ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネ姉妹と約束と 第8話』 〜 (下のは送信ミスですごめんなさい〜) 


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 3/12)




〜appendix.6『炎と少女』


笑っていた。
燃え盛る炎を身にまとい・・その少女は狂ったように笑っていた。

真っ赤。
そう・・真っ赤だ。

赤だけが私を満たしてくれる。

・・・。

崩れ落ちる木々の影。撒き散らされる『死』。
人が・・世界が私にくれなかったもの・・そのすべてがここには在る。

化け物と呼びたいなら、好きにするといい。

いずれ、その化け物に・・・あらゆるものが蹂躙されるのだから・・。
私を化け物などと呼ばわる者は・・・一人残らず、この世から消え去るのだから・・・。

・・・。

「クッ・・ククッ・・ハハハッ・・・アハハハハハハハハハハッ!!!」

少女は笑う。ただ笑う。
無邪気な声で・・壊れたように・・、いつまでもいつまでも笑い続ける。

・・・・。

不意に・・・

彼女の瞳から何かが・・一滴だけ零れ落ちて・・・・

・・・・。

「・・・・・。」

しかし、少女は知っている。

それが・・今の自分にとって、もっとも不要なものであることを・・・・。
不要であるにもかかわらず・・・・自らが心の底から欲してやまないもの・・

涙とは・・いつだって、そんなものだった。




・・・いつだって・・・



―――・・・。



「・・あの時と同じか・・・。」

黒々と焼け焦げた草の根を見つめながら・・・、美神美智恵がつぶやいた。
その顔に落ちるのは・・失望とも悲しみともつかない・・暗い影。

同じなのだ・・この焼け跡は。・・・18年前と全く・・。



「・・・スズノ・・。」

しぼり出すような声。
・・あの少女は、今ごろきっと苦しんでいる。自分が行った所業を知れば、自ら命を絶とうとさえするかもしれない。

(・・・まだ間に合うわ。)

スズノを助けたい・・。そして・・彼女が再び暴走することは、なおさら避けなければ・・

・・・一度覚醒すれば、もう誰もスズノを止められない。彼女は・・・『死』そのものだ。
神も悪魔も・・決して抗うことのできない・・・・

・・・絶対の『死』



〜『キツネと姉妹と約束と その8』〜



「・・スズノの歓迎会、やらない?」

その日の事務所で、美神は珍しくそんなことを言いだした。

「・・・・はい?」
それに横島はキョトンとした顔で声をもらして・・・

「・・・だから、歓迎会よ。歓迎会。まだちゃんとやってなかったでしょ?」

・・・・。

(・・・マジかよ・・・)

まさかこの雇い主が他人のために会を開く日が来ようとは・・・
・・あまりのことに、眩暈(いや、そこまで動揺するのもどうかと思うが)を覚えてしまう。

「・・でも、いいんすか?スズノは一応、逃亡中の身なんですけど・・
 それにパーティーの途中であのニワトリが来たらシャレにならないんじゃあ・・」

横島自身、首を縦に振りたいのは山々なのだが・・
(ついでに言えば、あのニワトリなら、パーティーを見て引き返すぐらいのことはやりかねないが)
しかし・・彼がしぶる理由がもう1つ。

「・・それに、ここ2、3日・・スズノの元気がないんですよ。歓迎会なんて気分になるかなぁ・・」

タマモに対してすら、ろくに口をきこうとしない今のスズノに、そんな軽いノリは酷ではないだろうか?

「開く本当の理由はそれ。見極めるのに時間がかかったんだけど・・
 多分、スズノの悩みって一人で悶々としててもどうにもならない類のものだと思うのよね。
だからあの子が話せるきっかけを・・って思ってね・・」

自分の経験と重ねるように美神が言って・・・そんな言葉に、横島は少しだけ目を丸くした。

・・・自分が思っているよりもずっと・・美神はスズノのことを真剣に見ているのかもしれない・・、
・・そんなことを知って・・・・


「・・へぇ。なんか年季を感じさせるセリフですねぇ・・。」

「年長者をからかうヒマがあるんなら、さっさと準備をしなさいってば。」

おかしそうに笑う横島を、美神は半眼のまま追い出した。

・・・・・。

「・・開く理由・・か。」

やがて・・人の気配が消えた部屋で、美神は一人嘆息する。

「そんなことより心配なのは・・・もう手遅れじゃないかってことなんだけどね・・」

          
                         ◇


「・・お・・・おキヌ!!ふくらんでいる・・!オーブンの中でスポンジが膨張しているぞ・・!」

「ふふっ。スズノちゃん、これはスポンジはスポンジでもケーキっていう食べ物のね・・・・・・」

戸惑うスズノに、おキヌがおかしそうに吹き出して・・・

歓迎会の提案から数分後、キッチンの中は、その準備で過去最大と言っていいほどに騒がしいことになっていたりして・・
パーティーは開くが、経費削減のため料理、つまみ類は全手作り。
そんなところがなんとも美神除霊事務所チックである。

「にしても・・あれがスポンジか?でかいなぁ・・ウェディングケーキ並だろ、あれ」

「・・・やめて、横島。『ウェディンング』って言葉はしばらく聞きたくないの・・。」

「?ああ、ちょっと前のあれか。惜しかったよな・・もう少しでタマモとキスまでいくって勢いだったのに・・」

おキヌたちのすぐ横では、タマモと横島がケーキ用のクリームをかき混ぜている。
そんな横島の言葉に、タマモは一瞬、顔を赤らめて・・

「・・・ほ・・本当?ほんとにそう思って・・・」

「んにゃ。冗談。」

「・・・・・・・・。」

そして、すねたように下を向いてしまう。

・・・・・。

「ハッハッハッ!!さっきそこでシロくんとすれ違ってね〜・・パーティーなんだって?じゃあコレは必要だろう?」

無遠慮に部屋へと進入してくる西条。・・・と、その腕に抱えられている数本のシャンパン。

「・・ご苦労。じゃあ、さよなら。西条」

「・・・・安心したまえ、横島くん。さよならを言うのは君の方だ。」

スパァァァァァァン!!!!

「・・て・・てめぇ・・!!今、本気で斬ろうと・・・」

「無論だ。」

「少しは論じろよっ!!!!」

・・・・。

「・・2人とも・・もう怒る気も失せたんだけど・・。人の事務所の備品を壊さないで・・」

「美神どの〜肉焼けたでござるよ〜」

・・・・。

・・・・・・・。

事務所では・・


しばしの間、そんな楽しい時間が続いたのだった。





・・降り続けていた雨が上がった。

夜半の月。
暗闇に煌々と輝くそれは、どこかスズノの髪が宿す銀の光に似ていて・・・

「・・あいたたた・・。まったく・・こんなところでテーブル運びをやらされるとは思わなかったよ。」
腰をさすりながら、西条が言って・・横島は軽く苦笑をもらす。

「・・・歳か?」

「ジョークだとしたらつまらんぞ・・。」
疲れ果てたとばかりにへたり込んだ2人は、そのまま中庭の手ごろな岩へと腰掛けて・・・

・・・・。

「・・で?その後どうなってる?」
不意に横島が口を開いた。

「先生とはまだ連絡がつかない。その他の進展もこれといって・・・」

「・・・はぁ・・。しらばっくれんなって 。」

事務的に応える西条のまゆが微かに上がる。
・・・あの雨の日、誰かが勘付くとは思ったが・・よりにもよってこの青年とは・・。

「コカトリスとのことを聞いているのかい?」
問いかけられた言葉に横島がうなづく。他に何があると言わんばかりに・・。

「・・あれから会ってないよ。彼は武人だ・・嘘はつかないし、奇襲もかけてはこないさ」

言いながら、西条はそばの霊剣へと目をやって・・・

「・・・・もう一度、コカトリスと出会ったなら・・それは僕と彼の・・どちらかが死ぬときだ。」
空を見上げながら・・・低く・・・つぶやく。


「・・ワケありって面だな。」

「フフン。言っておくが・・プライベートに関して話すつもりはないよ?」
小馬鹿にするような西条の口調に、横島は半眼になって立ち上がり・・

「・・へいへい。オレも聞くつもりなんて・・・」

・・・。

そこで・・・

「横島さ〜ん!西条さ〜ん!お料理の味見をしていただけませんか?」

遠くから、自分たちを呼ぶ声が聞こえた。おキヌの誘いに西条もようやく重たい腰を上げ・・・・

「さて・・味見係、出動といったところかな。」

「おキヌちゃん、妙に気合入ってっからな〜期待していいと思うぞ?」

・・・なんだか、両者とも年齢の割にずいぶんと老けこんでいるような気もするが・・
ドアに手をかけながら、最後に横島がつぶやいた。

「・・・・まぁ、あれだ。」

「ん?」

「とりあえず、死ななきゃなんでもいいわ。それだけは念頭に置いて闘えよ。」

肩をすくめて、彼は事務所の中へと消えてしまい・・・・

・・・・。
・・・・・・。

「・・・・やれやれ。あれで心配のつもりとはな。」

西条はそれに・・・
どこか楽しげにため息をついたのだった。

                      
                           ◇


〜appendix.7 『さようなら』


「スズノ?料理できたみたい。みんな、下に・・」

キッチンから離れたタマモは、スズノの姿を探していた。
夜も更けて準備も万端といったころ。スズノの歓迎会なのだから、当然、主役の彼女がいなけれな会は始まらない。

リビングにはもう、巨大といっても差し支えないようなケーキやら、横島と西条が合作したという曰くつきのサラダやらが並んでいるのだが・・・

「・・・どこに行ったんだろ・・?」

いくら探しても見つからない妹にタマモは困惑したように首をかしげ・・・

「・・・・・・あ。」

そして、思いついたように掌を叩いた。


―――・・・。


「・・・・。」

スズノは屋根の上で一人月を見上げていた。
あの時も・・・昔、タマモと自分が分かれた時も・・こんな風に静かな夜で・・・
スズノは・・・何をするでもなく、空を見上げ続けていた。


「・・・やっぱりここにいた。」

不意に後ろから声がして・・・

「・・ねーさま。」

スズノは・・悲しげな様子で、愛しい姉へと振り向いた。薄い光のせいで、互いの顔はよく見えない。

「また、空を見てたの?」

「・・・・うん。」

少し笑った後、タマモはスズノのそばへと腰掛けて・・・
そうして・・・彼女の手を静かに握りしめる。

それに、スズノは一瞬、怯えるような反応を見せて・・・
しかし、すぐさま・・・・・

・・・・ボフッ!!

タマモの胸の中へと顔をうずめた。

「・・スズノ?」

「・・・・・あたたかい・・・。」

・・・・。

そう、温かかった。
今も昔も変わらない姉の・・そして、ここで出会った全ての人たちが・・・あたたかい。


「・・・私は・・・・」

「?」

「ねーさまも、横島も、西条も、美神も、おキヌも、シロも・・・・みんな好きだ。」

自分がずっと憧れていた暮らし。それがここにはただ普通に、平凡にあって・・・・
ずっとこのままで居られると・・もう少しでそれが手に入ると・・そう、信じていた。



「・・ねーさまも・・私が本当の妹じゃないって知ってたのに・・それでも好きって言ってくれた・・。」


!!

スズノは瞳をそらし続けて・・
瞬間、タマモは目を見開いた。吸い込まれるように少女の瞳をのぞきこむ。
今更ながら・・スズノの口から、そんな現実を思い知らされて・・

「・・・そんなこと・・関係ない・・!・・たしかに本物の姉妹じゃないかもしれないけど・・・でも・・」


「・・・大切なことを思い出した。ううん、最初から知っていたのに・・無理やり記憶の中からしめ出していた・・。
 私は・・ここにいてはいけないんだ。」


昔、自分に憎悪の言葉を吐いた人がいた。
自分を見て、「化け物」と・・叫んだ人がいた。
そして・・・自分はそう言われるだけのことを・・・罪を犯してしまった。

――・・留まればきっと・・みんなが不幸になる・・。

目蓋を閉じるだけで蘇る炎の記憶。
自分はあのとき・・・あの場で何人の人間を・・・どれだけの命を奪った?

「・・・何を言って・・・」

「・・だめだよ。ねーさまみたいに優しい人が・・化け物の姉なんて・・そんなのだめ。」

スズノは静かに嗚咽をもらす。
2度と温もりを忘れることがないように・・目一杯、タマモの体を抱きしめて・・

やがて・・・彼女の体はゆっくりと・・・・

「・・・スズノ?」


「・・・だから・・、さよなら・・ねーさま。」


「!?」

スズノがそう口にした刹那、信じられないほどの突風が吹き荒れる。
無数の木の葉が舞い上がり・・何かにしがみつかなければ、飛ばされてしまいそうなほどの・・・


・・・・。

「・・・。」

風が止み・・・ようやく開かれたタマモの瞳が映したものは・・・・


・・・・。

・・・・・・・。


「・・・スズ・・・ノ?」


・・何もない・・・ただただ空虚な夜の闇。

全てを包む冷たい大気。



・・・・・・銀の鈍い光を放つ・・・・淡い・・・月・・・・



〜続きます〜


『あとがき』

え〜妹に、「まだまだ・・『姉妹』の暗さはこんなもんじゃないよ。」
と言ったら・・・思いっきり引かれました(笑)

といわけで、かぜあめです。
いよいよクライマックスに突入です。話数的には、ようやく折り返したかなぁといったところですが・・
ここから、バシバシ謎が解けていきます。
次回、第9話は、横タマ好きさん待望の(?)シリアスラブが・・・あれ?でもこれはどうなんだろう?(爆
あ・・あと、18年前の事件・・
一応、設定は唐巣と分かれた後、偶然帰国していた美智恵が依頼受けた事件ということになってます。

それにしても・・・・皆さん、本当に毎回毎回、こんなお話を読んでくださってありがとうございます〜
シリーズ完結を目指してがんばります〜

それではまた次回、お会いしましょう。

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