ザ・グレート・展開予測ショー

悪友


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 2/28)

「風邪ぇ!?美神さんが?」
「はい。だもんで,今日はお休みです」
「鬼の攪乱やな……」
「横島さんたら,又たそんな……」
日曜日。
いつもの様に出社した横島は,臨時休業を知らされた。
「にしても……おキヌちゃん,何か疲れてない?」
横島は,キヌの顔色が少々悪い事に気付いた。
「いえ,その……実はシロちゃんやタマモちゃんにも美神さんの風邪が移っちゃったみたいで。看病に大忙しなんですよ」
「へえ。美神さんの風邪だったら,さぞかし質悪いだろうな」
「もう……」
「あ,人口幽霊一号,今の台詞聞かなかった事にしろよ?」
横島が中空に問うと,何処からともなく無機質な声が聞こえてくる。
「でも,記録が残るのですが」
「消去しろ」
「私のオーナーは美神さんなのですが……」
「頼むから」
「……その台詞が耳に入ろうが入るまいが,大して変わらない気もしますが」
「言うな……。鈴女もチクったりすんなよ?」
「はーい」
「……ふう」
「おキヌちゃん」
溜息をついたキヌを見て,横島が心配する。
「大丈夫?俺,手伝おうか」
「いえ,平気です。……と言うか,美神さんから横島さんは入れるなと言われているので……」
「……何で?」
「女の病床に横島さんを上げたら,如何なるか分かったもんじゃないからだそうです」
「酷ぇな……」
「はは……」
顔に縦線を浮かべた横島に,キヌも苦笑する。
「あれ。でも美神さん,新しい家買ったんじゃなかったっけ?」
「いえそれが,昨晩は事務所で酷く痛飲されてた様で……」
「へぇ……あの人でもストレス感じる事あるんだな」
横島さんの所為だと思うんですけど。
「じゃあ,悪いけど俺は帰るよ。頑張って。気を付けてね」
「はい。横島さんもお気をつけて」
「あ,そうだ。何か買ってこようか?パシリ位やるよ?」
「いえ,結構です。……有り難う御座います。大丈夫ですから」
「そう。じゃあね,おキヌちゃん」
「はい」





【悪友】





事務所を後にした横島は,何をするでもなく街をぶらついていた。
今日は日曜日で学校もない。仕事に行くつもりだった横島には,特に何をする予定も無かった。
「……ん?」
横島の霊感に,何かが引っ掛かった。
「これは……妖気?いや,違うな……」
それなりに勉強はしているものの,(一流の)GSとしては知識の面で心許ない横島には良く分からなかったが,兎に角この近くに“人間以外”の何かが居る事は間違いなさそうだ。
「……」
勿論,人外と言うだけで敵とみなす横島ではないが,人に害を与えるものではないと断定も出来ない。
取り敢えず,その気配を辿っていく事にした。



「此処等辺から,だよなぁ〜」
其処は,寂れた神社の境内だった。
妙な霊波を追って,横島は此処迄辿り着いたのだった。
「ん?」
やがて,横島の眼は祭壇に腰掛けている人影(?)を捉えた。
「あれか……」
兎に角少し話を聞いてみて,特に害の無さそうなら帰ろう。自分とて霊能力者の端くれ,悪しき妖怪なら,最高の餌と食い付くだろう。
そんな事を思いながら横島が歩を進めると,徐々に人影がはっきりと見えてきた。
「あ……お前……!」
それは,意外な事に横島の見知った顔だった。
「ヒャクメ!?」
「っ!?」
祭壇に腰掛けた女神――ヒャクメは,突然声を掛けられ,飛び上がらんばかりに驚いた様だった。
が,それが見知った顔と知ったのか,数瞬の後には安堵の表情を見せていた。
「横島さん!」
「よう,ヒャクメ。お前,何やってんだ?こんな所で」
「え……」
何気ない横島の一言。と言うか当然の疑問。
神族や魔族は,そうホイホイ俗界に来たりは出来ない筈だ。彼女は何か,任務を負っていると見るのが妥当か。
しかし,この一言を聞いたヒャクメの表情は,段々と暗くなっていった。
「……」
ズ〜〜〜〜ン……
最後には,そんな擬音迄響かせて祭壇の隅で体育座りに蹲ってしまった。
「ちょっ……おい,何だよ。何か,悪い事聞いちゃったか?」
横島が慌てて尋ねる。
「ううん,良いのね〜。私が勝手に落ち込んでるだけなのね〜」
「……落ち込む?」
その単語に,横島は酷く違和感を覚えた。
「お前が……?」
ズガン!
派手な音を立てて,ヒャクメが転倒した。
「どっ,如何言う意味ね〜!?」
「い,いや,悪ぃ。お前が落ち込んでる所なんて,如何も想像出来なくてよ」
「今,凄い勢いで落ち込んでるのねっ!」
詰め寄るヒャクメを宥めながら,横島は言い訳にならない言い訳を口走った。
しかし横島は本当にそう思ったのだ。
横島の知るヒャクメは,何時でも何処でもハイテンションな,神様と言うには余りに気安い存在だった。
神界の諜報員らしいが,詰めが甘く,百の感覚器官で人の心の中迄も読んでしまうと言う恐ろしい能力を持っているにも関わらず,人間達をして『役立たずの神様』のレッテルを貼られてしまうトラブルメイカー。
だが,悪い奴じゃない。
横島は彼女に対して,“神様”とか“女性”とかよりも,“悪友”とでも言う様な感情を持っていた。重要な役目を任されていると言うのにヘマばかりする彼女に,親近感を覚えていたからか。
ミスを連発しても,ギャグの様に狼狽えるだけで次の週にはすっかり忘れているヒャクメが落ち込むとは,一体何が有ったのだろう。
「ホントに如何したんだよ?」
からかってやろうと言う気持ちが皆無ではないが,それは別にしても純粋に気になる。
「うう……。横島さん,聞いてくれる……?」
「え?あ,ああ。如何せ暇だしな」
「有り難いのね〜……」
……此奴の口調は何とかなんないのかな。


話を聞くと,如何やらヒャクメは又たもや仕事でミスをしたらしい。
「それで上司に怒られまくったのね〜。今迄のヘマの分も纏めて怒られて,『今迄は大目に見てやっていたが今日と言う今日はもう,許さん!お前は暫く出廷しなくて良い!』って言われちゃったのね〜」
「ふ〜ん」
「それで,やる事も無く此処で落ち込んでたのね」
「……何で,此処で?」
「私,此処に祀られてるのね〜」
「ああ,そう。にしても……」
「え?」
「それだけ?」
「そっ,それだけって?」
「いや……そんなもん,其処迄落ち込む程の事でもないだろ」
「何でなのね〜?」
「何でて……お前,今迄に幾つも大ポカやらかしてるのに,ちっとも堪えた素振り無かったじゃんか」
「う……」
「俺なんて,一日に二十回は美神さんに怒られてるぞ?」
「うう〜〜。私は怒られ慣れてないのね〜」
「……何がショックなんだよ」
「それは……。……矢っ張,怒られた事,かなぁ」
「あのなあ。仕事でヘマしたら怒られるのは当たり前だろ?寧ろ今迄甘くしてもらってたのを,逆恨みして如何すんだよ」
「うう……」
「ふう」
其処で一息つくと,横島は座っていた祭壇から立ち上がった。
そして,額に手を当て暫し考える。
「休み,貰ったんだろ?」
「え?ええ,まあ」
「休みにやる事が見付からないってな,仕事人間(?)の証拠だぜ。もっと,人生(?)適当に生きなきゃ」
「……」
「その上司さんも,そう思って息抜きをくれたんだろ?」
「……でも私,仕事(覗き)以外に趣味なんて無いのね〜」
「あ〜?……ったく,仕方無ぇな」
「え?」
「じゃ,今日一日俺が付き合ってやるから,どっか適当に遊び行こうぜ」
「で,でも……」
「良いから良いから!給料日直後だから,一寸は金有るし」
「はあ……」
「ほら,何時迄も暗い面してねーで,ちゃっちゃと行くぞっ!」
そう言うと,横島はヒャクメの手を取り走り出した。



「先ずはそのコスプレ衣装とゴ○ラみたいな頭を何とかしねーとな。目立ってしょうがねぇ」
「如何するんです?」
「女物の服って結構高いらしいからなぁ〜。俺の服じゃ駄目か?一応,洗濯はしてあるから」
「か,構わないのね」
何時になく強引な横島に圧倒され,ヒャクメは一も二もなく従っていた。



「取り敢えず,飯でも食おうぜ」
「はい」
「魔鈴さん所にしよう。割り引いてくれるから」
「構わないのね〜」
と言う訳で,魔鈴の店へと入る。
「いらっしゃいませ〜。あら,横島さん」
店長の魔鈴が,にこやかな笑顔で迎えてくれた。
「お久し振りっす」
「ようこそ。……あら?後ろの方は?」
「ど,如何もなのね〜」
ヒャクメが,横島の後ろから怖ず怖ずと出てくる。
「ヒャクメっすよ」
「ええ,ヒャクメ様!?全然分からなかったですよ」
「そっすよね。此奴も,ちゃんとして黙ってれば見れるんすね」
「くす。それは貴方にも言えると思いますけどね?」
「え?」
「いえ,何でもありません。じゃあ,メニュー選んで下さい。お供え物ですから,腕によりをかけて作りますよ」
意味ありげに微笑んで,魔鈴は厨房へと消えた。



「矢っ張り,女だとショッピングとか好きなのか?」
「う〜ん。一般的に如何だかは,一寸私には分からないのね〜」
腹ごしらえをした後,取り敢えずウインドーショッピングに繰り出す横島とヒャクメ。
「お前……ホントに仕事人間(?)なんだな」
「気にしてる事を言わないで欲しいのね〜。宮仕えは辛いのね〜」
「う〜ん。まあ,如何せだし何か買ってやるよ。あんま高いもんは無理だけどな」
「何かって言われてもね〜」
まあ,横島の稼ぎで大した物を買える訳もなく,露店で売ってたネックレスで決着が着いた。



「意味も無く盛り上がるお祭り騒ぎに,乗ると面白い……只それだけの無意味な乗り物……」
「デジャヴーランドへようこそ!」
「何か,物凄いお金の無駄遣いな気がするのは気の所為ですかね〜?」
「腐れた事言ってんなよ……。あ,これ使えます?」
「VIPチケット……期限は未だ過ぎてませんね。はい,大丈夫ですよ」
適当に街をぶらついた後,二人はデジャヴーランドへやって来た。横島が,例のマジカル・ミステリー・ツアーの時に貰ったチケットを未だ財布の中に持っていたのを思い出したからだ。
「さて……折角タダ券が有るんだ。たっぷり遊ぼうぜ」
「そんな年でもないのね?」
「っせーなー。じゃあ,お前は何処行きたいんだよ?」
「いや……だから特に……」
「だろ?だから此処に来たんじゃねーか。如何せあのまま期限切れんなってもつまんねーしな」
「ケチ臭いのね〜」
「喧しい」


ジェットコースター!
「きゃああああ!」

スプラッシュマウンテン!
「きゃああああ!」

スカイハイキング!
「きゃああああ!」

観覧車!
「きゃああああ!」
「……何で?」



「はあはあはあ……」
「大丈夫か?ヒャクメ」
一通りアトラクションを回った時には,既に辺りは暗くなっていた。
「だ……大丈夫なのね………でも」
「でも?」
「叫び疲れて喉が痛いのね〜」
「なんだ……」
「一生分叫んだ気がするのね〜」
「神様の寿命って長いんだろ?一生分て……」
「物の例えなのね〜」
パン!パパン……
「お,花火」
「綺麗なのね〜」
「ああ。タダだしなっ!」
「せこいのね〜」
「うるせぃ」
パパン!パン……
「でもホント……こんな目一杯遊んだのは初めてなのね〜」
「て,普段仕事真面目にやってんのかよ?」
「真面目にやってるのね〜。私なりに」
「おいおい……」
「でも,良かったんですか?横島さん」
「何が?」
「折角の休みを,私なんかとのデートで潰しちゃって」
「へ,デート?」
「へ,って……」
「あ,いや。ははは……」
前述の通り,横島はヒャクメを余り“女”として見ていなかった。
なので,今日も天龍童子やパピリオと遊んでやってる様な感覚でいた(赤貧の横島は,学校の友達と斯ういう所に遊びに来た記憶は無い)。
「ご,御免……」
「何で謝るのね〜?」
「いや,だって……」
そうだ。
考えてみれば此奴も一応女なのだ。自分の態度は余りに失礼だったか。
何時も美神さんが言ってる,『相手の気持ちを考えなさい』ってのは斯ういう事だったんだな。
「ま,元気になったみたいで良かったよ」
「はは。サンキューなのね〜」
「あんまし深く考え過ぎんなよ」
「は〜い」
「はは……」
「……でも」
「え?」
「これが,私の初デートなのね〜」
「なのね〜って,お前何百年生きてんだよ?」
「あは,私,友達いないのね〜」
「え?」
「だって,迂闊に近付くと心の中を読まれちゃうのね〜。避けられるのは当たり前なのね〜」
「……で,自棄んなって覗きが趣味になったってか?」
「そんな所なのね〜。私と付き合う相手なんて,小竜姫みたいな裏表の無い超絶真面目さんか,横島さんみたいな物好きしかいないのね〜」
「……」
「ま,それは仕方無いんだけど,矢っ張り時々辛いのね〜」
「だろうな……」
「だから……こんなの……嬉しくて……あはっ」
「ヒャクメ……」
いつものヒャクメと違う……。
此奴も,こんな顔するんだな。
いつもの態度が,仮面だとは思わないけど……。
「御免……横島さん……少し……泣かせて……」
「……ああ……」
「……」
パン!パパン……
夜空に花火の爆音が鳴り響く中,ヒャクメは横島の胸の中で泣きじゃくり続けたのだった……。



デジャヴーランドの閉場時間を回り,横島とヒャクメも近くの公園へと退散した。
「――じゃ,横島さん。今日は有り難うなのね〜」
「何,良いって事よ」
「……又た辛くなったら,遊びに連れてってくれる?」
「その金は,お前が出すんならな」
「ふふ。了解したのね〜」
「じゃあ,又た会いましょうなのね〜」
「応!元気でな」
そして虚空へと消えようとしたヒャクメだったが,ふと何かを思いだした様に横島の方を、向き直した。
「如何した?」
「忘れてたのね〜」
「何を」
「今日の代金,払ってなかったのね〜」
そう言うと,ヒャクメは横島の顎を手に取り……

「……」

横島の唇に,静かに自分の唇を重ねた。



「私のキスなんかじゃ全然足りないかも知れないけど,その分はこの次迄のツケにしといて欲しいのね〜」
「……りょーかい」
「んじゃ,今度こそ又たねなのね〜」

そう言うと,ヒャクメは蒼い天空へ溶けていった。






恋い焦がれている訳じゃない。
会えなくても辛くない。

でも,一緒に居ると楽しい。
気を遣わずに済むから,一緒に居ても辛くない。



悪友。

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