ザ・グレート・展開予測ショー

何も無い(前編)


投稿者名:SooMighty
投稿日時:(04/ 2/24)

お前が残してくれたもの。

今もそれを探している。

お前の声が聞きたくて、お前に会いたくて。

でもこの道には何も無いのかもしれない。

それでも俺はお前を・・・
















何も無い













あの事務所を辞めて3年が経った。
短いようで長い3年。
でもやっぱり長いようで短い3年だった。



俺は今フリーのゴーストスイーパーをやっている。
どこにも専属しないで、主に助っ人的な役目が多い。
給料はまあ、そこそこで可も無く不可も無くってところだ。
独り身で食ってくのにはそれほど困らないので大して気にしてない。



3年たった今でもあいつのことを忘れられなかった。
月日が経って、いつかはこの思い出も軽くなると思っていたが
身を切るような切なさは逆に増していくばかりだった。
あいつの霊破片を毎日探している。
あきらめずにずっとずっと探している。
どこか見落としがあったかもしれない。
遥か遠くに飛び散ってしまった可能性だってあるかもしれない。


だが見つかった量は微々たる物で、あいつを復活させるの
には程遠い。
それでも俺はあきらめる気は無い。
何年かかっても探すつもりだ。






これが俺の唯一の希望だから。
何も無い俺の唯一の希望だから。













今日も破片を探し、家に帰る。昨日と同じだ。
もうずっと仕事して、破片を探して、家で寝るの繰り返しの日々を
過ごしている。
同僚の女に「横島さんてあまり笑わないですね。」
と言われたことがある。

昔の俺を知っている人間がいたらさぞ驚くだろう。

生活に余裕がないのだ。
他人の為どころか自分の為にすら何もしてやれない。
そういえば最近泣いたり笑ったりと感情を思いっきり表に
だしてないなあ・・・


たまにこれでいいのか? と思うことがある。
こんな不器用な俺から人は離れていき、いつしか孤独になっていた。
また目指す夢なんかも特に無く、本当に復活する保証も無いルシオラ
の為に色んなものを犠牲にしてきた。


かつての俺、かつての仲間、かつての居場所。かつての夢。
いや、失くしたものはまだあるのかもしれない。






こんな何も無い道で転んでいる何も無い無様な俺。





強いて俺にある物といえば、傷だらけの翼とルシオラの安っぽい
イメージだ。










・・・でもやっぱり悩んだところで今の俺にはそれしかないってわかっている。
安っぽい希望でもそれにすがって生きるしかないのだ。
色んなものを犠牲にしてきたけど、後悔だけはしないと決めた。
そう思えばすぐに葛藤が無くなり、何も無い道を歩く決心がつく。
この想いだけが俺を駆り立てているのだ。











とりあえず明日の仕事はどこの依頼かな?
自宅にFAXが届いていた。
仕事の依頼だろう。
内容を見ると助っ人の依頼、よくあるオフィスビルに大量発生した
悪霊退治だ。


これできれば行きたくないんッスけど・・・


依頼先 美神除霊事務所って・・・


まいった。
俺の仕事先は割れてるだろうとは思っていたけど
なぜ今更俺に依頼が来るんだ?
まさか昔話がしたいわけでもあるまいよな・・・


とりあえずこれは気まずすぎる。
断っておこう。

俺は上司に電話してその旨を伝えておくことにした。


プルルルルルル  ガチャ

「はい、こちら株式会社FTSですが。」

「あ、もしもしアルバイトの横島忠夫ですが。
 加藤さんはいらっしゃいますか?」

「はい、横島さんですね。少々お待ちください。」

FTSってのはまあ、今の俺の勤め先の名前だ。
まあ、除霊商売の登録制アルバイトって感じだ。

「はい、お電話変わりました。加藤ですけど。」

「あ、もしもし横島ですけど。」

「おー横島君か。何の用かな?」

「あの、今日送ってくれたFAXの件なんですけど・・・
 あれ、パスしてもいいですか?」

「ん?なんだ具合でも悪いのかな?」

「いえ、あそことは個人的な事情があってですね。
 あまり一緒に仕事したくないんですよ。」

「ん〜そうか。でもなぁ、もう今日の段階だとこれしか
 仕事がないんだよね。それに・・・」

「それに・・・なんですか?」

「クライアントの女性からどうしても彼にして欲しい
 って強く言われてね。」

「あーそうですか。」

「だから、僕からはなるべくは行って欲しいんだよね。」

「んーー。わかりました。行きますよ。
 それにどうせあそこは人使いが荒いから俺ぐらいしか
 できそうもないですしね。」

「ありがとう! 恩に着るよ。
 じゃあお願いします。」

「はい、わかりました。
 では失礼します。」

ガチャン




ん〜嫌な事態になった。
仕事の内容は特に問題も無くクリアできそうだが・・・

俺と今更会いたいってのはどういうことか?
こっちは正直会いたくなかった。
昔の仲間たちの顔を見ると、なんとなくルシオラが
復活できないというのを思い知らされてしまいそうだから。






そう、それを認めないが為に今この道を選んだのだ。





あの居心地のいい場所で平和に楽しく暮らす。
それはそれでいいのかもしれない。
何もかも捨ててみんなと笑い合っていたほうが幸せだったのかもしれない。




でもそれは俺とルシオラの2つをいっぺんに否定しまう
ことだとも思う。
そんな事実を受け入れられるほど俺は楽にも強くもできてはいない。



あいつが残してくれた物。
あいつが隠していた物。

それを見つけるまで俺は心から決して笑えない。
勝手にそう思っている。
身勝手な思い込みだ。










・・・まあいい。
仕事は仕事だからちゃんとやる。
さっさと終わらして切り上げればいい。
適当に理由をつけて帰ってしまえばいいのだ。




明日に備えてもう寝るとするか・・・




















朝の8時頃に目が覚めた。
集合は10時だったよな。
とりあえず準備しておくか。


俺はあまり道具は使わないタイプなので、すぐに出発する
準備はできた。


しかしやっぱり気まずい、そして懐かしい感覚が時間が経つ度に増してくる。
一体、会ったら何を話せばいいんだ・・・


正直仕事うんぬんよりもそっちの方が不安だった。
責められるだろうか?
それともまたあっちの生活に戻そうとするのだろうか?


もしかしたらそういった誘惑に負けるかもしれない。
でも負けたら俺が俺じゃあ無くなる。


何が起きても気はしっかり持っておかないとな。



さて、そろそろ行くか・・・
集合場所は除霊現場のビルの入り口だったな。









今日は雲1つない晴天だった。
真っ青な空。
こんな日は夕焼けもより美しく映し出されるだろう。




いかん・・・仕事の前なのに感傷に浸ってどうする・・・
仮にも命のやり取りをする仕事なんだ。
半端な気持ちで挑んで命を落としたらそれこそ犬死にだ。

「今は仕事に徹するんだ、横島忠夫・・・」
自分に言い聞かせ気持ちを引き締める。
とりあえず生きて帰らないとそこで終わりだ。




電車の中で色んな思いを駆け巡らせながら目的地へ向かった。



今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa