#挿絵企画SS 『I'm so happy』
投稿者名:SooMighty
投稿日時:(04/ 2/27)
前略、愛する父上へ。元気でやっていますか?
#挿絵企画SS 『I'm so happy』
草葉の陰か天国かどこかにいる父上。
シロは一応元気でやっております。
今の拙者の近況をあなたに届けたいです。
人狼の里を出てどれほどの時が過ぎたでしょうか・・・
広い世間に出れると聞いた当初は非常に嬉しかったです。
ーーーーこの狭い犬小屋から飛び出せる。ーーーーー
正直拙者はこの隔離された里が嫌で嫌でしょうがなかったんです。
何も世界を知らないで飼われたワン公のように同じような日々を繰り返すだけ。
そんな日々にはウンザリしてました。
ここでやる事と言えば修行してまずい飯を3回食って寝るぐらいのモンでござったからなぁ。
本当に犬とやってる事が変わらないです。
だから美神殿達がきた時に拙者は必死に連れて行ってくれと頼んだでみました。
この犬小屋から抜け出すまたとないチャンスだと思って。
一緒に来てもいいということで、
(変な女狐も一緒だったがそんなのは大した問題ではないです。)
拙者はようやく人生という扉を開けることができたんだから。
でも実際はこの世界も犬小屋となんら変わり映えしないという事を
思い知りました。
最近は霊の数も増大していて、やりたい事をやるなんて事はできないです。
仕事に追われ、飯食って、疲れて眠る。
里にいた時と同じです。
何が変わったのでしょうか?
世間体を気にしてファッションには気を使うようになったかな?
はみだしている人間には容赦なく世間は笑いものにしますから。
新宿、渋谷、青山。
そんなところのブッティクには結構行くようになりました。
流行のファッションを着て、空っぽの自分がばれないように
見た目だけでも飾る。
父上が見たら泣くかもしれません。
あなたは何も考えないで回りに流されるのを誰よりも嫌う
人でしたからね・・・
あなたが言っていた「回りに流されて正しい事を見失うな。」
でも、父上、あなたにはわからないでしょう。
回りからはみだして白い目で見られることの寂しさが。恥ずかしさが。
リアルの拙者なんてこんなもんなんです。
みんな同じような格好をしているからこれでいいんですよ。
里を飛び出した時は世間を乱す悪霊どもを蹴散らして、
正義のゴーストスイーパーとして名を馳せるという夢がありました。
父上もそのつまりで鍛えてくれたんでしょうし。
広い世界でライバルと切磋琢磨して実力を磨く、ありがちなガキっぽい
誇りも持っていました。
犬小屋にはそんな「夢」なんてものはどこにもなかったでござる。
犬小屋にはそんな「誇り」なんて必要なかったでござる。
現実は切磋琢磨なんてカッコイイもんではなく、弱い犬同士が
必死にキャンキャン吼え合ってつまらない人生をかけてチョイ役の
座を取るために争ってるだけでした。
父上。よく「おまえは誰かの為に剣を振るいなさい。」なんて
言ってましたっけ?
それを聞いたときは本気で誰かの為に、弱いものの為に力を使おうと思っていたでござる。
だけどごめんなさい父上、無理でした。
だって自分自身が弱いんだから、自分のことで手一杯です
人のことにかまけてる余裕なんか無いです。
そんな綺麗事に踊っていられるほど純粋では無くなりました。
父上はこんな拙者を見て不甲斐ないと思うでござろうか?
でも父上。あなたはあの犬小屋でそのまま世界を知らないで死んだから
わからないだけです。
世界はあなたが思ってるほど綺麗ではありません。
ましてや強くもなかったです。
弱い犬がほとんどです。
拙者みたいなね。
だから拙者は自分の為にしか剣を振るつもりはないです。
同僚の青い髪の女の子は「私は誰かの為に生きる人生もいい
と思います。」なんて言ってます。
踊ってるのか踊らされてるのか踊らされてるのを見ない
様にしているのかどうかはわからないでござるがこれが父上のいう
「強さ」なんでござろうか?
いや別にこの人のことは嫌いではないでござる。
自分には無い純粋さを持ってるのは羨ましいでござる。
ただ、本当にそれがあなたのいう「強さ」かどうか知りたいだけです。
本当に「強い」ってなんでござるんでしょうか?
教えてほしいでござるよ・・・父上。
父上、あなたは「夢や目標に向かって生きろ。」とも言いましたね。
みんな自分の事をわかってるから出すぎた真似はできません。
夢のない世界なんです。
レールから外れたら「孤独」というこの世で最もタチの悪いものが襲ってきます。
拙者も同じでござる。全然威張って言うことじゃあないですし、
慰めにもなりません。
今をとりあえず生きて、食い扶持を得る。
それだけで必死です。
父上、あなたは「伴侶にする相手は信頼できる人にしろ。なんせ一生その人と
付き合わなければいけないんだからな。」って言ってましたね。
拙者は環境がガラリと変わり慣れない生活で情緒不安定な時期がありました。
それに1人の男の人を除いてはあまり親しくもないし、寂しくてやるせなかったです。
そんな時に優しくされたのがその男の人です。先生と慕っている人です。
私は簡単に恋に落ちました。寂しかったってだけで。
その人もなんか恋人を戦争で失ったみたいで寂しかったらしいです。
今は先生と同棲してます。
お互いのスペースを埋めるような傷の舐め合い。
信頼関係とは程遠い恋愛。
こんな拙者や先生を父上は許してくれないかもしれませんが、
独りにでいるよりは遥かにマシです。
父上と母上を失った「孤独」という犬小屋。
あそこにだけはもう2度と行きたくありません。
拙者だけではなく誰だってそうだと思います。
こんな拙者を許してくだされ。
まだありましたっけ?
「相手の顔色を伺って生きるような奴には死んでもなるな。」
・・・無理ですよ。無理です。
だってオーナーである美神さんの機嫌を損なって放り出されたら
拙者は生きていけません。
明日の飯にも困ります。
まだこの若さで死にたくはありません。
本当にごめんなさい。
父上の言っていた事何1つ守れなかったです。
でもあなたの言っていた人生や幸せは所詮ちっぽけなもの
だと思います。
なんせ拙者なんか先生と2人で散歩するだけでとても楽しい気分
になってしまうんだから。
自分でもそんなことで有頂天になるなよと思いますが、この尻尾は
嘘をつけないんです。
犬小屋の生活はたまにぶっ壊したくなります。
いや、犬小屋に限らず、この世界全てを。
でも壊せるものなんかシロにはないんです。
結局拙者には飯を食って寝て明日に備えるぐらいしかやれることはないんです。
不満を言えばキリがないです。
昔の痛みの無い犬小屋が懐かしくなることもあります。
こんな自分を恥ずかしく思うこともあります。
他にも給料上げてほしいとか、もっといい肉が食いたいとかあります。
それでも1つだけ確かに言えることがあるんです。
シロはそれなりに元気にやってます。
と。
だからこれから先も草葉の陰で見守ってやってください。
こんなふつつか者を。
END
今までの
コメント:
- 斑駒さんへ
とりあえずチャットでの約束果たしました。
重いというよりは痛いって感じですが、割とスンナリ書けました。
企画の雰囲気とはかなりズレてますが、読んでやってください。 (SooMighty)
- む、渋い。(挨拶)
ヨコシマンです。
最近のシロニストの方々とは全く違う切り口。僕こんなの大好き(笑)
いえ、今までの話が嫌いと言うわけではないですよ。
なんと言うか、甘い物を食べた後は渋いお茶を飲みたくなる、という感じでしょうか。
一つだけはっきりと言える事は、「貴方の才能に嫉妬します」(ぇ
あはは、冗談です。・・・半分は。(何
う〜ん、一度SooMightyさんとチャットでお話を聞いてみたいなぁ・・・。え・・・駄目?(笑) (ヨコシマン)
- 初めまして、志狗と申しますm(_ _)m
反対ですが、個人的な好みの部分も含まれているので、あまり重い物ではないです(^^;
反対の理由は、主に説得力を感じ切れなかったからです。
このように挫折に屈する「先」がないとは言いきれません。
ですがここに至るまでの過程がSooMightyさんのお話の中にも描かれていなく、自分でも思い描けませんでした。
原作の姿が全てではないにせよ、そこから思い難い姿に変えるにしては納得し切れませんでした。
今回のお話に対し反対というだけです。シロがこのように変わるまでの挫折、気概の喪失を濃厚に描かれてしまえば賛成したのかも、と思います。
希望挫けた姿、変わってしまった姿を描くお話としてはもの凄い物でした。
怖い可能性に気付かせてくれたお話に感謝を。投稿お疲れ様でしたm(_ _)m (志狗)
- どうも〜ヒロです〜
う・・・ん・・・実を言えば最初は僕も中立にしようか、反対にしようか迷っていました(申し訳ございません)
まず自分の故郷を犬小屋と皮肉るのなら、狼であることに対して原作のシロはあそこまで主張しないかな〜と(謝)
後はシロはGSという仕事は誇りに思う面が強いんじゃないかな?と。やはりここは過程が多少なりでもあればいいかな〜と(汗)
それにシロはそれなりといえばまぁそうなんですが、結構事務所の方とも仲良くお付き合いできたかな〜と(ごめんなさい)
でも賛成した理由としまして、尻尾は正直なところです(爆)いい肉食いたいんです!!そういえば草葉の陰といえば、原作でもいたな〜(笑い)
であであ〜これからも頑張って下さいませ〜 (ヒロ)
- 遅いレスですいません。
>ヨコシマンさん
はは、冗談半分でも凄い嬉しいです。
僕もあなたの才能は欲しいですよ(笑)。
チャットではまた話しましょう。
>志狗さん
あれ?「この風に吹かれながらという作品にコメントしてくれましたよね?
それはともかく読んでくれてありがとうございます。
怖い・・・ですか?
でもこの状態のシロって言ってしまえば並みの人間止まりだと思うんですが。
そんなに悲観する状態でもないんですよね(笑)
>ヒロさん
原作のリスペクトが何一つ無くてごめんなさい。
それでも読んで感想をくれたヒロさんに感謝です。 (SooMighty)
- こんちわ、すーさん。浪速のペガサスです。
まず始めにこの作品で思ったことは渋さ、というかほろ苦さです。
自分の住処をあえて「犬小屋」と称したシロ。でもそれは自嘲と誰もいない事への悲しさから来たもので…。彼女の傷は、同じく傷ついた男との傷の舐めあいによって誤魔化されて…。
結構シロニストさん方からは批判来そうですけど俺はこんななかなか作品すきです。
ではお疲れ様でした。
|д゜)。O(…でも冷静に考えるとシロって精神年齢小学生なんだよな…)←マテ (浪速のペガサス)
- >ペガサスさん
コメントありがとうございます。
まあ結局の問題はシロ自身にあると思うんですけどね。
でもその日暮らし楽しく生きるのもいいのかもしれません(笑) (SooMighty)
- 妙にニヒルな発言がどうもシロのイメージに結びつかないんですよね。
「狼」であることを確固としたアイデンティティとして持っているシロが、
ここでは飼われていることを自嘲する「犬」としか映りません。
そのイメージを繋ぐしっかりとした筋道があればまた違ったかも知れませんが。 (林原悠)
- >林原悠さん
いや僕も過程は書きたかったんですけどね。
17Kの範囲でそれだと終わらす自信がなかったですし、
あえて短くして「軽さ」を持たせたかったってのがあります。
いや、ごめんなさい。嘘です。
もっと今度からはちゃんと作ります。 (SooMighty)
- わざわざ掘り起こして入れるのは反対票・・・スミマセン(汗)。でも私の反対票は「本当にそんな結末だったらヤダなあ」が目安となってるので特に気にしなくて大丈夫です。
しかし、だからこの作品をSSとしては絶賛出来るかと言うとまた別に問題があるわけで・・・。
「シロがそんな風に物事を捉えるだろーか?」「その挫折に至る経緯が見えて来ない」と言ったキャラ像との違和については上に言及されていますが、今回私はリアルタイムでの指摘を避けた、「単にシロと限らない、ある挫折し堕落した人物」の描写としても感じた違和感についてコメントしたいと思います。 (フル・サークル)
- (続き)
まず一つ目にあげたいのが、「孤独」を恐れる弱さの描写について。
周囲に同調する弱さと言うのは万人共通の根源的な孤独への恐れと言うよりは、元から主体性がないか、あるいは自分の所属する集団内での「孤立」を恐れてのものではないでしょうか?「孤独」の恐怖に屈した人が取る逃げ道はまた別の形を取るように思われます。
シロに元からの「自分のなさ」が見られないのは勿論の事、後者と見た場合も彼女が何からはみ出す事を恐れ何に帰属したがっているのか不明瞭です。
彼女が元から属していたと言えるのは結界で隔てられた「犬小屋」の人狼の里だけであり、人間社会にも美神事務所にも中途参加のアウトサイダーでしかありません。彼女が何かを諦めるとしたらむしろ、「はみ出さずに埋没する」事をこそ諦める事になるのでは。 (フル・サークル)
- (続き)
二つめに「こんな理想や目標があったけど、現実がこうだから放棄した」と言う挫折の論理について。シロを持ち出すまでもなく、普通人としてさえも折れるポイントが低すぎます。
もし、このポイントが違和感なく当てはまる人がいるとすれば、それは「初めから理想や目標と言える望みを持たず、目先の事をこなす事だけ考え何かを外的要素に期待しながら生きてきた」人ぐらいです。
当面の生活基盤のために雇い主の顔色を読む事をプライドを持てない理由として挙げる、生活に追われ低レベルの争いに巻き込まれる事を流される理由として挙げると言うのは元々「何か」を持っていた人の精神構造として「普通」には思えません。(まして、里の決定すら翻し仇討に出る程の個人主義発想の持ち主なら尚更です) (フル・サークル)
- (続き)
他にも思い当たる点がありますが、細かくなり過ぎたり重複するかもしれないので割愛します。
上の二点をまとめるなら、理想やプライド、目的や主義などの「自分」を最初から持っていない人の妥協や空虚感の論理を、「持っていたけど捨てるに至った人」の挫折として当てはめてしまったが故の違和感だと言えるかもしれません。
今頃になってこんな話を持ち出すのは、今までまとまらなかったからでもありますが、Sooさんの人物描写で今に至るまで残っている問題点の様に思えたからでもあります。
ここまで長々とすみませんでした・・・m(__)m
(終り) (フル・サークル)
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