ザ・グレート・展開予測ショー

冬のおキヌ


投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/ 3/11)

冬が通り過ぎて行く・・・・・・・。

手の感覚が無くなる。寒い。
「ううっ、寒い!東京の寒さは別物だって聞いてたけど・・・。」

明日は大学受験。今日はもう勉強する気は無い。ゆっくりと観光する予定だったのに・・・・。

訳もわからず乗った電車が、地下鉄だった。
田舎育ちの私は電車なんてほとんど乗った事ないし・・・・。

目的地は池袋。何故ならドラマで昔見たから。
ただウエストゲートパークが見たかっただけ。

それなのに・・・・・、ついた駅が荻窪。
乗り間違えもいいとこだ。・・・・窪の字はある意味あってるけど。

どうすればいいのか・・・・人に聞くのは怖い。
東京の人は冷たいってみんな言ってたし。←実際はそんな事無い・・と思う。

仕方なく、駅で座り込む。なんか東京って感じだ。
空気がいつもより冷たく感じる。

(どうしようかな・・・・。)


「あーーーーーー!!!!寝過ごしてもうた!!!どうしよー、金無いぞ!!!」

・・・・私の目の前に二十歳ぐらいの男性が現れた。
どうやら寝ていて降りれなかったらしい。

「何かいつもと駅が違うと思ったんだ。昨日徹夜で仕事だったからなー。改札出ちまったし・・。」
仕事・・?社会人・・・・・・いやバイトかな。多分。

彼は私の前で考え事をしている。・・・・・この人なら聞きやすそう。

「あのー、ちょっとお聞きしたいんですけど・・・・。」
「・・・・・・!!??」

私の顔を見るなり彼は驚いた・・・いや、驚愕の表情を見せた。
明らかに普通の驚き方じゃない。幽霊やおばけでも見たかのような・・・・。

「・・・・・お・・・・・キヌ・・・ちゃん。」
「えっ!?」
今、私の名前を言った・・・・・・。

「いっ、いやっ!!ゴメン!!なんか知り合いに似てたもんだから・・・・。それで・・何かな?」
彼は驚いた顔で慌てて切り返してきた。なんかマズイ事でも言ってしまったみたいな顔してる。

「え?えっと・・・・・、私池袋行きたいんだけど・・・・どう行ったらいいのかなーって。」
「池袋?ちょっと方角違うけど・・・・・・。あっ、良かったら案内しようか!!」

(・・・・・どうしようかな。なんか悪い人じゃ無さそうだけど・・。)
彼は期待に顔を膨らませて私を見つめている。断ったら悪いかな・・・・。

「じゃあ・・・・お願いします。」
「んじゃ、行こうか。えっと・・・・名前は?俺は横島忠雄ってゆーんだけど。」
「は、はい。氷室・・・氷室キヌです。」

「!!?」
ずさっ!!
彼はまた、妙な反応を見せる。

(なんだろ・・・自分から言ってきたのに・・???)

「・・・・・やっぱり・・。本物・・・・・。」
「?????」


ポロリ・・・・・。
「!?」
泣いてる?なんで・・・・・・?

彼の目から一滴の涙が零れ落ちる。

「・・・・・あっ、ゴメンゴメン・・。ちょっと目にゴミ入っちゃって・・。イテテ・・。」
彼はわかりやすい嘘をついている。なんだろうこの感じ。昔見た事ある・・・・。



・・・・私は高校以前の記憶が無い。

今の両親が言うには、大きな事故に遭ってその後遺症らしい。
その時に前の両親は亡くなってしまったそうだ。その後氷室家に引き取られたと言う事である。

前の両親がいないと聞いても悲しくは無かった。・・・全く覚えていないから。
覚えていたなら涙を流して悲しみに明け暮れたに違いない。

・・・私は今の父母、そしてお姉ちゃんに感謝している。
血の繋がりが無いであろう私を引き取って、家族として迎えてくれた事に・・・・。



「・・・・・・あっ、それじゃ行きましょうか。」
いつの間にか考え事をしてしまっていたみたい。彼が私の顔を覗きこんでいる。
私はそう言うと、横島さんと共に駅へと向って歩いて行った。




ゴトンゴトン!ゴトンゴトン!
私達は地下鉄に乗っている。これで新宿まで戻るのだそうだ。

「ごめん!!なんか電車代まで出してもらっちゃって・・・。」
「別に良いですよ。案内してもらうんですし・・・。」

私は電車代を立て替えていた。彼はちょうどお金が無かったって言ってる。
(・・・・なんか罰の悪そうな顔。ちょっとカワイイ。)

「・・・なんで東京に来たの?山奥の方の出身だって言ってたけど・・・。」
「大学受験なんです。試験は明日ですけど・・・・。」
彼はまた驚いた顔をした。

「受験!?・・・・観光なんかしててもいいの!?おキ・・・氷室さん。」
「いいんです。やる事はやったし!!せっかく東京に来たんだから楽しまなくちゃ!あっ、別に名前の方で良いですよ。」
私は彼に笑いかける。・・・あっ・・・・なんか横島さん恥ずかしそう。



その後、私達は以前から知り合いだったかのように喋りあっていた。周りからは恋人同士の様に見えていたかも知れない。・・・・正直その視線は嫌じゃなかった。


(なんかこの人と話してると心が落ち着く・・・・・。初めて会ったのに・・・・。)


彼の顔を見る。・・・格好良いって訳じゃない。それなりに整った顔立ちはしてるけど・・・。
なんか・・・・・・ドキドキする。これがドラマで言う運命の出会いって奴なのかな・・・。



ぷしゅーーーー。

私達は新宿に着いた。そこで山の手線と言うのに乗り換え、池袋へと向う。


外の景色が流れて行く。私が住んでた町とは大違いだ。建物ばっかり。
「横島さんは、ずっとこっちの人なんですか?」
「えっ、いや・・・、昔関西の方に住んでたんだ。後でこっちに引越したんだよ。」
関西・・・大阪とか京都とかかな・・・。

「そう言えば、どこの大学受けるの?おキヌちゃんって頭良さそうだけど。」
「えっ、と・・・東大一本です。」
私は正直に答えた。

「と・・・東大!!?すげーー!!」
彼がいちいち驚く。もう慣れてしまった。
「そ・・・そんな事ないです。特に目的があって行く訳じゃないですから・・・。」

それは真実だ。別に目的があって行こうと思ったわけじゃ無い・・・。
・・・なんだか東大と言う言葉に聞き覚えがあっただけ・・・。
ひょっとしたら記憶を取り戻す鍵になるかも知れないから・・・。

「ふーん、そうか・・・・。頑張ってんだなー。」
「横島さんは何をしてらっしゃるんですか?」
何となく思いついた疑問を投げかける。

「お、俺?・・・えーと・・・まあ・・人助けみたいな仕事をしてるけど・・・。」
「・・・?介護とかですか?」
「んー、後ろの文字だけはちょっと合ってるかな。」

(何か言いにくい仕事なのかな・・・・。)

彼は困った顔をしていた。言っていいものなのか悩んでいるみたいに・・・・。

「あっ、着きましたよ。」
私は自ら会話を打ち切った。言いたくないのならそれでも構わないから・・・。



電車を降りて・・・改札を出るとまた私は戸惑ってしまう。
(どこから出たらいいんだろ・・・・・。)

「どこに行きたいんだっけ?」
「えっと・・・、あのドラマに出てたところ何ですけど・・・。ちょっと前の・・。」

彼は頭を捻っている。
「ドラマ・・・・ねえ・・。ゴメン俺見ないんだよテレビ。」

「ウエストゲートパークだから・・・西門公園って所だと思うんですけど。」
「・・・・・・・・ああ、あそこの事か・・・。こっちだと思う。」

彼はトコトコと歩いて行く。そして私は後に付いていく。

しばらく歩き階段を上ると外の光が見えた。



・・・・外は・・・・・・一面の雪景色。



「わあっ!!綺麗!!」
彼は変な顔をして私の顔を見た。

「なんで・・?見慣れてるんじゃない雪なんて。」
「うちの実家の方とはまた違うんです。」

ビルや道路に丸い雪が合成された景色。不思議な雰囲気を醸し出している。
山の方とはまた、勝手が違って見えるのだ。

「・・・そんなもんなのかな。・・・多分これ今年の初雪だね東京の。」
「・・そうなんですか、私・・ついてるのかな。・・・受験前に運を使ってちゃいけませんね。」

ブルッ!
身体が震える。もうちょっと厚着してこれば良かった。

「・・・・・横島さん。」
「んっ?何?おキヌちゃん。」
振り向く横島。



「・・・腕組んでいいですか?」
って言った隙に横島の腕を抱え込んだ。



「えっ・・・ちょ、・・・まあいいけど。」
・・・・顔が赤くなってる。脈アリかな・・・ふふっ。



・・・・二人で街中を歩く。くっついて歩いてるお陰でちっとも寒くない。
(横島さんは恥ずかしそうにしてるけど・・・。)


「ほらっ、ここだよ。」



横島さんの指差す先にあのベンチがあった。画面の中で見た奴だ。
・・・ちょっと感動。



「・・横島さん。座りません?」
そう言って、腕を引っ張る。
「お、おキヌちゃん引っ張らないで・・!」




そして・・・・・二人でベンチに寄り添って座る。

まるでドラマの一場面みたいに・・・・。
ここだけ時間が止まってくれればいいのに・・。





雪はどんどん降り積もる。東京である事を忘れさせる光景。





二人の周りだけは雪がよけていく。何かに守られているみたいに・・・・。



「横島さん・・・・。」
「な、何か・・・。」

なんだか警戒してる。さっきから不意をつかれているからかな。

「恋人同士になるにはどうすればいいか知ってます?」
「へっ?・・・な・・・何言ってるのかな!?」
明らかに動揺してる。真っ赤に染まった顔がそれを証明してる。




「こうするんです。」




私は横島さんに顔を近づけていき・・・・・・・・・唇を奪った。


周りから冷やかしの視線を感じる。でもそんなの気にしない。


長いようで一瞬の時間。・・・・・唇が離れる。





・・・・・放心している彼。何が起こったのかわからないような顔をしてる。
そんな彼に私はこう告げた。



「横島さん。私、大学絶対受かります!だって目標が出来たから!!」



・・・・・・雪は・・・いつまでも降り続いていた・・・・・・・・・。


おしまい。

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