ザ・グレート・展開予測ショー

瞳の中の思い出(前編)


投稿者名:SooMighty
投稿日時:(04/ 3/13)



夢は眩しすぎて、時には目を伏せてしまうこともあるけど・・・

それでも拙者はその夢に手を伸ばして生きていたい。












瞳の中の思い出(前編)








今拙者は自分の生まれ故郷にいる。



約一年ぶりにここへ戻ってきた。
最近は仕事の方も落ち着いているので、休暇をもらった。
美神殿も快く承諾してくれた。
久々に懐かしい面々に会いたくなったのだ。






相変わらずこの当たりは緑が多くほとんど変わってない。
子供の頃はよくこの足場の悪さを利用して修行したもんだ。



今思うとあの頃の拙者は本当にガキだったなぁ。
この獣道をだたがむしゃらに走っていれば強くなれると思って
いたんだから。



・・・そう、ただがむしゃらに走ることが全てと思っていた。
何もわからず、明日を追うことしか見えていない。
拙者はそんな子供だった。
どうしようもなく純粋で、そしてどうしようもなく無知だった。


とりあえずここで、考えていても先に進まないので、村に
向かわないと。
村のみんなに挨拶もしないといけないし。







入り口は昔と違い、結界も見張りもいなかった。
フェンリルの件があってから人間と人狼は結構うまくやっているみたいだ。
人間社会に出てくる人狼が拙者以外にも出てきたからだ。
まだその数は少ないが、いい事だと思う。







・・・いい事ばかりとは言い切れないけど、それでもやる価値はあるはずだ。
拙者自身は少なくともよかったと思っている。









また大切な人たちと出会えたから・・・
守るべき者が見つかったから・・・










行きかう道の途中でみんなに挨拶しながら長老の家に向かった。


長老の家は目立つ。
なんせ村の長なんだから当然暮らしは拙者たち普通の者と
比べれば裕福だ。

まあこんな辺境の村だから貧富の差はあまりないんだが。


「長老、ただいま戻りました。」

「おう、良く来たシロよ。」

「長老も変わってませんね。元気そうで良かったでござるよ。」

「そういう、おぬしもあまり変わってないのぉ。」

「1年そこらじゃあ簡単には変わらんと思うんですが・・・」

「そうか・・・そうかもな。」

「ところで長老。父上の墓はどうしたてござるか?
 以前会った場所には無かったでござるが。」

「ああ、あやつの墓は・・・あの場所に、お前の母親と
 同じ場所に移したぞ。」

「やっぱり、そうでござるか。」

「あやつもそれを望んでいるだろうしな。
 お前も今日来たのは墓参りかなんかだろう?」

「まあ・・・そうでござるよ。」

「じゃあ後で行くといい。
 とりあえず、今日はもう日が暮れるから
 墓参りは明日にしなさい。」

「そうでござるな・・・拙者の家はまだあるでござろうか?」

「ああ、もちろんだ。
 掃除も行き届いているしな。
 たださすがにボロくなっているから
 冬の夜を越すのは厳しいかもしれんが・・・」

「それぐらいは大丈夫でござるよ。
 かたじけないでござる。」

「明日はわしも付き合おう。お前とも色々話がしたいしな。」

「わかったでござる。ではまた明日。」

「うむ。」







長老もまだまだ元気そうで良かった。
本当に長老はいい人だ。
拙者のことや村のみんなのことを親身に考えてくれている。
あの人が長老で本当に良かったと思う。





















既に空き家になっている拙者の家だったところはそれほど
変わってなかった。
村のみんなで手入れをしてくれていたのは本当みたいだ。
ただ、それでも風や雨に打たれてボロくなっているところは
隠しきれてないが。

とりあえず思い出の場所が残ってるだけでも嬉しかった。
寒いとか不便とかそんなのはどうでもいい。
残っているだけで嬉しいのだ。













明日、父上と母上に会える。
墓前だけれども、
もう、この世界にはいないけど、それでも胸は高鳴った。





犬飼ポチに父上が殺される1ヶ月前に母上は病気で他界していた。
母上は元々体があまり強くなかった。
あの頃は犬飼ポチが乱を起こした直後
と重なっていたので悲しんでいる余裕はなかった。






仇を討って、先生達と別れた後、大きな悲しみが襲ってきた。
ようやく2人が本当にいなくなってしまったことを実感したのだ。



あの時は夜通しで泣いてしまった。
涙を流したのはその日が生まれて初めてだった。



あの出来事は拙者にとっては色んな意味で忘れらない。




仇とはいえ初めて人を傷付けることを知った夜。

そして初めて大切な者を失う痛みを知った朝。








大人になるためには・・・生きていく上では必要な痛みや切なさなのかもしれない。
そうとわかっていてもガキだった拙者にはとてつもなく重い出来事だった。



・・・そう何もわからないガキには・・・途方もなく重い荷物だった。


その重い荷物に潰され泣く事しかできなかった。
1日中泣き明かし、涙すら出なくなったとき深い闇に
自分が落とされていることに気づいた。




何度、2人の後を追うことを考えただろう。
何度、痛みの無い世界に逃げ出したくなっただろう。




母上の墓がある高い丘に行く日々が何日が続いた。


でもそれだけはできなかった。
丘に行く日々が何日か続いた。
死ぬ場所は母上の傍がいいと思ったからそこにしただけの話だ。

崖の手前までは足を運べる。

だけどそれ以降が続かなかった。
飛び降りることがどうしてもできなかった。






2人の顔を思い出してしまって・・・



それだけの理由で死ねなかった。


この先、生きていても嫌な事ばかりかもしれないのに。
自分は自分が思ってるほど強くないってのをわかってしまったのに。

そんな弱い自分が弱き者を守る、そんな抱えてた夢は拙者の目には眩しすぎる
ってわかっているのに。



「父上、母上・・・それでも拙者に生きろというのでござるか?」



そんなどっかで聞いたようなセリフを吐く自分がそこにいた。


そう簡単には死ねない。
2人の思い出が拙者の瞳に残っているのだ。
それに唾を吐くような真似は絶対にできない。


ここで拙者が死んだら本当に何も無くなってしまうから。






以前この丘で父上と一緒に下の街を見下ろしたのを良く憶えている。













「どうだシロ? ここの眺めは。絶景だろう?」

「うわー! 本当でござるな! この里にこんな場所があったなんて
 知らなかったでござるよ!」

「どうだ? 世界は広いだろう?」

「ん〜 そうでござるか? 拙者には小さい世界に見えるでござるよ。」
オレンジ色に・・・夕焼け色に染まった街は美しいとは思ったけど
広いとは思えなかった。

「はは、シロはまだ子供だからな。でもいつか世界に出れば、大人になれば
 わかる日が来ると思うよ。」

「そうなんでござるか? 父上?」

「ああ、そうだよ。」

父上はにっこりと笑った。
そんな父上に拙者は何も言えなくなった。



本当にあの時は世界が小さく見えたのだ。
手を伸ばせば届きそうな、そんな風景だった。

子供心に本気でそう思った。












・・・でも2人を失って見たその景色は父上の言うようにとても広い世界に
見えた。


父上の言っていたことがわかった気がした。
失ってようやくそんなことに気づいたのだ。



夢は果てなく遠い・・・だけど果てなく遠い場所になければいけないってことに。
簡単に手に届くものなら誰もその夢に潰されたりなんかしない。
その眩しさに目を伏せたりなんかしない。


あの父上の言葉にはそんな意味が入っていたのかもしれない。




拙者たちはそんな眩しい夢に手を伸ばして伸ばして、届くもどうか
もわからないのにそれでも手を伸ばすのだ。


父上の夢はなんだったのだろうか・・・


志半ばで逝ってしまわれたのだろうか?
それとももう夢は達成されていたのだろうか?
それはもうわからない。




わからないけどその事を思った時には後を追うなんてことは
頭から完全に消えていた。

まだ拙者はヒヨッコなのだ。
死ぬなんて決断を出すのは速すぎるし、そんな事をしたら
それこそ父上、母上に2度と会えなくなる。


そう思いこれからは強く、強かった父上、母上のように生きていくことを誓った。

たった1人で、広い世界に向けて誓った。

















「死んだ後にまで助けられるなんて本当に世話がやける親不孝者だな拙者は。」
だけどそれでも生きていけるならなんとかなると思う。
そう前向きに生きていこうとあの日誓ったんだ。


「夢は眩しくて、眩しすぎて時には目を伏せることもあるけど、
 それでもその夢に向かって生きていくでござる。父上、母上。」


物思いに耽っていたらかなり時間が過ぎていた。
今日はもう寝ることにしよう。















やや徹夜気味だったけど、長老との待ち合わせにはちゃんと間に合った。

「来たか、シロよ。・・・少し眠そうじゃの?」

「ええ、やっぱりここに来ると思い出してしまうでござるから・・・」

「そうか・・・」

「でも大丈夫でござるよ! それに今日は自分から会いに
 きたのでござる。悩んでなんかいられないでござるよ!」

「ふっ、少しは強くなったな。シロよ。」

「当たり前でござる! なんせ拙者はこの里きっての一番の出世頭でござるよ!?」

「そうじゃったかのー? まあよい、行こうかの?」

「はいでござる!」












「ところでシロや。」
道の途中で長老が話しかけてきた。

「美神殿達とはうまくやっているか?」

「あ、はい。うまくやっているでござるよ。
 みんなとても良くしてくれるでござる。
 ちょっと腹が立つ狐はいるけど・・・」

「ほほほ、そうか。それは良かった。
 あっちの暮らしは楽しいか?」

「はい! あっちでは色んな事が経験できて
 楽しいでござる! 少し騒がしすぎるかな
 と思う時もあるでござるが・・・」

「まあ確かにあの方達と一緒に言ったらのう・・・
 圧倒的な生命力を誇るわしら人狼から見ても
 驚くことが多いからなぁ。」

「はは・・・拙者も最初はビックリしたでござるよ。
 でも拙者はその人達を・・・何を犠牲にしても
 守りたいでござるよ。」

「そうか・・・」

「やっと、やっと守りたいと思えるものが見つかったで
 ござる。」

「・・・その気持ちを大切にするんじゃぞ。シロ。
 まあわしなんぞに言われなくてもお前さんが一番よく
 わかってるとは思うがな。」

「はい!」

「ふっ シロよ。お前の父も母も喜んでいるだろうな。
 お前の成長した姿を見て。」

「いやー まだあの2人には及ばないでござるよ。」

「そうかな?・・・っとどうやら着いたみたいだな。」

「あ、そうでござるな。」
やっぱり話をしながらだと時間が速く感じる。
ここの丘から村までは結構な距離があるというのに。


「ここの崖を登るのは結構年寄りには厳しいもんじゃのう。」

「何をおっしゃるでござるか。長老殿はまだまだ現役でござろう?」

「わしも寄る年波には勝てんって。
 そろそろ引退かのー。」

「寂しいことを言わないで欲しいでござるよ。」

「まあまだ後10年はやりたいがの。」

「その意気でござるよ。」

「こういう時はあれかの? まだまだ若いものには負けんぞ!
 って言えばいいのかの?」

「はは、そうでござるよ。長老殿にはまだまだ
 がんばって欲しいでござるよ。」

「ほほ、わしもまだまだ慕ってくれる者が多いからのう。
 やめるにやめれんよ。」

そんな会話をしながら登山をしていき遂に辿り着いた。

思い出の場所に・・・






そこにはあの日見たオレンジ色。
そして広い世界があの日まま拙者の目に映し出された。







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