ザ・グレート・展開予測ショー

こえ。(傘のおれいSSです)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(04/ 2/26)

今、自分をたたせているのは、意地と誇りだけ。
今、自分を支えているのは一本のなんでもない傘だけ。
生きて帰るんだ。
強く、そう強く思った。
いままでだって生きていたいと思っていた。
けれど、それは死にたくないということで。
積極的に生きたいと思っていたわけではないのだ。
ただ、死ぬのは嫌だとおもっただけ。
身を呈して自分を生んでくれた人がいるのに。
身を呈して守ってくれた人がいるのに。
それなのに、そのひとが命をかけて守った自分が死んでどうする。
いままで、自分を支えているものはそれだけだった。

それが、自分にとって最大の生きる目的であり理由だった。
だけど、初めて思う。
生きたいと。
自分の為にいきたいと。
初めて思う。



────こえ。








雪乃丞は、特別人を羨むという感情とは無縁だった。
胸をかきむしられるほど切望しているものがあったが、それをもっているほかの人間を羨ましいと感じたことはなかった。
なぜならば、それは他の人間のものだから。
欲しいと思うぬくもりはあったけれども、それこそ気が狂いそうなほどほしかったものだけども、それはぬくもりであるならば何でもよかったわけじゃなかったのだ。
雪乃丞は、自分を生んだ母親を、自分を育てた母親をなによりも大切だとおもっている。
母親「たち」でしかありえないぬくもりしかいらないのだ。
他の人間の与えてくれるものなど、欲しいと思ったことが無かった。
そして、母親が生きていた路がそれならば仕方ないとおもっていた。
その人のまま生きて、そして自分を置いていったのなら。
仕方ないと思っていた。
なぜならば、彼は母親がすきなのだから。
自分に溢れるほど、愛情を注いでくれたひとたち。
それはよくわかっていたから。
だから、これは我侭でしかないのだ。

(おいていかないで。)

膝をかかえて、そう呟くのはただの我侭なのだ。


「なんかご機嫌だなあ?」
と、言うのは親友(だと勝手に思っている)横島。
ひょいっと顔を覗かせそんなことを言う。

「そうですノー」
屈伸をしながらGS仲間であるタイガーも言う。

「い…いやそんなことは…」
その言葉にはっと声を詰まらせ、顔を赤らめる雪乃丞。
ちなみにここは、仕事場所である廃ビルである。
唯今、結界に守られているがあと数分でそれもきれる。
どうやら地脈の関係で、この廃ビルに浄化しきれない霊力が溜まっており悪霊の巣と化しているのである。
悪霊を叩きのめしつつ、それの核となっているものを壊す。
これが今回の依頼だ。
今も、すこし霊感があるならばわかるであろう暗い淀みが視界いっぱいに広がっている。
さして難しいというわけではないが、いかんせん悪霊の巣と化している場所である。
術者の体力勝負となるであろうことは予測でき、美神の発案により、体力のありあまってる横島や雪乃丞やタイガーなどへの勉強も兼ねてここの場所をまかされたのである。
(まあ本当の理由は精霊石の競売と重なっただけであろうが)
そんなこんなで、雪乃丞、横島、タイガーとの面子でいるわけである。

「ふーんっ」
きらんっと目を不穏な色に輝かせ横島。
これは、である。
この万年ぶっきらぼおな表情しかしない雪乃丞がこんな風に顔を赤らめるなんて──
何かある。
きらっと隣にいるタイガーと
『あとで締めてでも聞き出すぞ!』
『まかせんしゃいっ!』
のような見事なアイコンタクトを示しもてない野郎二人が友情を確かめた瞬間(?)
それは訪れた。


ぞっとするそれ。
ばっと雪乃丞はタイガーへとめがけて腕を伸ばした。
本来ならば、タイガーの反射速度をもってすればそれは避けられたはずである。
が、雪乃丞のことで二人が会いコンタクトをしていたせいで遅れたせいで、硬直したままそれ──怨念(霊力といってもいいだろうか?)の固まりを受ける直前雪乃丞の鞄が、目の前に来た。
が、その瞬間雪乃丞の表情がかすかに歪みタイガーを庇うはずであった鞄がいつの間にか腕へ。

「な……」
思わず、絶句するタイガー。
それは、ありえない事であった。
なぜならば、雪乃丞の腕が、鞄を庇ったのだように動いたのだ。
ぶしゃっと
ひしゃげた音をたてて腕の一部が抉り取られる。
血しぶきが、舞う。
黒いコートに変色する。

なんでこんな事を──
きっと余裕があったならばきっとタイガーはそういったであろう。
胸倉を掴んで聞いたであろう。
そうして、ありがとうといったであろう。
が、今の三人にそんな時間はなかった。

ばっとそ次の瞬間第二段がくる。

「つうっ」
顔を顰め雪乃丞。

「自業自得だなあ」
口調だけは軽やかに、けども手に浮かぶ文珠に『治』の文字を浮かべ横島は言う。

「いらーぞそれ」
素早く、霊力の鎧で傷口をコーテイングし、雪乃丞。
これで、なおすとまではいかないけれども、一応これ以上酷くなる事は防げる。

「あのなあ…」
しゅっと文珠を持ってないほうの手には刃を浮かべ横島。
確かにそれ以上傷がひどくなることはないが、血は流れつづけるのだ。
どう考えてもよいはずはない。

「これくらいなんでもねえよ」
それよりも、切り札となりえる『文珠』は最期まで残しておかなければならない。
と言外に雪乃丞は言う。
何しろ横島は、ほかの仕事場からの直行で文珠の持ち合わせが一個しかないのだ。
たった一個のそれを、こんなことに使うわけにはいかない。

「しらねえぞお」
あーあっ大げさため息をつき横島。

「わかってるさ」
自業自得だということくらい。
本当は、鞄を犠牲にして、タイガーを助けるつもりだった。
中にはいっているものは、愛着はあるけどもそんなに、大したものははいっていないから。
だけど、今日だけはそれができなかったのだ。
中にはいっている、傘。
何の変哲も無いだけどなによりも大切なものなのだ。
それが壊されるのだけは、許せなかった。
第一、こんなものを仕事場にもってくる事自体おかしい。
ただ、明日のことを考えていたら。
明日会えることを、傘のお礼に映画でもいけることを約束したから。
嘘ではないと、本当だと。
ずっと確かめていたかったのだ。
仕事にまで持ち込むことじゃない。
内心舌打ちしながら、それでもプロの目で雪乃丞は目の前の悪霊へと向かった。


─一時間経過。
悪霊の数が減らない。
横島は、文珠を使うタイミングを必至で掴もうとしている。
そして頭にはタイガーのひっきりないテレパシーでの指示。
目の前にくる、悪霊を払う、そして更に二体下から向かうようにくる悪霊をざんっと音をたてて飛ばす。

くらくらと、目が回る。
ひっきりなしにくる悪霊と、そしてだくだくと流れる血。
異常なまでに淀んだ空気。
常に動く事を要求される体。
それでも、雪乃丞はタイガーの指示に数秒の遅れも無く行動していた。
それは、彼のプロとしてのものか、いきたいとおもう気持ちか──

初めて交わした約束のためか。


「みつけたノーっ」
タイガーの声が歓喜となる。

「まかせろっ」
そして横島のざっと手のひらで光るそれ。
その言葉を聞いた瞬間。
雪乃丞は意識をなくした。




そして次の日。
日がもう少しで真上にこようとする時刻。
弓は、滅多にしないおしゃれというものをし約束の場所にいた。
時間はすこしばかり早いけどそれはまあご愛嬌だ。
空は、晴れ。
わくわくしながらそれでも、表情を嬉しそうな表情をだしてはいけないとおもいつつも緩む口元を抑えきれない。
弓は、雪乃丞を待った。

日が、暮れるまで







そうしてどっぷりと日も暮れた夜。
腕に包帯をまいた雪乃丞はその場所へいた。
当然のごとく弓はいない。

「……しかた、ねえよな」

ぎゅっと傘を握り締め、言う。
病院で目が覚めたのがつい三十分前。
雪乃丞は、時間をみるなり病院着のままここへときたのだ。
約束の時間から六時間以上はたっている。
こんな時間まで待ってる人などいない。

生きて帰れば、逢えるとおもっていた。
………けど、あえないこともあるんだな。

「自業自得か」
口を歪め雪乃丞は言う。
時間に遅れた自分が悪い。
だけど、逢いたかった。


ふと、目の前で待ち合わせをする人が羨ましいと思った。
約束を破る事などないひとが。
──こんなふうに羨ましいなんておもったことはなかったのに。
子供のような嫉妬ならしっていたけども。



「なにが、自業自得ですの?」
一瞬幻聴か?と思った。

「え?」
だけども目の前にいるひとは確かにそのひとで。

「なんで……」
声が震える。

「……こんなことだろうと思いましたわ。」
右手を差し出しながら弓。
その右手には携帯電話がある。

「……?」

「貴方のですわよ。いっときますけどプリペイドですからね!まったく約束延期するならするって連絡ならしなさい」

「……俺の?」

「ええ」

「……また、逢うのか?」

「もちろん私は、おごってもらうのですから」
ただ一度の約束の為に
プリペイド携帯まで買う─この意味を深読みするなら
いいのだろうか?
このひとは自分に合いたいとおもってくれているのだろうか?
弓の怒ったような言葉に雪乃丞は、じんわりと熱くなる。
そして思う。
このひとになら、たったひとりのこのひとになら我侭を
ただの我侭を口にしても許されるかもしれないと。


言ってもいいかもしれないと。
たったひとつの我侭を。



おわり



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