ザ・グレート・展開予測ショー

#挿絵企画SS『あやかしの包み』


投稿者名:アストラ
投稿日時:(04/ 2/27)



 夕方。横島は自分の住むアパートの階段を上っていた。
 ポケットの中から鍵を取り出して回す。かちりとシリンダーが外れ、ドアを開けて中に入っ―――
「なんだ、これは?」
 畳の上に包みが鎮座している。しかも尋常な大きさではない。人が一人分入れるほどの容量を誇っている。すぐにも中を確かめたいのだが、得体の知れなさゆえに、第六感が執拗にその行動を拒んでいる。
 さらによく見てみると何かがおかしい。
「何でこんなに片付いてるんだ・・・?」
 部屋が、出た時とうって変わった様を呈している。カップめんの空だってなくなっているし、昨夜飲んだ缶コーヒーだって無い。出し忘れたゴミ袋も無くなっている。
「まさか、親切な物取りがついでに片して行ったとか・・・んなバカな」
 自分の考えを認めたわけではないのだが、念のため通帳を捜してみる。異常なし。相変わらずの薄給のせいで雀の涙どころではない額が記されている。横島にしても今の給与に不満が無いわけではない。が―――
『給料を上げくれ!? 冗談でしょ。ただでさえ居候が増えて困ってるのに! 神通棍でしばかれたくなかったらそんなこと考えないよう!』
―――居候。居候?
 そうだ。なぜもっと早く気がつかなかったのだろう。こんな事をするのは・・・
「シロしかいないじゃないか」
 試しに台所へ行ってみる。察したとおり、ガスを使った跡がある。そして決定的なのが―――
「まったく・・・こんなに肉料理ばっかり作ってどうするんだよ」
 微笑ましいと見るべきなのだろうか。それとも幼稚と見るべきか。
 いくつもの大皿に並べられた肉・肉・肉。おおよそ数人がかりでも食べきれないと思しき量があった。
確認してみると、大分冷めている。
―――あいつらしいことするな・・・
 思わず笑みがこぼれた。そして、できる限り足音を立てないようにしてくだんの包みに近づく。
 すると――予想はしていたが、中からシロが飛び出してきた。
「先生お帰りなさいでござるっ! 気づくのが遅すぎるでござるよー!」
 かなり前から気づいてたんだけど。
「あんな分かりやすい物でたばかれるわけないって。おい、それよりそんなにくっつくなってば」
「少しぐらい許したもうれ、でごさるよー」
「こら、みだりがましいってば」
 やっとの事で引き離す。嫌と言うわけではないのだけど、あまり長いことくっついていると頭がくらくらしてくる。床に座らせ、話を続ける。
「さて、シロ。一つ聞きたいことがある」
「何でござるか?」
「どうしてこんなのに入ってたんだ」
「なかなか殊勝な感じがしていいと思わないでござるか?」
 尻尾を振りながら、無邪気な笑顔で腕に絡んでくる。
 直向きなところがこいつのいい所なんだよな。
 口にこそ出さなかったが、心の中で呟いた。
 包みの説明にはまるでなってないけれど、そんなことはもう、どうでもよかった。
「じゃあ、それはおいといて・・・だ。シロ、部屋にあったものはどうした?」
「見ての通り掃除したんでござるよ!」
「あぁ・・・それは分かる、分かるんだよ。でも片っ端から捨てたのか?」
「もちろん、捨てちゃダメなものとそうじゃない物くらい区別はつくでござるよ」
「ここにあったラーメンの袋」
「ずいぶん袋が汚れてたから捨てたでござる」
「まだ一袋入ってたんだけど」
「・・・え」
 シロの笑顔が少しゆがんだ。
「缶コーヒー」
「あれはちゃんと空だったでござるよ」
「・・・についてたシールなんだよ」
「・・・・・・・・・」
「あと一枚でたまるところだったんだけど」
「買ってくるでござる!」
 慌てて飛び出そうとしたシロの肩を掴んで引き戻した。
 シロの髪がふわっと頬をなでて、いい香りが鼻先を通っていった。
「な、シロ。落ち着けよ。俺は怒ってるわけでも、責めてるわけでもないんだ。ラーメンなくなったのは痛いけど。でも、部屋掃除してくれたんだろ?」
「・・・うん」
「ならいいさ。ありがとな、おかげできれいになったよ」
 頭に手を置いて髪をくしゃくしゃとなでた。
 シロはくすぐったそうに目を細めながらそれに身を預けていた。

 その後、二人で肉料理を食べた。冷めてて少し固くなっていたけれど、シロの手料理は美味しかった。
 食べ終わったら二人で片付けをして、終ったらテレビを見た。
 帰りは一緒に事務所まで歩いた。二つの影が道にどこまでも伸びる。足跡だけが静かに響き、今ここに存在しているのは二人だけではないかと思えるほどだった。
 事務所の前まで来ると、シロが足をとめ、横島のほうを向いた。
「先生、今日はほんとありがとうでござるよ」
「ああ」
「さっきの包みのわけ、結局何だったかわかったでござるか」
「いや・・・分からない」
「あれは拙者の気持ち、でござるよ」
「ますます分からなくなるんだけど・・・」
「つまり、拙者は横島先生に喜んでもらいたかったんでござる。だからその気持ちは拙者そのものでござるよ。つまり拙者自身が誠意の表れ。それを感じてもらいたかったってわけでござる」
「うん・・・よくわかったんだけどよく分からない」
「だいたい感じ取ってくれればいいでござる」
 今はまだいい。そして、いつか分かってくれたら。その時は・・・
「じゃあ、シロ。おやすみ」
「おやすみなさいでござるよ、横島先生」
 家へ帰っていく横島を、シロは見えなくなるまで見送っていた。

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