机を探ると古びた蝋燭を発見した。ライターで火をつけると、薄暗かった書庫が見渡せるようになった。途端、瑠璃が奇声をあげた。

「ぎょわわっ! あれ、あそこにあるの血の痕じゃないですかっ! うわぁ、お化け屋敷もビックリですねぇっ!」

 瑠璃の指差した先、書庫の隅に何か赤黒いしみが残っていた。言われてみれば血のしみにも思える。ここで誰かが殺されたのか。一体、何故?

「瑠璃君、すぐここを出よう。ここで誰かが殺されたというならば、殺人者あるいはトラップの存在が確定的になったということだ。逃げた方がいい」

「断る!」

「ではお別れだ」

 七篠は瑠璃に構うことなく逃げ出そうと立ち上がった。その七篠の腰に瑠璃がしがみついてくる。思わず肘打ちを入れると、きゅうと鳴いて瑠璃は崩れ落ちた。そんな瑠璃に視線を向けることなく部屋を出ようとする七篠を、慌てたような声がとめる。

「待ってくださいよぅっ! 大丈夫ですってば、この血痕相当古いですから、もう何年も前の事ですよぅっ!」

「それならそうと早く言いたまえ。何をしているんだ、瑠璃君。早く脱出するための手がかりを探さねば」

 何事もなかったかのように七篠は書庫の検分を始める。その背中に瑠璃の視線を感じたが、七篠は鋼鉄の意志をもって振り返らなかった。やがて瑠璃も諦めたか、書庫の検分を手伝い始める。

 数時間が経った頃だろうか。もはや外は完全に日が落ちているだろう。七篠はようやく手がかりになりそうなものを発見していた。『村の歴史』と題された古文書。瑠璃を呼び、文書き机に座って読み解く。

 数十分で薄い古文書を読み終えた。そこには首切り村の真相が記されていた。

「この村がこうなった理由は分かった…。だが、どうすれば良い? どうすれば出られるんだ?」

 七篠の呟きはむなしく闇に消える。瑠璃も無言で何かを考え込んでいるようだ。シリアスタイムは1日1回だと言っていたが、0時を過ぎたからもう一度使えるとでも言うのだろうか。

 ――と。

 がたり、と。扉の向こう、屋敷の廊下で物音がした。瑠璃の肩が震える。

「今、物音がしませんでした?」

「何か、いるな…」

 七篠は瑠璃を背後に庇い、扉に対峙する。瑠璃が不安げに七篠の服を掴んだ。

 得体の知れぬ何かが、書庫へと近づいてきている。

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