ザ・グレート・展開予測ショー

お前


投稿者名:SooMighty
投稿日時:(04/ 3/ 4)


誰よりも不器用だった。

誰よりも情けなかった。

誰よりも腹が立った。





そんなお前が・・・















お前


















今日は久々のオフなのでオンエアされている映画の見直しをしていた。
自分の演技のいい所駄目な所をチェックするためだ。



自分が初めて主演作となって上映された映画。

「踊るゴーストスイーパー」

それも大ヒットで終わり、自分の夢にまた1歩近づいた気がした。


「役者」という夢に。


よく親父から「どんな職業に就くにしろナンバーワンを目指せ。
それが本物の男の生き様だ。」と言われた。
それを聞いた当時・・・小学生の時なのだが凄く印象に残った。
そしてその信念は今でも変わらない。

今は本当にいい時期だと自分でも思う。
いい調子でゴールに向かえていると思う。
充実感もある。
非常に嬉しい。





なのにここ最近はどうも胸がポッカリ空いた様な感覚に襲われる。






あいつと会ってからは・・・








あいつは・・・横っちは6年振りに会っても何も変わってなかった。
見た目とかはそりゃあ変わっていたけど、根本的には変わってない。

少年っぽい不器用さとあけすけさは昔のままだ。



思えばあいつは不思議な奴だった。
顔は並レベルで運動や勉強も目立つところは無かった。
性格だって特別いい奴ってわけでもない。




なのに・・・女子男子問わず人気があった。
お前の周りには常に誰かしらいたのをよく憶えてる。


俺の初恋の相手・・・夏子もお前のことが好きだったしな。

「お前って顔の割りに罪深い奴だったな。」
声に出してしまう自分が無性におかしかった。

夏子だけじゃなくて他の女子も結構あいつの事好きな奴多かったんだよなー。
結局俺は転校しちゃったからお前が誰とくっついたのかはわからずじまい
だったけどな。



あの古い時代でも裏表なく付き合ってくる子供ってのは少なかったからな。
それだけでなんか人を安心させるって言い方は変かもしれないけど、そんな気分
にさせてくれるやつだったよ。お前は。











今日は仕事の事を忘れたい気分になった。
ビデオを停止させて、ベランダから外を見てみると
思ったよりも暖かかった。

春がそこまで来ているのだ。
今日も天気は快晴だった。
芸能人をやっているとどうもこういう事に疎くなっていかんな。



ここでゆっくりとあいつの事を思い出すのも悪くないかな・・・
そんなオフの過ごし方もたまにはいいだろう。

ここ最近仕事仕事でろくに休んでなかったしな。






・・・そういえばあいつと俺がつるみ始めたのっていつぐらいだっけ?


小4からだったか・・・


丁度今みたいな春の時期だったな。
あの頃はもう肌寒さは残ってなかったけど。


最初はお互いにいい印象を持ってなかった。
あいつに関する思い出は全部鮮明に憶えてる。

あいつは小4の頃スカートめくりとか蛙や蛇を見せたりと女子の嫌がること
をしょっちゅうやってた。

俺はその頃はもう俳優になりたいって夢がハッキリしていて色んな知識が必要
ってことでどの授業も結構真面目に受けていた。


まあ、今考えたら使わない知識の方が多かったけどな・・・。






「自分は夢に向かって真面目に過ごしているのに、お前って本当に
 遊んでばっかだったな。」

そんなあいつに凄い腹が立った。
学校は少なからず「何か」を学ぶ場と思っていた。

始業式で俺たちが新しいクラスに行ったときもお前は女子に
スカートめくりしてたよな。

俺は我慢できなくなってつい文句を言っちまったよな。


「そんないつでもできるような下らない事を教室でやるなよな。
 真面目にやっている人の迷惑や。
 俺たちはもう高学年なんやからちゃんとしろや。
 そんなガキっぽい事して何が楽しいねん?」

そんな風な感じでお前に言ったんだよな。
そしたらお前・・・

「何言ってんねん! 学校っていう場所でやるから
 楽しいんや! 大体俺は高学年つってもまだ小学生や
 そんなこた知らん!」

「な、な、なにふざけた事抜かしてるん! 大体女子は
 嫌がってるんやで!? はよやめたれや!」

「いやいやこれでも喜んでるやで? 本当は。」
そういってまだスカートめくりを続けるお前。
女子は当然逃げ出す。
変態とかスケベとかの罵声浴びせながら。

「嘘付けーーー!! 嫌がってんの見え見えじゃあらへんか!」

「うっさい奴やなぁ。何いい子ぶってんねん! お前だって本当は
 パンツ見たいんやろ!」

「ななななな、何言ってんねん。そんなもん別に見たないわ!」

「強がるなって。顔に書いてあるやん。 その真っ赤な顔に。」

「くっ。これは違うんや・・・」

「赤い顔しちゃって。ムッツリスケベめ!」

「ぐぬぬぬぬぬぬ!!」
























確かに赤い顔で言ってもんなー。
説得力が無かったよな。ハハハ。
あん時の俺はウブだったなぁ。
簡単に言葉尻取られちゃってさぁ。



ま、そんなこんなで最初は本当に犬猿の仲だった。
ことあるごとに俺が突っかかって、あいつが反論して
俺が食い下がって、それを周りが呆れながらも笑って見てる。


そんなクラスだったな。俺らのクラスは。





正直、途中からは嫌な奴というより変な奴っていう印象になってきたんだけどな。

授業はちっとも真面目に受けないくせして、遊びの事になると誰よりもマジになり、
才能を発揮してナンバーワンになる。
まあ金魚すくいとかミニ四駆とか将来の役に立つとはおせじにも言えんもの
ばかりだったけどな。


それでもあの時は子供だったから悔しかった。
そういうゲームに関してはジャンルを問わずお前に勝てなかった。何一つ。


本当はとんでもない奴なんじゃないか。
その才能を授業でも出せばいいのに。


とか色々な疑問が浮かんでいた。
その時からお前に対する嫌悪感は消えていたっけ。







そんなこんなでいつの間にかつるんでたんだよ・・・
知らん間に2人セットになっていたって感じだな。

あんだけ否定してたスカートめくりもいつの間にか一緒になって
楽しんでたし。







少し考えるのをやめて、たばこに手をつけた。
俺の年齢だと本当は吸っちゃあいけないんだが
どうせ誰も見てはいまい。


実際芸能人はストレスの溜まる仕事だ。
綺麗事ばっかりも言ってられない。






気晴らし程度にしかタバコは吸わない。
それでも吸って自分を抑えないと、駄目になりそうなことはしょっちゅうあるのだ。







お前が良く言ってたよな・・・
悪いこともしないと人生損だって。

















「銀ちゃん、銀ちゃん。」

「何や? 横っち?」

「ついに手に入れたで。親父のたばこ。」

「げ!? お前、本当に持ってきたのか!?」

「だって興味あるやろ?」

「そりゃああるけど、体にものごっつう悪いらしいで?それに・・・」

「それに? なんや?」

「学校にバレたらやばいで・・・」

「なんやそんなこと心配しとったんか! 相変わらずクソ真面目やな。」

「いやだって・・・」

「あんなー。学校の規則やなんかも大事かもしれんけど
 たまにはそういうの抜きにしてやろうや。
 それにこういうのはスリルがあるから楽しいんやで。」

「んーー、そうかなぁ・・・」

「そうやって! 親父がたまにはハメを外して悪いこともしろ!
 つってたしな! 気分転換、気分転換!
 大体健康なんか気にしてたら男がすたるぜ!」

「・・・横っちは毎日が気分転換やけどな。」

「なにいうてんねん! 俺だって悩み事の1つや2つあるわい!」

「ま、でも確かに横っちの言うとおりかもな。それになんだかんだで
 興味あるのはホンマやしな。」

「じゃあ、まず俺から吸うぜ。正しい吸い方を銀ちゃんに見せてやるで。」

「お、おう。」


カチ シュボ

「へっへー、ライターに1発で火をつける俺。
 カッコいいべ?」

「いや、別に普通やけど・・・」

「なんやてー! 俺なんて火をつけるのに徹夜で練習したのに。」

「そんなことで徹夜すんなや。」

「くそ、やっぱ俺は銀ちゃんに勝てないのか。」

「いや、いいからはよ吸ってくれや。」

「おう、わかった、いくぞ。」

「スウゥゥゥゥ・・・ブハゲホッ!! ゲホッ!! ゲホ!!」

「どうした横っち! やっぱり体には毒なんか!?」

「ゲホ! ウェェェ まずぅぅぅー! なんやコレ!?」

「そんなにまずいのか!?」

「ああ、やめたほうがいいで。人間が口にしていいもんやない!」

「そこまで気持ち悪いのか・・・」

「ああ、やっぱ健康は大事にしないとアカンわ。
 アーー ゲホッ ゲホッ! くそ、まだ喉に残っとるわ。」

「横っち・・・さっきと言ってる事が全然違うで。それに自分から
 勧めておいてそれはカッコ悪すぎやで?」

「いやー、俺はもうたばこは2度と口にせん!やっぱカッコ良さ
 よりも真面目な生活やね。」

「お前が言っても嘘くさいけどな。じゃあ次は俺やな。」

「やめとけって。碌な目に会わへんって。」

「スゥーーー プハーー うげ確かにまずい・・・」

「やろ?」

「だけど、そんなにむせるほどのモンじゃあないで。」

「うお! マジで!?」

「ああ、慣れれば吸えると思う。」

「やっぱ銀ちゃんカッコええな。」

「・・・お前がカッコ悪すぎるだけや・・・」

























ハハ、あん時のお前本当にカッコ悪かったからな。
今でも忘れてないよ。あのむせてるお前の姿は。
あれから俺はたばこがそれなりに好きになって。
お前は大嫌いになったんだよな。



自分から言い出しといて、自分がそれを嫌うなんて
本当におかしな奴だったよお前は。






でもそんなお前に結構大事な事を学んだ気もするんだ。
お前はこれぽっちもそういうつもりはなかったんだろうけど。













他にも色々と思い出はある。

お互いに夏子を同じ女の子を好きになった。


ただ本当に好きな相手には横っちは途端に大人しくなる。
いや・・・奥手になるって言った方が正しいか・・・




















「横っちさぁ、好きな女子おるん?」
俺は気になってしょうがなかった。

「んーーおるけど、言いたないわ。」

「そうか、おるんか・・・」

「銀ちゃんもおるん? でも銀ちゃんモテルからなー。
 羨ましいわー。告白とかも楽にできそう。」

「んなことないわ! 本当に好きなのは1人だけや!」

「・・・そうやな、ゴメン。銀ちゃん真面目やもんな。」

「罰としてお前の好きな奴言えや。」

「ええー! それだけは嫌やわ。」

「じゃあさ、俺も言うからさ。それでおあいこやろ?」

「わかった。じゃあ銀ちゃんから言ってくれや。」

「なんや、お前らしくない。これは罰なんだから横っち
 から言えや。」

「うーん、じゃあ言うで。・・・笑わんといてくれよ。」

「笑わへん、笑わへん。」

「実はな夏子の事が好きやねん。」

「え・・・」

「さあ言ったで! 銀ちゃんの番や!」

「いや俺もその・・・夏子の事が・・・」

「へ? そうなん?」

「これからはライバルってわけやなぁ。負けへんで、横っち。」

「いや銀ちゃんが相手じゃあハナっから負けてるわー。」

「へ? やけにあっさりしてるなー。らしくない。」

「いやだって銀ちゃんもてるし・・・ 俺は夏子に
 しょっちゅうブスとか言ってるしなー。他にも蛙ぶつけたり
 スカートめくったりしたし。」

「なんや、そんなこと気にするなんて、どうした? ほんまに
 お前らしくないぞ? なんか変なもんでも食ったか?」

「そんなことあらへんけど・・・やっぱり銀ちゃんには
 勝てる気がせえへん。」

「なんや張り合いの無い。じゃあ俺夏子に告ってもええか?」

「うん、銀ちゃんならええわ。」

「そうか、ありがとう。横っち。」

















本当はあの時お前はどんな気持ちだったんだろうか?


悔しくて悔しくてたまらなかったのか?
俺なら心から許せると本当に思っていたのか?




・・・どっちかは正直わからない。
成長した今でも。



お前だったらどっちの答えも有り得そうだからな。




俺なー、転校する前日に夏子に告白したんだ。
ものの見事に振られたけどな。


振られたときはスゲー悔しかったけど、なんとなく理解している
自分もいたよ。


俺ら結局お互いに横っちならいい、銀ちゃんならいいって思ってたんだよ。






バカみたいだけど、お前と同じ事考えたなんて、なんか嬉しいよ。



























でも何より1番印象に残ってるのはやっぱりあの出来事だ。



7月ぐらいに俺は季節の変わり目と稽古疲れが出て、学校1日だけ
休んじまったんだよな。

俺はそん時、皆勤賞を本気で狙ってたから凄く休んだことを後悔してたんだ。


そんな俺にお前は・・・















「銀ちゃん、どうしたん? 元気ねぇな。」

「横っち・・・今日は放っといてくれへんか?」

「なんや、ほんまに元気ないなー。 今日も休んでた
 方が良かったんちゃうん?」

「バカなこと言わへんでくれ!! ただでさえ皆勤賞とれんで
 機嫌が悪いのにホンマ腹立つ奴やなー!!」

「皆勤賞って・・・なんやそんなことで落ち込んでたんか。
 アホくさ。俺なんかもう5日は休んでるで。」

「お前と一緒にすな! 俺は本気で皆勤賞狙ってたんや!」

「別にまた小5になってとればいいじゃん。そんなもん1回ぐらい
 とれなかったって大したことないって。」

「な、な、何言うてんねん!! また来年まで待ってちゅうんか!」

「そうや。別に待つだけやし、難しいことやないと思うんやけど。」

「お前にはわかんねぇよ! がんばってきたものが一気に無くなるちゅう
 悔しさは!」

「けっ! 女みたいで気持ち悪い奴やな! いつまでもウジウジしやがって。
 はっきり言ってやるわ! お前が無くしたものなんて全然大したもんじゃないって。」

「もういっぺん言ってみろや! ワレほんまに殺すぞ・・・」

「何べんでも言ってやるわ! お前が無くしたものなんて大したもんじゃない!
 大体初めからやればいいだけのことやろ。」

「まじで殺す!」

「上等やわ!」


























あん時本当にマジで取っ組み合いにケンカをした。
本当に憎々しかった。
あの時だけだけど、本当に『死んじまえ』とも思った。
それだけお前に言われたことは自分自身の世界がひっくり返るぐらい
ショックだった。

「あれから、3日は聞かなかったよな。
 その後はなんとなくまたヨリを戻しちまったんだけど。」









でもお前の言っていたことは今ならわかる。
うまくは言えないけど、それでもわかると言える。




ゼロからやり直す強さ。
そんな強さをお前は教えてくれた。

無くしたものなんか大したものじゃあないと言える強さ。
ただの強がりかもしれないけど、それでも前に踏み出そうと思える。


それに無くしたものは確かに戻らないかもしれないけど無くすだけの
価値はあるんだと思う。



・・・あいつがそこまで考えて言ってたとはとても思えないけどな。















傍目から見ればあいつは顔も人並みだし、ましてやあけすけで自分に嘘をつけない
ので、そんなに大した人間には見えないかもしれない。




でも身近で付き合っていけばいかに魅力的かわかる。


美辞麗句な強さだけじゃなくて汚い部分、卑怯な部分。
そんな欠点を抱えて生きてるところがまた魅力に拍車をかけてる。
























誰よりも不器用だった。

誰よりも情けなかった。

誰よりも腹が立った。







でも・・・








誰よりもカッコ良かった。

誰よりも信頼できた。

誰よりも羨ましかった。




そんなお前を俺は絶対に忘れない。
そしてまた会おうと一方的に約束した。




本当に勝手な思いだけど・・・










「思えばお前だけが俺の中の「役者」っていう夢を完全に忘れさせてたよ。」




それだけお前は眩しかった。
転校した学校でもお前みたいな変わり者は1人もいなかった。


寂しいなんて意地でも言わなかったが、
本音はずっと俺の隣にいて相棒をやって欲しかった。













「はは、お前のこと思い出すとやっぱり溢れそうになるよ。」
涙を出す気は全くないけど。


「本当は俺と一緒に俳優を目指さないか? 今からでも遅くない。」
とあの時死ぬほど言いたかった。
ただそれだけは死んでも言ってはいけないことだとわかってる。



既にお前の居場所はもうあるんだよな。
今更過去の人間がどうこうするもんでもない。
















「お前が教えてくれた、優しさも情けなさも強さも汚さも全部
 俺の大事な宝物だ。」

「お互い道は違うけどがんばって生きていこうな。」

「また会いに行くで! 横っち!」











俺はお前を絶対に忘れない。
何があろうと。







END


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