ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(22)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(04/ 3/ 1)

『君ともう一度出会えたら』 −22−



 俺とルシオラが温室の建物に近づくと、パリンという音とともに壁のガラスが割れ、パピリオと眷族の蝶たちが飛び出してきた。

「ゲホッゲホッ! この煙は……」
「昼間のお返しよっ!」

 建物の中から、美神さんの声が聞こえてきた。
 前回と同じく、燻煙式除霊器(商品名:バルタン)が効果を上げているようだ。

「今だわ!」

 パピリオと眷族たちが温室の外に出たのを見計らって、ルシオラが温室の上空へと飛んでいった。

 カッ!

 ルシオラは上空に移動すると、全身から強い光を放ち始めた。
 パピリオの眷族の蝶たちがその光を浴びた途端、パピリオから離れてルシオラの周囲を旋回していく。

「ここまでね、パピリオ。おまえの眷族はもう動けないわ!
 昆虫は夜、月の光を基点に方向を定める。近くに強い光源があると、方向感覚を失うわ!」
「くっ……」
「おしおきよ、パピリオ!」

 ズドン!

 ルシオラが特大の霊波砲を放った。

「ひーっ!」

 パピリオがすんでのところで、攻撃をかわす。

「ル、ルシオラ! ちょっとやりすぎじゃないのか?」
「ヨコシマが助かったのは、あの子が手加減したからじゃないのよ!
 私は本気で怒っているんだから!」

 あーあ、前回と同じだ。本気でキレてるな。
 俺を心配してくれている証拠なんだけど……。やっぱり止めないとマズイよな。

「絶対、許せないんだから!」
「ルシオラちゃん、ちょっとタンマ!」

 ルシオラの右手に収束した霊気が、どんどん膨れ上がっていく。

「ストーップ! ここは俺に任せろ」

 俺はすんでのところで、ルシオラとパピリオの間に割って入った。

「ヨコシマ! でも……」
「いーっから! ルシオラは手を出すんじゃねえっ!」

 いったんルシオラを止めた俺は、パピリオと向き合った。
 だがパピリオは、今にも噛みつきそうな表情で俺の顔を見ている。

「かばってもらって、コロッと懐くとでも思ってるんでちゅか!
 ペットが調子に乗るんじゃないでちゅよ!」

 バキッ!

 とりあえず一発殴られておいた。まあこれは、予定どおりの行動である。

「やめなさいっ、パピリオ!」

 もう一発殴ろうとするパピリオを、ルシオラが背後から押さえた。
 さて、そろそろ美神さんが間に入って、パピリオを説得してくれるはずだが。

 ……
 ……
 ……

 あれ? 美神さんが来ないな。

「美神さん、黙って見てるんですか!」

 美神さんは、腕組みをしたまま突っ立っていた。
 おキヌちゃんが服を引っ張っているのに、ピクリとも動こうとしない。

「ルシオラちゃん、放すでちゅ!」

 俺は起き上がると、ルシオラの腕の中でもがいているパピリオと向かい合った。
 しかたない。ここは自分で説得するか。

「パピリオ。少しだけでいいんだ。俺の話を聞いてくれ」
「うるさいでちゅ!」
「逆天号にいたとき、ペットを何匹も飼っていただろう。
 あれは大きくなれない自分の代わりに、育って欲しいと願っていたんじゃないのか?」

 ルシオラの腕の中でもがいていたパピリオの動きが、ピタッと止まった。

「アシュタロスの鎖に囚われていたのは、ルシオラだけじゃない。
 パピリオもそうだったんだろう?
 俺はパピリオも、その鎖から自由になって欲しいんだ」

 パピリオがじっと俺を睨みつけている。

「まだ間に合う。俺たちの側にいれば、そのうち自由にもなれる。だからパピリオ……」
「そうやって口で丸め込んで、ルシオラちゃんをたぶらかしたんでちゅね!
 あの時、わたちやベスパちゃんが、どんな思いをしたか知らないくせに!」

 パピリオはルシオラの手を振り払うと、俺に向かって殴りかかってきた。

 バンッ!

 やばい。さすがにパピリオの全力を二発も食らうと、かなり体に負担がかかる。

「……逆天号で、コスチュームを作ってくれたよな。
 最初は少し恥ずかしかったけど、けっこう嬉しかったよ」
「黙るでちゅ!」

 ドンッ!

 今度は俺の腹に、頭から突っ込んできた。
 幾分、先ほどより力が弱くなっている。

「毎晩、風呂から上がったあと、ゲームステーションで遊んだよな。
 パピリオさえよければ、また続きをしてもいいんだ」
「うるさい、うるさい!」

 ドンドンと俺の胸を手で叩く。
 パピリオの声がしだいに涙声となり、胸を叩く力も弱くなっていった。

「寂しかったんだな、パピリオ……。大丈夫、これからは俺もルシオラも傍にいるから」

 頃合を見計らって、俺はパピリオをギュッと抱きしめた。

「ウッ……グスッ……、ウワーーーーン」

 パピリオは俺にしがみつくと、わんわんと泣き始めた。

「ごめんなさい、ポチ……いえヨコチマ」
「いいんだ、パピリオ。もういいんだ……」

 泣きじゃくるパピリオを抱きかかえていた俺のところに、ルシオラと美神さんとおキヌちゃんが駆け寄ってきた。

「横島クン、大丈夫?」
「大丈夫……と言いたいんですけど、パピリオの攻撃を何度も受け止めたんで、そろそろ限界かな……と」

 俺はパピリオから手を放すと、バタンと地面に倒れた。

「ちょっ!? ヨコシマ!」
「ヨコチマ!」
「横島クン!」
「横島さんっ!」

 美女と美少女四人が見守る中、俺の意識が徐々に遠ざかっていった。
 その後、俺は元いた病院にかつぎこまれ、そこで一泊する羽目となった。



──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ────



「ポチーッ、じゃなくてヨコチマー!」

 翌日の昼間、病院から退院し事務所に戻った俺を、パピリオが笑顔で迎えた。

「ゲームステーションやろっ」

 あれっ!? 事務所にゲーム機は置いてなかったはずだけど。

「午前中におもちゃ屋に行って、ルシオラちゃんに買ってもらったでちゅ」
「よしっ! どれをやろうか」
「これで遊ぶでちゅ」

 パピリオが差し出したCD−ROMには、『極落大作戦』というタイトルが印刷されていた。
 たぶん落ちゲー系のゲームだろう。

「横島さん、お帰りなさい」

 部屋の中を見渡すと、おキヌちゃんがテーブルの上にカップを並べて、お茶を入れていた。

「あれ!? ルシオラと美神さんは?」
「さっきから、二人で美神さんの部屋にこもって出てこないんですけど?」

 何だか珍しいな。ルシオラと美神さんが、二人だけで話しをしているなんて。
 二人の仲が良かった記憶って、あまりないんだけどな?

「あっ、ヨコシマ。お帰りなさい」
「お帰り、横島クン」

 ルシオラと美神さんが、一緒に部屋に入ってきた。

「横島クン、ちょっと打ち合わせをしたいんだけど」
「了解ッス」
「資料の関係で、Gメンの基地の会議室を使うわ。ルシオラも一緒に来てちょうだい」
「えーっ! ヨコチマはパピリオと一緒に、ゲームをするんでちゅ」
「ゴメンね、パピリオ。大事な打ち合わせなの。おキヌちゃんと一緒に待っててちょうだい」
「ぶーっ!」
「というわけで、おキヌちゃん、悪いけど留守番よろしくね」
「はい、わかりました」




 俺とルシオラと美神さんは、都庁地下のGメンの基地に向かった。
 予約していた会議室に入ると、美神さんがドアのロックをかけた。

「横島クン、ちょっと文珠で結界を張ってくれない?」
「Gメンにも秘密の話なんですか、美神さん?」
「まあ、念のためよ」

 俺は文珠を取り出すと、部屋の中に結界を張った。

「これで大丈夫です」
「長くなりそうだから、こっちに座りましょうか」

 美神さんは、会議室の一角にある応接セットのソファーに座った。
 俺は美神さんの向かいに、ルシオラは俺の隣のソファーに座る。

「さてと、あんたが隠していたことを、洗いざらい話してもらおうかしら」
「な、何のことですか、美神さん?」

 俺はギクリとした。こめかみに冷や汗がじわじわと浮かんでくる。

「とぼけても無駄よ。横島クンが未来から来たことを、私とルシオラは知っているんだから」


(続く)

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