ザ・グレート・展開予測ショー

おキヌが奏でるラブソング その2 前半


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 3/ 2)



幸せな時間と言うのは、いつでもあっという間に終わってしまう。
もう次の角を曲がれば、事務所が見え始める頃である、おキヌはちょっとだけ残念に思うが、
こればかりはどうにも出来ないのであきらめる。
ふと時間が気になったので腕時計で時間を確認すると、9時ちょっと前を差している。
美神は仕事の相手が9時過ぎに来ると言っていたので、何の問題も無いはずだ。


「ちわ〜」

「ただいま帰りました」

「先生〜〜 」

二人が事務所に入ると、とたんにシロが横島に抱きついて顔を舐め始める。
おキヌとしてはちょっとくっつき過ぎと思うのだが、シロの気持ちも分かるので、
何も言うことは出来ない。
まあ横島が相手していないって言うのも、平気でいられる理由の一つとしては大きかった。

「今日は先生と散歩にいけなくて寂しかったでござるよぉ〜」

「こ、こら。シロ落ち着けって」

横島は抱きついてきたシロを振りほどこうともがくが、本気でしがみつかれているので放せないでいた。
シロが飛び出してきたドアから、タマモが顔だけを出してくる。

「横島、いま事務所に近寄らないほうがいいわよ。」

「なんでだ?」

シロを引き剥がすのをあきらめた横島が、タマモの発言を不思議に思い聞き返す。

「9時過ぎに来るって話だったお客さんが来たんだけど、どうも話と違う人だったらしくて・・
荒れてるわ」

「へ?」

おキヌはタマモが言っている意味が分からなかったが、タマモが無言で事務所の部屋を指を差すと
みんなが顔を向ける。

「いや〜〜〜〜〜ぜっったいにいやよ」

「そんな〜令子ちゃん、お友達でしょ〜 一人だと自信が無いのよ。」

美神の絶叫と共に、間の抜けたのんびり声が事務所の中から流れてくる。
美神の天敵にして友達(???)六道冥子の声だった。

「仕事とかならともかく、そんなの自分のやらないと意味ないでしょ。自分の事は自分でしなさい。」

「ひど〜い、私今回が初めてだから自信が無くて、だから慣れている令子ちゃんに一緒に来てほしいの。」

聞こえてくる会話の内容だけでは、何の話をしているのかちっとも分からなかった。
どうも冥子が美神に何かを頼んでいるようだが、美神は必死に嫌がっている。
もっと近寄って詳しく聞きたい気もするが、さすがに行儀が悪い気がするのでおキヌは迷ってしまう。
まあここで立ち聞きしている時点で、すでに行儀は悪いのだが、
これ以上どうするか決められないで居ると、横でシロに抱きつかれていた横島が、
いつの間にか事務所のドアの前にいる。
しかもドアに隙間を空けて覗き込みながら、おキヌに向かって手招きをしてくるのだ、
おキヌは一瞬だけ迷うが興味心には勝てず、横島の誘いを受けることにした。

ドアの下から、タマモ、シロ、おキヌ、横島と並んで覗き込む。
横島は気がついていないようだが、おキヌは横島に覆い被さられる形になるので、どきどきが止まらない。

「大体、今日来るの冥子のおばさまのはずだったのに、なんで冥子が来るのよ。」

「あ〜れ〜 私お母さまに自信が無いって相談したら〜、令子ちゃんに話してみなさいって言われたわよ〜
今日行けば大丈夫だからって言うからここに着たんだけど、聞いてなかったの〜?」

その話を聞いた美神は、机に手を置きながら絶望的な顔をする。

「やられた、おばさま最初からこうなるの予想してたわね。臨海学校の時に料金多めに奪ったからって、
お返しに私をただで実技指導に来させようだなんてせこいわよ。私、敵のボス倒したじゃない。」

「令子ちゃ〜ん、私インストラクターはした事有るけど実技指導なんて初めてなの、おねがい手伝って〜
手伝ってくれないと〜、わ、わた・・私泣いちゃう・・かも」

すでに涙声になっている冥子が、式神を出しながら美神に詰め寄る。
あれって世間一般では脅迫と呼ぶような気がするが、近寄るとこっちまで危ない。
美神さんには悪いが助けにいけませんと心で思うおキヌであった。

「分かった、手伝う、手伝うからやめて〜 そのソファー70万もするのよ〜」

放っておけば冥子の式神が暴れ出すのは確実だった、さすがに人口幽霊1号の結界によって
建物自体は大丈夫だろうが、家具までは守ってくれない。
ちょっと前に事務所の模様替えをしたばかりの美神としては、壊されたらたまったものではない。

「ありがとう〜、令子ちゃん。やっぱり持つべきものは友達よね〜」

「冥子・・・好きで友達なんてしてないのよ・・・」

美神は頭に手を置いて首をふりふりとして嘆く、しかしもう逃げられないのが分かったのか
自分の椅子に座ると、ドアの隙間から覗いていたおキヌたちのほうを向く。

「みんな、そこに居るのは分かってるわよ、いい加減出てらっしゃい。」

気づかれた事に一瞬どきっとしてしまった。
どうしようかおキヌは思わず迷っていると、いち早く横島がドアを開けて中に入ってしまう。

「冥子ちゃ〜ん、安心して俺がついてますよ〜」

横島は入ると同時に、冥子に向かって飛ぶ。
冥子はそれに気がつくと、横島のほうへ顔だけを向けてのんびりと注意を投げかける。

「あ、横島クン〜・・・」

この時点で冥子の前には、バサラが現れ横島を片足だけ残して飲み込んでしまった。

「・・・あぶないわよ〜〜〜〜」

横島はしばらくぴくぴくしていたが、少し立つとなんの反応もしなくなった。

・・・・・・・・・・・・・・・

なにが起こったのか誰も自体を把握できない一瞬の間があたりを覆いつくすが、はっと我に返ったおキヌが
すぐに反応をする。

「わ〜横島さん」

おキヌは横島の片足にすがり付いて引っ張るが、おキヌの力程度では引っ張り出すことが出来ない。
おろおろしているとシロが近寄ってくる。

「先生、しっかりするでござる。」

シロがおキヌの手伝いをしてくれたので、なんとか横島を引きずり出すことに成功した。
とくに外傷などは無く、ただ単に気絶しているようだ。

「横島君のことなんてほって置いていいわよ。それより冥子もう一回ちゃんと説明して。」

美神は助かった横島を一瞥した後、そのまま何事も無かったかのように話を進める。
冥子にしても、横島のことを心配していないのか、それともこのぐらいじゃ死なないと思っているのか、
顔色一つ変えない。

「えっとね〜、私が六道女学院で明後日実技指導を頼まれちゃったの〜 私なんでか今まで実技指導だけには
呼ばれたこと無かったんだけど、お母さまがそれじゃ〜だめでしょって言われてね〜
でも〜私実技指導なんて初めてでしょ〜 自信が無いってお母さまに言ったらね、 
令子ちゃんに相談して見なさいって言われたの〜」

明後日と言えば1学年合同の実技講習が行われる予定の日だ、もうじき対抗試合が行われる事もあって、
鬼道先生がプロのGSを呼んで講義してもらうって言っていたが、まさか冥子だとは思わなかった。

「冥子、そういえばおばさまは、横島にも用事があるって言ってたけど話聞いてる?」

「あ〜、私の実技指導がある日に〜、一緒に文殊の授業もしたいらしくて、
横島さん連れて来なさいってお母さまが言ってたわよ〜 それの事じゃないかしら〜」

それを聞いた美神はちょっとだけ顔をしかめる。

「ちょっとちょっと、うちの従業員勝手に使わないでよね。冥子の手伝いは私がやるけど、横島君に関しては
ちゃんと請求するわよ。」

「それは大丈夫だ思うわ〜、お母さま来てくれたらお給料は出すって言ってたもの〜」

美神は少しでも回収できる事が分かったためか、それに満足すると待ち合わせの時間などについて冥子と
打ち合わせを始めた。

おキヌは、いまだ気絶している横島に膝枕をしながら、明後日の実技講習の事を考える。
美神さんが来てくれる事はとってもうれしい、きっとなんだかんだ言いながらシロちゃんやタマモちゃんも
一緒について来るだろう。
なにより横島さんが来てくれるのだ、でも正直不安もあった、横島さんが他の生徒に手を出さないかとか、
横島さんが他の生徒にちょっかい掛けられないかとか、
確かに悩みは多かったけど、学校に居る時にも事務所の仲間達と一緒にどたばたする光景を想像すると、
おキヌはちょっとだけ明後日が楽しみになった。

まあ、とりあえず今は明後日のことは置いておいて、誰かが気がつくまで、
横島に膝枕をして独り占めしていようと思うおキヌであった。





「氷室さん、ねえ氷室さん。」

実技講習のために体操服に着替えていると、後ろから弓が声を掛けてきた。

「はい、弓さんなんですか?」

返事をして振り返ると、すでに着替えが終わっている弓が、教室に入ってくるなりおキヌに
向かって凄い勢いで歩いてくる。弓の後ろには同じ1年B組の代表である魔理も一緒に居るようだった。
弓はだいぶ興奮しているようで、おキヌにくっ付かんばかりに寄ってきた。

「おね〜さまが今日の講師だって本当ですの?」

「え、え、おね〜さま?」

いきなりおねーさまと言われても、おキヌは一瞬誰のことだか分からなかった。

「あ、あ〜美神さんの事ですね。ええ、今日は知り合いの手伝いで講師として来てますよ。」

「ま〜お姉さま直々に教えていただくなんて、なんて幸せなのかしら。」

弓は完全に夢見る少女の目になっている、魔理にしても憧れの美神令子に教えてもらえる事に、
弓ほどではないにしても喜んでいる。

「すごいな、世界一流のGSに講義してもらえるなんて滅多に無いもんな。」

弓や魔理のほかにも、クラス中が興奮しているのが分かる。きっとうちのクラスだけでは無く1年全体が、
同じような雰囲気に包まれているのだろう。
こう言う時、美神さんはやっぱり凄い人なんだとおキヌは実感する。

「あ、後シロちゃんやタマモちゃんも来てるんですよ。」

「あの、臨海学校の時に来ていた二人だっけ?」

シロとタマモは除霊が終わった後に二人に紹介した。
元々二人は、六道女学院の生徒が到着するまでの足止めとして活躍した事もあり、実際に戦っている所は
生徒達には見られていない。

だから魔理は、おキヌのように居候している事実以外のことは知らなかったりする。
シロは尻尾のせいでばれているが、タマモが妖怪だと言うことはまだ知らない。

「ええ、学校に来るのって始めてみたいで二人して喜んでましたよ。」

「おぉい、そろそろ時間だぞ、実習場に集合しろ」

おキヌたちが話していると、見回りに来た先生が移動するように注意してくる。
その声にクラスのみんなはあわてて外に出て行く、さすがに遅刻ではみっともないからだろう。

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