ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(27)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(04/ 3/ 5)




 這う様にして進んで来たパイプラインも、合流を繰り返しタンク直通の5号管まで来て下手な通路よりも広い、
立派な道となっていた。石油を通す管なのに、油の付着や臭いは全く見られない・・・この船がタンカーとして
使われた事は一度も無いのだろう。タンク内の構造と言い、造船の段階でタンカーと偽って発注され、タンカー
に似せた“何か"として設計変更が加えられたんじゃないか。――今更ながら、そんなマネが可能だと言う奴ら
の人間社会での“力"を実感した。デジャブーランドはともかく、ここでのドンパチと電波ジャックはきっと明日の
ニュースには載らない。
 遠くに光―パイプの終点が見えて来た。走っている内にパイプ内に大勢の人間のざわめきや誰かの張り上げ
る大声が混じり合ってわんわんと反響し始める。


  「ねえ、知ってる?アイツらってさ・・・・・二千年前までは神界での主流派だったんだってね。」

 横を走るタマモにいきなり声を掛けられた。

  「アイツら?・・・ああ、反デタントの神族って事か?」

  「そう。美神長官に聞いた。人間がそれ以外の種族と共存出来なくなったのも・・・必要以上に忌み嫌い追い
  立てる様になったのは、アイツらの下で身に付けたものの見方が影響しているんだって。・・・全てアイツらの
  せいって事でもないんだけどね。」

 大雑把にだけど知っている。九尾の狐はかつて日本中のありとあらゆる災厄の元凶って濡れ衣を着せられて、
とことん追い詰められた挙句に滅殺されたと。


  「アイツらがメギドフレイムを振り回し調子に乗れば、神界内のバランスは崩れ再びアイツらは主流になる。
  世界のバランスは再び徹底的な対立での調和となり――人間どもは奴らの出来の悪い模造品に戻る。」

 その未来がこいつにとって何を意味するかは考えるまでも無い。
 光の手前で壁に複数の人影がへばり付いているのが見えて来た。敵ではない。さっき格納庫で別れたナインテールの
別働隊だ。負傷者を運び終わり横島の部下達と交替したのだろう。俺らが来ると中の一人がタマモの前に立ち、声を
ひそめて経過報告をした。タマモもまた小声で全隊員に指示を出し―制御室でのとほぼ同じ内容だった―俺達がやって
来た暗がりの方へと向けて移動を始める。俺は少しだけ声を大きくして呼び掛けた。


  「―――頑張れよ。」


 タマモは振り返って小さく笑った。不敵な自信に満ちた・・・格納庫で敵を倒した時の薄笑いとも似ているが、
それとは違う親しみの感じられる笑顔だった。


 闇の中へ連中が消えた後、俺は壁際をじりじりと光へ向かって進んで行った。10mも進めば微かにタンク内の
光が入る。その付近にいる教団員に丸見えとなるだろう。俺は突入のタイミングを見計らう事にした。・・・ここから
見える奴らが何の作業をしているのか、奴らの操作している機械が何なのか、さっぱり見当つかねえんだからな。
 ざわめきと大声とはタンクの天井―上の礼拝堂から更にくっきりと聞こえて来た。何だか今は、パピリオとも
デタントとも関係の無い、「教義に基づいた生き方論」みたいなのを誰かが説教してる所らしい。


  「博愛・共存・個人優先と言った一見耳障り良い志向は我らの父の仰せである『隣人を愛せ』この言葉を
  巧妙に歪めた産物なのであり、その向かう先は光りなき混沌であるのです・・・・『それぞれの生き方や
  考え方を尊重し、それぞれの幸福の在り方を認める』と言う美辞麗句は人が我欲のままに絶対者を持たず
  徘徊し続ける現状を生み、異なるもの同士が共存し合えると言う幻想は・・・」

 さしずめイベント前の余興と言った所か。俺は機械からのモーター音が一際高くなった時にざわめきも大きく上がる
事に気付いた。あれは、多分メギドフレイム関連の機械じゃねえ・・・上での舞台装置だ。どんなこけおどしをかまし
てんのか知らねえが。


  「・・・・それが魔界によるプロパガンダなのです!・・・正しいものの見方など一つ、正しい幸福の在り方と言う
  のも常に一つ、我らの正しい望みと言うものも・・・・我欲を捨てる事で大義が、真理の道が見えて来るのです
  ・・・・愛し愛され祝福を受け称えられるべきものには我らの父を頂点とした上下があり、その底に・・・・」

 この機械を上手く使えば結構楽にパピリオ達の元へ辿り着けるかも知れない。教団員の一人が出口付近に
寄り掛かって何かのファイルを読み始めた。他の奴はそいつにもこちら側にも目を向けず、機械の操作に集中
している。――チャンスだ。
 俺は音を立てずにそいつへと近付いた。1m前まで来てもそいつはファイルから目を離そうとし――顔を上げ
やがった。目が合った。俺はそいつが何か叫ぶ前に、その開きかけた口を手で塞ぐと暗がりへ引きずり込み、
気絶させる。魔装術を解いてそいつの教団衣を着、ファイルを拾うと何事も無かったかの様にパイプ出口へと
歩き出した。


 そこは周囲を金網で囲まれた20m四方のスペースだった。機械からはぴんと張られた太いワイヤーが無数に
伸び、天井へと続いていた。ワイヤーの他に鉄柱のようなシャフトも見られる。その並び具合からここはちょうど、
演壇―さっきの放送で白鷺野郎がいた――と、パピリオ達の真下らしい。俺はファイルを読む振りをしながら
ブラブラと、どこで何をしているのか見当付けて回った。演壇袖の真下らしき場所でサーチライトみたいなデカい
照明が3〜4個宙吊りでぶら下がっているのを発見した。――ここをこんなもので照らす筈がねえ。つまり、これは
上まで昇って行くんだ。


  「・・・おい。」

  「あ・・・あっはい!どうされました、教導主任様。」

 俺が教団員の一人に声を掛けると、そいつは俺の教団衣を見てやたらとビビッた声で返事して来た。俺が倒した
のはかなりここでの身分が高い奴だったのかもな・・この服のどこで身分を識別してるのか良く分からなかったが。
 手早くファイルを捲る。ここまで来ればいざとなりゃ荒っぽく行ったって良いが、なるべく静かに辿り着きたい。
なるべくこっちが偽者だとバレねえ様な指示を出しておきたい。


  「芹沢副司教様から・・Eライト2基を上昇せよとの臨令が出た・・ました。45秒後ぐらい・・です。」

  「ええ?でも、あの方はこちらの管轄ではなく・・・」

  「そうです。礼拝堂外周警護です。・・・とうとう、外で荒れ狂っていた背理者どもの群れが礼拝堂内に紛れ込んだ
  恐れがあるそうです。調和を乱さぬ様、聖なる啓示が来訪する演出を兼ね、聴衆の中から其奴らを照らし出すの
  です。・・・30秒後、です・・。」

  「・・・!わ、分かりましたっ!」

 俺はそいつから離れると機械の裏手に回るどさくさで、吊り下げられたライトの上に飛び乗った。
 すぐに2台のサーチライトが俺を乗せたまま上昇を始める。中程まで昇った時、金網の外に巨大なボイラーらしき
ものが見え――それが辺り一帯に響く唸りを立てながら白く発光するのを見た。


   ヴゥゥゥゥゥゥ・・・・ンッ!!


 次の瞬間、それは轟音に変わった。
 その音と張り合うかの様に信者達の声も頂点を迎える。


   ゴオオオオーーーーーッ!!

   わああああああーーーーっ!!


  「神の炎だ!」  「見えるぞ、我らの信仰の力!」  「ラケリエル様!今日二度目の奇蹟を!」
  「ラケリエル様ぁーーっ!」  「聖霊天主様!」   「素晴らしい・・・今まで見たどんな炎より力強く清らかなる!」


 ――――ラケリエルの奴、出現しやがったのか?・・・目立たねえ様に昇ったのは正解だったな。


 空気を砕くような轟音と歓声の中、ライトは天井近くまで来ていた。ハッチが開き、ライトと俺はその中へと
吸い込まれて行く。



 + + + + + + +



 辺りが急に眩しくなった。
 ライトが出現すると信者達の声は一層激しさを増し、俺はライトの裏で更に身を縮めた――きっと全員がこちらに
注目しているだろう・・・――。だが、その心配は不要だった。ライトと演壇とはスクリーンで遮られていたから。無粋な
機械やワイヤーを隠し、光だけを見せる為だろう。俺は少し安心して身体を伸ばす。だが油断は出来ない。下手に
動けば、スクリーンに侵入者の影が大写しだ。
 ライトの後ろにワイヤーを巻き取るウィンチと、それを支えてる横へ伸びた鉄骨とがある。俺はスクリーンに影を
落さない様注意しながら身を乗り出し、ウィンチと鉄骨とに順に手を掛けた。次に足。ライトを揺らさない様に軽く
蹴って中空で胴体に引き付けながら爪先を鉄骨に付ける・・・俺はナマケモノの様にぶら下がった。全身を鉄骨に
引き付けてから捻り、上に乗る。元気のないシャクトリムシの様にへばり付きながら少し前に進んでみた。
スクリーンに目立つ影は写らない。
 1m進んだだけで汗で手が滑り始めた。影が出てもダメだが、落っこちてもダメだ。全長2〜30mの鉄骨が
とても長い道のりに思えた。
 白いスクリーンは丸ごと一枚で演壇の裏を覆っているのではなく、横3m程の布を少し重ねながら何枚も
並べたものだった。俺は演壇中央の少し手前でウィンチを伝って上半身を乗り出し、そおっとその白い布の
継ぎ目を捲った。すぐ横に全身を固定されたパピリオとエミがいた。俺が顔を覗かせた場所はちょうど馬鹿
でかいラケリエル像とパイプオルガンの裏側・・信者達からは死角だった。
 「――やったぜ!」快哉を上げたい気持ちを押さえ、小さな声で、少しずつ語気を強めながら呼び掛ける。


  「・・・・・パピリオ・・・・パピリオ・・・・寝てんなよ、クソチビ!」


 だるそうに視線をゆっくり横へ移動したパピリオの目が俺の顔を捉えた。次の瞬間その目は大きく見開かれ、
何かで覆われた口元が叫ぼうとする。俺は人差し指を口に当て黙るように合図した。ラケリエル像の向こう前方
では熱狂する信者達の頭上に浮かび上がり、黙ったまま半目で笑っている本物のラケリエル。


  「・・・・見よあの光を・・・!」

 教団の役職らしき男がラケリエルの背後、俺の出てきたスポットライトを指差した。


  「あれこそが答えだ・・・!夜明けが来る・・・!新しい時代が・・・!」

 さらに叫ぶ信者達。俺はパピリオに自力で口の拘束を解く様合図した。霊波が炸裂し、その器具はバラバラの
部品になって崩れ落ちる。


  「本当に、来た・・・んでちゅね・・・・・・・・・・・ジョン。」

  「伊達雪之丞だ。・・・“本当に”たあ、どーゆー意味だよ?」   むぎう〜〜〜〜っ

  「むーみむ・・・むうま(どうして・・・こんな)・・プハッ・・に早く、ここまで・・・・?」

  「何でって・・・あのおっさんの言ってる通りなんだろ?これが答えだ。・・・・・・“夜明けが来る”のさ。」


  「んーーんっ、んんんーーんんーんーーんーーーんーーーんんーーーっ?
   (ちょっとぉ、私このままなのに何アンタ達だけで救出劇やってるのよ?)」



 + + + + + + +



  「・・・よし、次は左手だ。」

   シューーーーッ・・バチィッッ!!

 パピリオの左手の神霊拘束が解除され、こちらの器具も崩れかけた。

  「おっと、それは形を保っておけ。まだしばらく、お前らは捕まったままだと奴らに思わせておこう。・・・次は右手だ。」

 続いて両足。さすがラケリエルがパピリオ用に作った拘束具だけあって、俺の技術では解除方法が分からない。
幸いにしてパピリオが自分で解けたから話が早かったが・・・しかし、その気になれば出られる縄について死刑を待つ
ってのは一体どんな気分だったんだろうか・・・。そんな思いがふと頭を過ぎった。
 人間の敵に回るくらいなら死ぬ。俺達が絶対助けに来ると信じる。・・・言葉で表せるほどに簡単な事じゃ、ねえ筈だよな。
 ふと、パピリオがニマニマと笑いながらこっちを見ているのに気付いた。

  「・・・・?な、何だよ・・・・?」

  「何でもない。・・・ないけど・・・助けに来てもらえたのが嬉しかったんでちゅ。」

  「――!バッ・・何言って・・・!?」

  「お前なら分かる筈。だって、お前が生まれて初めて感じた嬉しさもきっと、こんな感じだったんでちゅから・・・・。」


 ―――くそったれ、良く分かるぜ。
 強いか弱いかじゃない。1人で生きられるかどうかじゃない。誰かに守ってもらえた時、助けに来てもらえた時の
嬉しさってのは、それとは別物なんだって。―――良く分かってる。
 味方はいる、従う卷族もいる。でもその桁外れの力と微妙な立場ゆえに誰かに守られたり助けに来られた事は
なかったこいつが、そんな形で「世界に受け入れられる」気分を今初めて味わっているんだと。
 俺が抱き上げられた日の様に。


  「・・・・・・・っ、次はエミだ。同じ様に、最初は口からな。」

 エミの口の拘束が解除された時、鋭い口調の第一声が出て来た。


  「雪之丞、隠れなさいっ・・・アイツら、こっち見てるわ。あれを用意してるわよ・・・っ!」


 俺が布の隙間から覗かせていた顔を引っ込める間際、再び轟音が響いて礼拝堂の真ん中からメギドフレイムが
激しく噴き上がるのを見た。炎自体はさっきから何度も噴き上がってるが、それまでと違うのは、数人の教団員が
細長いバーナーを手にしている所だ。バーナーからも白い光は細く激しい勢いで吹き出している。


  「火力は抑えなさい。見せしめにはなってもサンプルにはなりませんからね。一度に全て焼くのは最後です・・・
  身体の各部分を一ヶ所ずつ焼いて行くのです・・・汚れた魂の持ち主と、祝福されざる魔物との肉体や霊体が
  神の炎の前でどの様に滅ぶのか調べて行かなければなりません・・・。」


 バーナーを持った教団員達は半覚醒状態でふらふらとパピリオとエミに近付いて行った。例え奴自身が意図せずとも、
ラケリエルの声は普通の人間にとっては強烈な言霊として届くのだろう。俺は小さな声でパピリオに囁いた。


  「・・・小竜姫が今コイツらの不正の証拠を押さえかけている。そうなれば解禁だ。思う存分暴れても敵認定は出ない。
  ・・・いざとなったら見切り発車で、コイツら全員ぶっ飛ばしちまえ。殺しちまわねー様に俺がフォローする。」



   ――――バアーーンッッ!!――


 俺らの反対側、礼拝堂の入口で突如響いた音に注意を向けた時、俺は自分の目を疑った。

  「あのおっさん・・・・・よりにもよって正面突破かよ!?」


  「――神が私達の罪の為にあがないの供え物として、御子をお遣わしになった・・ここに愛がある。
   愛には恐れがない。完全な愛は恐れを取り除く。
   私達が愛し合うのは、神がまず私達を愛して下さったからである。
   『神を愛している』と言いながら兄弟を憎む者は、偽り者である。愛さない者は、神を知らない。
   神は愛である・・・エイメン!」

 礼拝堂正面の時代がかった巨大な扉を両手で勢い良く開け放った唐巣神父は、聖書の一節を張りのある
大声で唱えながらずかずかと礼拝堂に踏み入って来た。バーナーを持った4人が反射的にノズルを唐巣に向ける。


  「驕れるパリサイ人たちよ、頑ななる律法学者の徒よ。盲いて導くはぬかるみぞ―――!」

 バーナーから放たれたメギドフレイムは一瞬の内に唐巣の全身を包んだ。
 しかしその直後、バーナーを構えた連中は目の前の光景を強張った表情で凝視する。白い炎の中から
何事も無かった様に―その僧衣に焦げ目一つ作らず―唐巣が現れ、そのまま前進して来たからだ。


  「――大いなる父の従順な僕であるこの私を、その炎で焼けると思うならばやってみなさい!!」



――――――――――――――――――
 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
――――――――――――――――――
 ・・・しかしまあ1日でよくこれだけ書けたものだ自分。それも周りに誰もいないとは言え一応仕事中なのに。
とまあ、さすがに今日は一話分埋まらないだろうなと思ってたからびっくりっす。この先一週間ぐらい原稿書くのは
無理っぽいから書ける内に・・とか思ったのでせうな。それにしても、最近「しょうりゅうき」と打つと「小竜姫」と、
「ぱぴりお・るしおら」と打つと「パピリオ・ルシオラ」と一発で出るようになったこのパソ。勤務先どころか・・・その
クライアントのパソなのに・・・良いのか?(笑)。

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