ザ・グレート・展開予測ショー

長編・GS信長 極楽天下布武!!(12)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 2/25)

我在る故に毘沙門在り

人の落ち目を見て攻め取るは
本意ならぬ事也















四聖獣は敗れた。
魔都は,城壁を失った。
残るは――



「……では,参ろうか」
僧体の男が言う。
「マジで……?」
「マジじゃのう」
少女と幽霊が,緊張した面持ちで言葉を交わす。
四条大路。
対峙するは,オカルトの名門植椙家の当主・輝虎とヒナタ,天回のおキヌちゃんチーム。
今現在,ヒナタに霊的戦闘能力は無い。ヒカゲも似た様なものだ。
天回が居るからヒナタになる事は出来るが,彼女にしても扱うのは明らかに戦闘用ではない“ネクロマンサーの笛”だ。
「ぜ……絶望的じゃん?」
「じゃのう……。降伏した所で状況が良くなる事は無さそうじゃし」
「そうだ。天回,薬!あんた,あの変な薬持ってないの!?」
「……持ってる訳なかろう」
「どっ,如何するのよぉ……」
「知らぬわ」
「人事みたいに……」
「儂はもう,死んどるからのう」
「この……っ!」
埒があかない。
「で,でも,その私なんかを相手にするんだから,実はあのおじさん結構弱いのかも……」
「そうかのう」
「そうだよ,屹度!ほら,何か塩とか撒いてるし」
「何故……?と言うか彼奴,上杉謙信に似てる様な……」
だからって,塩は撒かないだろう。
「ふふ……塩には,場を清める効果が有るのだよ」
それ迄,黙って漫才を聞いていた輝虎が話し掛けてきた。
「いや,だから何で今撒くの……?」
「……この塩は特別なものでな,非常に強力な除霊効果が有る。故に,大量に撒けばその地は心霊的空白地帯となる。そして,短期間で浄化された空間は逆に悪霊達を吸い寄せる――」
「博多の塩?」
「いや,赤穂の塩だ」
「……まあ,そんな事如何でも良いけど。それで?」
何気に此奴も度胸有るな,と天回は思う。
まあ,分かっていた事だが,一歩間違えば命を失うかも知れない状況で呑気とも言える強気っぷりである。根っからのポジティブシンキングと言うか,兎に角行動すれば何とかなると思っているのだろう。
少しのミスで死に至る状況において,前向きなのは生き残る為の重要なファクターである。それはイコール生きる意思と言い換えられるからだ。
比叡山での自分との戦いではそれは味方の足を引っ張る事にしかならなかったが,今回は如何か。
「詰まり――」
輝虎が懐から横笛を取り出した。
「私も,死霊使いと言う事だ」
ゴォッ!
塩を撒いた所に亡霊達が群がってきた。それも,既に理性を失い,人としての形をも無くしてしまった,所謂“悪霊”ばかりである。
「織田信長と一緒に居る少女と言えば,君は時読ヒカリ君だろう。君は優秀なネクロマンサーと聞く。一つ,お手合わせ願おうか」
……取り敢えず,良い方向に働いた様だ。完全に,運が良かっただけだが。
「だって。天回」
「ふぅむ」
敵わんな,この娘には……。
「行くぞ」
バチィ!
天回の霊波が一つの肉体を共有するヒナタとヒカゲを統合し,ヒカリを呼び覚ます。
「う……つ……」
「起きたか,ヒカリ」
「くぅ〜……」
「事情は分かっておるな?儂の術では短期間しか統合状態を保つ事は出来ん。手早くすますのじゃぞ」
「どうせだったら,日吉の居る時に出して欲しかった……」
「おい!」
「わ,分かってるよ。真面目ねぇ,もう」
「ぶつぶつ言っとる場合では無かろう」
「分かってるってば。じゃ,やるだけやってみるね」
そう言って,ヒカリはネクロマンサーの笛を取り出した。
拙いかもな。と天回は思った。
人生万事塞翁が馬。先程は幸運と思われたこの展開は,もしかしたら実は最悪のシナリオなのかも知れない。
ヒカリには,ヒナタにもヒカゲにも無い,ある重大な欠点が有る。
諦め易いのだ。
精神の駆け引きとなるネクロマンサー同士の戦いで,この弱点は致命的なものとなりかねない。
「もう少し積極的にやらねば死ぬぞ……」
「努力してみる」
「左様か……」
自己の存在がひたすらに不確かな彼女が,刹那的な思考を持ってしまったとしても,それは無理からぬ事であろうか。
彼女は,自分の悲劇的な運命に酔う。そして,自己犠牲と言う少女らしい薄甘い恋愛表現に酔う。相手が,それを望んでいるか等は考えずに。
それ以前に,自分は何でこんな事しているのだろうかと,天回は真剣に悩んだ。
「……そろそろ良いか」
輝虎が訊いてくる。
「あ,はい」
ヒカリも笛を口元に持っていく。

ピュリリリリリリリィィィ〜〜〜〜……

二本の笛の音が,辺りに響いた。
「!」
「!」
「!」
悪霊達が次々とそれに反応し,そして……自由を奪われていく。
嘗て人間であった“それ等”は,今は只の武器に過ぎない。この,余り意味も無い一時の戦いだけの。
ゴォォッ!
霊団――その場に集まって来た無数の霊達が半分づつに分かれ,衝突し,鬩ぎ合う。
バチバチバチッ!
雑魚浮遊霊とは言え,これだけの数が集まれば相当な霊圧となる。それ等がぶつかり合い,震えた場の空気はスパーク現象迄起こしていた。
「……」
「……!」
笛を吹くには呼吸が必要だ。故に,一瞬でも気を抜いたら敗北となるこの勝負,必然的に息が切れる迄の短期決戦となる。
「やはり……拙い」
天回は呟いた。
敵の技術は素晴らしいものである。既に霊体が安定し,物を触れる迄に変化した自分でさえ,気を抜けば影響を受けてしまいそうだ。
対してヒカリは,その点は全く負けている。彼女とてこの身体となって本の数日しか経っていないのである。ネクロマンサーの笛が吹けたのも,本人の資質と言うかヒナタとヒカゲが統合した分だけ霊力が高いと言うだけの話だ。一足す一は二なのである。
詰まり,彼女は言わば勘だけで吹いているのだ。勝ち目は無い――。
「……」
「〜〜〜〜〜……」
……それ以前に肺活量の問題があった。ヒカリは,既に赤い顔で目を回している。
「これは負けかな……」
しかし,何故敵はこの様な戦いを挑んだのであろう。彼程の力の持ち主なれば,もっと簡単に始末する方法は幾らでもあった筈だ。
只の酔狂か,それとも――。
ヴゥバッ!
目に見えてヒカリが押され始めた。
先程迄はヒカリに操られていた悪霊達迄もが,ヒカリの身体に群がって行く。
「〜〜〜〜〜!?」
悪霊達に鼻を塞がれたヒカリは,最早息継ぎをする事も叶わない。
「〜〜〜〜〜〜〜…………―――」
立ったまま,失神した。
「死んだか……」
天回は,お手々の皺と皺を合わせた。
「死んでないわよっ!」
ゴッ!
突然,ヒカリに群がっていた霊達が弾き飛ばされた。
「何じゃ?」
「へにゃ〜……」
ドサッ……
解放されて倒れたのは,ヒナタだった。
そして,その上には霊体のヒカゲが浮かんでいた。
「……幽体離脱,か?」
「そう言う事。魂は昔と変わってないみたいだから,霊体になれば昔と同じスキルが使えるわ」
「て,お前は攻撃系の術は持っていなかった筈では……」
「応用よ。妖術に対する抵抗力のね」
「さいで……」
ゴッ!
「!?」
突然,場が強烈に浄化された。
「グギャアアァァッァ〜」
「アウアゥィアァァ〜」
「ギヒィィフィイィ〜」
断末魔の叫び声を上げ,哀れな亡霊達が天へ登っていく。
「な,何じゃ……?」
「あの人がやったの……?」
前方で印を組んでいる輝虎を見る。かく言う二人も,危うく浄化されてしまいそうな程強力な除霊術だった。流石は,一流のゴーストスイーパーと言った所か。
……バタッ
が,次の瞬間輝虎が倒れた。
「な,何……?」
「さあ……」
ヒカゲは取り敢えず身体に戻ると,気絶しているヒナタから意識(主導権)を奪い,輝虎に駆け寄った。此処等辺,藤吉郎の影響だろうか。
「一体何が……」
輝虎は,胸を掴んで蹲っている。
「発作だよ」
「発作?」
「いかなGSでも病には勝てない……。死の病を患ってみてから,自分が何も為していない事に気付いたのだよ」
「……?」
輝虎はヒカゲに向かって,訊いてもいない身の上話を話し始めた。
「儂に有るのは名門に生まれたと言う血脈の才だけ……。個人としては,何一つ事を成してはいない。故に,死ぬ前に一旗揚げねばと思ったのだが……」
「はあ」
「……」
「――え?一寸……。……」
天回が飛んできた。
「如何した?」
「死んだ……」
「そうか」
「……私に言い訳したって,仕方無いのに」
「そうだな」
「ねえ……」
「ん?」
「これって,日吉の役に立ったかな……?」
「さて,な。何とも言えぬわ」
「……気ぃ使ってくれたって良いじゃない」
「ふん……」
「信長様は,もう先行っちゃったみたいね」
「ああ。……如何する?」
「そうね。如何しよっかなー……」
見えない未来……か……。



朱雀大路。
「ふう……」
「あら。お帰り,秀家君」
「めぐみねーちゃん……。こりゃ又た,派手にやったね」
「ふふ。これが魔女の力よ」
「……一寸恐いよ,ねーちゃん」
そんなほのぼのとした会話を楽しむ雨姫蛇秀家と万千代めぐみの足下には,累々と気絶した『魔流連』の下っ端構成員達が倒れている。
「にーちゃんは何処行ったんだろ」
「さあ……。あの植椙さんと言う方と連れだって何処かへ行ったのは見かけましたが」
「大丈夫かなー。景勝のねーちゃんも,本気出したらかなり強い人だからなー」
「ふふ。豊臣さんは,もっと強いですよ」
「なら良いけど……。にーちゃんが死んだら,僕は如何すれば……」
「そんな心配,する必要は有りませんよ」
「!?」
突然割り込んできた声と霊圧に,二人は同時に振り向いた。すると,其処にはキリスト教の僧服に身を包んだ男が柔和な笑顔を見せていた。
「義鎮さん……!」
「知ってるの?」
「凡艫義鎮(おおとも・よししげ)。『魔流連』の幹部メンバーの一人だよ。プロテスタントの牧師さんで,法名は『ソウリン』て言うんだ」
「へぇ。牧師……さん」
めぐみは,魔女としてキリスト教には良いイメージを持っていない。まあ,それは勿論カトリックの事であるし,神父や修道士だからと言って即,人に悪感情を持つ様な人間ではないが。
「秀家君,残念ですよ。君が『魔流連』を裏切るなんてね」
「……御免なさい,義鎮さん」
「今なら未だ間に合います。主に許しを請い,我々の元へ戻ってくるのです」
「それは出来ない」
「ほう」
「僕は,一緒に居たい人が出来たんです」
「……残念です」
そう言うと,義鎮は胸のロザリオを握った。
「では,傍らの悪魔の手先と共に永遠なる暗黒の淵に沈みなさい」
ゴッ!
ロザリオに霊気が収束し,槌の形を成す。
「神の鉄槌を喰らいなさい!」
瞬間,二人の視界から義鎮が消えた。
移動したのではない。一瞬の内に,文字通り“消えた”のである。
そして次の瞬間には,めぐみは後頭部に鈍い痛みを覚えていた。
「あ……!?」
ガン!
朦朧とする意識の中でその大きな音だけが聞こえ,数瞬の後には秀家と折り重なって倒れていた。
「痛たたた……」
「な,何なの?あの人」
「一言で言えば……“サディスト”だね!」
「いや,そう言う事を訊いてるんじゃなくて」
「負けたら楽には死なせてもらえないよ?特にねーちゃんみたいな美人な女の人はね」
「じゃなくて」
「ああ……。あの人はテレポーテーション(瞬間移動能力)を使うんだ」
「テレポート!?」
瞬間移動は希有な能力である。時間移動程ではないが,時間と距離を歪ませるのだ。類い希等と言う言葉では足りない程の,才能とセンスを要する。
そして,敵に回せばこれ程厄介な能力もない。勿論,酷く特殊な能力であるが故に霊力の消費も激しく,そう何度も使えない筈ではあるが。
「……兎に角,こっちは二人だ。片方を攻撃した時に,もう片方が狙うとか」
「テレポートだろうが何だろうが念を使うんでしょ?念を込めてる間に動きを先読みしてってのは無理かしら」
「う〜ん」
「悩んでる暇は,有りませんよ?」
そう言って,再び義鎮が消えた。
「くっ!」
「無駄です。猫又の超人的な脚力を持ってしても,私からは逃れられませんよ」
ゴキィ!
又た,鈍い音が響いた。
「がっ……!」
ドシャア!
秀家の身体がコンクリートの地面を滑った。
ゴッ!
其処に,更に槌が喰らわされる。
「ぐ……はっ……!」
「ふむ,未だ気を失いませんか。流石に人妖の丈夫さには目を見張るものが有りますね」
義鎮は,聖職者らしい穏和な笑顔を浮かべたまま言った。
「――それでこそ,痛ぶり甲斐が有ると言うものです」
「くっ……!」
義鎮が,槌を振り上げる。
「や,止めなさいっ!」
めぐみが,上擦った声を上げ箒を構える。
ボッ!
箒の先に発生した火の玉が,義鎮に向かって飛んでいく。
だが,それが義鎮を捉える事は無かった。
「そんなに,異端審問がお望みですか?」
ぞっとする様な声を,めぐみは耳元で聞いた。
そして次の瞬間,痛みと共に地に伏していた。
「あ……」
「貴女はメインディッシュにと思っているのですがね。余り抵抗されるようでしたら,足の一本でも折ってしまった方が宜しいですかな?」
「く……!」
めぐみに出来るのは,その細い眼で精一杯義鎮を睨み付ける事だけだった。
二対一。とは言え,此方は無数の敵と戦ったばかりなのだ。只でさえ組みにくい敵を相手に,敗北の憂き目を見るのはある意味当然か。
しかし,この男に負ける事が意味するのは,単なる死ではない。
「くす……。では貴女には其処でじっくりと見ていてもらいましょうか。秀家君の死に様を」
「……っ!」
「貴女にはその後,私のスペシャルルームで存分に楽しんで頂きましょう。おや,そんなに睨みますな。その痛みも,直に快感へと変わります故……」
睨むな?巫山戯るんじゃない。
お前の奴隷になる位なら,この場で舌を噛みきってでも……
「!」
突然,めぐみは暖かい光に包まれた。
傷が治っていく様な気がする。いや,本当に見る見る痛みが引いていく。
これは……
「大丈夫ですか?万千代様」
その時,頭上で聞き慣れた声がした。
「豊臣さん!」
「御所に行こうとしたんですけど……何か二人が倒れてるのを見つけて」
「あ,有り難う御座います」
「いえ……」
続いて,藤吉郎は秀家に駆け寄った。その手には,勿論『治』の文珠。
「秀家,大丈夫?はい,文珠」
「う……にーちゃん……?」
ポォ……
暖色の光が秀家を包み,彼の怪我を治していく。
「な,何者です!貴方は」
義鎮が喚く。
「え?え〜と,俺はきの……いや,豊臣秀吉って言うらしくて……」
「自己紹介なんて,する必要有りませんよ。豊臣さん」
「え?」
其処に割って入る声。回復しためぐみは,魔法陣を描き上げ発動させようとしていた。
「させません!」
それをさせじとめぐみに襲い掛かろうとする義鎮。しかし,
「な,身体が動かない!?」
「すいません,『縛』の文珠です」
「文珠……!?何時の間に――」
「いや,ついさっき」
そして,めぐみが術を発動させる。
「――喰らえ,その毒蛇の牙を以て!」
カッ!
「な……!?」
バシュウ!
黒い光が,義鎮を包む。
「……」
「……え?如何なったんですか?」
「う,うわっ!止めてくれ。私が悪かった!だから……うわー!許してくれぇっ!」
光を受けた義鎮は,突然懺悔をし始めた。アスファルトに這い蹲り,涙を流して何者かに許しを請うている。
「万千代様,これ……?」
「彼の心の奥底にあった罪の意識を引きずり出したんです。くす。一体,どんな夢を見ているのでしょうね?」
「は,はあ……」
藤吉郎は,その時のめぐみの笑顔を心底恐いと思った。
「魔女の恐ろしさ,思い知って頂けましたか?」



「はあはあはあ……」
めぐみ達と別れ,藤吉郎は再び京都御所へ向け直走る。
其処に何が待っているか知らないが,藤吉郎の霊感が,足を其処へ向けさせた。
そんな折り,路地から出てくる見慣れた人影。
「殿!?」
「猿!手前ぇ,遅えじゃねえかっ!」
「え,何の事です?殿こそ何で此処に……」
「あ?お前ぇ,事務所の書き置きを見て来たんじゃねえのか」
「へ?違いますよ。俺は万千代様に助っ人を頼まれて此処迄来たんすけど,そしたら何か妙な事に巻き込まれて」
「万千代に?……まあ,良いや。目的地は,内裏なんだろ?」
「はい」
「よし。んじゃ,行くぞっ!」
「ははッ!」

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