ザ・グレート・展開予測ショー

#挿絵企画SS『中秋の屋根』


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(04/ 2/25)

心配された天気は回避され、秋の名月を楽しむに十分の光景であった。
「はい。美神さんの着付、これでいいですねっ!」
かつては、和服で生活をしていたオキヌちゃんの事、召物を願うには打って付けなのである。
「ありがと。タマモも終わったみたいだし、次はシロなんだけど・・」
隣の部屋にいるのか、上にいるのかと、探してみても見当たらない。
「どこいったのぉ〜?シロちゃん〜」
既に庭に出ているのかと思ったのかオキヌちゃんが下駄履きで外に出る。
「あっ、横島さん。そのお団子はお月様にささげてからなんですよっ!!」
怒られる横島、鈴女を共犯にして、つまみぐいの現行犯である。
「んぐっ!まぁ、ええやないかぁ。蛋白の補給やぁ」
咽を幾ばくかつまらせつつの返答である。
まったく、とオキヌちゃんからため息が出た。
「それはそうと、シロちゃんしりません?」
横島に尋ねたのだが、隣で自分と同程度の団子と格闘中の鈴女が、
「シロちゃん?屋根にいたわよ」
屋根裏の窓からするりと屋根に上っていったのを見たとか。
「あら、危ないわね。連れ戻さなくちゃ!」
ぱたぱたと、部屋に戻ろうとするオキヌちゃんを抑えたのが横島である。
「あ、じゃあ俺が行くよ」
そういって靴を手に持ち階段を上っている途中で、タマモがひょっこり現れ、
「待って、シロってさ。狼の化身でしょ?詳しくはしらないけど、月とのバイオリズムがあるから・・」
と、語りかける。
「あぁ、そうらしいな。美神さんも月の女神は狼族だとか言ってたしな。でも何か関係あるのかな?」
「う〜ん。まぁ、それとは別なんだけど」
「別?」
「そうなの・・言っちゃえば私の感。ひとりにしてあげた方がいいようなぁ〜」
気がすると、小声で言う。
横島も少し頭を廻したが、
「ま、そういう状況なら即座に退散するよ。心配は心配だからな。お祭り女が現れないンだから」
その答えに納得したのか、じゃ、私も庭に出てるねと、下へと向かった。
横島もロッククライミング技術はのぞきで培った物が有る。
いささかの危険を見せず屋根に上る。
「おーい。シロいるのかぁ?」
月の見える方に行くと。
「クーン」
「りゃ?狼姿じゃないか?どうしたんだよ?」
確か、月の魔力の中で人狼の姿に変性する種族であるのに。
「ウー、ワン」
威嚇してくる。
「犬みたいに吼えられてもね、わからねぇっちゃ、わからんのだけど」
と、口ではいうが、一人にしてくれと態度でしめしているのだ。
あいすまぬが、拙者を一人にしてくだされ、
という所か。
だが、
「そう邪険にするなよ。お前の師匠なんだぞ」
と、横島それに構わずシロの隣に座り込む。
「ワンワン」
「安心しろよ。月の前には立たないよ」
よいしょと、シロの隣にしりを着き、傾斜に沿って足を伸ばす。
なかば威嚇していたシロも諦めたとばかりに肩を落とす。
「折角オキヌちゃんが、おいしいお団子作ってくれたのに食わないのか?」
「わう」
「おなか一杯って・・ははぁ。お前冷蔵庫にあったソーセージ食べたな?」
ぎぐっ、とした狼の顔である。
実際の所、子一時間前に一応飼い主である美神に、
「賞味期限が危ないで御座るぞ!」
と報告して手にいてるのだ。その時はまだ夕刻であり月が出ていなかったのだが。
「わうぅ」
「図星かよ?でも大食漢のお前が団子食えなくなるほどじゃないよなぁ?」
「Wooo」
レディーに向かって大食漢とは酷いで御座る、か。
「ま、怒るな。沢山食える事はいい事だしな。そのお前がそうなるなんて・・」
首までうなだれるシロ。
悲しそうな姿、涙を見せそうな目を見て横島も何か掴んだようだ。
「そっか・・親父さんの事思い出しちまったんだ」
その言を聞くやはっと耳を立てるシロ、加え。
どうして、人間には狼の遠吠えにしか聞こえぬのに会話が成り立つのか疑問に思う。
「どうしてかって?わりいな。対処はさせてもらってたんだ」
横島がポケットから出した文殊にある文字が書かれていた。
心を読むという能力が移したされた文字が記入されていたのだ。
「それで、で御座るか。この姿でも拙者とお話が出来たのは」
「まぁ・・なでもどうしてなんだ?急に悲しい思い出が出ちまうなんて」
ふぅ。と鼻から息を出す。シロの体内がかなり高いのかまだ然程寒くはないのに、やや白色かかる。
「拙者を助けるため父上はお薬を取ってきたで御座る。それで拙者は良くなったので御座るよ」
「あぁ、あの変態天狗な」
あの現場を思い出したのか、ぷっ、と噴出し、
「変態はどっちで御座るか?ぱ、パンツ一丁になったではないで御座るか?お師匠」
「そ、それを言うなよ!」
やや力を入れたのが間違いで屋根から落ちそうになる。
「お師匠?」
ずり落ちる体を両手で押さえるとすぐに収まり、体制を整える。
「すまんな。で、お前が良くなったのは判ったけど、親父さんが」
「はい、しばらくは体の治った拙者が看病していたので御座るよ。その時、父上はよくおっしゃっておって」
ぐすりと、涙を一瞬見せて。
「満月になれば、治ると。でも父上は・・持たなかったので御座る。あと数時間でござったのに・・」
下げていた頭を月に向ける。
「月に意思が無いのは拙者も知ってるで御座るよ。でもちょっと・・」
「恨めしい・・か」
「そうで御座る、拙者の気持ちは・・」
「あぁ、よーく判るぜ。シロ。親しい人を亡くすってのは悲しすぎるから・・な」
良く判るって、拙者は大好きだった父上なのに!
怒りの様相になる瞬間、街が見えた。
いくら月が楽しめても霞かかかった今日の天気、屋根から街灯や街のあかりがまるで、
「・・・ホタルの儚げな・・あっ」
「・・・・・・・」
「す、すまんで御座るよ」
「気にするな、だからお前の気持ちがわかるんだよ。何か大切な物を失った者同士な」
そういいながら、微笑む横島にどんな気持ちがわくのだろうか。自分でも判らないシロだ。
「あので、御座る」
「ん?」
「今だけ、お師匠様の事を・・」
「俺の事を?」
言いよどんでいるのだが、横島はシロの心を呼んでいるのと同義。
「あぁ、いいぜ。今日だけなら。な」
そう返事する。
うん。と頷き、横島の腕に入り。
「父上・・大好きで御座る・・」
流石にこれの答えはないと悟った横島毛並みの良い、シロの頭をさするのが精一杯である。
しばらくして。
「ありがとうで御座る!」
と、ようやく元気な吼音が出た。
出たと同時に。
「やっぱりお師匠様は優しいで御座るよ」
と、顔を嘗め回し始めたシロである。
「こらっ。くすぐったい。お月様がみてるぞ」
「ワン!」
と、嘗め回すのを止め横島の膝の上で満月を堪能している。
しばらくして。
「そろそろ戻る・・。ふっ。このままでもいっか」
柄にもないよな。俺がとでも言ったか。
膝の上で狼姿で寝ているシロを起こすのにためらいが有るとでも思ったのか、夜があけるまで屋根の上であった。
次の日。
「あんたねー。柄にも無い事するかっ!」
客間のベットでダウンしている横島に渇をいれてるのが美神令子である。
彼女達の何度か屋根の様子を見に行ったが、話しかけられる状況になかった、
というか、ためらわれたので横島に一任していた結果なのだが。
「秋口ならもう大分冷えるわよ、シロはいいわよ、狼なんだから、人間のアンタが一晩中いたら、風邪ひくでしょうが!」
「へぇ、しーましぇーん」
私にはうつさないでよねと、何度も繰り返している。
当然、原因となったシロも本日は人狼姿でなにかとやっているのだが。
数の上では美神令子の方がダントツに上である。
「・・どういうこと?タマちゃん」
人間心理がイマイチ判らない鈴女がタマモに答えを求めると。
「単純、。美神さん、シロに嫉妬してるだけ」
でも、私がこんな事いってたって言っちゃ駄目よと、釘を打っている。

FIN

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