ザ・グレート・展開予測ショー

長編・GS信長 極楽天下布武!!(11)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 2/25)

物事小事より大事は発するもの也

油断するべからず















巨椋池。
『魔流連』のパイロキネシスト・梢甦霞邊元親は,自ら発した炎により,灰となって風の中へ消えていった。
「ふう」
元親を倒した三人は,岸辺に座り,一息ついていた。
「姫,お茶です」
「有り難,女華」
「いえ……」
駄目だ,矢っ張りドキドキする。姫の笑顔を見ると。
私はもう,帰ってこれないかも知れない。
……別に良いけど。
「いや,良くないだろう!?」
自問自答で悶える女華。
「……如何したの?女華」
「何か,最近良くこうなるんですタイ」
「何なの?」
「発作……?ですかノー」
「何のよ……」
利家とそんな会話をしていた時,帰蝶の身体に激痛が走った。
「ぐぅっ!?」
「き,帰蝶サン!?」
「姫!?」
痛みに耐えかね,帰蝶は蹲る。
「だ,大丈夫ですか。姫っ!」
女華と利家が駆け寄る。
「平気……。大丈夫よ……」
顔を上げて無事を示す帰蝶だが,その額には脂汗が光っていた。
「さっきの呪いの副作用ね……。あの男の霊力に,呪力が追いつかなかったんだわ。ある意味,呪詛返しね。奴が死んだ事で逆流した呪術が,私にも何らかの影響を与えたみたい……」
「たっ,大変じゃないですかいノー,それ」
「平気だって。でも……病院,いや……Gメンの仮本部に連れてってもらえるかな……。女華,運転出来たよね?」
「は,はい!」
「マエダー。悪いけど,肩貸してくれる?」
「はい!お安いご用ですジャー」
利家に掴まりながら帰蝶が呟く。
「……やれやれ。とんだ失態ね……」
病身の帰蝶を乗せ,女華の運転する乗用車は巨椋池を後にした。



山陰道。
壊れた高速道路の残骸の上で,嶌柘義久と斎藤利政,そして利政の弟子であるミツヒデ=ド=コレトーとアラキ=ヘルシングが対峙していた。
「斎藤君」
「何ですか?嶌柘翁」
「君は確かに,類い希なる優秀なエキソシストじゃ。しかし飽くまでエキソシスト,悪魔払いに過ぎん。君の専門は除霊,若しくは妖怪退治じゃ。対霊能力者戦闘においては,素人と言っても良いと思うのじゃが如何じゃ?」
「それでも」
「……」
「退く訳にはいかぬのです」
「何故じゃ?」
「――分かりません。しかし,貴方をこのままにしておく訳には参りません」
「ふむ,何となく……か。流石に,良い霊感をしておるわ」
「……」
「しかし儂とて,退く訳にはいかぬのよ」
「何故ですか!?」
「GSとて人じゃよ」
「?」
「愚かな野望に迷う事も有れば,無理を通したくなる事も有る。己の感情を完全に制御する等,到底不可能な事じゃよ……」
「それは……一体……?」
「ふ……」
義久が,薄く笑った。
「これ以上は,何処迄話し合っても平行線じゃ」
「……の様ですね」
利政が目を伏せる。
「残念です……」
そう言って,手にした聖書の頁を捲る。
「……聖なる父,全能の父,永遠の神よ……」
ゴォッ……!
利政を中心に,巨大な霊気が渦を巻く。
「一人子を与え,悩める我等を破滅と白昼の悪魔から放ちたもうた父……。葡萄畑を荒らす者に恐怖の稲妻を下し,この悪魔を地獄の炎に落としたまえ……!」
霊気が,利政の手元に収束していく。
「す,凄い……!なんて霊気だ」
「生身の人間が,これ程のキャパシティを示せるなんて……」
ミツヒデとアラキが,感嘆の声を上げる。
「ふ……」
だが義久は,深く皺の刻み込まれたその口元に,未だ笑みを浮かべたままだった。
「殺害の王子よ,キリストに道を譲れ……主が汝を追放するッ!」
ヴュバァッ!
収束された霊気が,義久に向けて放たれる。
ゴッ!
「クリーンヒット!」
「決まった……!?」
叫ぶ弟子達を,利政が制す。
「いや……」
「な!?」
衝撃波に因って発生した土煙が収まった後に現れたのは,無傷の義久の姿だった。
「矢張り,駄目か……!」
「そう言う事じゃ。これで分かったろう?君では儂は斃せんよ」
「な,何故?あれ程の攻撃を喰らって,無傷だなんて……」
ミツヒデが,うずわった声を上げる。
「霊波には質と言うものが有る」
「え?」
「キリスト教を信じておらぬ者に聖書の文言等,正に“馬の耳に念仏”じゃよ。別に儂は,救いを求めて浄化されたいと望んでおる訳ではないしのう」
「そんな……」
「それに,この様に宗教に因った技は信仰心が力の源となる。彼は儂を“悪魔”と見れてはいなかった……。効く筈もなかろう」
「……!」
「そう言う事だよ,ミツヒデ君……」
目の前の敵の言葉を肯定しながら,利政はミツヒデを宥めた。
「なら……!」
「え?」
「なら,僕がやります!」
「ま,待てミツヒデ君!嶌柘翁は元・GS協会の副会長を務めたお方だぞ!?今の君では勝てる相手じゃない」
「それでも……倒さなくてはならないのでしょう?」
「……!」
「先生がそう仰るのなら,僕は戦います」
ミツヒデは,瞳に決意を込めて前へ進み出た。
「僕の“力”なら,貴方に勝つ事も出来る筈です」
「ふ,ヴァンパイア・ハーフか。面白い……」
そういうと,義久は掌の中の金塊を握りしめた。
「……?」
そんな義久の様子に,利政は微かな違和感を覚えた。それが何かは,はっきりとは分からなかったが。
「おにーさまが戦うなら,私も援護します!」
「アラキ君?危険だから下がって……」
言いかけた利政の目に映ったのは,対吸血鬼マシン『ドウクン号』を従え,イージス・スーツ『ヒツアン号』に身を包んだアラキの姿だった。
「!?」
「行くわよっ,ドウクン!目標は嶌柘義久!」
「それ,どっから出したんだね?君……」
少なくとも利政の車に,あんな物を乗せるスペースは無かった筈だが。
ウィーン,ガッションガッション
耳障りな金属音を立て,ドウクンが義久へと向かっていった。
「ふ……」
義久は笑みを浮かべたまま,金塊に霊力を込める。老人の小さな掌に収まる程の大きさしかなかった金塊は,義久の霊力を受け見る見る内にその体積を増していく。
やがて,それは巨大な黄金の虎と化した。
ドゴォ!
虎の一撃で,ドウクンは大破し瓦礫と化した。
「ドウクン!?」
「先生,あの技は一体……!?」
「嶌柘翁は,又たの名を“黄金使い”と言う。彼の持つあの黄金は,人々の欲望を吸収し,蓄える。その霊力に因って,力を発揮するんだ」
「そんな……」
ミツヒデにとって,聞いた事も無い話だった。
「如何した?それだけかね」
義久が嘲りを含んだ声で言う。
「くっ……!今度は僕が!」
ミツヒデが,両手に魔力を集める。
「ダンピール・フラッシュ!」
ミツヒデの手から,暗黒の光が注がれる。
「甘いの」
「何!?」
キィン!
だが,ミツヒデと義久の間に割って入った黄金の虎の磨き上げられた身体によって,光は跳ね返された。
「がっ……!」
跳ね返った光は,ミツヒデの身体を直撃した。
「ぐぅっ!」
ミツヒデは,その場に崩れ落ちた。
ドゴォ!
そのミツヒデを,更に黄金の虎が殴り飛ばした。
「ミツヒデ君!」
ドシャア!
瀕死のミツヒデは,瓦礫の山へと突っ込んでいった。
「ぐ……時は今,雨が下しる五月哉……」
「おにーさま!」
アラキが,ミツヒデに駆け寄る。
「敵は……本能寺に在り……がくっ」
「おにーさまーーーーー!!」
妙な言葉を残し意識を失ったミツヒデを見て,アラキは怒り心頭した。
「よくもおにーさまを……!」
「ま,待てアラキ君!」
利政の制止も聞かず,アラキは義久に飛び掛かった。
「……」
虎は,アラキの幼い体をも食い千切らんと,彼女に襲い掛かった。
「くっ……!」
利政は,咄嗟に隠し持っていたナイフを取り出す。
「ソハ何者ナリヤ?ソハ我ガ敵也……」
キイィィン……
ナイフに,霊力が集まる。先程の攻撃の時の聖なる光とは違う,どす黒い“気”だ。
「我ガ敵は如何ナルベキヤ?我ガ敵は――」
このままではアラキが虎に喰われてしまう。
しかし,裏返せばこれはチャンス。武器を使用中の義久は,今現在無防備である。
アラキが倒れれば次は自分。そして,自分ではあの黄金の虎は防げまい。
最後のチャンス。
間に合え!
「滅ブベシ!」
利政は,霊力を込めたナイフを投げた。
ドスゥ!
そしてそれは,寸分違わず義久の胸を貫いた。

「――避けようと思えば,避けられたでしょう?」
利政は,今はもう既に体と魂の繋がりを無くし,魂だけの存在と成り果てた嶌柘義久に問うた。
「ふ……歳には敵わんよ」
「……ご冗談を」
寂しげな表情で,利政は言葉を返した。
「いや,実際油断していたよ。そう言えば,君が教会を破門されたのは異教の儀式を行ったからだったな」
「異教の魔物を退治するのに,異教の儀式を執り行うのは当然です。自分の行いを恥じる気は無いですし,教会の判断も当然の事ですよ」
「うむ……」
義久は,何故か満足げに呟いた。
「翁……」
「む?」
「何故……こんな事を?」
「……言ったじゃろう。年寄りの冷や水じゃよ」
「お子さん達の為……ですか?」
「……」
義久が最愛の子供達を事故で一遍に失ったと言うのは,有名な話である。
「正を邪に,邪を正に……。『魔都』の建設が成れば,死者も甦るかもと……」
「矢張り……」
「ふ……。そんな訳は無かろう。如何な力を以てしても,死者を甦らせる事等出来ぬ……」
「……」
それでも……抑えきれなかったのだ,この人は。
情愛が深い故に。
人を,愛するが故に。
「……そろそろ逝こう。ふ,儂が切支丹なれば,天国の我が子等に会いに行くと言う楽しみも有ったものをの」
「……貴方の来世に,幸有らん事を……」
「……」
微笑みを残し,義久の魂は天へと昇っていった。

「ん……」
「おや,起きたかね。ミツヒデ君」
「先生……,嶌柘さんは……?」
訝しむミツヒデに,利政は何時もと同じ柔和な笑顔で答えた。
「もう,全て終わったよ。気にする事はない……」
「は,はあ……」
「さあ,遅くなってしまったね。信秀君の所へ行こう」
利政の車は,京都市中へ向けて走り出した。



鴨川。
「これで終わりだ……死ね」
萌娘氏康に因って作り出された電気の球が,重治と孝高に向けて放たれた。
「くっ……!」
「無念……!」
二匹は死を覚悟し,目を瞑った。
ドシャーン!
間を置かず,雷の落ちる音が響いた。
「……?」
しかし,二匹の体に痛みが生じる事はなかった。
「あ,あれ……?」
「生きて……る?」
「ふっふっふー。タツリオに感謝するでちゅよ?」
「え?」
見ると,俯せた二人の視界の上の方にタツリオが浮かんでいた。
「こっ……この物の怪が!何をした!?」
氏康が,激昂して問う。
「私は,悪戯して勝竜姫の剣を抜いてそっちに投げただけでちゅよー」
「な……」
氏康がタツリオの示す方向を見ると,成程勝竜姫の神剣が河原に刺さっている。
「ひ,避雷針……?」
氏康は,呟くと一瞬呆けてしまった。
「電子なんて細かいものをサイコキネシスで操るとなると,結構大雑把にしか仕えないんでちょう?」
「だから,避雷針を立てれば其方に負けて惹かれてしまう……と言う訳か……。全く……」
自分の能力の意外な弱点を示され,氏康はがっくりと項垂れた。
別にそんな弱点を知らなかった訳ではない。だから,避雷針となる物の少ないこの河原をバトルフィールドに選んだのだ(理由は勿論それだけではないが,河原迄来る前に討ち取る事も不可能ではなかった)。しかし此処迄とは,正直予想していなかった。制御の難しい能力だとは分かっていたが……。
「なら!」
バチバチバチ……
氏康は,再び電気の球を作る。
ならば,一撃一撃に使うサイコキネシスの力を強めて,制御能力を高めれば良い事だ――。
「喰ら……え!?」
再び捉えようと二匹の方向を見た氏康は思わずフリーズしてしまった。
バチィ!
「きゃ……!」
サイコキネシスの制御を離れた電気の球が,氏康の手元で爆発した。
「く……」
少なからずダメージを受けたが,勿論その程度の帯電で感電死する氏康ではない。
しかし,彼女の意識は目の前の二匹に奪われていた。
「な……な……」
氏康が,わなわなと二匹を指さす。
「何やってるんだ,お前達はーーーーっ!?」
氏康の指差す先には,互いの傷を舐め合う重治と孝高の姿が在った。
二匹ともかなりの美少女である上に,獣娘と言うマニアックぶりである。そのお耽美な光景に,氏康は思わず我を忘れた。
「せ,せ,戦闘中に何をやってるのだ,お前達はっ!?」
敵に聞かれて答える義理も無いのだが,二匹はきょとんとした顔で律儀に答えた。
「え?何って,ヒーリングでござるが……」
「私達犬科の妖怪は,傷口を舐める事で怪我を治すのよ」
「う……」
勿論氏康にも,それは知識として分かっていたが。
「だからと言って,舐め合う必要は無いだろう!?」
「有るでござるよ?」
「ヒーリングで使うのは自分の霊力なんだから,自分で自分にヒーリング掛けるより,他の人に掛けてもらった方が遙かに効率良いじゃない」
「――に,したって!何で今……」
「この傷では次の攻撃は避けられそうにないでござるから,貴公がタツリオ殿と話している今の内にと……」
「何か,問題有るの?」
「う゛……」
「何なんでござるか?」
「……見てくれに合わず,以外と初みたいね……」
孝高が,何やらしみじみと呟いた。
「此処迄狼狽えてくれるとは……」
一瞬でも力が抜けて,狙いが甘くなれば儲け物と思っていたが。
「さて,如何するか……」
孝高は呟いた。
戦力で劣る自分達が漸く掴んだ,なけなしのチャンス。無駄には出来ない。
「……」
横目でタツリオを見る。
此方に向かってウインクをした。
何かやってくれるらしい。ならば,自分達は時間を稼ぐのみ。
「糞,妖怪め!」
氏康は苛立っている。攻撃するのならチャンスだが,防御するのならそうとは言えない。スイッチに触れてしまうかも知れないが,此処は会話で時間稼ぎをするしか無かろう。
「……そんなに,妖怪が嫌い?」
「ああ……。私の両親は,妖怪に喰い殺されたからな」
やった。引っ掛かった。
「全部の妖怪が,そうって訳でもないでしょ?」
「分かっているがな……」
食い付いてきた。良い感じだ。
「生理的嫌悪感と言う奴だ」
「魔族も駄目?」
「俗界に住む魔族を,妖怪と言うのだろう?」
其処でタツリオを見るな〜〜〜〜〜!て言うか,話し終わっちゃいそうじゃん!?
「……もう一度だけ忠告しようか。帰るなら敢えては追わん。だが,あくまで邪魔をすると言うのなら――」
うん。私も,もう逃げちゃうのが良いと思ったんだけど……。
タツリオを見る。
ガッツポーズ!
……信じるわよ?
「嫌だ」
「その通りでござる」
「……仕方無いな!」
バチバチバチ……
又た,あの電気の球だ。
「喰らえっ!」
南無三!
「……ぐ〜……」
「へ?」
「ね,寝てしまったでござる……」
如何言う事だろう。氏康が突然眠りに落ちてしまった。
「あら〜,タツリオが“たまたま”呼んでた眷属達の鱗粉を浴びて,眠ってしまった様でちゅね。サイコキネシスに集中しすぎて気付かなかったみたいでちゅ。暫くは痺れて動けないでちゅよ」
見ると,何時の間にかタツリオの周りを無数の蝶が飛んでいた。
斯う言う事か。何にせよ,助かった。

「……」
「如何したんでちゅ,勝竜姫。何か暗いでちゅよ?」
重治と孝高が取り敢えず氏康をふんじばっている横で,タツリオが勝竜姫に訊いた。
「いや……その……」
「如何したんでちゅかー?」
「……私は,役立たずだなーと思って」
「え?だ,だってそれは仕方無いでちゅよ。勝竜姫は偉い神様でちゅから」
「でも貴方は,機転を利かせて何とかしたじゃない」
「それは……堅物の勝竜姫に,そう言う網の目を潜る様な真似は似合わないでちゅよ。清く正しく美しくが勝竜姫でちゅよ」
「……」
そう言われても,勝竜姫の心は晴れない。今,彼女の精神は自己嫌悪で満ちていた。
「勝竜姫様……」
「勝竜姫は勝竜姫らしくしてれば良いでちゅよ。そんな,無理に器用になろうとしなくても……。勝竜姫には勝竜姫の良い所が」
「……」
信盛やタツリオの慰めも聞こえない様だ。なまじ真面目なだけに,こうなると質が悪い。
その時,孝高が勝竜姫を呼んだ。
「ねえ,ちょっと川の流れを塞いでる岩とか,退けてきてよ」
「え?」
「私達じゃ動かせないもの。斯う言うのは,“荒ぶる神々”の仕事でしょ?お供えに私の油揚げあげるからさ」
「……!」
「ねえ」
「――そうですね」
勝竜姫は微笑んだ。
持ちつ持たれつ。神と人の正しい関係。人と深く関わり過ぎたのも,彼女が思い悩む様になった所以か。
兎に角,少し吹っ切れたらしい。
「サンキュー,でちゅ」
「さっきのお礼よ」
パァン!
タツリオと孝高は,掌を打ち合わせた。

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