ザ・グレート・展開予測ショー

長いお別れ、そして・・・


投稿者名:耶麻M
投稿日時:(04/ 3/ 7)

人界における神魔戦争、アシュタロス戦役より二日後―――。
ルシオラを失った悲しみからまだ立ち直れないでいる横島は、
彼女の好きだった夕日が海へ沈みいくの様をただ呆然と眺めていた。
まるで映画のワンシーンのようなその光景。
しかし泣き腫らしたその顔には、人為的な感動の色は全くなかった。

何故彼女だけが?

その懸念が晴れることはない。
今まで本気で誰かを好きになったことなんてなかった。
損得抜きでお互いに愛し合える相手を、17年かけて彼はやっと見つけたのだ
(その過程においては損得抜き、とは言えないが)。
それは短すぎる幸せ、後に残ったのは悔恨と運命への憎悪だけだった。

自分にはもっと、やれることがあったのではないだろうか?
もっと強ければ、自分さえ強ければ、こんな悲劇は起こらなかったのではないだろうか?

彼は苦悩する。ルシオラという愛すべき呪縛に囚われたまま。
今の彼を救うことができるのは、ルシオラ以外には有り得なかった。
そして彼女はもういない・・・。


――横島君・・・


彼の後ろには上司であり戦友でもある、美神令子が立っていた。
横島の肩が小刻みに揺れているのがわかる。
彼女には掛けるべき言葉が見付からなかった。

令子の存在に気付いてはいるものの、彼は決して振り向こうとはしなかった。
彼女が自分を心配して来てくれているのはわかっている。しかしわかってい
るからこそ、放っておいてほしかった。
誰にも自分の悲しみの程を理解できるわけがない。ならば見せかけだけの優しさなんていらない。
その考えがどれほど浅はかで自分勝手なものであるかに、彼は気付けなかった。

夕日は段々と海へ沈み、辺りは闇に包まれるだろう。
その様が、自分の中で静かに消えたルシオラの命のように思えた。
頬を伝った暖かさが、自分が泣いていることを気付かせた。
そして夕日は、少しずつ、少しずつ沈んでいった・・・。
さっきまで飛んでいた鳥達は消え、夕闇と共に静寂が訪れる。
同時に彼は声を出して泣き叫んだ。

「横島君・・・」

背中越しに伝わった彼の哀愁は、令子に何か言わなければという気にさせた。
しかし横島は何も答えない。それは彼女に対する拒絶と同意だった。
一瞬の躊躇の後、言えることなど何もないと悟った令子は、横島の右隣へ移動し、そっと手を握った。
これで二度目となる、彼の号泣する様をなるべく見ないように、彼女は視線を海へと落とした。

どれほどの時間が経ったのだろう。
辺りがすっかり闇に溶け込んだ後にも、横島の叫びは止まることがなかった。
夜特有の澄んだ冷たい空気が、令子の体から徐々に体温を奪っていく。
それでも横島の手は、暖かかった。
慰めるために重ねた令子の手は、逆に横島に温められている。
自分が、情けなかった。
不意に令子は、横島に抱かれてもいいと思った。
それで彼の傷が少しでも癒されるのなら、それで彼が一時でもルシオラを忘れられるのなら。
そしてそれが、自分にできる唯一のことだと信じたから。
彼女にはその行為が傲慢だとは思えなかった。

「横島君・・・私にはこんなことしかできないけれど・・・」

「・・・やめてください!」

抱きしめようと回した令子の左手を、横島ははっきりと拒絶した。

「転生先が俺の子供!?ふざけんな!!それで俺には何が残るんです!?
俺の子供として生まれた彼女はどうなるんですか!!?」

横島の中で何かが、音を立てて崩れ落ちた。
彼女を責めたところでどうしようもない。
そんなことはわかりきっていた。
しかしそれでも、彼には抑えられなかったのだ。

「ルシオラを産むために、俺は誰を傷つければいいんです?
そんな風にして生まれたことを彼女が喜ぶと思いますか?・・・畜生!!」

「横島君・・・あの、ね。私――」

「でも!・・・でも俺はルシオラに生きてほしい・・・!!
でもそのためには誰かを抱いて、彼女が育つまで待たなきゃならないなんて・・・」

そして彼は再び泣いた。
令子には、それ以上のことは何も言えなかった。
結局のところ、一夜限りの夜伽の相手など彼は望んでいないのだ。
彼女は自分の無力さを痛感した。

だから彼女は、一つの決心をした。

「横島君・・・私が、ルシオラを連れてくるわ」




長い沈黙。





――ズガンッ・・・!!――





突然遠くで激しい物音が聞こえた。

「・・・なんですって?」

その音に正気を取り戻した横島が訪ねる。

「未来の私が、成長した、17歳のアンタの娘を連れてくるの。時間移動してね」

「そんなこと・・・」

「いいえ、できるわ。小竜姫に封印してもらったのは能力の暴走であって、
決して能力そのものを封印したわけではないの。
今から修行すれば、その頃には完璧に制御できるようになっているかもしれない・・・。
アンタの文珠のサポートが必須だけどね」

「・・・可能、なんですか?」

「やってみる価値はあるわ」

令子の顔にはもう、一分の迷いの乱れもなかった。

「でも、もしかしたら平行世界を作るだけに終わってしまうかもしれないじゃないですか。
それに小竜姫様から時間移動は禁止されているのに・・・成功率に比べてリスクが高すぎますよ・・・」

「関係ないわ。アンタのためにも、私のためにも、それは必要なことなのよ」

「美神さんのため?」

「これ以上アンタの辛い顔なんて見てらんないわよ。鬱陶しくて」

そう言って令子は笑った。
少しだけ戸惑った様子を見せた横島も、ほんの少しだけ笑った。

「すみませんでした・・・美神さん。俺、どうかしてました」

令子は何も言わない。ただ優しく微笑むだけである。

「美神さん、ほんとにありがとうございます。俺、感謝してるんスよ?
美神さんと出会って、それまでの俺のくだらねぇ人生が一変して・・・。
霊能力なんて全然なかった俺を雇ってくれて。たとえ250円だったとしてもね」

少しおどけて横島が言う。
横島がいつもの調子を取り戻したことに、令子は安心して言った。

「自給250円がこれだけ育ってくれりゃあこっちは儲けもんよ。
あーあ、それにしてもあの横島君が私を超えちゃうとはね。愛の力、恐るべしってね?」

それについては何も答えず、横島も同じようにただ微笑むのだった。
何故こんなにも穏やかでいられるのか、自分でも不思議だった。

「俺にとって、美神さんは最高のGSですよ・・・。あなたみたいな人が師匠でよかった・・・」

彼女はそっぽを向いて、少し照れたように、けれど強い口調で言った。

「約束、するわ。必ずアンタとルシオラを幸せにしてみる」

無言のまま見詰め合う二人。
それ以上の言葉はいらなかった。
それは、お互いを最高のパートナーと認めた瞬間であった。
たとえどれだけの時が流れようと、この人とだけはずっと・・・。




――不意に後ろから声がかかった。



「ホラ、バカ横島。約束は守ったわよ」

「「えっ」」

おびただしいほどの星達は、これからの物語を祝福するかのように輝いていた。

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