ザ・グレート・展開予測ショー

おキヌが奏でるラブソング その1


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 2/27)



おキヌにとって横島は想い人であった、幽霊時代からずっと一途に想い続けてきたおキヌとしては、
弱くて情けないと言われていた時代の横島と、誰よりも成長をして強くなった今の横島では、
何一つ変わっていないと人に言える自信があった。

昔から横島にあった、妖怪であろうが人間であろうが同じように向けられるやさしさは、
今も昔もまったく変わっていない、自分はそんなところが大好きになったのだから。

そして、どんな時でも本当に助けてほしい時には絶対に現れて助けてくれる横島は、おキヌにとっては
まさに白馬の王子様だった。(この表現は最近知った。)

最近やっと横島の評価が良くなってきたのはおキヌとしても嬉しいのだが、それと一緒に横島へ好意を
寄せる人が増え始めたのは悩みの種だった。

しかもライバル達が皆いろいろな意味でレベルが高いのである。

自分は他のライバル達に勝てるものが有るだろうかと思うと、
勇気が持てず横島への態度も積極的にはなれなかった。

しかも最近タマモも横島へ興味を持ち始めたみたいで、よく横島と一緒に出かけているのを見る。

悔しかった、自分は勇気がもてないと言うのにシロやタマモは、どんどん横島へ向かって進んでいく。

だからこそ横島の家にご飯を作りに行くことだけは、絶対他人に譲りたくないと思っている、
横島のご飯を作り部屋の掃除をしてあげるのは自分だけの特権だから、幽霊時代から
自分が横島にしてあげれた唯一のことだから、今はそれだけを自分の支えにして進んで行こうと思う。

そして今はだめでも胸を張って横島に好きだと言える自分になろうと、おキヌはがんばっている。
一歩ずつでも確実に、周りのライバルに負けないように自分に自信を持てるように、それしかおキヌには
思いつかなかったから・・・・・・ぜったいに自分の想いを叶えるために。





「氷室、おい氷室しっかりせぇ。」

はっと自分に声を掛けられているのに気がついて、周りを見渡す。
とたんに聞こえるのは同級生のみんなから掛けられる大声援だった。

「絶対負けないで〜」「氷室さん、ふぁいと〜」「ぼっこぼこにしちゃて〜」「恨みをはらして〜」

掛けられる声が多すぎて全部を聞き取ることができないほどだ。
ふと後ろを見ると結界の外に弓や魔理も居て、声援を送ってくる。

「氷室さん、精一杯がんばってね」

「負けんじゃね〜ぞ」

その声に勇気づけられると再び前を向き、審判である先生にしっかりとした声で返事をした。

「大丈夫です。」

気を引き締める、自分の実力を出し切らなければ決して勝てる相手では無い。

「わかった、ほな始めるで。」

ゆっくり深呼吸をして心を落ち着かせると、自分の持っているネクロマンサーの笛に口をつける。
そして対戦相手を見つめる、自分とほとんど変わらない年のくせにおキヌにとって大きな目標であるあの人を

「おれって今、絶対悪者だよな。」

横島はおキヌを見つめたまま霊波刀を出すと、いつも通り自然体に構えている。
審判が大きく手を上げて開始の合図を叫ぼうとしている。

「でも負けないよ、おキヌちゃん」

「始め!」

横島がおキヌに向かって踏み出してくる。

私だって負けない、絶対に負けません。

心の中で叫ぶと笛を吹き始めた。











その日おキヌは学校が終わると急いで帰るために準備をしていた。
放課後の窓からは、いまだに日の光が教室にそそがれていたが、後数十分もしないうちに
夕方の風景に様変わりするのは誰の目から見てもあきらかだった。

そんな中おキヌは、帰りの商店街で何を買って行こうかと思い悩んでいた。
もちろん手だけはせっせと動かしている。

「お〜い」

帰りの用意がほとんど終わり、もう出て行くだけとなった時に魔理が声を掛けてくる。
おキヌは声を掛けられてちょっとだけ驚いたが、すぐいつもの笑顔に戻って振り向いた。

「どうしました?」

「おう、これから弓と魔鈴さんのお店でお茶でも飲もうかって話になってるんだけど、おキヌもこないか?」

魔理のあとから弓もゆっくり近寄ってくる。

「氷室さんもどうですご一緒に、もうしばらくしたら開かれる対抗試合の打ち合わせをしたんですよ。」

そういえば、もうすぐクラス対抗試合が開かれる予定だったはずだ。
その成績が今後の進路にそのまま響くので、各クラスの生徒達は必死になっている。

「あ、ごめんなさい、今日は横島さんの家に晩御飯を作りに行く約束してるんです。
明日とかじゃだめですか?」

クラスの代表メンバーとしては、参加しなければまずいのだろうが、今日は横島のバイトが休みなため
事務所に来ない日なのだ。
昨日帰り際に、晩御飯を作りに行く約束をしてしまったおキヌとしては、二人の誘いには乗れなかった。

「いや、明日でもかまわないっちゃかまわないんだが、またあの横島ってやつの所に行くのか。」

横島に良い印象がまったく無い魔理としては、おキヌがなぜこれだけつくすのかまったく分からなかった。
その気持ちが、ついつい顔に出てしまう。

「氷室さん、私もちょっとあの方はやめたほうが良いと思いますわ。氷室さんにつりあわないと思います。」

弓としても横島はどうしようもない男にしか見えない。しかも、最近付き合いだした雪之丞も弓が
横島の悪口を言うと、あいつの強さはおまえにゃ分からないと言って怒るのだ。
だから、弓としては横島に良い感情がどうしても起こらないし逆に嫉妬してしまっている。

「そんな事無いです。横島さんはたしかに普段は・・・あれなんですが本当はとっても凄いんですよ。」

普段馬鹿をやっている姿しか知らない二人には、横島は駄目人間にしか見えないのは分かっているのだが、
やはり親友にそう思われるのはちょっと悲しかった。
なんとかして見直してもらえないかと思うが、横島の良い所は長く一緒に居る者にしか分からないので、
たまにしか会わない二人に分かってもらうのは、さすがに無理かもしれない。

「いや、良いんだよ。別に悪いって訳じゃないんだ。
たださ、そこまで一生懸命つくしてるのに付き合ってるって訳じゃないんだよな?」

その質問におキヌは真っ赤になってしまった、たしかに普通なんとも思ってない人の家に行って、ご飯を
作るなんて事はまずありえないだろう。
どっちかと言えば、もうすでにあなたが好きですと言っているようなものなのだが、
横島はまったく気づいた素振りを見せない。

「いえ、付き合ってはいないんですけど・・・」

蚊の鳴くような声でおキヌは言う。

「わっかんね〜な、他に良い男はいっぱい居ると思うんだが・・・まああんな男でも良い所があるのかね。
実はタイガーも似たような事言ってるんだよな、横島さんは凄いお人じゃってさ。」

魔理は笑いながらタイガーの口真似をしてくる。
その言い方についついおキヌも笑ってしまう、それを見た魔理が満足そうな顔をすると
横に居る弓に話を持っていく。

「ま、それじゃ今日はしょうがねえな、明日行こうぜ。弓お前もそれでいいだろ?」

「ええ、かまいませんわ。では明日、今度の対抗試合の打ち合わせをしましょう。」

おキヌは魔理のさりげない気遣いがうれしかった。見かけと違い魔理はとっても優しい心を持ってるし、
弓にしても美神さんに似て意地っ張りだが、とっても頼りになる大切な親友だ。
きっと二人にも横島さんの良いところが分かってくれるはずと、今はそう思っておくことにする。

「分かりました、ではまた明日。」

おキヌは二人に手を振ると教室から出て行く、よし今日はコロッケにしようと思いながら。






買い物を済ませ横島のアパートの前に着くと、まずは軽くノックをする。
これで出てきてくれれば良いのだが、大抵はおキヌのほうが早く着くので横島から合鍵をもらっている。

がちゃ

鍵を開けて中に入ると、ここ最近のおキヌの成果によって、だいぶ片付いている横島の部屋がある。
暇を見つけると、ちょくちょくと訪れて部屋の掃除をしていた。
ちょっと前までエロ本が大量にあったのだが、おキヌのことを思って片付けてくれたのか、
少し前から見当たらなくなっていた。
さすがに今のおキヌには、幽霊時代のように完全に気にしないのは難しかったので、正直ありがたい。

「さてと、まず少し片付けますか。」

布団を今から干すわけにもいかないのでたたんで端に寄せる、次に食べ終わったカップラーメンの容器を
ゴミ箱に入れると、大体の掃除が終わってしまう。
元々横島の部屋には物があまり無いのだ、普段の掃除でごみをきちんと片付けていれば気になるほど
汚れることは無い。

掃除が終わると今度は晩御飯である、袋からコロッケ用にと買ってきたジャガイモを取り出して皮を剥く、
その後に4つから5つに切ってお湯で茹ではじめる。
今のうちにご飯の用意をしておくことを忘れない、お米をといでから水の量を確認してスイッチオン。
他の作業と一緒にお味噌汁も作り出す、だしを入れた後に大根と油揚げを手ごろな大きさに切って入れる。
ジャガイモが茹であがるのにもう少しかかるようなので、付け合せのサラダの準備をする。
買ってきた玉ねぎを薄切りにして水に浸しておき、次にレタス、きゅうり、プチトマトを水でよく洗う。

気分もちょっと乗ってきて鼻歌が出てきてしまう。
その頃にはジャガイモが茹であがるので、フライパンで水分を飛ばした後つぶすしてボールに移す。
今度はフライパンでみじん切りにした野菜とひき肉を炒めて味付けをする、
ボールのジャガイモと混ぜ合わせもう一度調味料をぱっぱっとかける。
カレー粉を入れるとおいしいので、今日はちょっと多めに入れてみる。
最後にパン粉をまぶして170℃の油で揚げれば完成である。

サラダの残りとお味噌汁を作り上げる頃になると外で横島の声が聞こえた。
小鳩と一緒に帰ってきたらしく、二人の笑い声がする。
おキヌはちょっとだけなんとも言えない気分になったので、玄関の外まで出迎えることにした。

「お帰りなさい、横島さん。」

「あ、おキヌちゃんただいま、悪いねご飯作りに来てもらっちゃって。」

最初いきなり声を掛けた事に、ちょっとだけ驚いた様子だったが、笑いながらただいまと言ってくれた。

「おキヌさん、こんばんわ」

「こんばんわ。」

小鳩が挨拶をしてくれたのでこちらも返す。
昔からちょくちょく来ているので、だいぶ顔見知りになっている。だがおキヌが横島のアパートに来ると、
きっと横島は気がついていないだろうが、いつも少しだけ悲しそうな顔をする。
おキヌにも理由は分かる、きっといつも自分が感じているのと似ている感情、
でもこればっかりは譲るつもりは無い、おキヌにとって横島との大切な絆なのだ。

「横島さん、お夕食できてますよ。
今日はコロッケにしたんですが、少し多く作ったので小鳩さんにもお裾分けしますね。」

「ありがとう、おキヌちゃん。」

「あ、ありがとうございます。」

横島はちゃんとした晩御飯が食べられることに喜んでいる。
小鳩も微笑みながらお礼を返してきた。

「じゃちょっとまってね。」

おキヌは一度横島の部屋に戻ると、コロッケを4,5個皿によそって玄関へと戻った。
横島は小鳩に、おキヌちゃんの料理はマジで美味しいんだよと話していたので、
戻ったおキヌは少し照れてしまったが、なんとか皿のコロッケを手渡せた。

「本当にありがとうございました。お皿は後で返しに行きますね。」

小鳩がお辞儀をしながら自分の部屋に戻って行く、それを見届けると横島とおキヌも部屋へと戻った。
ちゃぶ台を出して出来たコロッケとサラダを出していると、ジリリリ〜ンと昔懐かしい電話のベルが鳴る。
一瞬、横島の部屋の電話かと思ったが音が違う。

「あ、私の携帯です。」

横島に部屋の隅においてあるバッグを取ってもらい、中にある携帯電話を取り出した。
携帯のディスプレイを見ると事務所からだ。

急な用事があるかもしれないと、美神に持たされた携帯だが正直おキヌは好きになれなかった。
いきなり音が鳴られると驚いてしまうのである、バイブにしても同じでいきなり動かれると驚いてしまう。
結局どっちにしても驚くのである。
最近はだいぶなれてきたので、油断していなければ平気なのだが事務所に戻ると必ず電源は切っている。

「はい、おキヌです。」

”「あ、おキヌちゃん。私だけど。」

「あ、美神さん、どうしたんですか。」

”「いま横島のアパートかしら?」

「はい、そうですよ。」

”「あ〜じゃあ、帰ってくるときに横島も一緒に連れてきてちょうだい。
これから仕事の交渉なんだけど、相手側が横島君にも話があるって言うから。」

「はぁ〜、それはかまいませんが、なんの用なんですか?」

おキヌは一瞬だけちらりと横島を横目で見る。
ちゃぶ台の前に座っておキヌが電話を終わらせるのをジッと待っている。
なんとなく微笑ましく思ってしまう。

”「それは私も分からないわ。相手、9時過ぎぐらいに来るって話だからそれまでに頼むわ。」

ふと時計を見ると今は7時ちょっと前である、夕食を食べて帰っても十分に間に合う。

「はい、分かりました美神さん」

おキヌは電話を切ると、美神が言っていた内容を横島に伝える。

「俺に話?」

「ええ、美神さんはそう言ってましたよ。」

もう待ちきれない様子の横島のために、ご飯とお味噌汁をよそりながら返事をする。

「まあ、行けば分かるか。」

心底嬉しそうにおキヌから受け取ると、頂きますと言って食べ始めた。
美味しそうに食べてくれる横島を見るこの時間が、おキヌにとって一番幸せな時だった。

二人とも食事が終わり後片付けになると、横島も一緒になって片付けの手伝いをしてくれる。
元々古い考え(実際に古いのだが)のおキヌは男の人に手伝ってもらうのは悪いと思うのだが、
横島は作りに来てもらってるんだから当然だよと言って、いつも手伝ってくれている。
並んで食器を拭いたりしていると、テレビで見る新婚さんみたいとおキヌは思うのだが、
恥ずかしくて口に出せた事はいまだに無い。


「さて、では戻りましょうか」

時計の針は8時をちょっと過ぎたあたりだった、今から戻れば十分に9時前につける。

「そだな、遅れると美神さんに殺されちまう。」

おキヌに出してもらったお茶を飲んでいた横島も、立ち上がると軽く背伸びをする。
二人分の湯飲みを流しに置いておキヌも帰る準備を始めた。
けっして横島に流しの湯飲みを洗っておいて下さいとは言わない、自分が次に来る口実をさりげなく
残しているのだ。地味だがおキヌには精一杯の努力である。



横島のアパートを出ると、もうすぐ満月になる月が出ている。
町の明かりもあるので、外を出歩くのになんの問題も無いほどだった。

「さ、行こうか。」

横島と一緒に並んで駅まで歩き始める、手を伸ばせば横島の腕が簡単につかめる距離、
でもおキヌには縮める勇気の持てない距離。
こんな時、シロがうらやましいと思う、おキヌも横島に抱きついて甘えてみたいと思うのだが、
ちょっと、いやかなり恥ずかしくて出来そうも無かった。
だけど、今の距離もけっして嫌いじゃない。
触れそうで触れられない距離に居ると自分の中から湧き上がってくる、このもどかしい気持ちも肉体の
持っていない時には感じることの出来ない気持ちだったから。

美神さんには9時前までに帰ってこいと言われたが、このままずっと歩いていられれば良いのにと
思うおキヌであった。

つづく



あとがき

どうも、青い猫又です。
今回はおキヌ編を書いてみます。

まず最初の段階で、おキヌのなんでもない、でもおキヌにとって大切な日常を
書きたいなと思ったのですが、物語の起伏がほとんどでなくて読む人にとって
ちょっと退屈になってしまったかもしれません。

結局、六道女学院をメイン舞台になるの予定です、これは結構いろいろな場所で
SSになってますが、おキヌと戦っている場面は見たこと無いな(自分が見た中では)
と思い書いてみようと思いました。

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