〜 『キツネと姉妹と約束と 第7話』 〜
投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 3/ 8)
〜 『キツネと姉妹と約束と その7』 〜
「・・ほんとでござるか!?それは・・」
散歩から戻ったシロの第一声。
終始、全力疾走だったというのに声を張り上げるとは恐るべし、だが、今、驚くべきはそこではない。
興味本位で尋ねてみたタマモの方が逆に目を丸くして・・
「・・ほんとって・・まさか知ってるの?さっきここ来てた魔物のこと・・」
「大鎧に日本刀の翼人なのでござろう?
知ってるもなにも・・父上と同門で、拙者も何度かお会いしたことがあるでござるよ。」
コップに水を注ぎながら、シロが答える。
・・全く、世の中せまい、とはよく言ったものである。
・・・・。
(もっとも、誰かがこの絵図を意図的に仕組んだ・・とも考えられるけどね・・)
腕を組みながら、タマモがわずかに目を細める。
コカトリスが事務所のメンバーと一戦交えることになれば、彼の有利で戦況が運ぶことは間違いない。
先ほどやりとりで・・自分も含め、この場の全員があの魔族に好感を抱いてしまった。
その上、シロとの意外な接点。
・・誰もが刃を向けることを躊躇してしまう。
コカトリス自身すらも気づかぬうちに・・彼が格段に有利な状況が築かれている・・。
裏で糸を引いている魔族はおそらく天才だ。知略と計略の自在に駆使し、恐ろしく頭の切れる・・。
「・・でも、それは困ったでござるなぁ・・。」
つぶやくシロの顔に浮かんだのは、かなり心中複雑といった表情で・・
「・・たしかにね。知り合いじゃ、闘いにくいっていうの・・分かる気がするわ。」
それにタマモは合点したようにうなづいて・・
・・・・。
「・・それもあるのでござるが・・・」
「?」
にごされた言葉はタマモの首を傾かせる。
外は相変わらずの雨。一体、いつまで降り続くのか・・・・止む気配など全くなく・・・・
「変でござろう?人狼の道場に翼人が入門できるなんて・・・」
「・・そういえばそうね。どうしてかしら?」
―――・・・。
「・・単純に・・強かったのでござるよ。・・多分、拙者の父上よりも・・」
◇
「隊長に会えなかった?」
西条の言葉を反すうするように、横島が疑問を口にする。
「そうなんだよ。こっちは心臓が止まりかねない勢いで乗りこんだんだが・・肝心の先生があちこち飛び回ってるらしくてね。」
お手上げとばかりに、ため息をついて・・・
タバコを取り出す西条におキヌが心配そうに口を開いた。
「飛び回って・・・何か大変な事件でもあったんでしょうか?」
「いや、ここ数日、近くで軽い小火が続いてね・・。その焼け跡から霊波が検出されたらしい。
・・それを聞くなり、先生が一人で飛び出したんだそうだ・・・。」
言っている彼自身、腑に落ちないようだ。
火事。しかも、現場となったのは野原や空き家など・・人的被害につながる可能性がゼロに等しい場所ばかりである。
わざわざ、美智恵が足を運ぶような事件とも思えないのだが・・・
「他に朗報としては・・スズノちゃんの捜索がまだそれほど大規模には行われていない、ってことかな。
ここに居る分には、まだ全然問題ないと思うよ。」
西条がスズノの頭をぽんぽんとたたき・・・
「・・・お前、やっぱロリ・・・」
「・・斬るぞ、横島くん。」
数秒後、またも事務所恒例の乱闘が始まる。
「西条さん、ソイツ懲りないみたいだから・・思う存分やっちゃって。」
「・・み・・・美神さん!」
おかしそうに笑う住人の中、・・しかしスズノだけが口を閉じたままうつむいて・・・
――・・。
「?どうかしたか?スズノ・・顔色悪いぞ?」
「・・・そ・・そんなことはない。私は・・大丈夫だ。」
心配そうにのぞきこむ横島を、スズノは視線をそらすことで拒絶する。
誰にも分からないほど・・・・小さく、小さく・・・・
スズノの体は何かにおびえるように・・・・震えていた。
◇
『人生は歩く影にすぎない。』
〜ウィリアム・シェークスピア〜
appendix.5『Something Lunatic 』
・・・。
―――・・・ちがう・・・・私じゃない・・。
鉛のように足が重い。
応接室の喧噪をあとにして、私は階段へと足を踏み出した。
どうしてだろう?私はあの場にいてはいけない気がする。どうしてだろう?理由もないのに体が震える。
私は・・なにか悪い病気にでもかかっているのだろうか?
『・・ここ数日、近くで軽い小火が続いてね・・』
西条が教えてくれたこと。
それを思い出すだけで・・不安でたまらなくなる。
・・・。
・・・・ちがう・・・。
だって私は・・ここに来てからずっとねーさまと一緒に寝ていたもの・・・。
だから・・・ちがう・・・。きっと『今度は』私じゃない。
『スズノちゃんの捜索がまだそれほど大規模には行われていない・・・・』
これも・・さっき聞いた言葉だ。
―――笑わせてくれる・・。人間ごときが・・まだ私を捕らえるつもりでいるとは・・。やれるものならやってみるがいい。―――
・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・!?
(・・・・今・・・・私は、なにを・・・・・)
・・・・声が聞こえる。冷たい声が・・。
自分が自分でなくなる感覚。
・・・・ちがう・・こんなの私じゃない・・私は・・そんなこと・・・
―――・・本当に・・・そう言い切れるか?―――
・・・・声が聞こえる。・・飲み込まれる。
・・・・。
・・・・・こわい。
・・・・・・・・・・・。
「・・・こわいよぉ・・ねーさま・・・。」
私は踊り場で一人泣き崩れた。
誰にも・・・・話したくない。
話せない。
・・・一人ですべてを抱え込むのは・・たしかに苦しいかもしれない、こわいかもしれないけど・・・
・・・・・。
自分が化け物であることを誰かに・・・ねーさまに知られるのは・・・
もっとこわい・・・きっと耐えられない。
・・もう、一人なるのはいやだから・・・・。
・・・。
(・・・私は・・・どうするのだろう?)
もしも・・何もかもが飲み込まれ・・・、喰らい尽くされる・・
そのときには・・・・
◇
「・・ねーさま。」
深夜。タマモと同じベッドにもぐりこみながら、スズノは消え入りそうな声で・・そう、つぶやいた。
「・・どうしたの?スズノ。」
いつもと違う妹の様子に、タマモは少しだけ首をかしげる。
すると、スズノは耐え切れず彼女にしがみついてきて・・・・・
「・・・・・スズノ?」
「・・・・・。」
少女は、かすかに顔を上げる。
「・・・ねーさまは・・・・」
「・・うん?」
「・・・・私のこと・・・好き・・?」
しぼりだされる声。
驚くほどにか細い声。
タマモは一瞬、目を見張った後・・すぐさま優しげに頬をゆるめて・・・
「・・・好きに決まってるじゃない。たった一人の妹なんだから・・・。」
・・そうして、自分もスズノを強く抱き返す。
「ふふっ。なんか、また横島に『らしくない』って言われそうね・・私。」
「・・・・ねーさま・・・。」
・・・。
前にこうした時も・・同じだった。
やはりスズノの肩は震えていて・・・
その時、自分は戸惑うばかりで何もできなかったけれど・・
「・・スズノ?・・泣いてるの?」
夜の帳が降りる中・・・・、雨の雫が響く中・・・
「・・・何でもない・・・何でもないから・・・。」
スズノはあたたかな温もりを感じながら・・静かに瞳を閉じるのだった。
〜続きます〜
『あとがき』
このお話を妹に見せたときの第一声。「あ〜・・またかぜあめのビョーキが始まっちゃったよ!!」
・・って(笑)いいじゃないか妹!!オレはシリアス&ダークが好きなんだ!!(激爆)
・・というわけで、取り乱して申し訳ありません(笑
かぜあめです〜暗くなって参りましたね。
多分、ここから10話近く、笑いどころは『あとがき』に集中するのでは・・・ごふっごふっ。
・・ドゥルジさまは美人な上に、頭もいい・・・とパーフェクトヒロインの道を躍進してますね〜負けるなタマモ!(笑
今回は、キツネシリーズの大まかな流れを紹介しようかと思います。
一応、プロットによると・・
『ウェディング』→『聖痕』→『姉妹』→『日常編』→『キツネと花と不死王と』→『ドゥルジ編』→『最終章』
という感じになる予定です。
『日常編』はスズノにドゥルジに蒼髪の少年と・・・オリキャラを交えたギャグ短編集で・・
作者はこれで1・2ヶ月時間を稼ごうと画策しています(爆
『不死王』は・・学園祭編ですね。あと二つはまだちゃんと決まっていないのですが・・両方とも長いことは間違いないですね。
『最終章』は多分、『姉妹』の4、5倍ぐらいの長さになるかも・・・
まだまだ先は長いですが・・・完結できるようにがんばります。
それではまた次回お会いしましょう。
今までの
コメント:
- なんだか・・最近、怒涛の更新速度ですね(爆
4月に入れば学校が始まってしまうので、多分、週1ぐらいのペースになると思います〜 (かぜあめ)
- お、一番ゲットですね。
話がシリアスになってきましたね。
今後の展開を期待しています。
がんばってください、でわでわ (青い猫又)
- 矢っ張り,下の兄弟は妄想の一番の読者ですよね。ある程度歳が離れていればの話ですが。
で,感想。
う〜ん,もやもやする〜!早く続きが読みたいです!
・・・で,終わらすのもなんなんですが,今回はこれに尽きますね。是非とも,完結させて下さい! (竹)
- どうもヒロです〜
シロのお父上よりも強い!!??そんな馬鹿な!?コカが!!コカが!!西条、勝てるのか!!だんだんシリアスダークになってきましたね〜二人の幸せは亡くなっちゃうのか!!
と、エンディングまで非常に長いシリーズですね〜というかあの魔人Yよりも長くなっちゃうのかな〜いや、確実になりますね。でも僕は読み続けますよ!!
であであ〜これからも頑張って下さいませ〜 (ヒロ)
- ホント、シリアスアンドダークって良いですね!!自分も好きですよ。つーか、そろそろスズノの正体が明らかになってきましたね。スズノの力が解放される前に、なんとか横島、タマモ、西条に頑張って欲しいところですね☆それと、これから先の物語が、そこまで決まってるとは、流石、かぜあめさんって感じです!!これからも楽しみにしてます!! (GTY)
- 完結までまだまだ先は長いと聞いて一安心しております。
今後も楽しみにしております。頑張って下さいませ (殿下)
- ヤバッ!コメント書いてなかった。
シリアス&ダークは私も好きです〜v最近そっちばっか読んでる・・・
横島君にもっと活躍したほしいです〜。 (紅蓮)
- もう最後までプロットができてるんですね。すごいなあ。
何やら二重人格っぽい兆候が見えてきたスズノちゃんですが、彼女は大丈夫なのかな。
タマモの愛情(兄弟愛ね)がスズノちゃんを助けてくれることを祈ります。 (林原悠)
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