ザ・グレート・展開予測ショー

何も無い(後編)


投稿者名:SooMighty
投稿日時:(04/ 2/24)





何も無い(後編)













現場にはまだ誰もいなかった。
どうやら1番乗りらしいな。
いきなり計画が崩れたなー。
1番最後に到着してそのまま仕事になだれこむつもりだったんだが。



まあそれはしょうがない。
待つことにしよう。






最近は冬とは言え少しづつ暖かくなってきた。
もう春が近いのかもしれない。
そういえば季節の変わり目をこれだけ感じたのは
本当に久しぶりかもしれない。



とはいえやっぱりまだ寒さの方が勝っている。
速く来ねぇかな・・・




と思ってたら丁度いいタイミングで派手な外国車が見えた。
一目でわかる・・・
あんな高級車を仕事用で使えるのはあの人ぐらいなもんだぜ。


懐かしい声が聞こえてきた。

「横島さん、もう来てますかね?」

「あいつの性格からしてまだ来てないでしょ。」

「でも久しぶりに先生に会えると思うと胸が高鳴るでござるよ。
 な?タマモ?」

「いや、私は別に・・・」


相変わらずにぎやかな連中だな。
3年経った今でも、そして俺がいなくなってもそう
変わらない日々を過ごしていそうだな。



しかし遅刻云々は解せないな・・・
今のバイト始めてからは遅刻は数えるぐらいしかしてないからな。
昔の俺のイメージじゃあ仕方ない気もするけど。



「残念ながらもういるんですよ。」
声をかけることにした。
さっさと中に入って暖まりたい。

「って横島君来てたの!?」


・・・凄い驚き様だな。

「昔の俺と一緒にしないでくださいよ。」

「そう・・・そうだわね。 あれから3年も経つんだものね。」

「俺だっていつまでもチャランポランでやってらんないですよ。」

「ふふ 言うじゃない。それじゃあ横島君がどれだけ成長したか
 見せてもらいましょうかね。」

「いや、そっちの方にはあまり期待しないでください。」

「何言ってんのよ。あんたがいればお札とか金のかかるもん
 使わないで済むからね。期待してるわよ。」

「相変わらずお金が好きそうですね。」

「そりゃそうよ。いくら3年経ったからってそこは変わらないわよ。
 変えてたまるもんですか!」

「はは・・・」
俺は乾いた笑いを浮かべた。
でも思ったよりもスムーズに話せた。
美神さんは3年前より穏やかな顔つきになり、どこか角が
とれた印象を受ける。

「おっと、私ばっかり喋っても仕方ないわね。ほらおキヌちゃん達も
 挨拶しなさい。」

そういっておずおずと前に出てきた少女達。

「お久しぶりです。横島さん。」

「久しぶりだね。おキヌちゃん。」

おキヌちゃんは前よりもずっと美人になっていた。
3年前は無垢であどけない女の子だったが今ではすっかり大人びている。
3年って歳月はここまで人を変えるのか。

「今日はよろしくお願いしまね。私いまゴーストスイーパーの
 免許取るために色々勉強しているので今日は参考にさせて
 頂きます。」

「はは、だからそんな大したもんじゃないって。」

「いやいや先生は凄い人でござるよ。」

聞き覚えのある声。
シロか。

「よう、シロお前も随分変わったな。」
シロは人狼族らしく精悍さが増していた。

「先生も男らしくなってるでござるよ。」

「はは、そうか。ありがと。」

「でもスケベな所は治ってないんでしょ。」
いきなり横から声をかけられて少々驚いた。
タマモか。なんかこいつはあんまり変わってねぇな。

「お前もあまり変わってないぞ。タマモ。」
思ったことをそのまま口に出した。

「それは褒めてるの?」

「褒めてるんだよ。3年も経って変わってないってのはある
 意味レアだぞ。それにな男はみんなスケベなんだ。
 俺だけがスケベなわけじゃないぞ。」

「やっぱりあんたってやな奴だわ。
 それにあんたの場合スケベの中でも更に特殊だからね。
 一緒にされた男達がかわいそうだわ。
 まあ、でも久しぶりに見知った相手に会うのも悪くないわね。」


・・・素直に嬉しいって言えないもんかねー。
こいつこのままだと美神さんみたくなりそうだな。





やっぱりこいつらはいい連中だ。
俺の3年間にもズカズカ踏み込んでこない。
それでいて不自然さをださずに優しく接してくれる。


1人1人がありのままで・・・






















くそ、悔しいけど、認めたくないけど・・・
やっぱりこの居場所は本当に落ち着く。
しかも想像よりもずっと・・・だからタチが悪い。


俺の決心を鈍らせる。
葛藤が頭の中をグルグル回る。
俺の心ってのは本当に弱いな。
すぐにグラツキやがる。


とりあえずいつまでも喋っててもしょうがねぇ。
今は仕事だ。
それを最優先させないと。



「とりあえず積もる話もあるけど、クライアントに
 会いましょう。美神さん。」

雰囲気に流されないように話を仕事に移行させる。

「そうね。じゃあ行きましょうか。」

美神さんもあんまりクライアントを待たせたら悪いと
思ったのか会話を切り上げてくれた。

「横島君。」

美神さんが小声で話しかけてきた。

「仕事が終わったらでいいからちょっと付き合ってくれない?」

なんかそんなことを言われる気がしたんだよなー。

「お断りですね。俺はこう見えても忙しいんです。」

そう本当に忙しいのだ。
俺の居場所はここじゃあないのだ。
さっきは優しさに負けそうになったけど・・・



やっぱり俺の居場所はここじゃあないのだ。




「お願い。時間はとらせないから。」

真剣な目つきで。
そう今まで見たことの無いような真剣な目で。



・・・こんな顔されて頼まれたらはっきりいって断れなかった。
俺自身弱いだけなのかもしれないが。



「わかりました。でも本当に短めにお願いしますよ。」

「ありがとう。」
美神さんはそういってらしくない笑顔を俺に向けた。


「とりあえず仕事を片付けましょう。
 このレベルなら楽勝なはずです。」

「そうね。頼りにしてるわ。」









仕事の方は実際にあっさり片付いた。
やっぱり5人もいると楽だねー。

大抵俺は独りで仕事をしているから
全て自分で始末をつけなければいけない。
だから相手が雑魚でも大量にいるとそれだけで
面倒くさい作業になる。


誰かに仕事を任せる・・・
そうすれば必然的に自分の負担が減る。

そんな当たり前のことすら忘れてた気がする。








失くしてしまった物はルシオラだけじゃなかったのかもしれない。






















それでも俺はお前に会いたくて。
お前の残してくれたものを見つけたくて。
お前が隠していたものを見つけたくて。


後悔だけはしないと誓った夜。
だけど今はみんなの、仲間達の優しさがもの凄く痛かった。












「横島君ったら!」
悶々と迷いを生じさせてるところにいきなり甲高い声が響いた。

「うわ! なんすか!?美神さん、でかい声だして・・・」

「何言ってんのよ! さっきから呼んでるのに全然反応して
 なかったじゃない。」

「え? そうなんですか?」

「そうよ。いくら仕事が終わったからってボッーとしてないでよ。」

「あ、すいません。・・・そういえばおキヌちゃん達は?」

「先に帰らしたわよ。ってあんた気づかなかったの!?」

「どうやらそのようで。」
苦笑いしか浮かべることができん。

「呆れたわ・・・昔もそうやって悶々と考え事して自分の
 世界を作るところはあったけど、ここまでひどくなって
 るとはねー。」

あっちも苦笑いを浮かべてた。


本当にここまで来ると病気だな。
まさかそんなに考え込んでるなんて。
自分で自分がわからなくなる。



「でささっきも言ったんだけど、あんたに言っておきたいことが
 あるのよ。覚えてる?」

「ええ、それぐらいはちゃんと覚えてますよ。」

「そう、良かった。場所はどこにする。」

「どこでもいいですよ。任せます。」
自分で決めるのが面倒くさかった。

「そう。じゃあ近くの適当な公園でいいわよね?」

「いいですよ。」

「じゃあ、行きましょうか。」











辿り着いた場所は何も無い広場だった。
寂れてて、公園と呼ぶにも無理がある場所。


本当に何もねぇな。
こんな場所一体誰が利用するんだ?
















いや、いるよな・・・



まさしく今の俺の場所じゃないか。
俺の人生を形にするとこんな広場になるんだろう。







また少し心が痛んだ。













「じゃあ、横島君聞いてくれる。」
不意に声をかけられた。


「いいですよ。速めに終わるようにしてください。」
少し驚いたが顔には出さなかった。

「単刀直入に言うわ。私の事務所に・・・いや
 私達の場所に戻ってきなさい。」

「!! そりゃあまた随分らしくない発言ですね。」

「自分でもそう思うわ。でも・・・」
下を向いて一旦言葉を区切った。

「でもやっぱりあんたには傍に居て欲しい。
 3年経って、あんたが居なくなって初めて
 思い知らされたわ。あんたがいない日々が
 苦しくて切ないってことを。」

「・・・」
この人がこんなことを俺に向けて言うなんて
正直信じられなかった。

「私は不器用だからこんな形でしか伝えられないけど
 給料もランクもそれ相応のものを用意するわ。
 あんたが金とか栄誉に興味は無いのは知ってる。
 でも私は愛情を伝える手段はこんなやりかたしか
 できないから・・・そこは許してね。」

そう言ってまた下を向いてしまった。


ああ・・・やっぱり3年経ってもこの人は変わってない。
見た目や考え方は変わってるかもしれないけど、やっぱり根本は
変わってないのだ。


カッコイイ女で、人生を生き抜く術も知り尽くしてる。
容姿端麗 文武両道。


でも実はどうしようもなく不器用で可愛いと思えるところもあって。


俺がいなくなった環境で月日を重ねててもそういうところは変わってなかった。
弱いようで強い。強いようで弱い。
どこまでいっても美神さんは美神さんというところか。



そんなところを見せられると昔にタイムスリップした感覚に陥る。


あの騒がしくも楽しかった日々に。
仲間と笑い合っていた日々に。























でも、その感覚に陥った時に必ず最後に思い出すのが
あいつの・・・ルシオラの顔だった。


忘れたくても忘れられないあいつの顔。
俺はあいつに優しさも悲しさも喜びも憎しみも届くように
何も無い道で転んでいたのかもしれない。





弱い言い訳だ。
その言い訳ですらあいつに届けたかった。



そうしていればあいつにまた会えると思っていた。
あいつの声がまた聞けると思っていた。



でも本当は・・・





「ありがとう美神さん。こんな情けない俺に
 そんなこと言ってくれて。」

「じゃ、じゃあ・・・!」

「でもゴメン。やっぱりそれはできない。
 本当に迷ったけどやっぱりあの場所は
 俺の居るべき場所じゃないです。」

「な、どうしてよ!? なんか不満でも
 あるの!?」
納得いかなそうな顔でまくしたてられた。

「あんたの居場所じゃないって・・・
 さっきまであんなに楽しそうにしてた
 じゃない!? あの娘達だって本当は
 淋しかったはずよ! あんたを必要と
 している人間はたくさんいるわ!
 それで何が不満なの!?」

「俺はもうあそこを捨てたんです。
 今更俺が戻ってもしょうがないんですよ。」

「そんなことないわよ! あんたがルシオラの
 ことでこの3年間悩んでるのは知ってるわ。
 こういう言い方は残酷だし、失礼かも
 しれないけど、もう彼女は死んだのよ?
 どこを探したってもう会えないのよ!」

「わかってます。」

「え・・・?」
俺の答えに言葉が急に止まった。
よっぽど予想外だったのだろう。

「本当はわかってました。あいつがもういない
 というのは。」

「あいつが残してくれたものなんて本当は何も無いって。
 わかってましたよ。」

「強いて見つけたものと言えば、あいつはもういない
 っていう現実ぐらいです。」

「3年間探して探して、見つけたものはそれだけでした。」







そう本当はわかっていたんだ・・・
俺の羽では羽ばたけないって。




それでも、何も無いとわかっていても、俺は
この道を歩くことを止めれなかった。
わかっていても心のどこかで認めたくなかったのだ。


それを認めてしまったら、
あいつとはもう本当に会えなくなってしまいそうで。






疲れていようが早朝の仕事があろうが探しまくった。
雨にも風にも負けず探しまくった。
色んなところを回って探しまくった。




何も無い場所。そこには文字通り何も無かった。
ただお前がいなくなったという現実がいた。






「それでも、わかっていても、どんなに辛くても
 それをやめることなんてできなかったです。」

「そしてこれからもきっとできないと思います。」

「あいつを失った時から俺はもう何も無い場所に
 立っていたんですよ。その何も無い場所で
 俺なりに色んなものを失いながら、転んで
 もがいて、それでも歩いてきました。」

「・・・」
美神さんは黙って、真剣に聞いてくれた。

「あいつがつけた傷。今も未来でさえもこの傷を
 愛して生きていかなければいけないんです。それが
 わかりました。」

「・・・なんでよ! なんで傷を愛する必要があるのよ!
 そんなもの無くたって幸せに生きていけるハズじゃない!?
 なんで何も無いとわかってる場所をわざわぜ目指すのよ!?
 そんなの悲しすぎるわよ! あんただって幸せになる権利はあるのよ!?」
美神さんは沈黙を破り怒鳴ってきた。
半分涙声だった。

「こういう不器用で正しくもない生き方しかできないヤツもいるんです。
 それに笑って楽しく生きていけるのが必ずしも幸せとは限らないと思うんです。」

「私にはわからないわ。そんな生き方!」

「信じあえる仲間達と笑って暮らす。
 確かに魅力的です。何度も惹かれてそっちの道に逃げそうに
 なりました。」

「でも・・・それだけはできないです。
 あいつの為にもそして何よりも俺の為に。」

「・・・」

「わかってください。俺があなたにいう最初で最後のわがままです。」

「・・・わかったわよ。そんな顔してお願いされたら、
 諦めるしかないじゃない。」

「ありがとうございます。でも感謝してます。
 本当はこの3年間の事を根掘り葉掘り聞かれるんじゃないかと思ってました。」

「だから乗り気じゃあなかったのね・・・
 あのねー私だってそこまで無神経じゃあないわよ。
 なんせルシオラ絡みの問題は簡単な事じゃあないからね。
 傷口に塩を塗る真似はしたくないわ。」

「はは、そうですか。」

「あんた私を鬼かなんかと勘違いしてるんじゃない?」

「いや昔の仕打ちを考えると・・・」

「失礼なヤツね! 私だって分別ぐらいわきまえてるわよ!」

「そうでしたか。すいません。」

「謝らないでいいわよ。別に殴ったりしないから。」

「せっかくの誘いを断っても?」

「しょうがないわよ。1人の男がそこまでいうなら
 諦めるしかないじゃない。心情的には戻ってきて
 欲しいけどね。あんたが正しいと思うことをすれば
 いいと思うわ。」

「ありがとうございます。美神さんが俺にクソガキでしか
 なかった俺に色んなことを教えてくれたから、今何も無い道を
 歩けるんだと思います。」

「別に私は何もしてないわよ。
 後ね横島君・・・」

「はい? 何でしょう?」

「本当に辛くなったら戻ってきてもいいから。
 私達はいつでもあんたを歓迎してるから。」

「・・・ありがとうございます。」

「じゃあお別れね。私も結構多忙な身だから帰るわ。
 また会えたら会いましょう。」

「はい。また会えたら。」

「じゃあね。」
















ルシオラ・・・ごめんお前に嘘ついていたな。



お前がもういないってことはとうにわかっていたよ。
本当に探したかったものは霊破片なんかじゃなくて・・・











自分自身だったんだ。
自分の為に笑うことも泣くことも久しくしてなかった。
ついさっきまで。
そんなバカな本当の俺を探したかったのかもしれない。

























空を見上げたら相変わらず雲も何も無い空があった。


孤独な空。



いつかルシオラと一緒に見た夕焼けの美しさ。
この空にはそんなものは何処にもなくただ殺風景だった。






それでも俺はこの何も無い空の下で生きている。






「ルシオラ、お前はバカなヤツと思うかもしれないけど、
 またこの何も無い道で探し物をするよ。
 何も無い場所で転んでみるよ。」










本当にバカみたいだけどな・・・














でも今度は自分自身の為に歩く。




もう1度心から笑えるようになるまで。

もう1度心から泣けるようになるまで。









END




今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa