ザ・グレート・展開予測ショー

続・風邪のひくまま(前編)


投稿者名:殿下
投稿日時:(04/ 2/27)

       *この話は前回の風邪のひくままの次の日の話です。

ハクション!ハックション!
貧乏アパートの一室に一人の男のくしゃみが響く。言わずとしれた貧乏煩悩少年横島忠夫その人である。

「こりゃ完全に風邪だな。おかしいな、風邪なんかひいたことなかったのに・・・やっぱ、あん時かな」
俺は昨日風邪をひいていたタマモと交わした口づけの事を思い出していた。

結局あの後、ひのめを抱いてリビングで待っていた美智慧が横島がボコボコにされている間に何があったのかを人工幽霊の記録で見て、一緒の布団で寝ていた理由を話し、キスの部分を上手く誤魔化して、女性陣に説明してくれたおかげで横島は何とか朝日を拝む事ができたのだった。
ちなみにヒャクメは、どんな事をされるのかが気になりドアの隙間からこっそり見学していたが、運悪く被弾してしまい気絶していた。

「あの時はホント助かったな。ついでに人工幽霊の記録も消してくれたみたいだし、これで安心だな。まあヒャクメは自業自得なんだけど、なんか他人事には思えんな」
何回も同じ様な目に遭っている俺はヒャクメに親近感を覚えた。

ハクションッ!
「それにしてもキスで風邪が移るって本当だったんだな。しかし・・・・良かったなあ」


〜妄想中のためしばらくお待ち下さい〜


「はっ!妄想にふけってる場合じゃない。9時か・・とりあえず学校と事務所に連絡しておかないとな」

俺はだるい体をひきずりながら電話に到達し、まずは学校にかける。

プルルルル、プルルルル、プルルルル、ガチャ

「もしもし」

「あっ先生、横島ですけど風邪をひいたんで休みます」

「・・・横島」

「はい?」

「貴様は留年したいのか?」

「そんなわけないでしょ」

「だったら這ってでも登校してこい!それでなくてもお前はGSの仕事なんかで何十回も休んで出席日数が足りてないんだからな!」

「いや、でも風邪をひい「いいから来い!もし来なければ、留年確定だからな、わかったな!」

ガチャッ ツーツーツー

「・・・マジかよ。俺52度も熱あるんだぜ」
妖怪からもらった風邪なので普通では考えられないほどの高熱を発していた。というか横島以外の人間なら死んでいてもおかしくないだろう。

「あかん、今から学校に行かなあかんと思うと余計だるくなってきた。ゴホッ、こうなったら学校中の男どもに風邪をうつしてやる!っと、その前に事務所にも連絡しておくか」

プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、

「あれ、誰もいないのかな?」

プルルルル、プルルルル、プルル、ガチャ

「誰よ、こんな朝早くに私の睡眠の邪魔して!燃やされたいの!」
(タマモか・・睡眠妨げただけで燃やされたらたまらんな)

「返事しなさいよ!誰なの?」

「横島だけど」

「あっヨコシマだったの、どうしたのよ?」

「風邪ひいちまったから、今日休むって美神さんに伝えておいてくれないか?」

「わかったわ。他に用は?」

「いや、それだけだ」
(う〜ん、昨日キスして一緒の布団で抱き合った仲だというのに何だかそっけないな)

「じゃあ、切るわよ」

「ちょっと待ってくれ。そういえば、タマモが電話に出るなんて珍しいな。他のみんなはいないのか」

「おキヌちゃんは学校、シロは散歩、ミカミさんは昨日やけ酒して二日酔いで電話に出れる状態じゃないから仕方なく私が出たのよ」

「そっか、すまないな。起こしちまって」

「別に謝る事なんかないわよ。それよりちゃんと安静にしてなさいよ」

「それがそうもいかなくてな。今から学校に行かなくちゃいけないんだ」

「は?あんた風邪で事務所休むくせに何で学校には行くのよ」

「出席日数が足りなくてさ、今日行かないと面倒なことになりそうなんだ」

「そうなの、人間て大変ね。気が向いたら見舞いに行ってあげるわ」

「おお、待ってるわ。それじゃあな」

ガチャ

「さて、頑張って行くか!」
俺は今にも倒れそうな体を引きずって学校に向かった。


〜美神霊能事務所〜

ガチャ ツーツーツーツー

タマモは昨日の風邪が既に治っていた。

「ヨコシマが風邪・・」
(私が治って、ヨコシマが風邪・・・それってやっぱり昨日のことが原因じゃあ)

不意に昨日のヨコシマとの濃厚なキスシーンが脳裏に浮かぶ。

ボッ
タマモの顔中が一気に真っ赤になる。

「どうして、昨日あんな事しちゃったのかしら。ヨコシマとキ、キスなんて・・」
(確かに最近ヨコシマの事気にはしていたけど、もしかして好きになってるのかもしれないけど・・・いきなりキスってのは飛躍し過ぎよね・・)

「風邪ひいて上手く脳が働かなかったせいかな。ま、とにかく今日ヨコシマが休みで良かったわ。どう接して良いかわからないもの、とりあえず電話ではそっけなくしといたけど・・ヨコシマ怒ったかな」

「・・・・あれこれ考えてもしかたないわね。ヨコシマが休むことミカミさんに報告しとかないと」


コンコン

「ミカミさん、入るわよ」

ガチャ

「う゛〜ん」
ミカミさんは苦しそうに唸りながら眠っていた。

「ミカミさん、ミカミさん、起きて」

「・・・何?頭痛いの、寝かせて」

「ヨコシマが風邪ひいたから今日休むって」

「そう、ちょうどいいわ。私も今日は仕事出来そうにないから今日は休み。悪いけど、事務所の前に張り紙貼っておいてちょうだい」

「オーケー、わかったわ」

「頼んだわよ」
そう言ってミカミさんは眠りに入った。

(こりゃ今日は一日中起きて来れそうもないわね)

「さっさと休業の張り紙貼らないと」


      ************************************
      *                                  *
      *                                  *
      *            休業のお知らせ               *
      *                                  *
      *                                  *
      *     本日は、 所長が急病のため休業とさせていただきます。   *
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      *                        所長代理      *
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「こんなもんかしら」

「あれ?タマモ、何してるでござるか?」
シロが早朝の散歩から帰ってきた。

「ミカミさんが調子悪いから、今日は仕事休みだってさ」

「ホントでござるか?これで今日は先生と一日中遊べるでござる!」
シロはものすごく喜んでいるみたいだ。

「残念だけど、ヨコシマは今日は来ないわよ」

「ええっ!!何故でござるか?」

「風邪をひいたから休むんだってさ」

「そんなあ、せっかくの休みなのに・・」
さっきとは対照的にシロの表情が一瞬にして暗くなる。

私はその表情を見て、少し気の毒に思いシロに声をかける。
「シロ「そうだ!拙者が看病すればいいでござる。そうすれば、先生の病気も良くなるだろうし、一日中先生と一緒にいられるでござる」
そう言ってシロはヨコシマの家にダッシュで向かうが、

「ヨコシマなら学校よ」

この発言を聞き急ブレーキをかけ、すぐにこっちに向かってくる。

「なんで病気なのに学校に行くでござるか、矛盾してるでござる」
シロが猛抗議をしてくる。

「知らないわよ。人間にも色々あるんでしょ」

「う゛〜」

「そんな唸らなくても学校が終わる夕方にヨコシマんちに行けばいいじゃない。どうせ今日は何もないんだから」

「そうでござるな。夕方までまだ時間もあるし、天狗に薬をもらいに行って来るでござる」

「ちょっと、一人で大丈夫なの。この前はやっとの思いでもらったんでしょ?」

「ダイジョーブでござる。拙者には先生に対する愛の力があるでござる!」
そう言い残してシロは風のように去っていった。

「全く何が愛の力よ。あんなセリフ言ってて、よく恥ずかしくならないわね」
口ではこう言ってるが、シロのそんな真っ直ぐな性格が少し羨ましいと思っていた。

「・・さ〜て、張り紙も貼ったし、もう一眠りしよっと♪」


〜その頃学校の横島は〜


「あほ〜!近寄るんじゃねえ」
「こっち来んな〜〜!!」

「黙れ!お前達には友の苦しみを分かち合おうという気持ちがないのか?」

「友はわざわざ風邪をうつそうとなんかせんわ!」
「「「そうだ!そうだ!」」」

「えーい、まだそんな戯れ言を言っとるのか!みんなは一人のために一人はみんなのために。赤信号みんなで渡れば怖くない。人類皆兄弟。一本の矢より三本の矢、一人の不幸より男子生徒全員の不幸じゃあ〜!!」

教室は横島の風邪によって、横島VSクラスメイト男子全員の戦場と化していた。

絶対に横島は女子に危害を加えない事知っているため女子生徒は教室の端でこのやりとりを観戦していた。
「青春ね〜」
「そ、そうでしょーか(汗)」
その中でも横島と深い関わりがある花戸小鳩と机妖怪の愛子もこのやりとりを見ながら会話していた。
「でも大丈夫でしょうか?横島さん。もの凄くしんどそうですけど」
「確かにね。ちょっとやそっとじゃびくともしない横島君にしてはつらそうね」

そこに担任の教師が入ってきて、
「こら〜何をしとるんじゃ、お前らは!もうチャイム鳴っとるだろ、早く席につけ」

「「「ほっ」」」
「ちっ、あともう少しだったのに」
男子生徒が安堵の表情を浮かべ、横島は心底面白くなさそうにしている。


〜授業中〜


ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ

「おい、横島」

「ゴホッ、何すか?」

「どうにかならんのか?その咳は」

「無茶言わんで下さいよ。病人に対して、これでも、ゴホッ、我慢してるんですよ。ゴホッ」
(あ、あかん。さっきアホな事してせいでさらに悪化してしまった。マジでつらいぞ)

「う〜ん、しょうがない。今日はそんな体で学校に来た心意気に免じて、後の授業もすべて出席にしてやるから今日はもう帰って休め」

「ホントですか?先生!」
俺は感動して先生を抱きしめる。

「本当だ。本当だから離れろ!」
そう言って病人の俺を突き飛ばす。

「貴様、それでも教師か?教え子の苦しみを体で受け止めるのがほんまもんの教師とちゃうんか?」
俺は先生に詰め寄る。

「わかった。俺が悪かったから、早く帰って休め。なっ?」
先生は俺をなだめるように言う。

「ゴホッ、そうすね。それじゃあ失礼します」

「おう、早く治せよ」

俺が教室から出ていこうとしたその時

ガタッ

「待って下さい!」
背中から一人の女生徒が立ち上がり、俺を呼び止めた。

「はい?」

声の主は小鳩ちゃんだった。

「どうしたの、小鳩ちゃん。俺に何か用でも・・」

「私も一緒に帰ります。横島さんすごくつらそうだし」

「大丈夫。確かにつらいけど一人で帰れるからさ」

「いいえ、一緒に帰ります。そして私が看病します」

「えっ、そんな悪い「「「「「いか〜ん、いかんいかんいかんぞー!!!」」」」」・・よ」

「小鳩ちゃん、もっと自分を大切にするんだ!」
「小鳩、妊娠してからじゃ遅いんだよ」
「相手は横島忠夫なんだよ」
「小鳩、人生はこれからよ。投げ出さないで!」
「教師として可愛い教え子を飢えたライオンの檻に放つ事などできん!」
小鳩の発言にクラス中の男子生徒・女子生徒そして担任までもが反対する。

「ゴホゴホ、おまえらな〜、一体俺を何だと思っとるんだ!!!」

「うるさい、貴様の普段の行動が我々をこうしたんだ!」
「「「「その通り」」」」
クラス全員が頷く。

バンッ
「いいえ、絶対に看病します。お隣さんだし、それに小鳩は今まで横島さんに何度も助けてもらいました。今度は私が横島さんを助ける番です」
小鳩ちゃんが手を机に叩きつけて自分の意見を主張する。

「・・・小鳩ちゃん」
他のクラスメイトとは違う小鳩ちゃんの温かさに俺は少し感動してしまった。

「う〜む、しかし可愛い女生徒が男の部屋に一人で行くというのは・・・」
先生はまだ悩んでいる。

「じゃあ私が付き添うわ」

「「「「「「えっ?」」」」」

俺や小鳩ちゃんを含むクラス全員が声のした方を振り向くと
愛子が既に机を背負い一緒に帰る準備をしていた。

「小鳩ちゃん一人で横島君の家に行くのがダメなんでしょ。私が付いていけば万事解決よね」

「しかし・・・」

「決まりね♪それじゃあ小鳩ちゃん早く帰る用意して」

「は、はい」
小鳩ちゃんが急いで帰り支度をする。

「できました」

「よし、それではみなさんごきげんよー」
「さようなら」
「さ、さいならー」
三人でクラスのみんなに帰りの挨拶をして教室を出ていった。


〜帰路〜


「ホントに良かったのか?二人とも」
俺は余計な迷惑をかけたと思い、二人に声をかける。

「いいんです。小鳩は普段横島さんにお世話になってるお礼です」
「私はウサギさんが狼に襲われないように監視しなくちゃいけないから」

「おいおい、愛子まで俺をそんな風に思ってんのかよ」

「ふふふ、冗談よ、冗談」

「ちぇっ」

「本当はね、私も横島君が心配だったのよ」

「「えっ」」

「だってめったに病気なんかしない横島君が本当につらそうな顔してるんだもの。心配するわよ」

「そうですよね。私のあんな苦しそうな顔初めて見ましたよ。熱は計りました?」

「ごほっ、う、うん」

「何度あるの?」

「えっと・・・・度」

「えっ何度?」

「だから・・度」

「聞こえない!男らしくもっと大きな声で」

「わかったよ、52度だよ」

「ふ〜ん、52度・・・・「52度ーー!!」」

「・・・はい」

「何で生きてるのよ。普通なら歩けないわよっていうか死んでるって」
「横島さん、何でそんな超高熱が?」

「いや、うちの事務所に狐の妖怪つまり妖弧がいてさ。そいつの風邪の看病してたらうつったみたいでさ」
(まさかキスしたから、風邪がうつったなんて言えないよな)

「横島さんって優しいんですね」
小鳩ちゃんが感心した様子で言う。

「ははは、それほどでも」

「その妖弧って女でしょ。しかも可愛い!」
愛子が俺の方を指さしながら言う。

「ゴホゴホッ、な、何でわかったんだ?」
俺は内心ドキドキしながら聞き返す。

「だってそうじゃなきゃ、横島君が風邪をもらうほど熱心に看病なんかするわけないもの」
「それもそうですね」
小鳩ちゃんも納得して様に頷く。

(そんな、小鳩ちゃんまで・・まあ、的中してるけどな、野郎の看病なんか頼まれたってする気にならん)

「それでどのくらい可愛いんですか?」
「私とどっちが可愛い?」

「ゴホッ、そんな事より着いたぜ」

「まあ、いいわ。その事は看病しながらゆっくりと聞きましょう。小鳩ちゃん」
「はい」

(こりゃ、部屋に着いたらすぐ寝た方が得策だな)


〜玄関前〜


「ちょっと待っててね」

バタンッ

「どうしたんでしょーか?」
「さあ?」


ガチャ

「お待たせ、どうぞ」
「「お邪魔しま〜す」」

「「!!!」」

「どしたの?二人とも」

「横島君、この部屋のどこに私達が座る場所があるの?」

「その座布団の上だけど、ちょっと狭いかな」

「ちょっとどころの騒ぎじゃないわよ!足の踏み場もないじゃない」

「だって、めったに客なんか来ないから・・」

「まったく」
「まあまあ愛子さん、いきなり押し掛けた私達が悪いんですから」

「さすが小鳩ちゃん」
俺が小鳩ちゃんの優しい言葉に感動した。

「とにかく私と愛子さんで片付けますから横島さんは横になってて下さい」
「え〜私も?」
「当たり前ですよ。横島さんの看病するために来たのにこれじゃあ看病なんてとてもできませんから」
「・・・仕方ないか。ほら、横島君は布団に寝てなさいよ」
「お、おう。何か悪いな」

ぱたぱたぱた
ふきふき

「えっと、掃除機は・・・横島さん掃除機ってどこにあるんですか?」
「掃除機?掃除機だったら押し入れに」
「押し入れですね」
「あっ!小鳩ちゃん、ちょっと待って」
「えっ?」

ガラッ

ドサッバサバサバサッ

小鳩ちゃんの目の前に現れたのは『健全な男子のための本』だった。

「・・・・・」
「・・・・・」

二人がお互い黙って固まってるのを愛子が見て、
「どうしたの?あ゛っ」

横島の部屋を重苦しい沈黙が支配する。

(しまった!さっき無理矢理押し入れに詰め込んだ事すっかり忘れてた。それよりどうする?どう切り抜ける?考えろ、考えるんだ。何か、何かあるはず・・『実はこの本は親父の形見なんだ』って無理があるだろ!例え本当だとしても情けなすぎる。『いやあ、俺ドジだからさ、参考書かと思って買ったんだけど違ってたんだ』って間違うか!ドジっていうか救いようのないバカやん。ここは開き直って『これは僕の秘蔵コレクションさ』って開き直り過ぎやろ!一瞬で嫌われるわ・・・・ダメだ高熱で全く良い考えが浮かばん)

俺が足りない脳をフル活用して打開策を探しているその時、小鳩ちゃんと愛子の口が開いた。

「愛子さん、燃えるゴミがたくさんあるんで捨てに行くの手伝ってくれませんか?」
「オッケー、すぐ行きましょう」

そう言って俺の宝物たちがひもで縛られていく。

「これでよし!じゃあ行きましょうか」
「行きましょう。行きましょう」

「ちょっと待っ「「何か?」」・・いや、何でもないです。グスッ」

「そうですか。それじゃあ」

バタンッ

二人が出ていった後、俺が涙で枕を濡らした事は誰も知らない。

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