ザ・グレート・展開予測ショー

たいせつなもの


投稿者名:BOM
投稿日時:(04/ 3/14)



 このお話は、前回投稿させて頂きました『#挿絵企画SS「へにゃ・・・」』の続きとなっております。
 できればそちらを読んでからこのお話を読んで頂ければ、より楽しめるかと思います(^^;お手数かけましてすみません。
 それではどうぞ!m(_ _)m
 





 最近、習慣になりつつある朝と夕方の散歩。
 もっとも、夕方の散歩は二人で並んで街を歩く、普通の散歩だけど。
 いつもならば散歩する時間が――横島と一緒にいられる時間が増えたと喜ぶはずなのに、

 「先生・・・どうしたんでござろうか?」

 シロは不思議に思っていた。

========================================

               『たいせつなもの』

========================================

 横島の様子がおかしい。シロがそう思ったのは今朝の散歩の時だった。
 いつも通り、横島の家へと向かったとき。

 「せんせーっ!おはよーっ!!」

 ドアを勢いよく開け放ち、まるで目覚まし時計のようにそう叫ぶ。
 横島が出てくることを期待して、その元気とともに、しっぽも勢いよく振れる。

 ばたばたばたばた・・・

 ぱたぱたぱた・・・

 ぱたぱた・・・

 ぱたり

 「・・・あれ?」

 おかしい、とシロは思った。いつもなら出てくるはずの横島が出てこない。
 眠たそうに目をこすりながら、「んじゃ、行くか」と行って出てきてくれるのに。
 不思議に思ったシロは、部屋の中へと足を踏み入れた。

 「せんせー?」

 ひょいっと、障子を開いて顔をのぞかせる。薄暗い部屋の中をきょろきょろと見回すと、布団の上に座っている横島を見つけた。
 嬉しそうに、横島へと近づくシロ。

 「何だ、先生。起きてたんでござるか」

 横島に向かって声をかける。しかし、返事が返ってこない。
 その時、シロは横島の様子がいつもとは違うことに気づいた。口元に手を当て、何やらブツクサと考え込んでいる。
 試しにシロは横島の顔の前で手を振ってみた。

 ・・・反応なし。どうやら目の前にシロがいることすら気づいてないらしい。
 ちょっとだけムッ、としたシロはしばし考え込んだ後、ゆっくりと横島の顔に自分の顔を近づけて・・・

 ぺろっ、ぺろぺろぺろぺろっ

 「・・・いや、でも・・・って、どわーーーっ!!?」
 「せんせ、おはよ♪」
 「いや、おはようじゃなくて・・・」

 ようやくシロがいることに気づいた横島。起き抜けの頭で状況を整理して、やっと何故シロがここにいるのかという答えにたどり着く。

 「それより先生、どうしたんでござるか?何やら考え事していたようでござるが・・・」
 「えっ・・・!?いや、まぁ、その・・・」

 シロの問いに目をそらし、何故か言葉を濁らす横島。まるで何かを隠すようにそう言いながら、そそくさと玄関に向かう。
 その後ろ姿に向かって、シロが尋ねた。

 「先生、どこ行くんでござるか?」
 「どこって・・・散歩だろ?お前その為に来たんじゃないのか?」

 靴を履きながら横島が答える。
 シロはその言葉を聞いてここに来た最初の目的を思い出し、今部屋を出て行こうとする横島の後に付いていった。

 「う〜ん、気持ちいいでござるっ!」

 早朝の爽やかな日差しが二人を包み込む中、シロが思いっきり背伸びをする。
 こんなにも爽やかだと言うのに――横島の様子はまだおかしかった。

 「先生、今日はどのコースで行くんでござるか?」

 ・・・またもや返事がない。一人階段の方へと歩いている横島の元へと駆け寄るシロ。
 見てみると横島はやっぱりブツクサ言って考え込んでいるようだ。
 シロが耳を澄ますと、かすかに聞こえてくるこんな声。

 「・・・でもなぁ、それだとシロが・・・」
 「拙者がどうかしたんでござるか?」
 「いや、それがよ・・・おおうっ!?」

 あたふたと大慌てする横島。シロが自分の隣にいたことにも気づいていなかったらしい。
 きょとんとした顔で横島に尋ねるシロ。

 「先生、拙者がどうしたんでござる?なんか悪いことでもしたんでござるか?」
 「いや、そうじゃなくて・・・ま、いーや、行くか!」
 「あ、先生っ!ちょっと待つでござるよー!」

 結局、何もわからずじまいのまま、二人は普通に散歩に行った。
 しかし、横島は散歩中にも何やら考え込んでいたようだが、前を走るシロはそれには気づいていなかった。



 また昼にも、横島はどこかおかしかった。
 
 窓の外を見ながら、やっぱり何か考え込んでいるようで、時々ため息をついてはまた悩み出す。
 もう一回シロが「何を考え込んでいるのか」と尋ねたものの、また言葉を濁らされてしまった。
 流石にシロもおかしいと思い始め、何とか聞き出そうと頑張るものの、結果は同じ。



 そして、夕方の散歩の時間。

 「せんせー?今日はどれくらい歩くんでござるか?」
 「・・・・・・えっ?あ、ああ、いつもと同じぐらいでいいか」

 既に散歩を始めてから30分ばかし経っているのにこの調子である。
 シロが何を話しかけても、横島は相変わらず何か考えてるようだ。
 せっかくの散歩も、これでは楽しくない。自然、会話も減っていく。

 「先生・・・どうしたんでござるか?」

 シロがぽつりと呟く。朝からのこの様子、一体何があったのだろうか?
 原因は何なのだろうか、思考を巡らしてみる。

 そういえば、この夕方の散歩も横島からの提案だった。
 あれは確か一ヶ月ぐらい前・・・バレンタインをちょっとすぎたあたりからだろうか。
 バレンタインは、横島が帰ってきてしばらくの間の記憶があやふやだった。
 後から横島に聞いてみたら、酔っぱらって寝てしまったらしい。

 「う〜ん・・・」

 シロが考え込んでいると、後ろの方からこんな音が聞こえてきた。

 ズガンッ!!!

 「!?」

 慌てて後ろを振り返るシロ。そこにいたのは、めきょっと、腕を組んだまま電柱にぶつかっている横島だった。
 額に一筋の汗を流しつつ、横島へと駆け寄るシロ。

 「先生、大丈夫でござるか?」
 「あつつつ・・・」
 「今日の先生、何かおかしいでござるよ、拙者心配でござる・・・」

 しゅんとなって横島に言うシロ。そんなシロを横島は撫でて言った。

 「大丈夫だって。気にすんな」
 「でも・・・」

 口に手をあて、くぅーん、と寂しそうな仕草をするシロ。すると横島はいきなり、突拍子もないことを言った。

 「そう言えばシロ・・・お前、甘い物好きか?」
 「へっ?いや、拙者あまり甘い物は・・・」

 いきなり何を言い出すのかと、シロは思った。きょとんとした顔で横島を見るシロ。
 横島はというと、やはり何か考え込んでいる。そしてしばらく考えていたが、顔を上げて言った。

 「よしっ、シロ。ちょっとここで待っててくれ。すぐ戻るから!」
 「あっ、先生!?」

 言うやいなや、人混みの中へと走り出す横島。シロが横島を呼んだ時には、既にその姿は消えかかっていた。
 呆然と、その場に立ちつくすシロ。取り敢えず、待てと言われたので待ってみる。

 ・・・・・・10分。


 ・・・・・・20分。



 ・・・・・・30分。

 「先生・・・遅いでござるな・・・」

 既に日が半分沈みかけている。さっきまで賑わっていたこの道も、今はあまり人がいなくなってきた。
 仕方なしに、街灯に寄りかかるシロ。地面を蹴りながら、横島を待つ。

 「・・・寂しいでござるよ・・・」

 本音が自然と口から漏れる。

 (・・・もう、帰ろうか・・・一人で・・・)

 そう思って振り返った時だった。

 「・・・あれは?」

 シロがかすかに聞き取ったその音は、何かが道を走ってくる音。
 段々と近づいてくるその音に、シロの心臓が段々と鼓動を早める。そして、駆け寄ってくる人が誰なのかがわかった時、

 「・・・先生!」

 鼓動が、最高潮に達した。

 タッ・・・

 タッタッタッタッタ・・・

 無意識のうちに横島へと駆け寄るシロ。距離が一定に近づくとすぐに横島へと飛び込む。

 「どわっ!お、おいっ!」
 「先生、遅いでござるよ!何してたんでござるか?」
 「悪い悪い、ちょっと手間取ってな・・・ほら、これ」

 横島が、手に持っていたそれをシロに手渡す。

 「へっ?先生、これは?」

 シロに手渡されたのは、色とりどりの花が束ねられた、花束。
 ほのかに香る花の香りが、とても心地よい。

 「いや、そのな・・・今日はホワイトデーだろ?何あげたらいいか、ずっと悩んでてな・・・なるべく秘密にしておきたかったし・・・」

 頬をぽりぽりと掻きながら横島が言う。花束を持ったまま、シロは横島に聞き返した。

 「先生、『ほわいとでー』って何でござるか?」
 「・・・はいっ?・・・まさかお前、知らなかったのか?」
 「ったく・・・ホワイトデーってのはな、バレンタインでチョコもらった相手にお返しをあげる日なんだよ」

 それを聞いて黙り込むシロ。花束をじいっと見つめたまま、何やら考え込む。

 「えへへ・・・」

 くしゃりと、音がした。両腕で花束を抱きしめる音がした。
 潰れないように、壊れないように。でも、力一杯に抱きしめて。
 しばらくそうした後、顔を上げて笑顔でシロは言った。

 「つまりこれは、先生の愛の告白なんでござるな!」
 「へっ?い、今なんと?」
 「だってバレンタインは女から男への愛の告白でござろう?そのお返しなら男の告白でござるよ!」

 自信いっぱいにそう答えるシロ。その表情には確信と喜びがにじみ出ている。
 その顔を見て、苦笑しながら答える横島。

 「ま、まぁ、理屈上間違いじゃないか・・・それに・・・」
 「それに?」
 「バレンタインの時には・・・お前俺のこと好きだって言ってくれたし・・・な」
 「その時のことはあまり覚えてないんでござるが・・・本当の事でござるよ?」

 にんまりと笑ってシロが言う。シロも横島も、お互いに顔を真っ赤にしてしばらくの間そこに立つだけ。
 そんな状態がしばらく続いた後、横島がその静寂を破った。

 「なんつーかその・・・ゴメンな?」
 「え?」

 いきなり横島が謝ってきた。訳もわからず、聞き返すシロ。

 「本当は、もっと高い菓子でも買おうとしたけど・・・金あまりないし・・・甘いもんは苦手みたいだし・・・」

 どことなく申し訳なさそうに言う横島。シロはそんな横島の顔をじっと見ている。
 するとシロは自分の人差し指をぴんっ、と立てて横島の口にあてがった。
 まるで、もう謝らなくてもいいから、と言わんばかりに。

 「先生、いいでござるよ。拙者はこれで満足でござる」
 「そうかぁ?うーん、でもやっぱ悪い気が・・・」

 ぐいっ、と、突然シロの背が伸びた気がした。少なくとも横島にはそう見えた。でも、それは違った。
 次の瞬間、横島が唇に感じたあたたかい感触。わずか2,3秒ほどでそのあたたかさは消えてしまったけど。
 シロが、顔をうつむけながら静かに言った。

 「先生、拙者は高い安いとかは問題にしてないんでござる。拙者が一番嬉しいのは、先生のその気持ちなんでござるから」
 「そ、そういうもんなのか?」

 横島のその問いに、シロは答えなかった。横島がもう一回尋ねようとして、シロの顔を見る。
 しかし、その顔を見てもう一回などという考えはどこかにすっとんでしまった。
 横島が見たのは――シロの答えは――その夕日よりも眩しい、満面の笑顔。

 「・・・そっか、よし、帰るぞ!美神さんに怒られちまう!」
 「わかったでござる!」
 「シロ、走っていくか?」
 「もちろんでござるよ!」

 沈みかけている夕日の中に、二人の影が長く残っていた。
 
 おしまい。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa