ザ・グレート・展開予測ショー

瞳の中の思い出(後編)


投稿者名:SooMighty
投稿日時:(04/ 3/13)






瞳の中の思い出(後編)







1つ変わっている事は母上の墓の隣に父上の墓があることだ。

父上が自分が死んだら妻の隣に墓を立てて欲しいと自分で望んだことだ。





・・・やっぱりここに来ると涙が溢れそうになってしまう。



「お前の母は優しい、それでいて気丈な娘だったのう。」
長老が不意に話しかけてきた。

「そうでござったな。」
そう優しくて儚げに見えるんだけど、もの凄い気丈なお方だった。


















あの日は母上と初めて喧嘩をした。


喧嘩の理由は些細な事・・・修行のしすぎを諌められただけの事だった。


「シロ。稽古もいいけど、たまには休んだら?」

「母上、何を言っているでござるか! 拙者は一刻も速く父上
 みたいな立派な武士になりたいんでござる!
 だから休んでる暇なんかないでござるよ!」
昔から母上は父上に修行のさせすぎじゃないかと口論する事がある。
父上もその場は納得してしばらくは軽い修行にするんだけど
結局拙者のわがままに耐え切れず、元の修行量に戻ってしまう。
そしてまた母上が拙者と父上に説教をする。

・・・そんな事の繰り返しだった。

なぜ母上がそこまでムキになるのかわからなかった。
それ以外の話題の時は常に優しく、柔和な雰囲気を絶やさない人なのに
修行の時だけはやたらと突っかかってきた。


「立派な武士になることは大事かもしれないけど、
 あなたはまだ子供なんです。
 そんな右も左もわからない子供が力を手にしても
 いい事なんかないわよ。」
よくそう説教された。
拙者には・・・当時の拙者にはわからなかった。


強さこそが全て・・・とまでは思ってなかったけど、
強い武士は少なからず立派な武士だとは思っていた。


父上の背中を見てきてそう思ってしまったのだ。
それほどあの背中は子供心に強烈だったから。


もちろん父上は強さと優しさを矛盾なく抱えてるお人だったが。



ガキだった拙者はただ単純に強ければ立派な人物になれると思っていた。
だから母上の言ってることは鬱陶しいだけだった。



「母上・・・なんでそんなに拙者の邪魔をしたがるんでござる?」

「なっ・・・そんな邪魔なんかしてるつもりはないわよ。」

「じゃあなんでそんなに突っかかるんでござるか?
 母上には拙者の気持ちはわからないでござるよ。」

「おい、シロ少し黙れ。母さんはお前の為を思って言ってるんだ。」

「な!? 父上。」
正直あの時は天地がひっくり返るほどのショックだった。
父上はいつでも拙者の味方だと思っていたから・・・

「ごめん。母さん、つい甘やかしてしまった
 俺もこれからは修行の時間を気をつけるようするよ。」

「・・・父上は拙者の味方だと思っていたのに!
 もういいでござるよ! 拙者は独りで修行するでござる!」

そういって家を猛スピードで飛び出した。

「シロ!!」

母上の叫び声が聞こえたけど、聞こえない振りをして走った。













どれくらい走っただろうか・・・

何もかもが信じられなかった。
父上も母上も。

そして何もかもがどうでもよくなっていた。







気づけばよく知らない森の中だった。
だが疲れてたし、自分の身もどうなろうと知った事では
無いので、そこに寝転んだ。


修行の疲れや精神的なものもきてたせいかすぐに眠りに落ちた。













・・・目が覚めるとそこは自分の家だった。
しかもふとんになぜか寝ていた。


隣には母上が寝ていた。


そういえば誰かにおぶさっているような感触がした。
その記憶はあやふやだけど。
ただとても心地良かった事だけは憶えている。





食卓には既に父上がいた。


「シロ・・・起きたか。」

「はいでござる・・・」
正直あんなことがあった後なのでバツが悪かった。

「母さんに感謝しろよ。わざわざお前を探して
 くれたんだから。」

「・・・」
いまいち信じられなかった。
あんなに猛反発したのに探してくれただなんて。

でもそれが本当だってのもなんとなく理解していた。

「村の男たちで探すっつてもなぁ、母さん、私が1人で
 探すってきかなくってなあ。」

「そうなんでござるか? でもなぜでござる?
 拙者あんなに反抗したのに・・・」
そうそこがわからなかった。

「うーん、なんだろうねー。結局あいつは優しいからな。
 お前に言った事に負い目を感じたんだろうな。それに例え
 正しいことを言ってたとしてもやっぱ娘が飛び出したら放って
 おけないだろう。」

「そうでござるか・・・」

「お前にも譲れないものがあるのかもしれないけどさ。
 母さんにもさ、お前をちゃんと世間に顔向けしても恥ずかしくない
 ように育てたいんだよ。」

「拙者だってそのつもりでござる!」

「だったらなおさら母さんの言う事は聞いといた方がいいと思うぞ。
 優しいだけでは生きていけないのは確かだ。でも強いだけでも
 やっぱり生きていけないんだよ。」

「・・・」

「俺はお前に確かに強くなって欲しい。
 でもそれだけじゃなくて母さんみたいな優しさも
 身につけて欲しいんだ。」

「わかったでござる。いやまだ正直わからないでござるけど
 もうこんな悲しい思いをするのは嫌でござるから・・・
 母上も言う事も聞くでござるよ。」

「はは、まだわからねぇよな! そりゃ!
 今はそれでいいよ。いつかわかる日がくるからさ。
 って前もこれいったけ?」

「言ったでござるよ! それより父上、拙者夜から
 何も食ってないでござるよ!」

「そういえばそうだな! でも母さんは徹夜でお前を探して
 たからな。 休ませてやりたいしな・・・」

「そうでござるな。」

「よし! 今日は俺が作るぞ!」

「な、本気でござるか? 父上料理作れるでござるか?」

「いや生まれてこの方1回もないぞ!」

「ええ〜 大丈夫なんでござるか!?」

「まあ、まかせとけって。母さんの料理を結構見ているしな。」




父上の作る料理ははっきりいってマズかった。
あの強烈な味は2度と忘れられそうも無い。



でもこの出来事がなければ拙者は道を誤っていたかもしれない。
あの時拙者に与えてくれた広い背中のぬくもり。




とても優しい安堵感を与えてくれた。
今は母上の言う事がわかる。


そう人を守るには強いだけでは完全に守りきれない。
とても大切な事だと思う。
この厳しい世間では綺麗事なのかもしれないが例え
そうであってもこのぬくもりは拙者の中でいつまでも残っている。


しかし里の屈強な男たとを差し置くなんて・・・
母上も案外やるもんだ。

優しいけど、頑固なところはとことん頑固だった。
最も父上はそこに惚れたのだと思うが。
























「父上にも母上にも大切な事を教えてもらったでござるよ。」

「うむ、そうじゃのう。」

「でも2人にはまだ別れの挨拶をしてないでござる。」

「・・・そうか。そうだな。お前さんは2人の死に目に会えなかった
 んじゃよな。」
そう言って長老は寂しそうな顔をした。

「だから今ここに拙者いるのでござる。」




そう2人との死別を直に経験してないのだ。

父上は犬飼ポチに拙者の知らない場所で殺された。
母上は拙者が修行で外に出ている時に発作で死んでしまった。





本当はすぐにでも挨拶をしたかった。


でも2人には少しは成長した、そう広い世界を知った拙者で会いたかった。
シロは元気に幸せにやっているってところ見せたかった。

「シロは親不孝なやつです。会おうと思えばすぐ会えたのに
 こんな拙者ですけど、これからも見守っていてください。」
墓前でそう伝えた。

「お前らの娘は強く優しい子に育った。だから安心していいぞ。
 ちゃんとお前らの意志を受け継いでいるよ。」

「はは、照れるでござるよ。長老。」

「まあ、まだまだ甘いところもいっぱいあるけどのう。」

「あらら・・・」



ずっと2人に、父上の逞しかった腕、強く大きな背中に、母上の優しい声、
それでいてぬくもりのある背中にさよならを言えなかったのをずっと悔やんでいた。




ようやく、ようやく言う事ができた。
気が抜けたと思ったら涙まで溢れていた。


「はは、やっぱり2人の事を思い出すと涙が出てしまうでござるよ。
 長老殿、ちょっとだけ失礼します。」

「・・・うむ、今日は存分に泣いていい。気が済むまで泣きなさい。」

「ありがとうでござる。」




















涙は流れたけど、今度は悲しみだけじゃない。
だからいいんだ・・・泣いても


自分にそう言い聞かせた。















「じゃあ、長老殿。色々とありがとうでござる。」

「うむ、またたまには帰ってこいよ。」

「はは、わかってるでござるよ。」

「あまりハメをはずさんようにな、それと
 お前は独りじゃあないんだからあまり無理もしなくていいぞ。」

「それもわかってるでござる。拙者は独りで生きていける程強くもないし
 弱くもないでござるよ。」
そう拙者は心ある人達の支えによって生きていることを実感できるように
なった。これだけでも成長したって言えると思う。


「そうか。じゃあまた会える日を楽しみにしてるぞ。」

「拙者もでござるよ! じゃあ失礼するでござる!」

「達者でな。」

「長老殿もお元気で!」











拙者の瞳の中の思い出や景色は目まぐるしく変わっていくけど、
きっと忘れない。

絶対に忘れない。




父上、母上・・・


もしかしたら拙者は時には自分の道を迷ったり、夢の眩しさに立ち止まって
しまうかもしれません。

でも、それでもあなたたちの優しさに包まれた日々を思い出して手を伸ばして
生きていきます。

そして願わくばあなたたちと同じように大切な事を伝えていきたいです。







それまでは拙者を見守っていてほしいです。
犬塚シロの生き様を見届けてほしいです。









「さーて、自分の家に・・・帰るべき場所の戻るでござるよ!
 先生や女狐はどうしてんでござるかね?
 きっと拙者がいなくて寂しがってるでござるよ!」


そして拙者は今日も走り出す。



「さあ、先生待っててくだされ!」



自分の群れに・・・仲間達のもとへ!





END


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