ザ・グレート・展開予測ショー

いつか見た星空 最終回 前編


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 2/24)



だいぶ日が暮れてきた山道を3人は全力ダッシュで走っていた。

「ありゃキングコン○だな、テレビで見たのはもっとでかいがな。
それに本物の方がもっと品があった。」

「きんぐこんぶとはなんでござるか?」

全力で走ってるのにもかかわらず横島とシロは平然と話をしていた。
しかも二人ともまったく息切れをしていない、あきれるほどの体力である。

「○ングコングだ、こんぶじゃない。昔の映画であったんだよな〜」

懐かしむようにちょっとだけ横島は上を見ると、
そこには黄昏と言うのだろう夕日が山の間に沈む瞬間があった。
横島は、周りの世界を赤煉瓦色に染める夕焼けを見て、何時見ても綺麗だなと思ってしまう。

「キン○コングでござるか、先生今度”れんたるびでおや”なる場所で一緒に借りて見るでござる。」

「あはは、それも良いか、じゃ帰ったら一緒に借りに行くか。」

横島は軽く微笑みながら、一緒に走るシロの誘いを受ける。
その返事を見るとシロはうれしそうに笑う、走っていなければ飛びついて喜んだだろう。

「やったでござる、先生楽しみにしてるでござるよ。」

一瞬辺りには休日の午後のような温かい雰囲気が流れる。
しかし、そんな雰囲気を一瞬で吹き飛ばすような叫び声が流れた。

「ちょっと〜〜〜、楽しみにするのは良いんだけど、後ろのなんとかしないと生きて帰れそうに
ないと思うのよね。」

タマモが叫びながら後ろを確認する。ほんのすぐ後ろに、通り道の木をなぎ倒しながら
進んでくるゴリラがいた。改めて見るとその大きさが分かるのだが
10〜15メートルはあるゴリラが一直線に横島達を追いかけてくる光景は、他の人が見れば
楽しそうな場面だが、横島たちにしてみればたまったものではなかった。
また、なぎ倒される木の音やゴリラの咆哮で周りはえらいうるさく、
本当なら横のシロと会話するのも大変なのである。
その状況でこれだけ現実逃避できる横島とシロは、かなりのつわものだとタマモは感心する。

少しだけ現実にもどって来た横島が、一瞬後ろを見ると二人に叫ぶ。

「ありゃ、多分ゴリラを核とする霊団だな。なんであんなにでかいのか知らないが、たぶん雑魚霊とか
取り込みまくった結果だろう。」

「そんだけ分かるなら、なんとかならないの横島? いい加減日が落ちるわよ。」

だいぶ日が暮れてきた森の中を全力で走りぬけながらタマモは叫んだ。
超感覚のあるシロやタマモは、どれだけ日が落ちようと森の中を全力で走る事に問題はない、
だが横島は一応・・・いやたぶん人間である、日が落ちてきている森をあと
どれだけ走る事が出来るか疑問である。

「ありゃおキヌちゃんの担当なんだよな〜 霊団相手に単体攻撃の俺達じゃきりがない。
核を倒せれば後は雑魚霊だからなんとでもなるんだけど、核を倒すには雑魚霊倒さないといけないって
矛盾が・・」

これだけ喋ってもまだ息切れをしない横島は、妖怪並みの体力の持ち主だった。

「核ってあのゴリラでござるか?」

横で聞いていたシロが会話に混ざってくる。
シロは全力で走っていると言う訳ではなく、横島のペースにあわせているだけなので、
かなり余裕がある。

「あのゴリラ自体は、核を中心に霊団が形作っているだけだから、倒すのならあの中に混ざっている
はずのゴリラの霊だな。」

「ゴリラの霊でござるか、どうにかそいつだけを見つけないといけないでござるな。」

シロはいまだ森の木々をなぎ倒してついて来るゴリラを見上げる。

「くっそ〜道具さえあればな。そうすれば霊圧が高い奴を見つけ出せるし
簡易結界である程度持ちこたえられるのに。」

ついつい横島は無い物ねだりと知りながら愚痴ってしまう。
どっちにしても時間はあまり残っていない、夜になれば霊の力が増すので倒すのがよけいにつらくなる。
残念ながら現実的にも時間は残っていなかった。

「あ、先生やばいでござるよ。」

「どうしたシロ?」

突然叫ぶシロに横島は驚いて聞き返す。
するとシロは進行方向に指を指すと、あれあれとゼスチャーをしてくる。
横島も正面に目を向けると、もうほとんど夜と言って良い森を見ると、谷が突然現れる。

「うぉ〜〜」

横島達は急いで立ち止まろうとするが、今の今まで全力で走っていたのだから、当然急には止まれない。
横島の足元から地面がなくなってしまい、宙に浮く感覚が襲ってくる。

「せんせ〜〜〜〜」

シロが手を伸ばして横島の襟首を捕まえるのだが、勢いが殺しきれずにシロまでも谷に落ちようとする。
しかし、そのシロにまたタマモが飛びつく事によってなんとか踏みとどまった。
急いで引き上げてもらった横島に、ホッとする間もなく今度はキ○グコングが襲ってくる。

ドゴォ〜ン

その攻撃をなんとか避けると今度は谷沿いに逃げる。

「くっそ、これ以上逃げるのは無理か、どこか戦いやすい場所はないか」

横島は逃げる事をあきらめて、今度は戦闘をしやすい場所を探す。

「先生、まっすぐ行くといつもの滝に行ってしまうでござるよ。」

「それってこの先も崖って事だろが〜」

横島達が今いるのは滝の上流なので、このまま行くと当然下に落ちてしまう。

「横島あそこ、あそこ〜」

タマモが一生懸命指を指す場所を見ると、横島の目でなんとか見えるところに森の切れ目があった。
滝の一歩手前の場所のようで片側に谷、ちょっと後ろに滝がある崖となかなか崖っぷちな場所で
あったが戦えない事はない。


「シロ、タマモやりたくはないが、やらないと命が無さそうなのであいつを倒すぞ。」

切れ目にたどり着くと、ちょっとした広場ぐらいの広さがあり戦うには十分だった。
3人はたどり着くと、横島が叫び戦闘態勢に入る。

「シロは俺と前衛に立て、タマモは後ろで援護を頼む。気をつけろよ相手はあのでかさの霊団だ
数はかなりのものだから、まともに相手するとこっちが先に倒れちまう。
なんとかして核となってるゴリラを探すんだ。」

横島はいつも美神がみんなに指示を出しているのを思い出す、たとえいつも通りだとしても
指示をもらったほうが落ち着くので、横島は二人のために指示をだしてやった。

しかし戦うと言っても逃げられるなら、横島はなにをやってでも逃げたい心境だった、
土下座しろと言われればきっとする。

だがシロとタマモ、二人を置いて逃げるなんて横島には出来なかった。
死ぬかと思うと足が震える、でも精一杯の強がりで二人に指示を飛ばしてかっこつけると
キング○ングへと向く。

そして、キングコン○が広場に入ってくる。

「やい、○ングコング、今の今まで先生の手前一生懸命我慢し続けたでござるが、
先生のお許しが出たでござる。
今日までの修行の成果をだして、拙者が成敗してやるから覚悟するでござる。」

「いや、シロそれは無理だから・・・」

横島がつい呟いてしまった。
目の前にキン○コングが居る事など忘れて、シロはおもいっきり横島の方へと詰め寄る。

「なんででござるか先生、あんなにがんばったのに〜」

「い、いやだって・・・なぁ」

詰め寄られた横島も、どう言って良いのか分からないので、ついタマモに振ってみる。
当然タマモに振られたって分かるはずもない。

「私に振らないでよ、分かるわけないでしょ」

タマモはそっぽを向く、我関せずの構えだ。

「せ、せんせ〜〜」

く、つい本音がでちまった。
横島は自分の失敗を心の中で嘆くと、どうやって機嫌を直してもらうか考える。

「そ、そうだよな、俺達がんばったもんな。シロあのキングコン○に今日までの修行の成果を
ぶつけるんだ。な〜に大丈夫俺達は強くなったさ。」

「先生、そうでござるよ。今までの修行の成果をぶつければ、あんなキ○グコングなど敵ではござらん。」

3人とも気を取り直して再びキング○ングへと向く。
お約束通りちゃんと待っててくれる○ングコング様万歳であった。

ウォ〜

本来ありえないような咆哮を上げると霊団が襲ってくる。

最初固まったままぶつかって来るが、それを避けるとばらけた霊達が来るという、
2重の構えで襲い掛かってきた。シロと横島は霊波刀で一体ずつ倒すが少しも減った様子が無い。
タマモも後ろで横島達に近寄る霊を狐火で退治するのだが、数が多すぎるので対処しきれなくなっている。

一瞬の隙を付かれてタマモが霊の攻撃を受けてしまう。

「きゃっ」

倒れたタマモに再び襲い掛かる、だがそれよりも早く横島が文殊を投げると、
一瞬の差でタマモの回りに結界ができる。
霊達がはじかれる。
タマモが安全だと分かると、だいぶ疲れが見え始めているシロへ向かって叫ぶ。

「シロお前も結界に入れ、文殊が持つまでそこで回復しろ。」

「だめでござるよ先生、時間がたてばたつほど夜が深くなって、こいつらは力を上げるでござる。
拙者に考えがあるでござる。」

それだけ言うとタマモの結界に近寄っていく、入るのかと思うとたいぶ近寄った辺りでタマモに叫んだ。

「タマモ、拙者を乗せて飛んでほしいでござる。
核と言うからにはきっと霊団の中心辺りに居るはず、近寄ってしまえば霊圧が高いはずだから
絶対分かるでござるよ。」

むちゃだ、横島は思った。
核を守るために中心やその後ろに居るだろうとは思う、だがそこに行くと言うことは逃げ場も無くなると
言う事だ。

「やめろシロ、行くなら俺が行く。お前らはそこでいったん休憩しろ。」

「嫌だ、いつも守られてばかりでは嫌でござるよ。こんどは拙者が守るでござる。
タマモ、先生を守るために力を貸してほしいでござる。」

タマモは二人の会話をずっと無言で聞いていた。そしてずっと考えていた、自分はまだ妖怪としての
力が戻っていない、復活してからまだ年数が少なすぎるからだ。
確かに人間をはるかに上回る力はある。
だが下手をすれば人間の霊に負けてしまうぐらいの脆さもある、今まで仕事をしていても何度も
危険な時はあった。
そのたびに、横島は助けてくれていた。もちろん他のみんなにも助けてもらったが、横島はいつでも
自分やシロを気にかけてくれている。
自分より弱いはずなのに、自分より脆いはずなのに、自分より臆病なはずなのにだ。
しかし、シロはそこから一歩踏み出そうとしている、
守られるだけではなく自分も守りたいと言っているのだ。

タマモが結界から一歩踏み出すと、手を翼に変えてシロへと羽ばたいた。
すれ違いざまにシロを背中に乗せて霊団の中心へと飛ぶ。

「馬鹿犬、あんたの為じゃないからね。」

「上等でござる。」

それを見た横島はポケットから文殊を出すと”飛””翔”の文字を入れて
自分も飛び立つ。

「ばかたれ、俺にかっこつけさせろよ。」

呟きを漏らしながら二人の後を追った。

シロは群がってくる霊達を倒しながら、自分の感覚を研ぎ澄ます。
目標となる霊はたった一体、核となるゴリラだった。
鼻を利かせて霊圧を見極める・・・・・・・いた!!
中心に他の霊たちに守られるようにしているゴリラの霊を見つける。

「タマモ、あれでござる。あそこのゴリラが核でござるよ。」

シロが指を指してタマモに教えると、タマモもそれを確認して急降下で下りていく。
霊波刀を前に掲げたシロは、他の霊を完全に無視して突撃をかける。
しかし、気付かれたと分かったゴリラの霊もだまってはいない、突撃をしてくる二人を
叩き落とそうと力の限り霊をぶつけてくる。
タマモが近寄ってくる霊を狐火で焼くが、壁のように襲ってくる霊の前に倒しきれないでいた。

もう少し、あともう少しと言うところで、横からの霊をかわしきれずに二人は弾き飛ばされてしまう。
ゴリラの霊は、ホッとした表情を見せるがその目の前に横島が現れた。

「やはり、所詮動物霊だな。目の前の敵しか見えなくなるなんてよ。」

横島はずっと二人を追いかけていた、核であるゴリラの霊に気がついた時だって後ろにいた。
もちろん二人が弾き飛ばされる時だってなにもしなかったわけではない、
必死に文殊を投げたのだが間に合わなかったのだ。でも吹き飛ばされた時に、なんとか文殊が
間に合った。とっさの事で力が弱く着地の衝撃程度しか防げないだろうが、今はそれで十分である。

「二人の分だくたばれ!」

二人を助けたい気持ちを抑えて、目の前のゴリラの霊に霊波刀を叩きつける。
しかし、すかさず二人を助けに行こうとしていた横島の攻撃は、ほんの一瞬遅れてしまい
ゴリラの霊を倒しきれなかった。

それでもゴリラの霊は集めた霊団の維持が出来ないほど弱まり、横島から必死に逃げようとする。

ちっ

横島は舌打ちをしながら、ゴリラの霊と飛ばされた二人を確認する。
横島の背中に冷や汗が流れる。
二人は気絶してしまったようで、まったく反応が無いまま谷底の川に落ちていったのだ。
横島達が来るまで山には雨が降っていた、そのため川の水位は上昇しているし文殊の
効果があるので、二人が怪我をする事は無いと思う。
だがすぐ先は滝である、別に高さが50メートルも100メートルもあるわけでは無いが
それでも15メートルはあったはずだ。
気絶したまま落ちて平気だなんて思えるほど、横島は楽観的ではない。

だが逃げようとしているゴリラの霊は殺人まで犯している凶悪な奴だ、
しかもこれだけ強力な力を持っている。今止めを刺さなかったら、どれだけの被害がでるか分からない。

横島は決断を迫られる。
GSとしてはなんとしても霊団を操るゴリラの霊を倒さなければいけない、だがシロは?タマモは?
大切な仲間だ、それだけではなく家族だとも思っている。
ふと、ルシオラを思い出す。
あの時も決断を迫られたっけと・・・

考えたのは一瞬。

横島は谷へと走ると二人を確かめる。いまだ気絶しているようで水面を浮いたり沈んだりしていた。
早く助けなければと焦るが、今から飛び込んだとしても追いつくまでに、
滝に落ちてしまうのは一目見れば分かった。
ポケットから文殊を取り出すと祈るように”逆””流”の文字をこめる。
川に投げると自分も飛び込んだ。

飛び込む瞬間、聞きなれた笛の音が聞こえた。
それが空耳だったのか確認する前に横島は水の中へと沈んでいった。



滝に流れる水が止まる・・水が絶対に在りえない方向に流れ出す。
川の流れすら操って横島は二人をつかまえる。
大丈夫、ちゃんと息はしている。
夏とは言え夜の水は冷たかったが、二人の温かみを感じられた。
ほんの数分、二人をしっかりとつかまえたと同時に文殊の効果は切れ、
再び川の流れは滝へと戻っていった。

横島は覚悟を決めた。
15メートルぐらいだ、昨日今日と遊んで滝つぼの深い場所や危ない場所は分かっている。
そして二人をしっかりと抱えて横島は滝へと飛び込んだ。
着水と同時に横島の意識を奪っていく、そしてそれでも川岸に向かおうとしながら意識は暗闇へと
落ちていった。

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