ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと姉妹と約束と 第5話 後編』 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 3/ 2)


〜another appendix.3 『紅い少女』〜


美神除霊事務所から歩いて道ぞいに進むこと15分。
そこには小高い丘に囲まれた緑地公園がある。
都心にしては珍しいほど澄んだ空気と、青々とした木々。

普段、接することが少ないせいか、横島はその景色を妙に気に入っていた。

「・・っ・・よっし!もうちょい・・頼むから大人しくしてろよ〜」

・・・だからだろうか?
今朝、スズノのために食材の買出しを頼まれたときも・・自然とこの場所へと足が向いてしまい・・
                       
「・・うお・・落ち・・あ・・でもいけるか?・・よっ!・・そりゃ!」

で、結果がこの状況。
公園内で最大規模を誇る大木と、その枝に登って降りられなくなってしまった小さな子ネコ。

まるで、テレビの中でしかお目にかからないような救出劇を、自分一人で演じる羽目になる。

太さの均一がとれない枝に、なんとか腕を絡ませて・・ようやく子ネコに手が届くところまでたどり着き・・

・・・。

「・・よ〜っし!!つかまえたぞ!!・・ったくな〜にやってんだよ、お前は。
 お前みたいなチビが落ちたらただじゃすまないんだぞ?」

猫の頬をうりうりとつつく横島に・・誰か教えてあげてほしい・・。

・・・手が・・枝から離れていると・・・

「・・は?あれ?なんだ、オレっていつの間にか空を・・・って・・ちょ・・ちょっと待て・・!
 この高さから落ちたら、マジでシャレにならな・・・ってイャアアアアアア!!!!」


・・・落下した。それはもう気持ちいいぐらいに勢いよく。
とっさに、子猫を腹でかばい、自分はしたたかに背中を打ちつけて・・・

それでもしっかり生きているのは、彼が日ごろから理不尽な打撃を受けている賜物(?)だろう。

「痛っ〜・・・大丈夫かよ・・チビネコ〜〜・・」

猫の無事を確認しようと横島が立ち上がり・・いや、立ち上がろうとして・・

「・・・はぅ!!!!」

・・背景が一瞬、稲妻に変わる。

腰に走る・・・・鈍・・のような、激・・のような、ともかくそんな感じの強烈な痛み。
・・これは・・まさか世に言う・・・


「――・・・あの、ひょっとして・・ギックリ腰・・ですか?」  

不意に・・かなり不様なかっこうで横たわる横島へと、歌うような声がかけられる。
きれいで・・透明な声の響き・・。
どうでもいいが、こういう可憐な声の主に「ギックリ腰」なんて単語を語らせたことに、妙な罪悪感を感じたりして・・

「あ・・うう、すんません。とりあえず、手を貸してくれたりすると・・とてつもなくありがたいんですが・・」

全く身動きがとれない・・そんな情けない体勢で・・横島は悲しくうめいたのだった。

―――・・・。

「・・ふふっ。そう・・その子を助けようとしてケガを・・」

どこか凛とした様子の少女が、横島の顔と、無傷のネコを見比べて・・そしてクスクスと笑い出す。

驚くほど紅く・・かといって染めたようには少しも見えない、つややかな長髪。
白というよりは純白と言ったほうがしっくりくるような肌と・・黒い優しげな瞳。

・・・もう美人としか表現しようのない、そんな少女に横島は息を飲んで・・

(うあ・・すげぇ・・。オレもきれいな神様とか魔族ならかなり知ってるつもりだったけど・・何者だよこの人・・)

はっきり言って、美人指数が常軌を逸しているのだ。

世の中って広いなぁ〜・・などと、のん気なことを考えていた横島は・・しかし、そこであることに気づく。

「?あ・・その制服って・・うちの高校の・・・」

どう考えても、それは毎日見慣れた服装。
校章の色から察するに3年生・・・自分より1つ上の学年だろうか?


「・・はい。3−6の神薙 美冬です。よろしくお願いしますね?『横島くん』」


言って・・彼女はふわりと笑みを浮かべて・・
それに横島は欲情・・、もとい見とれかけていたのだが・・

「・・・ん?なんでオレの名前を・・」
ワンテンポどころか、ツーテンポほど遅れたタイミングでなんとか疑問を口にする。

「ふふっ。それは横島くんが人気者だからですよ。3学年の女子にもあなたを狙っている人はたくさんいるんですから。」

微笑みを崩さない神薙に、横島は思いっきり首をかしげて・・

(・・狙う・・?オレってそんなに3年の女子に恨み買ってんのか?・・まぁ身に覚えがありすぎるけど)

『狙う』を『ヒットする』こと勘違いしてたりして・・・
鈍感もここまでくると犯罪である。


「でも・・神薙先輩?今日って日曜っすよね・・。なんで制服・・」

「・・茶道部の部活なんです。もう学祭も近いですし・・っと・・そろそろいい頃ですね。失礼します。」

世間話もそこそこに、神薙は横島の腰へと手をのばして・・・・

「・・・!?はいぃ!?な・・先輩・・・何をやって・・」

「?ああ、大丈夫ですよ?別になにも痛いことをするわけではありませんから・・。」

・・・・・。
・・・・・・・。

・・・これは・・・ゴーサインってことなのか?

(お・・・落ち着け・・!!落ち着けオレ!!
 まさかこんなところで、こんな綺麗なねぇちゃんとピ――――(放送禁止用語)なことやピ―――――(放送禁止用語)なことを・・
 いや、待て!!オレにはルシオラが・・ってか腰が腰・・・腰・・?)

・・・・?

・・・そこで気づく。腰の痛みが和らいでいる。

「・・え?・・あ・・あれ?」
「・・もう少し待ってくださいね?今、あなたの霊波のピークに合わせて、ヒーリングを行っていますから。」

・・見れば、神薙の手を中心として、相当な出力の霊気が放出されていて・・
みるみるうちに・・(といってもギックリ腰なので経過は見れないが・・)ケガが治癒されていく。

それからすぐ・・ものの数秒で、すべての傷が完治してしまい・・

「・・すげぇ・・なんともない・・。」

「除霊委員の活躍は耳にしていますけど・・実は私にも・・少々こういった心得があるんです。」

流れる風に髪をおさえながら・・つぶやく少女の顔はやはり微笑んだまま・・・

足元では、子ネコが退屈そうにのどを鳴らしていた。


―――・・。

「それじゃあ・・どうもありがとうございました〜!」

「・・はい。気をつけて帰ってくださいね。」

遠くに見える横島へと手を振りながら、神薙は晴れやかな声でそう言った。
駆け出しながら去っていく青年・・・。

・・やがて、それが見えなくなると、少女は不意に表情を消す。

「・・・・あれが・・おそらくは人界最強のゴーストスイーパー・・横島忠夫。」

歌うような声は相変わらず・・声音にはどこか楽しげな色が含まれている。

「・・アシュタロスが出し抜かれるのも無理はありませんね・・。人間に対する評価を改めなければ・・」

ネコを助ける時、あの青年は能力を使おうとはしなかった。
・・・というより『使うことを思いつかなかった』

文殊を使えば、無傷で全てがすんだのだろうが・・彼は力のことを失念していて・・
・・にもかかわらず、一人で救出を買って出た。

力などなくとも誰かを救おうとする人物。・・そして実際に救ってしまう人物・・。
そんな存在が実は、力を持っているとしたら・・・・これほど厄介な敵、そうはいない。



「・・・・ドゥルジ様・・・。」



背後からかけられる声。

「お役目ご苦労さまです・・。それと、この姿のときは『神薙』と呼んでくださると助かります・・。」

『神薙 美冬』はパンパンと制服のほこりを払うと、すぐにたおやかに振り返り・・

「・・・ハッ。神薙さま・・例の妖狐の所在・・つかめましたが、いかがいたしましょう?」

「・・・スズノ・・ですね?なるべく恐い思いをさせないよう、捕獲をお願いします。」

言って、ドゥルジは下唇をかむ。

ようやく、再会できた姉妹の間を引き裂くこと。それがスズノやタマモにとって何を意味するか・・・

(・・私は・・・どれほど罪を重ねねばならないのでしょうね・・)

・・じょじょに下へと向かう気持ちに言い聞かせるように、彼女はかぶりを振る。

・・・今は、考えるな・・自分は決めたはずだ。もう思いとどまらないと・・。

・・・。

「奇襲のような真似はいたしません。先日、我が部下が暴発し、彼女の姉を傷つけたばかり・・
 それがし、これより菓子折りを持ち、事務所へ謝罪に参じたいと思っておりました。」

・・・・。

・・・・・・・。

「・・菓子折り・・・ですか?」

そんな言葉に、ドゥルジは一瞬、目を丸くして・・

「・・なるほど。そういえばあなたはそういう方でしたね。」
先ほど、横島にそうしたように・・こらえきれず、クスクスと笑い出す。

「・・ドゥル・・神薙さまはこれからどちらに・・・?」

「・・向かうべき場所と、会うべき方がいます。場合によってはあなたの嫌う『奇襲』を行うことも・・」

いつの間にか、制服は黒いローブへと変わっていた。
喪服とも・・・ドレスともつかない・・美しい衣。

「向かうべき場所・・・とは?」

いぶかしむ声へと・・・紅い少女は薄く・・口を開く。

シトシトと・・雨が降り始めていた。




「・・妙神山・・人間たちがそう呼んでいる場所です。」



『あとがき』

すごく驚いたんですが横島くんは初期設定だと2年生みたいです。(4巻参照)皆さん知ってました?(笑

というわけで、ドゥルジさま出現!!しかも女子高生(爆)
これを見せたところ、先輩好きのオレの友人は「うわあ!!!ドゥルジめちゃ好み〜!!」

・・・と言っておりました(笑

しかし・・ドゥルジさまが高校の先輩とは・・作者もびっくりです・・(爆

ドゥルジさま V.S 小竜姫さま&パピリオ はこのシリーズのエピローグで描かれたりするのですが・・

まあ、相手が魔神なんで、小竜姫さまたちが偉い目に合わされるの・・ごふっごふっ。

あ・・あと学園祭っていうのは次シリーズの伏線です。
ここから、物語はどんどんシリアスに・・・それではまた次回お会いしましょう〜

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