ザ・グレート・展開予測ショー

〜お遊び企画・第二段!さあ、あなたはどっち?(笑)〜 『小春日和』


投稿者名:ヨコシマン
投稿日時:(04/ 3/ 2)

 十二月にしては暖かい、とある日の事。
 世間一般ではこういう日の事を『小春日和』と呼ぶようで、その日はその名の通り春の様にぽかぽかと暖かかった。

 時計は正午を三十分ほど過ぎた辺りをさし、楽しい昼食を終えた者達も思い思いにくつろいでいた。
 横島は一人がけのソファーに体を預け、まどろみの中でコクリコクリと頭を揺らしている。
 おキヌとシロは、横島を起こさぬように小さな声でなにやら楽しそうにおしゃべりを楽しんでいるようだ。
 タマモは何か用事でも有るのだろうか、自分の部屋に戻ったきり帰ってこない。
 まあ、いつもの事なので別段誰も心配はしていないのだが。
 肝心の美人所長はと言えば、前日の雨の中での除霊が祟ったのか、熱を出して自宅で療養中である。




「さてと、ちょっとシロでもからかってこようかな。」

 一人でいる事にも飽きたのか、タマモが呟きながら屋根裏部屋のドアを開け、軽い足取りで階段を下りる。
 事務所の扉を少し開けて中を見回すと、どうしたことかシロの姿が見当たらない。

(・・・シロが横島を置いて出かける、なんて事があるのかしら?)

 もう一度見回してみる。
 横島はソファーに腰掛けてうたた寝。あ・・・ヨダレ・・・。
 おキヌちゃんはロングソファーの端に座ってなにやらうつむいて何かしてる。・・・あ、尻尾。
 ソファーの背もたれから一瞬ピョコッとシロの尻尾が見えた。やっぱり居た。
 よく考えたら、匂いや気配でいる事ぐらい分かるのに・・・。気が緩んでるのかな?アタシ。
 でも・・・、ソファーで何やってるんだろう?

 タマモはそっとドアを開け、静かに二人に近づいた。別に忍び込む必要は無いのだが、その場の雰囲気がそうさせた。
 いきなり近づいて驚かせるのも何なので、ドアの閉まる音を静かに鳴らし、自分が部屋に入った事を暗に二人に知らせる。
 横島を起こさぬようそっと正面に回ると、そこにはおキヌの膝に頭を乗せ気持ちよさそうに目を閉じ尻尾を振ってるシロの姿。
 そして自分の膝にシロの頭を乗せて、何か棒のような物をシロの耳の中に入れているおキヌ。

「・・・何やってるの?」

 タマモはその雰囲気を壊さぬように囁く。

「シロちゃんのお耳を掃除しているのよ。」
「御主・・・耳掃除を知らんでござるか?」

 二人はやはり小声でタマモに答える。

「・・・した事ないし。」

 タマモはやや憮然とした表情でシロに返事を返した。
 無理も無い事ではある。タマモが今の姿に生まれ変わり、人間と暮らし始めてまだ数ヶ月。
 むしろ知ってる方がおかしいというものだろう。

「タマモちゃんもシロちゃんの後でしてあげるね。」

 おキヌは、シロの耳を優しく撫でながらタマモに向かって微笑んだ。

 タマモの答えは? 「YES!」→サイドA「タマモ編」 「NO!」→サイドB「シロ編」





 サイドA「タマモ編」

「・・・うん。」

 タマモは少し照れくさそうに、ちょっと甘えた声でおキヌに返事を返す。
 少しシロの事を羨ましく思っていたのをおキヌに見透かされたようで、何ともこそばゆい気持ちになったのだ。


 カッチ、コッチ、カッチ、コッチ。
 玄関にある大時計の音がかすかに聞こえてくるのを、タマモは二人を眺めながら何も考えずに聞いていた。


 時が、静かに流れてゆく。


 ふと見ると、シロはすでにすうすうと気持ちよさげに寝息を立てていた。

「さ、次はタマモちゃんの番ね。シロちゃんを起こしちゃうと可哀想だから、お部屋に行きましょうか。
 ・・・あ、その前にちょっと待っててね。」

 そう言うと、おキヌはシロを起こさぬように気をつけながら立ち上がり、部屋を出て行った。

 数分もしないうちに戻ってきたおキヌの手には二枚の毛布。それを横島とシロにふわりと掛けると、満足そうに頷いた。

「じゃあ、行きましょう。」





 タマモはおキヌの部屋に入ると、その空気を軽く吸い込んだ。何ともいえない、いい香り。
 人工的に作られた香水みたいな『やな匂い』じゃなく、なんと言えばよいのか、安心できる匂い。
 思わずベッドにうつぶせに倒れこんで、今度は強く吸い込んでみる。
 やっぱり『いい匂い』がする。何でだろう?

「フフフ、もう気が済んだ?じゃあコッチに頭乗せてね。」

 おキヌは優しく微笑むと、自分の膝を指し示す。

「・・・う、うん。」

 まただ。またしても、なんだか分からないけど、なんとなくこそばゆい。
 タマモの心の中で何かが跳ねるように心臓が高鳴る。


 恐る恐る、タマモはおキヌの膝枕に頭を乗せた。ふわりと『いい匂い』がタマモの鼻をくすぐる。
 おキヌの膝枕は柔らかく、それだけで良く眠れそうな気がする。

「さて、始めるね。」

 おキヌの宣言と同時に、タマモの耳の中にゆっくりと竹製の耳掻きが入ってきた。
 その冷ややかな感触と、耳の中に異物が入り込む違和感に思わず体を硬くしたタマモであったが、暫くするとその表情も体もゆったりとリラックスしていた。
 おキヌの操る耳掻きはとても繊細で、心地よく耳の内壁を掻き出してゆく。

 カリカリ・・・コリコリ・・・

 カサカサ・・・ペリッ・・・

「だいぶ溜まっているみたい・・・。今度から、言ってくれたら私がしてあげるから・・・遠慮しちゃだめよ。」

 おキヌの囁くような、包み込むような心地よい言葉を聞きながら、タマモは夢うつつで返事を返す。

「う・・・ん・・・」

 遠ざかる意識の中で、ふと思い出した。





 ――― そっか・・・、シロが言ってた『お母さん』って・・・こんな『匂い』なのかな・・・ ―――





 ぽかぽかと日差しが暖かい小春日和のある日。
 緩やかにまどろむ夢の中で、おキヌの暖かい手がそっと髪を撫でたような・・・そんな気がした。


 サイドA「タマモ編」  Fin.







 サイドB「シロ編」

「・・・せっかくだけど、今日は・・・やめとく。行きたい所あるから。」

 あんまり興味がなさそうにタマモは答えた。

「そう・・・。気が向いたら言ってね。いつでもしてあげるから。」

 おキヌは少し残念そうにしながら、シロの耳掃除を再開した。
 タマモはそんなおキヌを見て、少しばつが悪そうにしながら部屋を出て行ってしまった。
 膝枕をされた状態のシロにはおキヌの顔は見えなかったが、その雰囲気を察したようだ。

「放って置けばいーんでござるよ!アイツは。所詮、団体行動の出来ない狐でござる。」

 タマモの事をくさす事で、シロなりにおキヌに気を遣っているのだろう。
 大体アイツは自分勝手で・・・、などと誰に言うでもなく独り言を続けていた。

「それよりも、後で拙者にも耳掃除の仕方を教えて欲しいでござるよ。おキヌ殿。」

 ひとしきりタマモの悪口を言った後、気持ちよさそうに目を閉じながらシロが言う。
 おキヌは片側の耳に耳垢が見えなくなった事を確認すると、シロの頭を軽く撫でて、反対を向いて、とシロに促した。
 シロは言われた通りに反対を向き、おキヌはその耳の中を覗き込むと、再び耳掃除を再開する。
 慎重に耳垢を取り出しながら、おキヌは先ほどのシロのお願いの返答をした。

「コッチの耳が終わったら教えてあげるから、ちょっと待っててね。」

 おキヌの優しく囁く声が耳をくすぐる。
 その言葉を聞いているのか、いないのか、シロの心はふわふわと夢の世界を旅していた。

 小春日和にふさわしいぽかぽかとした日の光が差し込み、部屋の中をほんのりと暖める。
 おキヌに身も心も預けて、シロは時間を忘れた。

「はい、お終い。」

 おキヌの指がシロの銀髪を優しく撫でると、忘我の境地にいたシロの精神が緩やかに現実へと引き戻される。
 膝枕に頭を乗せたまま、シロは大きく伸びをして満面の笑みを浮かべた。

「おキヌ殿!それでは耳掃除のやり方を教えて下され!」

 フフフ、はいはい・・・、おキヌは母親が小さい子供をあやすように微笑むと、掃除の仕方や注意する事を丁寧に教え始めた。




「じゃあ、私、お夕飯のお買い物に行って来るから、お留守番お願いね。」
「任せてくだされ!」

 満面の笑みでシロが答える。
 おキヌを玄関まで見送ると、シロはそわそわと落ち着かない様子で周りを確認し、屋根裏部屋に戻っていった。

――数分後――

「センセー、長いソファーが空いたでござるよー。こっちの方が良く眠れるでござる。」

 シロは半分眠っている横島にそっと話しかけ、その手を引いて誘導する。
 寝ぼけまなこで、シロのなすがままにロングソファーに移動する横島。
 もしもこの時、横島の意識が鮮明であったなら、いつもと違うシロの姿に気が付いていただろう。
 だが、強烈な眠気に襲われていた彼には周りを観察する余裕など無かったようだ。
 横島はロングソファーに横たわると、ものの数秒ですうすうと寝息を立て始める。
 ここの美人所長同様、彼もまた昨日の雨の中での除霊により疲労困憊していたのだ。

「えへへ・・・。」

 そんな横島の寝顔を眺めながら、シロは嬉しそうに尻尾を振った。
 
 いつもと違うシロの姿。そう、現在シロは先程とは全く違う服装をしていた。
 上半身はベージュ色のオフタートルセーター。袖は七分袖になっていて全体的に優しい女性の印象を受ける。
 下半身はダークブラウンのコーデュロイスカート。ヒモを脇で結ぶラップタイプ。
 流れる銀の髪が、やや地味な印象の服に彩りを加えている。

 何も知らない者が見れば、とてもおしとやかな女の子、といった感じだろうか。

(どうでござる?拙者だってこうすれば、おキヌ殿みたいな優しい女の子に見えるでござろう?)

 シロは眠っている横島の前で、音を立てないようにクルリと一回転して見せた。

 おキヌを見送った後、屋根裏部屋に戻ったのはどうやらこの服に着替える為だったようである。
 この服は以前にシロがおキヌに頼み込んで譲ってもらった『お下がり』のようで、全体的におキヌらしく派手さを抑えた感じである。

 シロは着替えて何をしようとしているのだろうか。その疑問はすぐに解ける事となる。
 暫くの間、眠り続ける横島を眺めていたシロであったが、突然辺りを警戒するように室内を見回し始めた。
 部屋に誰もいない事を確認すると、やや緊張の面持ちでそっと横島の頭を持ち上げ、そのソファーと頭の隙間に自らの足を滑り込ませてソファーに座る。
 世間一般で言う所の「膝枕」と言うヤツである。そしてシロの右手には白い梵天の付いた耳掻き。

 どうやらシロはおキヌに耳掃除をしてもらっている間、『女の子らしい格好をしている自分が横島の耳掃除をしている姿』をイメージしていたようだ。
 普段、武士だの剣士だのと言っているシロとて女である。ひょっとしたら、いや、ひょっとしなくてもおキヌのような女の子らしさに憧れていたのかもしれない。
 普段なら恐らく、横島は耳掃除などさせてはくれないだろう。だが今はぐっすりと眠っている。
 千載一遇とはまさにこの事。今こそ決行の時である。

(拙者の耳掃除で先生をメロメロにするでござるよ。覚悟してくだされ、先生♪)

 もっとも、眠っている人間に耳掃除をして、その相手をメロメロにする効果が有るかどうか疑わしい所では有るが・・・。






<トクン>

 早速始めようと、横島の耳たぶにそっと触れた時、シロの心臓が一回鳴った。

(はれ?・・・何だろう?)

 気のせいかな?と、耳掻きを持ち直し、男の耳に掛かる髪の毛を軽く避けた。
 指先にサラリと髪の感触が走る。

<トクン、トクン>

(・・・?まただ。)

 今度は二回。全く原因不明の現象だ。が、悪い気はしない。むしろ心地よい気がする。
 なんとなく確かめてみたい衝動に駆られて、シロは手にしていた耳掻きをテーブルに置いた。
 恐る恐る、穏やかな寝息を立てる横島の頬を、そっと指先で触れてみた。

<ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ>

(あ・・・、なんなの?コレ?)

 今度ははっきりと分かる程に、シロの心臓が早鐘のように心音を打ち鳴らす。
 信じられない事に、シロは横島の顔から目が離せなくなっていた。
 顔が燃え出すかと思うほどに熱い。その火照りがシロの思考回路を濁らせていく。

<ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ>

(息が・・・苦しい・・・。先生っ・・・!)

 何も考えられなくなって、シロは無意識に心の中で横島に助けを求めていた。
 目の前には、心地よさそうに眠る愛しき男。
 吸い寄せられるようにシロは体を屈め、自らの顔を男の頬に近づけた。

 ほんの少し、軽く触れるように・・・頬にキス。

<バクン、バクン、バクン、バクン>

(・・・。もう・・・だめかも・・・。)

 さっきまでの心音で限界ではなかったのか。更なるビートがシロの中で暴れまくる。
 いつも彼の顔を舐めている筈なのに、今までこんな気持ちを味わった事は無かった。
 苦しい、とても、それなのに自分の体は、膝の上で眠る男を手放そうとはしなかった。
 どうしたら良いのか、何も分からない。




 不意に男が軽く寝返りを打った。

<ドクンッ>

 心臓の鼓動がひときわ大きく高鳴る。
 目の前には柔らかそうな唇。
 シロの瞳はその一点を捕えて離さない。
 全くの無意識の中、シロは震える手で男の髪を優しく撫でた。

 ゆっくりと、恐ろしい程緩やかに顔を近づける。シロの目はうっすらと涙が滲んでいた。

「怒ったり・・・しないで・・・くだされ・・・。先・・・生。」

 掠れた様な小さな小さな声。何とも儚く震えて、今にも消えてしまうように。

 更に近づく唇。3センチ・・・2センチ・・・1センチ・・・

(先生・・・!)












「アンタ・・・何してんの?」

「ひゃあう!!・・・タ、タマモ?!」






 突然、思いもしなかった声。シロは思わず冷水を頭からかけられたかのような声を出した。






 顔を上げると、正面の一人用ソファーに座り、両膝に両肘を乗せて頬杖を付いているタマモの姿。

「い、いつ・・・から、そ、そこに・・・?」

 シロはまるで夕日のように顔を紅く染めながら、消え入るような声でタマモに訊ねた。

「えっと、アンタが横島のほっぺを突っついてる辺りから。それより、どしたの?その格好?」

 タマモの表情は、何やってたの?と言わんばかりに興味津々だ。

「あぅ・・・あぅ・・・あぅ・・・。」

 言葉にならない声を上げるシロの両眼にだんだんと溢れる涙の粒。
 その表情に、タマモは何事かと目を見開き、シロの次の言葉を待った。

「も・・・もはや・・・これまで。し・・・!」
「し・・・?」

 タマモが聞き返した瞬間、シロは叫びと同時に飛び掛った。

「死んでもらうでござるーーー!!!」

 シロは膝の上にいた横島を吹き飛ばし、タマモ目掛けて霊波刀を振り下ろす。
 間一髪、タマモはその一撃を飛びのいてかわした。振り向くと、さっきまで座っていたソファーが見るも無残に二等分されていた。

(ゲッ?!コイツ本気?!)

 タマモは咄嗟に転がって間合いを取ると、指先に狐火を燈して迎撃の態勢を取った。

「なんか良く分かんないけど、やるってんなら・・・相手になるわよ!」

 威勢のいい啖呵をきってシロを睨み返すと、シロは固まったまま動かなくなっていた。

「えーっと・・・、あの、・・・シロ?」







「うわあーーーーーーーーーーーーーん!!!タマモの・・・ぶわかぁ(馬鹿)ーーーーーーー!!!」

 大泣き。
 あまりの事に呆然と立ち尽くすタマモを置き去りにして、シロは部屋から出て行ってしまった。

「あっ!ちょ、ちょっと待ちなさいよ!シロ!」

 ようやく我に返ったタマモが追いかけようとしたその時、何かが足首を掴んだ。

「な、ナニが起こったんだ?!血が止まらんぞ!」

 見ると、膝枕の状態から吹き飛ばされ、テーブルの角に顔面を強かに打ちつけた横島。

「あ、アタシは何もしてない。あたしの所為じゃないわよ!」

 タマモはぶんぶんと首を振り、愛想笑いを浮かべながら弁解すると、そそくさとシロを追いかけて部屋を出て行ってしまった。

「おーい・・・。せめて医者呼んでくれ・・・。」

 遠ざかる意識の中で横島は精一杯の声を振り絞った。ここで死ぬかもしれん、と思いながら。






「あ、あのさー、シ、シロちゃん?言っとくけど、ホントにアタシは何も悪くないわよ?」

 小春日和の午後のひととき。屋根裏部屋で丸く膨らむ布団に向かって、タマモが愛想笑いを浮かべながら話しかける。

「・・・・・・・・。」

 返事は無い。普段なら『あっそ、好きにすれば。』と言い放って放って置くのだが、今回ばかりは流石のタマモも何か悪い事をしたと感じているのだろうか。
 愛想笑いを絶やすことなくタマモは続ける。

「何にも悪く無いけど・・・お肉食べる?」

 エ、エヘヘ。と何処から出したのかサーロインステーキを差し出して、反応を待つ。

「・・・いらん!」

 涙声。
 これは参った、というような表情で、タマモは更に譲歩の姿勢をとった。

「分かったわよ!アタシが悪かったです。だから機嫌直しなさいよ!何なの?いったい。」

 腰に手を当て、半ば呆れた表情で謝罪したタマモが、最後に一言追い討ちをかけた。

「・・・でもさ、アンタなんであんな格好してたの?」

「うっさい!ほっとけ!」



 シロにとって、初めての『恋愛』はかなり苦いものになったようである。


 サイドB「シロ編」  Fin.

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