ザ・グレート・展開予測ショー

おキヌの奏でるラブソング 最終回 前編


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 3/ 5)




「洗濯になんて行ってあげないんだからぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」

控え席でのんびり飲み物を飲んでいた横島は、その声を耳にしてまず自分の耳が正常なのか疑いたくなった。
次に声のほうに振り返ると今にも泣きそうなおキヌが、ジッとこちらを見つめている。

横島はおキヌのその顔を見て急に慌てだした、やばい俺なにかやっちまったのか。
しかも自体はどんどん悪いほうに進んでいく、今まで自分へ罵声が飛んでいたのは分かっていたが、おキヌの
叫びによって、自分への悪態から少しずつ変わっていっている。

「あれってB組の氷室さんでしょ。」「たしか美神おね〜さまの所で居候してるのよね。」
「あんな駄目男の世話なんてしてるのかしら。」「騙されてるのよ、馬鹿な人よね。」
「あの男、女好きみたいだから、きっと手出してるのね。」「きゃ〜不潔〜」

くっそ、好き放題言いやがってと思うのだが、ここで叫んでも火に油を注ぐようなものなので、
ぐっと堪えると、少し離れた場所でお茶を飲んでいる美神に向かって歩き出した。

そして歩きながら先程おキヌが叫んだ内容を思い出す。
俺、おキヌちゃんを悲しませるような事やっちまったかな〜と考えてみる、
やはり同じ事務所として、先程からの態度は情けなさ過ぎたかと反省をする。
違うかもしれないがそれしか思いつかない。そしてこれは自分の間抜けさが生んだ事だと思うことにする。
しかしおキヌちゃんを悲しませるような事だけは絶対に出来ない・・・一度も負けないでか・・・
おキヌちゃんも無茶を言うな、さて、美神さんは許してくれるかなと思いながら近寄って行く。



おキヌは叫んだ後、自分は何を言ってしまったんだろうと考える。
横島さんは、美神さんの指示で負けていたと分かっていたのに、
勝ち負けなんて関係ない模擬戦だって分かっていたのに、自分は何を言ってしまったんだろう。
しかも、たった一つの自分の大切なものを軽々しく賭けてしまった。
でも自分にはそれしかないから、横島さんにお願いできる理由が他に見つからなかったから、
たとえ模擬戦でも横島さんに勝ってほしかったから、自分は賭けてしまった。
でも横島さんに迷惑が掛かったのは確実だろうと思う、自分のために一度も負けるななんて我が儘だ。

「おい、おい、しっかりしろ、おキヌちゃん。」

横に座っていた魔理が、おキヌの肩を揺さぶりながら一生懸命に話しかけてくる。

「あ、ど、どうしよう、横島さんたちに迷惑掛けちゃった。」

「ばかやろ! 今は自分の事心配しろ。」

魔理の叫びでやっとおキヌは周りの状況を確認する。周りから聞こえてくるのは、自分と横島への
皮肉とも悪口ともいえる内容なった。

「あんな駄目男に騙されてるのね〜」「男見る目な〜い」「可哀そうに」

「少々周りが煩いですわね。」

弓が周りに睨みを聞かせているのだが、観客席中から投げかけられる視線を
すべて対処する事は出来ずにいた。

「私、横島さんに勝ってほしくて・・・・、美神さんの指示で負けてるって分かってたんです。
でも、横島さんは強いんだぞって、ちゃんとすれば誰にも負けないんだぞって二人に見せたくて・・
私、横島さんに迷惑かけちゃった。」

少し落ち着いたおキヌが、下を向きながら横に居る二人に話しかけた。
弓と魔理は黙って聞いていたが、二人で視線を合わせると魔理がおキヌの肩に手を置く。

「なに言ってるんだよ。女にここまでさせておいて、
迷惑なんて思うやつが居たら、あたしがぶっ飛ばしてやるよ。
おキヌちゃんがここまでやつを信じるんだ、あたし達だって信じる、大丈夫きっと勝ってくれるさ。」

「そうですわね、美神お姉さまの相棒をやってるんですもの、実力が無いなんて事はありえませんわ」

弓も不器用だがおキヌを励まそうとがんばる。
二人の心遣いが、おキヌには凄く嬉しかった。
今は信じてみようと思う、横島さんは優しいから、きっと私が言った我が儘を本当に守ろうとするだろう。
でも自分は、我が儘だと分かっていても勝ってほしかったから、後で一生懸命謝らないといけないけど
今は横島さんの姿を見ていようと思う。
後でどうやって謝るか考えながら・・



「そうね、おキヌちゃんてこういう子だったわね。」

GSチームが円陣を組んで話し合いをしている時、まず最初に美神は呟いた。

「どう考えたって、たまに来る横島君なんかより自分のほうが大変な目にあうのにね。」

「すごいわね〜 おキヌちゃん。」

さすがの冥子もちょっとびっくりしている。

「拙者、おキヌどのの意見に賛成でござる。なぜわざと負けなければいけないでござるか、
先生の実力なら十分に勝てるでござるよ。おキヌどのの為にも、みんなに先生の力を見せるでござる。」

シロが一生懸命に手を上げながら、自分の意見を叫んでくる。
うるさい馬鹿犬とシロを押さえつけながら、タマモも会話に入ってくる。

「見せ付けるとかはどうでも良いけど、次も負ける作戦取ってたら、おキヌちゃんが大変なんじゃない。」

「ん〜、駄目男に騙される馬鹿女ってのが完全定着するわね。
おキヌちゃん見た目騙されやすそうだからね・・・」

美神はため息をつきながら空を見上げる。
そういえば、おキヌちゃんて行動派だったわね〜などと考えてみる。
昔からあの子は、自分の事より他人の事を優先させていた。
自分にはとても真似出来ない事だ。
でもだからこそ、周りがおキヌちゃんの事をしっかり守ってあげないといけないのよね。
だから美神もやらなくちゃいけない事を決める。

「で、横島君、あなたはどうしたいの、女の子は殴りたくないんでしょ?」

美神は、さっきからずっと黙っている横島を見ながら、自分の考えの確認をする。

「そうですね、正直女の子を殴るなんて俺は嫌なんですが・・・、
おキヌちゃんを泣かせるのはもっと嫌ですね。それで俺にちょっと考えがあるんですが、良いですかね?」

横島の発言にみんなが注目をする、そしてその内容を聞くと全員が驚きの声を上げた。
さすがの美神も、無茶だと思うので思い止まらせようとする。

「横島君本気? いくらなんでも無茶よ。
1年は総計8クラスAからHまで存在するのよ、第一試合で3人が終わったとしても
まだ21人が残ってるわ。
いくらまだ学生だとしても、仮にもプロを目指してる相手にそれは許可できないわ。」

「試合毎に休憩が入ります。霊力と体力になら自信がありますし、
それにそのぐらいしないとおキヌちゃんに胸を張れないですよ。」

美神が反対をするが、横島の決意は固いようで一歩も引かなかった。

「先生」

「横島」

シロとタマモも心配そうな顔をするが、横島は大丈夫、大丈夫と言って頭を撫でてやる。

「横島クンも〜〜 男の子なのね〜〜〜」

相変わらずのんびりとした声だが、冥子も横島をちょっと見直した。
そこまで言われたら、美神としても止める事はできない。
どこまで出来るか分からないが、好きにさせてみようと思う。

「分かったわ、好きにしなさい。」

美神はため息をついてから横島を見つめ、そして真剣な表情を作る。

「いいことよく聞きなさい、あんたが馬鹿やるのはかまわない、
それが貴方らしいって言えばそうなんだから、でもね、今からの貴方の行動はすべておキヌちゃんの
評価にもなるのよ。
おキヌちゃんが、駄目男に騙される馬鹿女と呼ばれるか、
一流のGSである横島君の世話が出来る憧れの対象になるか、それは貴方しだいよ。
・・・・私も、さっきの作戦考えたけど、よく考えたら人の相棒が悪く言われるのは
やっぱり気に食わないわ、せいぜいかっこつけてきなさい。」

意地っ張りな美神は、最後に自分の意見を付け足すと、そっぽを向いてしまった。

「ありがとうございます、美神さん。」

「そろそろ第二試合を始めるで〜。各選手準備してや。」

ちょうど鬼道が第二試合の開始を告げる。
会場である中央の結界に向かって行く横島の後姿を見ながら、美神は横の冥子にそっと呟く。

「横島君て、追い詰められないと実力を発揮できないタイプだからね。
おキヌちゃんは無意識なんだろうけど、それが分かってるのかもね。
さて、横島君の成長の成果でも見てみますか。
冥子、評価ノートにがんがん書き込むわよ、お仕事、お仕事。」

「は〜〜い、令子ちゃんなんかちょっとだけ楽しそうね〜〜。」

美神と冥子は控え席のほうに戻っていった。
少しだけこの後の展開を楽しみながら、横島ならなんとかしてくれると信じて。



おキヌがどきどきしながら待っていると、第二試合の選手達が結界に近寄っていく。
GSチームからは先程と同じく横島、シロ、タマモが、対戦相手の1年D組みからは、
前に何度か対戦した事のある三人組が、前におキヌもキョンシー使いに苦しめられた記憶がある。

GSチーム先鋒は横島、D組先鋒は髪の長い正統派スタイルの子だった。
攻守共にバランスがよく、かなりの実力がある、だが彼女は完全に横島を馬鹿にしているようだった。

「またこいつか、みんな私だけで終わらせるわ。」

横島は相手側の3人を軽く見ると、中央で霊波刀を出した状態で開始の合図を待っている。

「始め!」

開始の合図が響き渡る、それでもD組の子は横島を馬鹿にしているのか、結界の外の子と話をしていた。

「すぐ終わるわ、軽い軽い。」

横島は、油断している瞬間を見逃すつもりは無いようで、一気に間合いを詰める。
相手もそれに気づいて防御を固めようとするが、横島のほうが一瞬早かった。
中途半端な防御ごと霊波刀でなぎ払う、相手は結界の壁にまで一気に吹き飛ばされ、
背中を思い切り打ち付けた。
横島でも完全に防御をされれば、吹き飛ばすなんて出来ないだろうが、
体勢が崩れている防御なら簡単に吹き飛ぶ。

「がっは」

少しの間呼吸が出来なかったようで、しばらく転がった後急いで立ち上がろうとするが、
すでに横島の霊波刀が彼女の首に当てられていた。

「君、相手が弱いからって馬鹿にしすぎだよ。そんなだといつか雑魚霊に不覚を取るよ気をつけな。」

「ワン!、ツー!、スリー!」

鬼道先生がカウントを数え始めるが、それを横島が止める。

「まって、まってくれ。俺達は指導で模擬戦やってるんだ、一人目で勝ってどうする。
君立てる? 負けたと思ったら次の子と変わってもらえるかな。」

「は、はい」

横島が手を伸ばして起き上がらせる。
起き上がった生徒は、結界の中で起こった事が信じられずに、唖然としている仲間の所に戻ると、
キョンシー使いにタッチをする。

「どうした? 来て良いよ。」

「くっ、イー!アル!!」

状況が把握できたのか、気を取り直した彼女は、手持ちのキョンシーを出し始める。

「サン!!スー!!」

四鬼すべてを出した彼女は、一気に決めようと一斉攻撃を命じる。

「一気にやっちゃいなさい!」

しかし横島は、四鬼の攻撃を騒ぎながらも霊波刀で捌き、少しずつ彼女に近寄って行く。

「よっ、はっ、うわあぶね。当たったら死ぬって。」

それには彼女のほうが驚き、じりじりと後ろにさがるのだが、とうとう結界の壁にあたってしまった。

「なんで当たらないのよ、こっちは四鬼も使ってるのよ。
あんた達、さっさとたおしなさいよ!!」

当たりそうで当たらない、そんな状況に彼女は苛立ってきている。
横島は左手に小さなサイキックソーサーを出す、体中から集めるようなやつでは無くほんの小さな物だ。
だが向かってくるキョンシーにカウンターで当てると、それで十分のようで札に戻ってしまった。

「あ〜サンが〜」

同じ要領で次々にキョンシーを潰していく、横島はすべて倒し終わったところで、
ゆっくりと相手に近寄った。すでに相手側とは反対側に追い詰めている、
タッチは出来ない状況で逃げ場は無かった。

「すみません、キョンシーが無いと私無力なんです。」

素直に白旗を上げる。

「せっかく四鬼も居るのに攻撃が単調すぎるよ。楽にかわせるしカウンターが入れやすい、
もっと攻撃に変化をつけなくちゃ。じゃ次の人と変わってくれないかな。」

「は、はい」

急いで自分の方へ戻ると、結界使いにタッチする。
タッチされた方もかなり困っている。

「わ、私、相手の力奪うだけですよ、止めを刺す人が居ないと倒すの無理!!」

「お得意のイージスの盾理論があるでしょ。授業なんだから、やるだけやりなさい。」

仲間に押されて中央に近寄ると、本から紙ふぶきを出して結界を張る。

「勝てないけど負けませんわ。」

「君、自分の弱点直したの?」

横島は左手の霊力を高めると、紙に吸わせながら聞く。
彼女は額に汗を浮かべながら、じりじりと後ろにさがる。

「い、いえ、実はまだですの、あんな無茶する人あまり居ませんから・・・」

「じゃ駄目。」

右手に作った小さなサイキックソーサーを彼女に当てると、あっさり気絶する。

「相変わらず弱い・・」

彼女の仲間の意見に、心の中で同意する横島であった。

「GSチームの勝利!!」



「きゃ〜〜、やった〜〜勝った、勝ったぁ〜〜」

GSチームの勝利が告げられた瞬間、おキヌが飛び上がって喜びんでいる。
それはもう、周りが唖然とするぐらいの勢いだ。

「氷室さん、取り敢えず落ち着きなさい。」

「あ、は、はい」

周りの自分を見る目にやっと気がついたおキヌは、急に恥ずかしくなって自分の席に座りなおす。

「確かに強いと思いますが、まだ今の戦いだけではなんとも言えませんわ。」

「でも、最初のがわざと負けたのは分かってくれましたか。」

弓の比較的冷静な判断に対して、おキヌも反論をする。
弓は魔理とちょっと顔を見合わせたが、すぐにおキヌの質問に答えた。

「そうですわね、少なくてもあんな負け方をする様な方ではありませんね。」

今のおキヌにはその言葉で十分だった、今から見てもらえばちゃんと分かってもらえるのだから。
にっこりと微笑むと、この後に期待ですねと話しながら、次の試合を待つ事にした。



「さすがやな横島はん。先ほどの試合から数えて、これで連続6人相手してるのに、体力も霊力も
まったく疲労している様子があらへんな。
普通一試合したらへとへとになるのがあたりまえやのに。」

横島が控え席に戻ろうとした時、鬼道が横を通り過ぎる横島にちょっと大声で褒めてくる。
その声が生徒たちにも聞こえたらしく、あ、そういえばと言うような顔をしている。

「鬼道・・・」

横島はそっと呟くと、ダッシュで鬼道に近づいてささやいた。

「きさま、何の真似だ、なにが目的だ。なんの目的も無く俺を褒めるやつなんていない。
まさか後で金でも取るつもりか、金なんてまったく無いぞ。」

それを聞いた鬼道が突然笑い始めた、しかも馬鹿笑いだ。
これには周りにいた生徒たちも驚いたが、鬼道は全然気にした様子も無くしばらく笑い続ける。

「なんだ、なにが可笑しい。」

笑われた横島が、ちょっとむっとなりながら聞く。
やっと笑いを抑えだした鬼道が、横島の質問に答える。

「いや、ほんまに横島はんは冥子に聞いてる通りのお人ですな。」

「冥子ちゃんが? 」

横島は不思議に思い、鬼道に聞き返す。

「そんなに自分が褒められる事が不思議ですか、自分はたいした事無いとおもっとるんやろな。
ほなら、氷室のためと思っててや、可愛い生徒やさかいな。
援護の一つもしとかんと可哀そうやろ。」

「きさま、おキヌちゃんはやらんぞ。」

「生徒には手なんてださんわ。」

横島はあきれ顔の鬼道を置いて、さっさと自分の席に戻る事にした。
まだ後18人も居るのだから・・



なんだかんだと言いながら、横島は勝ち進んだ。
生徒たちも最初こそ、驚きを隠せないようだったが、
横島は意外と強いと分かりだすと、盛り上がりを見せ始める。
元々、実力者の試合を見れて喜ばない生徒なんていないのだから、応援にも熱が入りだすのは当然だった。
大抵は自分の学年の応援だったが、中にはそっと横島の応援をする生徒も見え始める、
だが必死に試合をしている横島に届く事はなかった。

そして、第7試合・1年G組・3人目。
体力も霊力もそろそろつき始めようとしている横島に、
弓と同点首位だった子が得意の触手を伸ばして自由を奪っていた。

「さっさと横におなり!」

「い、や、じゃ〜」

床に倒そうとしているのだが、横島の抵抗によってなかなか出来ない。
横島はあらん限りの気力を振り絞って、サイキックソーサーを右手に作るとそれを相手に投げつける。

「そんな体勢から投げて当たると思ってるの!!」

実際横島が投げた円盤は、彼女の上を通り過ぎようとしている。
だが真上を通る瞬間に、横島は投げたままだった腕を下に振りかぶる。
すると突然円盤の軌道が真下に変わり、前を向いていた彼女の背にぶち当たる。

威力を抑えているとは言え、防御も出来ないままに背中を強打された彼女は集中が解けてしまい、触手が消え
自分自身も床に叩きつけられた。

急いで立ち上がろうとするが、すでに近寄って居た横島が霊波刀を首に当てている。

「ぜ〜は、ぜ〜は、ぜ〜は」

「・・・私の負けですわ。」

すでに言葉も喋れない横島に代わって、彼女が負けをみとめる。

「・・・フォー、ファイブ、GSチームの勝利!!」


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