ザ・グレート・展開予測ショー

狐の家出。


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(04/ 2/28)

「やっぱあれてやがんなぁ・・」
なかば自滅状態だった陰念がなんとか一人で生活できるようになるまでの時間は決して短くは無かった。
「ふ。人づてにゃ、勘九郎は魔物になったとか・・」
独り言を言いつつさりとて何をするかと。
荒れ放題のかつての道場である。
「せめて・・雪之丞でもいたらなぁ、綺麗だったんだろうが」
その雪之丞も香港へ飛び立った後、紆余曲折を経て認められつつあるのも聞いている。
「戻る気にもならんかこの有様なら」
彼ら三人、元々白龍GSの門下生で有ることは言うまでも無かろう。
「・・・お師匠も逃げたかのか・・だろうな」
GSなにも表立った顔の商売ではない。中には悪魔と取引してというケース珍しくはないのだ。
「ふっ」
決して正義ではない遣り方ではあったが、仲間がいたのは確かだった。
「さて・・どうしたもんか」
タバコを取り出して火をつけようとした瞬間。
「ちょっと待ちなさいよ!」
女の声がするから驚くのも無理はない。しかも天井の欄干からだ。
「誰だっ?」
よもやかの蛇女の使いか?と構えてみるが霊力なぞ雀の涙なのだが。
「ここは一応、稲荷系の神社なのよ。聖域なんだからやめて頂戴!」
欄干からふわりと降り立った女の子である。
「も、物の怪の類か?」
後ずさりする陰念にである。
「物の怪の類は類だけどね。私タマモ、一応狐の眷属なの」
「眷属って・・この道場の主様?」
「まさか!ちょっと間借りしてるだけ」
とりあえず、自分を食べようとか、取り付こうとかの様子が無いので安心する。
「間借りって、一応ここは俺達が法的に登録した場所なんだがね。今でも」
これは役所にいって確認をとっている。だから戻ってきた陰念である。
「まぁ、いいじゃないの。細かい事は。であんたココに住むの?」
しばらくはそのつもりでいると答えるる。
というよりも行くあてが無いというのが正しいか。
「じゃあ。掃除ね」
「そ、掃除するのか?」
「当たり前じゃない!この状況」
荒れ放題である。道場はおろか、生活部分までも滅茶苦茶だ。
「そりゃま、掃除せにゃいかんだろうけど・・しかしなぁ」
何故協力的なのかと、疑問がある陰念なのだが、タマモ意を解さず。
「誰がやったかしらないけど、狐が祟るわよ」
タマモの発言に苦笑を見せる。
「祟りたくても相手も蛇たったんだ。勝てる相手かな?」
聞くや少し考えた振りをする。
「ま、どーでもいいわ。さぁ、掃除掃除!」
「あ、あぁ」
とにかく目的もなく元の鞘に戻ってきた陰念には恰好の目的となったのか。
先ずは床磨きと雑巾を持ってくる陰念であるが。
「アンタねぇ、小坊主の修行じゃないんだから掃除機で十分!それに道場は後、
 先ずは生活空間からでしょうが!」
起こられる始末であるが。
「ん?それもそっか。あははは」
「おや、初めて笑ったじゃないの」
幸い機械の故障もなく、公共料金も自動引き落としなので、ライフラインはしっかりしいた。
けたたましい掃除機の音が時々止むのは。
「ねぇ、この家具こっちに移動したいから手伝って」
「OK!」
と、力仕事を手伝うも、まだ病み上がりの事、
「だっらしないわねぇ〜もぉ!」
と、笑われる始末。
それゆえやや時間がかかったも、漸く生活可能な状況まで掃除が終わった。
「はい。これでとりあえずはOKね」
にこりと、陰念に微笑むタマモである。
「そうだな。とりあえず何か食うか」
幸い蓄えも微量だがあった。銀行口座の桁数は少ないのだが。
「ふ、狐が食べる物といえば決まってるじゃないの」
「判った買ってくるよ」
「ん!素直でよろしい」
今日び稲荷はコンビニの定番商品、近くの店で購入する。
二人揃って頂きますと言ってから。
「で、オキツネさまはここに暫く逗留されるのですか?」
「えぇ、その積りよ」
そう答えるタマモの発言がやや揺れてるのに陰念が気が付いた。
「元々、稲荷系の神社を転々とされていたのですか?」
「・・・・ううん。実はね、ある人のトコにいたんだけど・・」
些細な喧嘩から家出したと口にする。
「そうでしたか・・私としてはご一緒させても問題有りませんが」
タマモの箸が止まる。
「が?」
「・・・・元の家に戻れ、そして謝れ!」
急に口調が強くなる陰念。
「何よ急に、いいじゃない。私は元々一人で・・」
生活してきたし、と反論する。
「・・・・孤独ってのは時には必要です。でも自らその道に行くのは・・孤独を強いられた身にしては」
贅沢だ、と言いたいのか。
「だって、アイツが悪いんだもん」
と、些細な問題を誇張して陰念相手にぶつけるが。
あえて無言の姿勢をとる陰念。
しばらくして。
「判ったわ・・謝ってくる」
ぐすりと、涙を見せてから、
「でも、アンタは?」
ふふ。と笑い。
「私もまだ若いですし、新しい仕事でも見つけて仲間を見つけますよ」
と、答えた。
そんな問答のなかで食事を終え、
「さてと、一服」
癖で食事の後にとタバコを取り出す。
「こらっ」
「はっ、すいません。オキツネ様ッ!」
ひれ伏す姿が可笑しかったのか、くすくすとタマモが笑っていた。
数ヵ月後。
「あれっ?昔白龍の事務所だったとこ、綺麗になってんじゃないの?」
たまたま仕事の都合でその場所によった美神事務所の面子が気が付いた。
「そうですね。でも人の気はないみたいですよ」
不思議に思い中に入ってみた結果である。
「ンな事よりも、食事にしましょーよー」
「そうで御座るぅ〜」
と、二人の意見が珍しく通る。
門前にある稲荷寿司のお供えもあったのはタマモしか気が付いていなかったのか。
近くの蕎麦屋へと入る。
「はい、らっしゃい!」
伊勢いい声と共に、
「げっ!陰念じゃんーか!」
驚く横島である。
驚くのもお互いである。
「そっか、あいつ別の道歩んでるのね。悪い事じゃないし」
美神令子にとっても、横島にも過去のことに属するのだが。
「何か嬉しそうで御座るな。タマモ?」
「うん。ちょっとね」
嬉しい理由を聞き出そうとするシロはタマモにとって恰好の玩具になった事は言うまでもない。
陰念とタマモの目が一瞬だけ、合った。

FIN

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