ザ・グレート・展開予測ショー

妙神山の休日 その1


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 3/10)

暗闇に一つ、二つと灯っている蝋燭の炎だけが、その部屋の主を映し出す全てだった。
そこはかなり広さがある書斎で、壁際には本の山がいくつも連なっている。
この部屋の主はかなりの几帳面のようで、乱雑に本が並べているように見えるが、
整理整頓が徹底しており部屋の中は思ったよりも広く感じる事が出来た。
今は中央に置かれた机の前で書き物をしているのだが、
心此処に在らずと言った感じで集中できていない、何も無い壁を見つめてボーとしている。

時折落ちてくる眼鏡を無意識に直しているのだが、どうも眼鏡自体の大きさが合っていないようで、
何度直しても結局落ちてくる。
それでも同じことを繰り返すその姿は、一種のからくり人形を思わせた。

コンコン

部屋のドアをノックする音で、はっと意識がこちらに戻ってくる。

「入ります。」

「はい」

相手に返事をしてから机の上の書類に目を下ろすと、始めた時と同じ真っ白い紙だけがそのまま残っている。

「はぁ〜」

部屋の主が深いため息をつく頃には、部屋に入ってきた細身の男が机の上に湯飲みを置いていた。
目の細い男で、何より目立つのは細長くとがった耳だった、典型的な魔族の特徴だ。

「進んでいないようですね。」

「ちょっと考え事をしていました。」

机に置いてもらった湯飲みを受け取り、一口飲んで気分を落ち着かせる。
もう一度しっかりと相手を見つめると、先ほどからの考えを少し確認してみる。

「連絡はしてくれましたよね?」

「はい、ちゃんと連絡をしておきましたよ。雇い主と相談してからこちらに来るとのことです。」

「そうですか、それまでに落ち着けばいいのですが。」

もう一度自分の目の前の書類の束を見つめる。
山のように積み上げられている束は、やってもやっても終わりの見えない壁のようだ。

「はぁ〜」

再びため息をついてしまう。
なんでこんなに忙しいのか、理由は分かるのだが納得はしたくなかった。
本来自分がやるはずの無い仕事なのだから、そして自分に押し付けていった上司に
文句の一つでも言いたいのだが、すでに逃げてしまっている相手なのだから言えるはずも無かった。

「今日は徹夜になってしまうので、朝あの子をおこすのをお願いしても良いですか?」

「それはかまいませんが、あまり無理はしないほうがよろしいのでは?」

頼まれた本人も、相手を気遣って一言掛けてみる。
掛けられた方はちょっとだけ悩むしぐさを見せるが、首を振って断る。

「いえ、やはりやれる所までやっておきます。
せっかくお客を呼ぶのに、持て成しを出来ないようでは相手に悪いですからね。
それより例の件、準備のほうはどうですか?」

「そちらの方も問題なく準備できそうです。ですがよろしいのですか?」

突然不安になって相手を見てしまう。

「なにがですか?」

「一応、許可を取らないとまずいのでは、完全に越権行為になってしまいます。」

「許可を取りたくても取る相手が居ません。天界に用事があるの一言で居なくなってしまったのですから、
全権を任せてくれたと私は判断しました。
それに人に仕事押し付けて逃げてしまったんですから、このぐらいの我が儘良いではないですか。」

そこまで言われてしまったのでは、もはや言い返す言葉も無いのでおとなしく従う事にした。

「分かりました。ですがくれぐれも無理はしないでくださいね。」

最後にもう一度相手を気遣うと、一礼してドアへと戻る。
でわと声を掛けてお茶を持ってきてくれた相手は、部屋から外に出て行った。

「はぁ〜」

相手が出て行くのを確認すると、もう一度ため息をついた。
ため息をつくたびに、幸せが一つずつ逃げていくと言ってくれた人間がいたが、
自分はすでにどのくらい逃げてしまったのか想像もつかない。

考えてもしょうがないか。

眼鏡を一度はずし大きく背伸びをしながら、近いうちに遊びに来るはずの相手を思い浮かべる。

「横島さんか・・久しぶりですね。」

机の上の筆を手に取ると、再び書類に取り掛かる。
来るまでに終わればいいのだが、実に微妙なところだ、だがそれでも諦める訳にはいかないのであった。









「美神さん、ちょっとお願いがあるんですが。」

横島がそう言ってきたのは、明日から祝日を入れた三連休が始まる前の日だった。
その時、事務所のメンバー全員でおキヌの作った晩御飯を食べていたのだが、
自分が誘った覚えも無い横島がなぜか席に座ってご飯を食べている。

まあ何故か横島の分のおかずも用意されていて、自分も文句を言った記憶は無いのだが、
いつからこれが普通になってしまったんだろうと悩むところである。

「なに、給料の前借なら駄目よ。」

「タマモ隙ありでござる。」

「あ、なにするのよ馬鹿犬!」

タマモの小鉢からきんぴらゴボウを奪ったシロに、タマモが抗議の声を上げる。
後で食べようと思って取って置いただけに、タマモの怒りは相当なものだ。

「いや、給料もきついんですがそうじゃなくてですね。」

「あんたがその気ならこうよ!」

「あ〜めいんでっしゅの肉じゃがになにするでござるかぁ〜!」

きんぴらゴボウを奪われたタマモが、お返しにとばかりにシロが取っていた肉じゃがを奪う。
これにはシロも半泣きの状態になる。

「じゃなに?、お金以外の事なら多少は考えてあげるわよ。」

「タマモ〜こうなったら決闘でござる、おりゃおりゃおりゃ。」

次々にタマモの皿から、料理を奪っていく。

「ええ、実は明日からの三連休って仕事無かったですよね?」

「あ〜なんて事するのよ。そ、それはおキヌちゃんの作ってくれた油揚げのひき肉詰め〜〜」

「あ〜ははは、とても美味しいでござるよ。」

タマモが大事に大事に食べていた油揚げのひき肉詰めを取られると、
怒りのオーラをまとって反撃に移る。

「そうね、溜まってる税金対策の書類を片付けようと思ってるだけだけど。」

「馬鹿犬、こうよこうよこうよ。」

「ぬぉ」

タマモはシロの皿から肉料理をメインに奪いだす、シロも必死に防御をするのだが、
怒りをまとったタマモの前に押されている。

「せ、拙者の塩ダレカルビが〜」

「実はですね。その三連休ちょっと休ませてもらいたくて。」

「うん、さすがおキヌちゃん、焼き具合も完璧ね。」

シロは涙を流しながら、大切に取っていた塩ダレカルビの最後を見届ける。
おキヌはこの状況をどのようにすれば収まるのか考えるのだが、
おろおろと回りを見るだけでどうする事もできずにいた。

「休み?」

「きっさま〜やってはいけないことをやってくれたでござるな!!」

「ええ、ちょっと妙神山に呼ばれまして。」

「私の油揚げのひき肉詰めの仇よ!
やるってなら相手になるわよ。」

「妙神山に?」

美神は不思議に思う、なんで横島が妙神山に呼ばれるのだろう。
自分や最低でも美神除霊事務所としてなら分かるが、横島に用事があるなんて変である。

シロとタマモは座っていた椅子から立ち上がると、箸を片手に戦闘体勢になる。
両方の顔ははっきり言ってマジだ、食べ物の恨みは恐ろしい・・・

「塩ダレカルビの仇でござる〜」

「油揚げのひき肉詰めの仇よ。」

シロとタマモはお互いの料理を残らず奪おうと戦い始める。
食卓は戦場だった。

「うっるさ〜〜〜〜〜〜い!!」

美神大絶叫。
さすがにシロとタマモも、箸をクロスさせながらぴたりと動きを止める。

「食事の時ぐらい静かにしなさい!
今横島君と話してるの邪魔するんじゃない。」

「「はい」」

美神に怒られた二人は、しゅんとしながら大人しく自分の席に座りなおす。
しかし二人の目の前にある光景は、自分の好物が残らず相手に食べられてしまい、
残ったのも箸でつかみ取れなかった、きれっぱしぐらいのおかずだった。

「おキヌちゃん、まだおかず残ってる?」

泣きそうな二人を見て哀れに思った横島が、おキヌに確認する。

「え〜と、少しなら有りますけど、さすがに二人分はちょっと無いかも。」

「しょうがないな、ほれ少し分けてやるからそんな泣きそうな顔するな。」

おキヌがもってきた残ってるおかずと一緒に、自分のを足して二人のおかずを増やしてやる。
それを見たおキヌが横島を止めようとする。

「横島さん、私の分をわけますからちゃんと食べてください。」

「あ〜良いって良いって、こんだけ食べられれば十分だよ。
ご飯さえ量あれば、おかずが美味しいからいくらでも食べられる。」

おキヌに軽く笑いながら、大丈夫と手を振る。

「せ、先生〜」

「横島〜」

二人は感動の涙を流しながら横島を見つめる。
さすがに横島もジッと見つめられると照れてしまうので、もう気にしないで食べろと二人を促す。

「ご飯は量炊いてるので、一杯食べてくださいね。」

「さんきゅ〜おキヌちゃん。」

「横島君、本当に子供の世話って得意よね。」

横島の様子を見ていた美神が、感心したように言う。

「拙者は子供では無いでござる。」

「そうよ子供扱いしないでよね。」

「はいはい」

シロとタマモが抗議の声を上げてくるが、美神はまったく聞く耳をもたない。
そしてちょっと考え込んでから、横島に話しかける。

「あれ、何の話をしてたかしら?」

「えっと、休みがほしいって話ですよ。」

あそうそうとばかりに美神が頷く。

「妙神山に呼ばれたって?」

「ええ、昨日ジークから連絡がありまして、パピリオに久しぶりに顔を見せに来てくれって、
どうも会いたいって暴れているらしくて。」

「ああ、そういう理由ね。」

なるほど納得である、何か事件があって呼ばれたのでは無いらしい。
ただの子守に呼ばれているだけなら、確かに横島は適任だろう。

「パピリオのやつ来ないなら自分が行くって、ジークや小竜姫さまを困らせているらしいですよ。」

横島は笑いながら説明を続ける。

「だから来てくれないと困るって泣きつかれました。
俺も久しぶりにパピリオに会いたいですし、行って良いですかね。」

「なるほどね。別に良いわ行ってらっしゃい。」

「ちょっとまつでござる!!」

横できんぴらゴボウを食べていたシロが、突然大声を上げる。
これにはさすがの二人も驚いてしまう。
そろって声を上げたシロを見ると、ご飯茶碗を片手に箸を持った手を上げているシロが見える。

「シロちゃん、行儀が悪いから箸を下ろして。」

「す、すまんでござる。」

おキヌの注意にシロは素直に反応する、躾けには厳しいおキヌだった。
気を取り直したシロが、再び横島に顔を向けると、思っていた質問をぶつける。

「パピリオとは誰でござるか、ついでに小竜姫とジークと言うのも教えてほしいでござる。」

どうもシロは知らない女の名前に反応したようだ、
会いたいと言って暴れるぐらい横島を想っていると聞かされては、シロとしては黙っていられない。

「馬鹿、パピリオってのはお前よりもお子様なんだぞ、変な想像するな。
まあその分、小竜姫さまが美人なのだが、見てろいつか俺の物にしちゃる。
そして、あ〜んなことや、こ〜」

バキィ

「なるわけ無いでしょ!!」

美神の神通根に殴られた横島だったが、さすがに食べてる最中に本気で殴れないのか、
倒れる事も無く頭に手を置いて痛がるぐらいだ。

「しまった、また考えが声に、・・でもなんでご飯食べる時にまで神通根をもってるんですか。」

「うるさい!」

心底不思議そうに横島が呟くのだが、それに答える者はだれも居なかった。
横島の反応を見ていたシロが、ちょっと考えてから妙案だとばかりに元気よく自分の意見を告げる。

「先生、拙者も妙神山に行くでござるよ。」

「「「「えぇ〜」」」」

シロの言った内容に、みんなは驚きの声を上げる。

「だめだだめだだめだ、せっかくパピリオをだしに小竜姫さまに会えると思ったのに、
お前が来たら小竜姫さまといちゃつくチャンスが減ってしまうではないか。」

横島がもらした本音に、回りの視線が殺気をもち始めた。

「ほぅ〜、それが本音ってわけね。」

横島はしまったとばかりに口を手でふさぐのだが、すでに言ってしまった事は取り消せそうに無かった。

「横島君、ちょっとこっちに来なさい。
食べてる最中だからね、埃立つと不味いでしょ。」

美神は微笑を浮かべながら、横島の耳をつかんで部屋から外に連れ出そうとする。
横島も必死に抵抗しようとするのだが、抵抗もむなしく美神に引きずられる。

「あ、あ〜美神さん、俺が悪いんじゃない、人の肌が恋しくなるこの秋が悪いんだ。
かんにんや、かんにんや。」

美神は横島の言い訳なんて聞いておらず、問答無用で連れて行かれる。

バタン

「仮にも神様相手に、きさまと言う奴は!きさまと言う奴は!!」

「うぎゃ〜」

ドアが閉まると向こうからは、美神の叫びと横島の悲鳴が聞こえてくる。
しばらく、暴れている音がしていたが、ある時を境にまったく音がしなくなる。

バタン

いやにすっきりした顔の美神が、ドアを開けて戻ってくる。

「あ、おキヌちゃん、横島の奴もう食欲が無いとかでご飯いらないってさ。
残してごめんねって言ってたわよ。」

絶対嘘だとおキヌは思うのだが、とても問い詰める勇気は無かった。
美神は自分の席に戻ってご飯の続きを食べ始める。
しばらく、ドアを見ていたシロであったが、ちょっと考えた後で美神に質問をする。

「ところで、拙者が先生について行くのは良いでござるか?」

一瞬なにを言われたのか分からないようだったが、ああと思い出すとシロの質問に答える。

「別にかまわないけど、シロって妙神山は初めてよね?」

「そうでござるな、噂には聞いていますが自分で行くのは初めてでござる。」

「ふ〜ん、まっ別に良いわよ。
シロにやってもらう仕事も無いしね、横島君の邪魔を含めて好きにしなさい。」

ご飯茶碗を片手に少し考えたが、とくに駄目という理由も無かったので好きにさせる。
美神が良いと言った事にシロは大喜びする。

「やったでござる。先生と一緒に出かけて来るでござるよ。」

「シロが行って良いなら私だって良いでしょ。」

大喜びのシロを横目で見ていたタマモが、自分も行きたいと美神に行ってくる。
これには美神も驚いた顔をしたが、すぐおかしそうに笑いながら返事をする。

「ええ、良いわよ、好きにしなさい。」

「なんで笑うのよ!」

笑われたのが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしたタマモが美神に叫ぶ。

「いいえ〜、別になんでもないわよ。
せっかく出かけるんだから楽しんでらっしゃい。」

タマモはまだなにか言いたそうだったが、口では美神に勝てないと分かっているのでぐっと我慢する。

「タマモも一緒に行くでござるか?」

「なによ、悪いって言うの。」

美神にぶつけられない怒りをシロにぶつけようとするが、
シロも相手をする気が無いらしく適当に流される。

「いや、別に悪くないでござるよ。
おキヌどのご馳走様でした。」

シロは食べ終わった皿を流しに持っていく。

「では明日の用意をしてくるでござる。」

シロがドアから飛び出していくと、タマモも急いで皿を片付ける。

「ご馳走様、シロ待ちなさいよ。」

タマモも一緒になって荷造りをするつもりなのだろう、急いで追いかけていく。
部屋に残されたのは、美神をおキヌだけだった。

「いいな、二人とも・・・」

心底羨ましそうにおキヌが呟く。

「羨ましいなら、おキヌちゃんも行けば良いじゃない。
横島の奴は駄目なんて言わないわよ。」

美神は羨ましそうにするおキヌを不思議に思って聞いてみる。
おキヌは、は〜とため息をついて美神を見る。

「連休中に弓さんや一文字さんと、今度のクラス対抗試合の打ち合わせする予定なんです。」

「あら、先約があるんじゃしょうがないわね。」

おキヌは残っている自分のおかずを食べながら、再びため息をついた。
さすがにおキヌが作り出す、沈んだ雰囲気に耐えられない美神が、妥協案を言ってくる。

「打ち合わせを今度にしてもらって行けば良いじゃない。」

「そんな、駄目ですよ。対校試合は将来にかかわるから、弓さんたちも一生懸命なんです。
それを遊びに行きたいから今度にしてくれなんて言えません。」

おキヌの意見に、美神もおキヌちゃん相変わらず真面目ね〜と思ってしまった。

「美神さん、また突然お仕事とか入らないんですか? 妙神山あたりで・・」

美神はお味噌汁を持ちながら天井を見上げると、しばらく考えた後でおキヌに答える。

「う〜ん、さすがにあんな場所に行くような仕事は無いわね〜」

「そうですか・・・・美神さん」

下を向いたままのおキヌが呟いてくる。

「なに」

「よく考えたら、私たちの出番てこれで終わりですね・・・・」

その一言にさすがの美神も一瞬驚く。
そういえばそうだった〜ってな感じである。

「・・・・・・・・・そうね、確かに場面が変わったら今回もう出番無いわね・・・・」

「私、ろくに喋ってないのにな・・・・・」

その後はしばらく沈黙が続く。
ご飯を食べるでもなく、茶碗を持ったまま動けない二人だった。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・これどこまで引き伸ばせますかね。」

「いい加減読んでる人が切れるんじゃないかしら。」

もう駄目かと言う雰囲気が流れ出す。
しかし次の瞬間おキヌは決意を秘めた目を見せると、美神に向かって真剣な顔をする。

「私決めました、次の話こそ、次の話こそ。負けないんだから〜〜」




つづく


あとがき
ども、青い猫又です。
今回は一応小竜姫さまメインで行くつもりです。
最初に言って見ますが、最後のはちょっと遊んで見ました(笑
でも私はこう言うおキヌちゃんも結構好きです。

しかも実はこれ、一回1話分が出来上がったのですが、
自分で見て面白くないので最初の部分以外作り直しました。

ちょっと忙しくなってきた事もあり、
最新が少し遅れますが出来ればまっててください。
よろしくお願いします。

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