ザ・グレート・展開予測ショー

火と蝶と。


投稿者名:ライス
投稿日時:(04/ 2/25)





「なんでこ〜なるんでちゅか!?」



 そう叫ばずにはいられない少女が、一名。
 名前はパピリオ。

 そして脇に抱えるは一人の赤ん坊。
 名前は美神ひのめ。

「じゃ、お願いね!?パピリオ!」

 そくささと外へ出て行く美神達。それを膨れっ面しながら、いやいや見送るパピリオ……。

「む〜〜〜〜っ!!」

 一人取り残された少女と何も出来ない赤ん坊。何故、こんな事になったのか。
 それは遡ること、数十分前……。


「オハヨ〜ッ。」

 朝。朝食を食べる美神たち(何故か横島も居る)の所へ、意気揚々とやって来た美智恵。
 ひのめも一緒だ。

「で、何しに来たの、ママ……?」
「エ? 何って、ひのめを預けに来たんだけど……?」
「アレ、言わなかった?今日は仕事全員で出るから、ひのめは世話できないって……。」
「ウソ! それは昨日の話でしょ? 私も今日は大事な会議があるから絶対預かってもらわないと困るのよ。ね、お願い!」
「無茶なこと言わないでよ!? こっちだって仕事があるんだから!」
「そこをね、なんとか! ネ、お願いっ!」
「ダメなものはダメ……、」
「こんにちわでちゅ、また来たでちゅよ〜!? 横島、一緒に遊びに行くでちゅ!」

 と、そこにトランク片手におめかしをしてやって来たは、パピリオ。そこにいた者全てが一斉に彼女に注目した。

「……どしたんでちゅか? みんなして。そんな見つめられたら、恥ずかしいでちゅよ♪」

 顔を赤らめながら照れるパピリオ。恒例、というかなんとやら。彼女はホームステイにやってきたのだ。アシュタロス戦役後、パピリオは妙神山に預けられ、修行の日々を送っている。しかし、彼女の性格はご存知の事であろう。その点を考慮して、こういった形での下山を小竜姫他、妙神山の在住する者達の掛け合いを通じて、許可しているのだが……。
 本日、そのホームステイにやって来た彼女は運が悪かった。まさに飛んで火に入る夏の虫だった。

「ねぇ……、ママ?」
「えぇ、分かってるわ?」
「?」

 美神親子は二人して満面の笑顔をパピリオに振りまく。それはそれは、屈託の無く、純真そのもののような清らかな笑顔だったと、その場にいた他の四人は後述した。

「ネェ、パピちゃん? ちょっとお願いがあるんだけど、いいかしら……?」
「な、なんでちゅかっ? いきなり笑顔になったりして……、年増のくせに気味が悪いでちゅ。」

 その一言で、二人の塗り固められた笑顔にピシッとヒビが入った。

「ねぇ、パピリオ……? こっちが大人しく笑ってる内が華だからねぇ……!?」
「……………………ハ、ハイ……でちゅ……!!」

 美神は彼女を頭をわしづかみにして、こちらの方をニッコリと微笑んでる。……とっても怖い笑顔だった。少なくとも彼女の目にはそう見えた。菩薩の笑みの中に般若が潜んでいる、そんな笑顔だった。
 パピリオは知っていた。美神はこの世の人間の誰よりも、小竜姫よりも、いや、場合によってはこの世の生ける物全てよりも、怖くて恐ろしいと言うことを。彼女だって、馬鹿ではない。以前のホームステイ中、横島が何度、美神にボコられ、そして残虐非道かつ極悪な仕打ちを受けたことか。数えるのも面倒だ。それを目の当たりにして、彼女の本能が叫ぶ。「こいつには逆らうな」と。
 そして今。その般若が目の前にいる。おまけと言っちゃなんだが、脇には天使の微笑で、静かに業火を燃やすカーリー神もいたわけだが。とにかく、彼女は絶対に犯してならない導火線に火をつけてしまったわけだ。そんなわけで、彼女は泣く泣く頷くほかなかった。
 合掌。
 さて、時間軸は元へと戻って。


「いーでちゅ、いーでちゅ、いーでちゅもんね!? こうなったら、いたずらの限りを尽くしてやるでちゅ!! あとで後悔しても知らないんでちゅから!!」

 パピリオは赤子をいきなり抱かせられて、身体をよたつかせていた。その間にみんな出て行ってしまったのだ。バランスを取り戻した時には、もう誰もいなくなっていた。彼女は頬をふくらませると、ふてくされて始めていた。
 無理もない。本来ならば、横島を引き連れて、買い物に行って。シロとタマモと思う存分遊んで、おキヌの手料理がが食べれたはずである。まぁ、美神の説教は流石に御免こうむりたい所ではある。けども、今回のホームステイは久々の事だったし、短い期間の中で目一杯楽しむはずであったのに。

(なのに、何でちゅか、この仕打ちは?)

 そう思わざるえなかった。自分の腕に余るほどの大きさの赤ん坊を抱えている。重い。彼女の腕力では、支えるのが手一杯だ。預けた当人の話によれば、なるべく2〜3時間で戻ってくるらしいとの事。つまりは昼まで我慢すればなんとかなる。が、さすがに腕がきつくなってきた。仕方ないので、パピリオは近くのソファに、ひのめを置く事にした。

「よい……しょっと!これで、大丈夫でちゅね?」

 フカフカのソファにひのめを置くと、汗もかいていないのに汗を拭う振りをして、一息つくパピリオ。すると、赤ん坊はじぃっと彼女の方を見つめている。指を咥えてずっと見つめている。パピリオはその視線が気になって、気になってしょうがない。

「なんでちゅか?さっきからジロジロとこっちを見て……。」
「だぁあ〜♪」

 ひのめは元気よく、それでいてきょとんとした顔で愛想を振りまいてくる。すると、うつぶせにソファに寝転ぶ彼女にパピリオは顔を近づけて、睨み返した。

「何、ガンつけてるんでちゅか? お前のせいで私のホームステイ初日は散々でちゅ!」
「んぁ?」
「とぼけたって無駄でちゅよ!?」

 当然の如く、ひのめには言われている事が分かるはずも無い。パピリオもまた、こんな赤ん坊に言ったところでどうしようもないのだが、愚痴をこぼす相手がいないので八つ当たり気味に投げかかけている。

「あ〜〜っ♪」

 そんな事も知らず、ひのめはおもむろによだれがたっぷり付いた方の手で、無邪気にパピリオの顔を叩いてきた。表情はニッコリと笑っている。これに黙っているはずの無いパピリオは、静かに心の中で血管を浮き彫りにしていた。怒っちゃいけない。相手は赤ん坊だ。あとで顔を洗えば、なんとかなる。ここは我慢、我慢と、心を落ち着かせていた。が、次の瞬間だった。そのよだれまみれの手で、着ている洋服を触られたのだ。

「あぁ〜っ!? な、なにするんでちゅか〜!?」

 これには堪忍袋の緒がプツンッと切れた。なぜなら、着ていた服は一番のお気に入りで、一番最初の買い物で買った思い出の服だったからだ。それをたった今、ひのめに汚されてしまった。それはほんのちょっとの汚れだった。小さな赤ん坊がやった事である。けれど、いかんともしがたい感情が彼女の中で渦巻いていき、そして。

「この……っ!」

 ペチッと、ひのめの頬を叩いてしまった。ひのめはビックリしたのか、痛い思いをしたせいか(多分両方だろうが)、大声で泣き出し始めた。

「ビェェェ……っ! ヴェ、ヴェエエエェェェェっ!! ア゛〜〜、ア゛〜〜〜っ!?」

 泣き声は家中に響く。われんばかりの大声。まるでスピーカーを使っているようで、さすがに赤ん坊の喉から発せられていると思わないくらいの、大音量だった。パピリオも耳を押さえるほどに、やかましい泣き声だった。

「う、うるさいでちゅ! もう少し静かに泣くでちゅ!」

 泣くのが仕事な赤ん坊には、無理な注文であった。まさかこんなに泣かれるなんて思っても見なかった。自分が招いた結果ではあるといえ、少し後悔していた。おまけに、泣き声が止まないので、大声で諌めようとしたが、全くの逆効果で、ひのめは余計に泣き出してしまった。

「こらっ、泣き止めでちゅ、いい子でちゅからッ!」

 いくら言っても泣き止まない。仕方ないので、重いのを承知でひのめを抱き上げて、なだめる事にした。ソファから赤ん坊を持ち上げる。その時、ひのめの背中からペリッと剥がれ落ちるものが。それはひらひらとゆっくり、床に敷き詰められたカーペットに上に落ちた。

「ん? 何か落ちまちたね、今……。」

 落ちているのは一枚の細長い紙っぺら。悪い予感がする。そう言えば、初めてのホームステイの時、注意された事があった。

『ここはひのめの育児ベッドある部屋よ。まぁ、あんたがひのめを抱えて、ベッドに持っていくなんて事はないでしょうけど、一つ注意して欲しい事があるの。』
『なんでちゅか?』
『ほら。ここにお札は貼ってるでしょ?』

 育児ベッドには、場にそぐわない「火気厳禁」と書かれた念力発火封じの札が貼られている。

『これは……?』
『ひのめはね、パイロネキシストなのよ。つまり念力発火ができるの、生まれながらにしてね。今は赤ん坊だから、コントロールが全く効かないのよ。だから、こうやって外側からコントロールしてるってワケなの。で、注意して欲しい事なんだけど、このお札を絶対に剥がさないようにしてほしいのよ。』
『なんだ、そんなことでちゅか? 安心するでちゅ! 万が一、そんなことがあったとしても、剥がさないようにしまちゅから、大丈夫でちゅ!』
『なら、いいんだけど。じゃ、次に行きましょ、えぇと……、』

 で、そんなことが今、起こっていた。結果的にだが。しかし、パピリオはひのめの背中にその札が張られているなんて、夢にも思っていなかった。まずい。非っっっ常にまずい。今、ひのめは弁が開きっぱなしの火炎放射器と同等である。そして、彼女は大泣きに泣いている。

「ヴェッ!」

 さっきまでひのめが座っていたソファに火がついた。

「ア゛ァッ!?」

 テーブルに火がつく。木製だから、よく燃えている。

「ビェッ」

 棚に、椅子に、ドアに、部屋のありとあらゆる場所に火がつく。周りは炎に囲まれてしまった。

「ああああ……。」

 パピリオはカーペットに火が移る前に床に落ちた札を何とか手に取って、それを彼女の背中に貼り付ける。しかし、部屋の中は勢いが止まることなく、炎が燃え盛っている。このままでは美神たちが帰ってきたら、カミナリの一本、二本では済まされないだろう。小竜姫にも、今回の事が伝えられて、こっぴどく叱られるだろう。血がぞぞぉっと引く音がした。何とかしなければ。パピリオはそう思った。

(どーすればいいんでちゅか!?水では簡単に消えないと言いまちゅし……。)

 考えているうちにも、部屋は炎上を続ける。時間はない。ひのめも泣き止ませなければならない。

(よく考えるんでちゅ…。この炎は念力なんでちゅから、同じ量の念力を放出すれば……!)

 後で怒られることは覚悟しなければならない。でも、今を何とかしなければ、後がない。パピリオは日の目を何とか片手に抱える。そしてもう一方の手で、部屋に蔓延する念力と同じ量の念力を放つと、急いでドアを開け、別の部屋へと移った。部屋はひのめの念力とパピリオの念力とが相殺されて、小爆発が起こった。パピリオたちが逃げ込んだ部屋のドアが、爆風でポッコリと盛り上がったが、すぐに収まった。まだ、泣き続けているひのめを床に下ろすと、ドアを開いた。さっきまで居た部屋は黒コゲである。

「あちゃ〜、これじゃ間違いなく、怒られまちゅね。まぁ、しょうがないでちゅか。」

 と、再びドアを閉める。彼女達の入ったはひのめの育児ベッドがあるところだった。ひのめは未だに泣き止まない。

「まだ、泣いてるんでちゅか? もう大丈夫でちゅよ? だから、泣くのはやめるでちゅ。」
「ア゛〜〜〜〜っ!?」
「やれやれ……でちゅね。」

 パピリオは泣き止まないひのめを持ち上げると、ベッドへと連れて行く。彼女は格子の止め具を外すと、それを下ろし、ひのめをベッドの上に乗せた。
 気が付けば、ひのめの産着も、自分の着ていた服もススだらけ。でも、構わない。二人とも、燃え死なないで済んだのだから。それに服は洗濯すれば、また綺麗になる。

「ヴェッ、ヴェ、ヴィエェエェェェェっ!」
「まだ、泣き止まないでちゅか? それなら……!」

 彼女は窓を開け、そして口笛を吹いた。しばらくすると、美しい蝶々が何十羽とひのめの頭上にやって来た。様々な色の蝶が舞い、くるくるとひのめの上で飛ぶ。それをひのめが見ると、つき物が落ちたかのように、泣き止んでしまった。

「フフフ……、どうでちゅか? 私の眷属たちを呼んでみたんでちゅ。」

 ひらひらと虹のように色彩鮮やかな蝶々の羽が舞う。ひのめはすっかり見惚れている。

「あーっ、だぁー、きゃー♪」

 さっき泣いていたカラスの子がもう笑っている。とても嬉しそうに。それが可愛い。パピリオもとても嬉しかった。最初に預けられた時は嫌がっていた。服も汚されたし、いい事は一つもなかった。だけど、よく考えれば、そんなことは小さなことだった。部屋が炎上した時、助けなければいけないと思った。この幼くて、小さな命を。彼女はまだ何も出来ない。だからこそ、助けなければいけないと思ったのだ。そして、自分とこの小さな命は助かったのだ。

「まったく、ゲンキンでちゅねぇ、赤ん坊って……。」

 いつの間にか、ひのめはベッドの上で寝てしまっていた。何事もなかったような安らかな表情で眠っている。先程までは、生死に関わる状況にいたと言うのに。

「でも、まぁ、可愛いから許してあげまちゅか……。」

 なんだか憎めない、パピリオはそう思った。今まで、触った事もなかったが、今日、この赤ん坊に振り回されて、笑う顔を見て、可愛らしくも思えた。自分も成長する。そして、ひのめもまた成長する。この子が大きくなったら、たまには遊んでやってもいい。そんな事を考えていた。

「なんか疲れてしまいまちたね、一休みするでちゅ。」



   ◆



「何よ、コレ?」

 正午過ぎ、帰ってきた美神は黒コゲになった部屋を見て、愕然とした。きっとひのめの札が外れたのだと、すぐに予測が付いた。それしか原因はない。

「うわ〜、見事なまでに真っ黒コゲですね。」
「これは一体、何が起こったんでござるか?」
「決まってるじゃないの、ひのめがやったに決まってるじゃない。」
「ひのめ殿が、でござるか?」
「そうよ? 私だって前に、うっかりお札を剥がして火傷喰らったくらいだし。」
「タマモ……、一体何をやったんでござるか?」
「ベッ、別にいいでしょ!? そんなこと……!」
「なぁ〜んか、隠してるでござるな? 白状するでござるっ!」
「何でもないってば! しつこいんだから!」
「でも、そのひのめちゃんがいないですね。それにパピリオちゃんも……。」

 帰ってきた面々はあれこれと、この場で起こったことを話している。すると、美神がそのやかましい会話を一喝した。

「みんな、ちょっと黙ってて!」
「あ、は、はい。」
「一体、パピリオは何をやってたのよ? パピリオッ! どこにいるの?」

 美神は怒り心頭のようである。留守の間に部屋を黒コゲにさせられれば、誰だって怒ると思うはずである。原因は恐らく、ひのめだろう。しかし、彼女の背中にはお札が張ってある。ちっとやそこらのところで剥がれることはない。だとすれば、ひのめを預けたパピリオの方に原因があるんだろう。

「パピリオッ! だから、私は反対したのよ。パピリオに任せるのは危険だって…!」
「嘘ばっかり。隊長とこれしかない!ッて言って……。」
「なんか言った、横島クン?」
「いえ、なんでもないです……。」

 この部屋にはいない。だとすれば、隣の、ひのめのベッドがある部屋か、部屋の外に出ているはずだ。美神はそう思って、まず隣の部屋へと行った。

「パピリオッ! あんた、なにやって、」
「シーーーッ!」
「マ、ママ……。」

 部屋には美智恵がいた。どうやら昼休みを利用して様子を見に来たらしい。彼女は人差し指を立てて、静かにするよう、サインを送る。

「静かに。眠ってるんだから、二人とも。」
「二人とも?」
「えぇ、ほら。」

 美智恵が身体をどけると、そこにはベッドの上で眠るひのめと、その格子に寄りかかって眠るパピリオが。どっちも健やかに眠っている。

「可愛いじゃないの。何があったか分からないけど、今は眠らせておきましょう?」
「で、でも、ママ!」
「可愛いわぁ〜、二人とも。ちっちゃい頃の令子が二人いるみたい。写真に取っちゃいましょうか?」
「ホント、可愛いですねぇ。美神さん、もう少し、寝かせてあげましょう? なんか疲れるみたいですし

。」

 おキヌの言うとおりだった。パピリオの服はススだらけで汚れている。多分、原因を作り出したのは彼女だろうが、その窮地からひのめを助けたのも、彼女なのだろう。

「そうですよ、美神さん。いつも怒ってちゃ、皺がよりますよ? もうすぐ肌の曲がり角なんだし……。

ギャッ!?」
「アンタは黙ってろ!」

 いつものように、横島に鉄槌が下った。この男も相変わらずである。

「ま……、今回に限って、不問にしてあげましょうか。」

 珍しく美神も、処置が寛大である。この二人の笑顔のせいであろうかしかし、この後、パピリオからの状況説明を聞いて、やっぱり怒ってしまうのが、今回の落ちだったりする。おまけに小竜姫にも報告されて、パピリオは地獄の特訓を受けた事は言うまでもない。

 そして、ひのめとパピリオの関係であるが、その後、親友として同じ学校に通い、二人揃ってGS試験
受けるのであるが、それはまた別のお話。


 終わり
 



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