ザ・グレート・展開予測ショー

いつか見た星空 最終回 後編


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 2/24)





次に目を開けると星空が見えた。
今夜は月がほとんど隠れてしまったので、まさに満天の星達は余計な光に邪魔されずに光り輝いている。
川辺に仰向けに倒れている状況らしく、下半身がいまだに水の中にあるようだった。
両腕からはしっかりとした温かみを感じられる、息もちゃんとしているようで両方から呼吸音が
聞こえられた。

横島は、心のそこからホッとする。
もう一歩も動けなかったし身動き一つ出来ないので、しばらくはこのままで居る事にする。

星が綺麗だった、なのに目が曇ってしまい目をつぶると涙が頬を流れた。
二人が無事でよかったと心の底から安堵する自分がいた。


じゃり、じゃり、じゃり

どこからか二人分の足音が聞こえてきたが、横島はとくに驚かないで自分に近寄ってくるまで待った。

「横島さん、大丈夫ですか!」

一人が横島達に気がついて駆け寄ってくる。

「横島君、二人は大丈夫?」

もう一人は、後ろに居たもう一人に道を譲りながらゆっくりと近寄ってくる。

「おキヌちゃん、俺は大丈夫だよ。
二人とも大丈夫だと思うんだけど、おキヌちゃん見てあげてくれないかい。」

「はい」

二人の温かみはちょっと名残惜しかったが、おキヌに渡す。
自分は相変わらずに川辺に横になったままである。

「美神さん、俺の心配はしないんですか?」

「横島君は滝から落ちたくらいじゃ死なないでしょ。二人のほうが心配よ。」

横島と美神が会話をする横でおキヌはヒーリングを始めた。
横島はそれを横目で見ると、再び星空へと目をむける。
だれもが何も言わずに、ただじっと何かを待っているようだった。
2,3分たっただろうか、横島が突然沈黙を破る。

「美神さん、おれゴリラの霊に止めを刺すか、
二人を助けるかって決断を迫られた時、二人を選んじゃいました。
あのゴリラを逃がせば被害が出るって分かってたのに、それでも俺は二人を選んじゃいました。
もう俺には、誰かを見捨てるなんて出来なかったです。」

おキヌは横で話を聞いていたが何も言えずに顔を伏せていた。
言いたい事は一杯あるのだが、一つとして言葉になってくれない。

美神も少しの間何も言わずに黙っていたが、横島と同じように星空を見上げながら、
横島へ答えではなく質問を投げ掛けた。

「横島君、私たちの事分かってたみたいだけど何時気がついたの?」

横島は、ん〜と考える素振りを見せた後、星空を見ている美神の横顔を見る。

「確証はぜんぜん無かったですけど、たぶん最初からですかね。シロとタマモが何かが追われてるって
言ってきた時、なんとなく美神さんたちのような気がしてました。」

まあ気がしただけなんですけどねと、横島は付け加えてくる。

「それじゃ、あのゴリラの霊に止めを刺さないで二人を助けに行く時、なんて思ったの?」

その質問に横島は体中の力を抜くと、再び空を見上げた。
そしてゆっくりと美神の質問に答える。

「なんとなく、ほんとになんとなくですけど・・・こいつは美神さんたちに任せれば、なんとかしてくれるって
思っちゃいました。」

「そう」

美神は、ほんのちょっとだけうれしそうに微笑むと横島の顔を覗き込むようにする。

「横島君、今回のゴリラの霊ね、あれ元々動物園のゴリラだったのよ。霊能力の才能は生まれた時から
あったみたいなんだけど、ゴリラが居た動物園がかなり酷いところだったらしくてね。
人間に恨みを持ちながら死んでしまったの。」

「ひどい話っすね。」

「そうね、ひどい話ね。そして死んだ後に霊団の核になるほどの力をつけたゴリラは、同じような
動物霊を操って動物園の飼育員を襲ったのよ。その後、私達がこの辺の山まで追い込んだんだけど、
ゴリラ思ったより才能がある奴でね、逃げながらも自縛霊とかを吸収してどんどん強力になったのよ。
で、追いかけてるつもりが、いつの間にか追いかけられるほうになちゃったってわけ。」

「まぬけっすね美神さん。」

ガンッ

「うぎゃ」

取り敢えず美神は持っていた神通根で横島を殴る。

「わ、美神さん、横島さんは怪我人ですよ。」

美神は、横島の心配をするおキヌを軽く無視して話を進める。

「私とおキヌちゃんだけじゃ、倒す事が出来なくなっちゃったから逃げまわったのよ。
その時こう思ったわ、シロやタマモ、頼りないけど横島君がいれば、
なんとかしてくれるかもしれないってね。」

横島はびっくりした顔をすると、美神の顔を覗き込もうとする。
だがその時には美神はそっぽを向いてしまい、横島とは顔をあわせようとはしなかった。

「そう・・・ですか」

美神が顔を見せてくれないので、仕方なくもう一度星空を見る。

「結論から言えば、横島君あなたの判断は正しかったのよ、なにも間違ってはいないわ。
あの時点で横島君しか、二人を助ける事は無理だったし、
逆にゴリラの霊はまだ十分倒せるチャンスはあったのだから。
それに横島君がゴリラの霊を任せてくれたように、私達も二人のことを横島君に任せたのよ。
・・・・・・・ねえ、横島君。」

「はい」

「私達は万能じゃないわ、自分に出来る事なんて限られている。
世界一流のゴーストスイーパーなんて呼ばれても、横島君やおキヌちゃん、シロやタマモの協力が無ければ
ゴリラの霊ですら倒せない時もある。
他人に助けを求めるのは決して恥なんかじゃないのよ。
本当に強い人はね、自分に出来る事と出来ない事をきちんと理解して、必要な時に必要な人に助けを
求められる人なのよ。・・・・・・横島君はもっと他人を信じる事を勉強しなさい、抱え込まなくても私達が
いつでもそばにいるんだから。」

すでにこの時点で美神の顔は真っ赤になっているのだが、森の夜は深く気付く人はいないようだった。

「そう・・・・・・ですよね」

それから先しばらくは誰も言葉を喋らなかった。

それぞれが空に輝く満天の星空を眺めながら、ゆっくりとした時間を感じていた。
なにも言わなくても長年チームを組んできた3人である、きっと自分が感じている気持ちをみんなが
感じていると信じて、今はただ黙っていようと横島は思った。


「う、う〜〜ん」

「う〜ん」

突然シロとタマモがが呻く
おキヌが二人の顔を覗き込みながら、意識を取り戻させようと二人を揺さぶる。

「美神さん、横島さん、二人が気がつきそうです。」

横島は、体中から筋肉痛のような痛みを感じながら、ゆっくりと立ち上がり二人に近寄る。
二人の横にたどり着いた時には、美神も横に居たので3人でシロとタマモが目を覚ますのを見守った。

「シロちゃん、タマモちゃんしっかりして」

おキヌは、必死に二人を揺さぶる。

「せ、せんせ〜」

「横島〜」

二人とも必死に何かを掴もうと手を動かすので横島は握ってやる。

「二人ともしっかりしろ、目を覚ますんだ。」

横島は自分の事を呼ぶ二人を見て急に心配になる、やはり二人とも無事じゃなかったのかもしれないと。
しかし、横島のその思いはタマモの次の一言で全てが終わった。

「な、七水のきつねうどん奢りなさい。」

「せ、拙者肉うどんで良いでござる。むにゃむにゃ。」

横島は取り敢えずつかんでいた手を離すと、二人の頭をおもいっきりはたいてやった。

バシッ

「いった〜」

「きゃいん」

二人とも頭を抑えながら起き上がった。

「お前らは普通に起きれないのかぼけぇ〜 それにシロ何度も言うがむにゃむにゃってなんだよ」

「はっ、先生どうして。ゴリラはどうなったのでござるか」

シロは一生懸命回りを見渡しながら横島達に聞いてくる。

「もう大丈夫だシロ、キ○グコングは美神さん達が倒した。」


その後、横島の説明を二人は簡単に受けて状況を把握すると、シロは涙を流しながら横島にすがりついた。

「せんせ〜、せんせ〜、拙者守れなかったでござる、絶対に先生だけは守りたかったのに
守れなかったでござるよ〜 」

またタマモは、すがりつくように泣くシロの横で、ただ黙って横島を見つめていた。
そんな二人を横島は片腕でシロを抱きしめ、もう片腕でタマモの頭を撫でてやった。

「なに言ってるんだよ。二人が霊団の核を見つけてくれなかったら倒せなかったんだぞ。
二人には十分助けてもらったよ。」

「でも、でも拙者は最後まで自分の手で守りたかったでござる。先生を守りたかったでござるよ。」

シロは納得いかないとばかりに横島にしがみつく。

「シロ、お前がタマモに助けを求めたように、俺に助けを求めるのがなにが悪いんだ?
俺達は仲間なんだからもっと信用してくれ、お前が俺の事を守りたいと思うように
俺もお前やタマモを守りたいんだから。
・・・・・・・・・お前ってホント俺の弟子だよな、さっき俺も同じ事で説教されたばかりだ。」

その後シロは、何も言わずに横島の胸で気が済むまで泣いていた。





しばらく経ってシロが落ち着くと、元のキャンプ場所に戻る事になった。

「美神さん、おキヌちゃん、山菜のたくさん入った鹿鍋を作ったから、戻って食べよう」

「鹿鍋ですか、私食べるの初めてです。」

「鹿鍋なんてあまり聞いたこと無いわね。美味しいの?」

横島の提案に美神はちょっと不安になって聞いてくる。

「いや、俺も鹿って食べた事無かったんですけどけっこういけますよ。」

「へ〜それじゃ楽しみね」

そんな会話を繰り広げながら。
そのまま全員がシロを先頭に夜道を歩き始める。
キャンプ場所が見え始めた辺りでタマモが美神の服を引っ張った。

「ねえ、ちょっと話があるんだけど良いかな」

美神はちょっとだけ考えるとすぐ返事をする。

「いいわよ、横島君先戻ってて場所はもう見えるから大丈夫よ。」

横島は、タマモが美神を呼び止めたのをちょっと不思議に思ったが、素直に聞くことにした。

「はい、分かりました。」

その場に美神とタマモだけを残してみんなキャンプ場所に戻って行った。
それを確認するとタマモへ向いて声をかける。

「それで、どうしたのタマモ?」

「まずはこれ、横島の服についてたの」

タマモは自分のポケットから、小さなボタンみたいな物を取り出して美神に渡す。
美神は一瞬驚いたような顔をするが、すぐ元に戻りタマモからボタンを受け取る。

「発信機って言うんでしょそれ。横島の体から美神の匂いがしたから、すぐ気がついたわ。
私が取らなくてもシロがそのうち気がついたわよ。」

「ん〜あんた達がいるとすぐ見つかっちゃうか。」

美神は頭を掻きながらちょっとだけ悔しそうにする。

「それでこっちを確認しながら逃げてきたんでしょ。そうじゃなきゃ昼間の時点であんなに離れてたのに、
夕方までに目の前まで近寄ってこれるはずないわ。」

「まあね、おキヌちゃんにも黙ってたのにな。タマモこれは内緒よ。」

「分かったわ、後頼まれてたやつだけど。横島がシロの水浴び覗いたうえに、
裸のシロに抱きつかれて鼻の下伸ばしてたわ、しかも裸のシロ抱き上げて草むらに連れてってたわよ。
まあ、最後まで手は出してないけどね。」

嘘は言ってないわよねとタマモは心で思いながら、美神に頼まれてた二人の監視の結果を報告する。
それを聞いた美神が一気に怒りMAX状態になる。
直接殺意を向けられている訳でもないのに、近くに居るだけでタマモは逃げ出したくなるほどだ。

「あ〜の馬鹿野郎が〜〜〜ぶっ殺す。」

怒りのままキャンプ場所へと歩いて行こうとする美神を、タマモは止める。

「まって、ちょっとまってよ」

「なに、タマモほかに用があるの。」

顔だけをタマモに向けた美神は、ちょっとだけ苛立ちながら聞いてくる。
タマモとしてはここからが、自分の本当の用件なので帰られては困るのだ。

「言う事聞いたんだからお駄賃頂戴。」

「お駄賃? きつねうどんで良いなら、事務所に帰ってから食べさせてあげるわよ。」

タマモは美神の意見に跳びつきそうになるのだが、ぐっとこらえて自分のお願いを伝える。

「い、いえ。それよりも一つだけ教えて、ルシオラってだれ?」

そのとたん怒っている様子だった美神は、すっと冷静になると顔だけではなくちゃんとタマモの
正面に立った。

「タマモ、それは誰から聞いたの? 横島君?」

その美神の変わり様にタマモは驚いたが、美神の視線をしっかりと受け止める。

「横島が呟いたのを聞いたのよ。自分ひとりだと思ってたみたいでね。」

「そう」

美神はもう用が無いとばかりに再びキャンプ場所へと足を進める。
タマモは急いで美神を追いかけた。

「ちょ、ちょっと、話は終わってないわよ。」

「タマモ」

美神は歩きながら顔だけをタマモに向けると諭すように言ってくる。

「興味本位で聞くなら止めなさい、でももし横島君のことを思って聞くなら・・・・・・
横島君がちゃんと教えてくれるようになるまで待ちなさい。どっちにしても
私が話すような事じゃないわ。」

「・・・・・・・はい」

自分は興味本位でなんて聞いてはいないと叫びたかったが、
横島に聞く勇気が無いから美神に聞いたタマモとしては、なにも言い返すことなど出来なかった。
それに美神の言う事はもっともだったから。



キャンプ場所にたどり着いた美神は、取り敢えず横島をしばき倒したのは言うまでも無いだろう。

みんなで夕食を食べた後は、丘に登って修行での最後の星空を眺めた。
それぞれがいろいろな事を喋った、おキヌの学校の事や最近の仕事での事など、結局日が昇るまで
話は続いた。
最後にシロが丘から降りる時、横島に抱きつきながら呟く。


「またいつか、みんなで星空を眺めたいでござるな」

「そうだな、そんな事で良いならきっと願いは叶うさ。」

もう既に星空は消え朝日が出ている空を二人は眺めると、みんなに追いつくためにまた歩き出した。


END

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