ザ・グレート・展開予測ショー

長編・GS信長 極楽天下布武!!(10)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 2/23)

御旗
楯無も照覧あれ

明日
是非一戦に勝敗を決すべし















「俺が殺してやる。久秀さんの仇を討つんだ……!」
船岡山。
憤怒の表情で,雫手政宗が呟いた。
「やべ,彼奴キレやがったぞ」
「拙いわね。こっちはお荷物抱えてんのに」
長政の言葉に,加江が腕の中の吉乃を見て言った。
相変わらず,すやすやと寝息を立てている。可愛いが,二人には愛でている余裕は無い。
ドン!
「うぉ」
「きゃ……!」
再び,二人の間に水柱が立った。
「殺す……。殺してやる……っ!」
「彼奴,眼が半分据わってやがる」
「如何する?」
「しゃーねーな!」
長政が,魔装術を展開した。
「俺が特攻んでみっから,大将はその間旦那を頼む!」
「ちょっと,本気!?危ないわよ!」
「んなの,当たり前ぇだろ。そー言う職業だろ?GSってのはよ」
「そう言う問題じゃ……」
ズン!
三度,水柱が立つ。
「彼奴,力は強ぇがコントロールは甘ぇ。一か八か,やってみるっきゃねーよ」
「……貴方が死んだら,市さんが悲しむわよ?」
「このまま斯うしてても,死ぬだけだろーが。彼奴だって,俺の仕事が如何言うものか位,分かってるよ。それに――」
「それに?」
「いや……」
如何せ俺は,信長さんの代わりだから……。
「――行くぜ!」
長政が,地面を蹴った。
「……」
政宗が掌を翳す。
ドン!ドン!
長政の左右に,水柱が立つ。
「へっ!当たんねーぜ。修行が足んねーな,小僧!」
隻眼故に距離感が掴みにくいのかも知れないが,そんな事は如何でも良い。重要なのは,敵にそう言う弱点が有ると言う事。
子供とは言え,自分達を殺そうとしている敵。殴る事に何の抵抗も無かった。普段長政の生きる裏の世界では,中学生位の歳の殺し屋なんて珍しくもない。
……だから,だろうか。小谷と居る時が,楽しいのは。信長や秀吉――藤吉郎達と居る時間が,大事に思えるのは。
自分も,表を歩けるのだと感じられるから――。
気の持ちようだと,思えるから。
「喰らいなっ!」
バキィ!
「がっ……!」
長政の拳が,政宗の頬を捉えた。
ズザァッ……!
政宗の身体が,地面を滑る。
「もういっちょ……!」
追撃を撃とうと,長政が一歩を踏み出した時……,
ビキィ!
突然,その足下の地面に罅が入った。
先程迄硬く確かだった地面の感触が,突如,酷く頼りないものへと変わる。丸で,今にも崩れてしまいそうな。
「な……!?」
浮き足立った長政の耳に,何やらくぐもった轟音が聞こえた。
ゴゴゴゴゴ……
「な,んだよ?こりゃあ……」
「いけない!戻って,浅井君!」
遠くで,加江の声がする。
いや,実際はそう遠くに居る訳じゃない。だが何故か,遠くに聞こえた。
……死を覚悟したから,では無いだろう。
無いよ。
違うに決まってる。
「別に俺は……死にたい訳じゃない……」
唐突に,声が漏れる。
戦闘中であると言うのに,意識が内へと向いていく。
「俺は,自分が嫌いな訳じゃない……」
焦点を失った眼で呟く。
自分に,言い聞かせる様に。
「浅井君!」
ビシィ!
「ぎゃ!?」
加江の投げたチョークで,目が覚めた。
「いってててて……」
「何やってるの!いきなり,ボーっとして!」
「お,応。いや,すまねえ」
そう言えば,学校なんて,まともに行った事無かったな……。
て言うか,何であんたは今チョーク持ってるんだよ。土井先生(忍○ま乱太郎)か?
「何か良く分からないけど,拙いわ!此処は一旦退きましょう!」
「ああ!何かゴゴゴとか言ってるしな」
自他共に認めるバトルマニアの俺が,戦闘中に我を失うなんてな。
矢っ張り,さっきの“聖なる暗殺者”の死に様に,身につまされたかな……。
「大丈夫だ。俺は」
生きる価値がある。
もし,世界の誰も俺を必要としていなくても,俺は俺を必要としてる。生きる理由としては充分だ。
「良し,じゃあ……」
そう,後ろを向きかけた時,足下の地表が更に割れた。
ビキビキビキィ!
「何だ!?」
その割れ目から,水が漏れてくる。
「ちょ……っ!まさか……?」
ドカーン!
突如,長政の足下から極太の水柱が立ち上り,彼を吹き飛ばした。
「ぐあっ……!?」
ドサァ!
見事に宙を舞った長政は,地面に叩き付けられた。
「くっそ……!」
魔装術のお陰で致命傷ではないが,そうそう余裕を持っていられる程度のダメージでもない。
「大丈夫!?」
吉乃を抱えた加江が駆け寄ってきた。
「あ,ああ何とか。ったく,何なんだよ彼奴……」
「思い出したわ……。雫手政宗。名門・雫手家で,天才と呼ばれた子よ」
「天才?」
て言うか,呼ばれ『た』……?何で過去形なんだ。
「ええ。雫手家は,随分と特殊な家でね。念の力で水を操るのよ」
「水,を……?」
「そう。理屈は門外不出で良く分からないのだけど,兎に角彼等は水をサイコキネスト出来るのよ。一説には,ギリシャの妖怪“セイレーン”が歌で波を操るのと同じ理屈だとも言われてるわね。此処迄で何か質問は?」
「いや……特に」
「じゃあ,次。え〜と,何処迄話したんだっけ?……そう,それで,今のは――と言うか今迄の攻撃は,地下水脈を吹き上げていたと言う訳です」
「はあ……」
「それであの政宗と言う少年は,雫手家の現当主・輝宗氏の長男なのです」
「……何で急に丁寧語に?」
「質問は手を挙げてしなさい」
「はい……」
「――で,彼はその凄まじい迄の霊力から天才児と呼ばれ,雫手家の嫡男として育てられました。しかし,彼は今年の始めに重い病気を患い,帰らぬ人となってしまったのです。享年十四歳。はい,此処テストに出しますよー。大事な所ですからね,しっかりノート取って下さいよー」
「ノートなんて無ぇよ」
ドォン!
長政が緩やかに突っ込みを入れた時,その至近距離で水柱が立った。
見ると,政宗が直ぐ近く迄歩いて来ていた。
「こんな所で青空教室なんて,随分と余裕じゃない?」
「青空教室て……お前,何時の人間だよ?」
「この『水王』雫手政宗を前にさ……!」
ドン!ドン!
二人を狙い,水柱が迸る。
しかし,その位置はターゲットから微妙にずれていた。
「ちっ……。矢っ張,片目だと狙いが付け辛いな」
口元を歪ませ,吐き捨てる政宗。
「ねえっ!一寸訊いて言い?」
加江が,政宗に向かって手を挙げた。
「あ?」
「質問」
「巫山戯んなよ。そんな立場か?」
「一寸だけ」
「……。まあ,良いぜ。どの道,あんたが死ぬのに変わりねえ」
馬鹿か,此奴……?
矢張りガキだな。と,長政は思った。
時間稼ぎに決まってるだろう。今の内に決めなくて,如何するってんだ?
……まあ,敵が戯けと言うのは,此方からしてみれば歓迎すべき事なのだが。
「で,何?」
「貴方,如何して生きてるの?」
「!」
政宗の顔が,あからさまに曇った。
「私の記憶が確かなら,確か君は死んだ筈じゃなかったかしら?」
「……そんなの……。……」
政宗は一瞬,一蹴しようとしたが矢張り言い淀んだ。
彼も誰かに聞いて欲しかったのだろうか。
自分の,辛い身の上を。
「俺は……自分の命がもうすぐ尽きると知って,発狂した……。病室を飛び出し,海に身を投げたんだ……」
「……」
加江は,彼の話に黙って耳を傾けている。
そして,長政も。
「それで死ぬ筈だった……。だけど,其処に年老いた海の悪魔が現れた」
「海の悪魔……?」
「そう。もうすぐ寿命で命尽きると言うその悪魔は,雫手の嫡流を継ぐ俺の霊波に惹かれてやって来たんだ」
話の間が縮まっていく。
解答は,独白の色を強めていく。
「その悪魔は,俺に取引を持ち掛けた。自分の命をやる,と。その代償は,左の眼球……」
「……」
「一度死ぬと覚悟はしたけど,生きれると思ったら矢っ張り生きたくなっちゃう。俺は,取引を受けた……」
自分の精神状態を其処迄把握出来ているのだから,彼は本来とても頭の良い少年なのだろう。
本来は。
「で,生き返ったものの,家には帰れない。名門・雫手の跡取りが悪魔と取り引きして命を貰った者なんて許される訳ないし,大体父さんが跡継ぎは弟って発表しちゃった後だったしね」
「……それで?」
「……それで,行く当ての無くなった俺は,『魔流連』に拾われた。戸籍からも消され,命と引き替えに何もかも失った俺を,『魔流連』は必要としてくれたんだ。俺の,この力をね。だから……」
「だから……?」
「だから,それを邪魔しようとするあんた達を,久秀さんを殺したあんた達を,俺は許さない……!」
「!」
無駄話はこれ迄だと言わんばかりに,政宗が念を込める。
辺りに,再び凄まじい霊圧と強い水の臭いが立ちこめた時……
「がっ……!?」
後頭部に鈍い痛みを感じ,政宗は昏倒した。
「な,何だ?」
「……ふう。良くやったわ,五右衛門」
政宗の後ろから,五右衛門が現れた。
「ま,この位どって事ねーよ」
「いないと思ったら……。油断させて後ろから……か。案外えげつない手を使うんだな,大将?」
「相手の裏を掻くのは当然でしょ?」
「へ。“彼奴”から教わったのかい?」
「え,ええ……。まあ……ね」
加江は,照れ臭そうに紅く染まった頬を掻いた。
「たく……。相変わらずモテやがんな,彼奴は」
それが良い事なのかは分からないが,“彼”の人徳である事は確かだろう。
「此奴も……寝てりゃ可愛い顔してんのによ」
長政が,気絶した政宗を見て言う。
「で?如何すんだ,此奴」
「そうねえ……」
「ん?」
「如何したの?」
「いや,電話だ」
そう言って,長政は携帯電話を取り出した。
「はい,浅井……。応,小谷か。如何した」
――『如何したじゃないわよ!何度かけたと思ってるの!?』――
「わ,悪ぃ。仕事中だったんだよ」
――『又た危ない仕事?もう止めなさいよ』――
「今回のは真っ当な仕事だよ。危険は危険だけどな」
――『もう……!ホントに気を付けてよ?貴方に何か有ったらわたくし……』――
「――……!」
――『?如何しましたの』――
「あっ……!いや,何でもねーよ」
――『そう……。じゃあ,気を付けてよ?』――
「ああ。じゃな」
会話は,それだけだった。
だが,分かった。
必要とされてる事は。
「如何やら,こっちも落ち着いたみたいね?」
加江が,意地悪そうな顔で笑いかける。
「……うっせえよ」
「くすくす……」
石碑は壊されてしまったから任務完了とは言い難いが,仕方無い。
吉乃と政宗を連れた二人は,船岡山を下った。



巨椋池。
「やだね――」
ボッ!
突然,辺りが火の海と化した。
「うわ……」
「な,何ですかいノー!?」
炎は,帰蝶達を取り囲む様に動いた。
「パイロキネシス(念力発火能力)よ」
「パイロキネシスって,あの淀サンの……!?」
「そう,それよ!」
信長の姪,津田 淀もパイロキネシストだ。と言っても,彼女は未だ赤ん坊なので普段は霊符で能力を封じてあるのだが。
「厄介な能力ね……!パイロキネシスに因って生み出された炎は,自然の燃焼と違って何でも燃やすし消しにくいわ」
「そんな!」
「そう言う設定なのよ!『GS美神』の35巻にそう書いてあったんだから仕方無いでしょ!?」
「いや,それは……」
「良いんですか?そんな事言っても」
十二神将“水中触手男”の存在を忘れてたじゃないか,とか言わない事。
「へ……分かってんじゃねぇか。じゃあ,闘るだけ無駄って事も分かってるよな?」
下品な笑みを浮かべたまま,パイロキネシスト――『魔流連』の『火君』梢甦霞邊元親は言った。
「それは分からないわ。そっちと違って,此方は仕事なのよね」
「山戯んな」
元親は,本の少しだけ表情を歪めると,炎を手元に集めた。
「帰らねぇなら燃やす迄だ」
炎が,元親の手元で球の形を成していく。
「喰らいやがれ,煉獄弾!」
巨大な火球が,三人に向け発射された。
「うぉ……!」
「こりゃ,避けらんないわね……。女華,お願いっ!」
「はッ!」
女華が,手元に霊力を集め火球に向かった。
「ぬおおおぉぉぉっ!」
「何ぃ!?」
咆吼する女華を見て,元親は仰天した。
「馬鹿な!俺の煉獄弾を受け止めただと!?」
「おおおぉぉぉ!」
女華は,その逞しい二の腕に霊力を込め,元親の火球を抱え込んでいた。
「な……っ!化け物か,あの女」
……。
少なくとも見てくれは化け物かも知れない。
「ふしゅ〜,ふしゅるる〜〜!」
バシュウゥゥ……
女華の手元で,火球は――火球を構成していた元親の念力は飛散した。
「な,何者だ。お前……?」
「ふ……。私はお前の様に器用ではないがな。その代わり,防御力だけは誰にも負けない自信がある」
その通り,女華は業界でもトップクラスの霊的守備力を誇っていた。
「……要するに,ボスが居なきゃ何も出来ないってんだろ?」
「!」
「――なら!」
元親が,再度発火する。
「直接ボスを狙えば良いんだろう!?」
ゴッ!
元親の掌から発火した炎が蛇の様に動き,女華を避け直接帰蝶を狙った。
「姫ッ!」
「ははははは!焼け死ねぇぇ!」
だが。
「何っ!?」
炎は,帰蝶を擦り抜けてしまった。
「す,擦り抜けた!如何言う事だ?」
「分かりませんかノー」
何処からともなく,利家の声が聞こえてきた。
「まさか……!精神感応能力者(テレパシスト)か!?」
「そう言う事ですノー」
「くっ!」
しまった,何時から幻覚を見せられて居たんだ?あのごつい女に気を取られてる間に掛けられたのだろうか。
何れにせよ,かなり強いテレパシーを使う男らしい。
「姫が敵に呪術を掛ける間,我々が楯となりて姫を護る。これぞ我等『小笠原帰蝶GSオフィス』のスタイルよ」
何時の間にか元親の視界から掻き消えた,女華の声が響く。
元親の目に映るのは,先程迄と変わらぬ静かな湖畔の風景。
目の前に居た三人が居なくなっている事以外は。
「なら……!」
元親は体中に霊気を集め始めた。
桁違いの霊圧に,場の空気が震える。
「全部燃やせば良いんだろう!」
ゴオッ!
元親に収束されたパワーが,一瞬の間を置いて外界へと放たれる。
「煉獄陣!」
辺りは,見る見る内に火の海となっていく。
「ははははは!如何だ,これで……」
其処迄言って,元親は異変に気付いた。
「……な……俺も,燃えてる……!?」
炎は燃え移り,元親自身の身体をも焼き尽くさんとしていた。
「ばっ,馬鹿な!一体,何が!?」
そう言っている間にも,炎は元親を焼いていく。
「あ,熱いっ!何なんだ,一体!?」
その時,帰蝶の声がした。
「くすくす……。貴方の霊力には,並の呪いじゃ通用しないと思ってね。発想を変えてみたのよ」
「な……!」
「詰まり,貴方を弱らせるんじゃなくて,パワーアップさせる呪術を掛けたのよ」
「まさか……!」
「そう。突然パワーアップして,そんな状態であんな大技を使ったら如何なるか,分かるわよね〜?」
「く……!」
「貴方の制御能力を超え,コントロール不能となった念力は暴走し,自らを焼く……!即ち,人体発火」
元親の顔が,絶望に歪んだ。
「そんな……俺には……未だやらなきゃいけない事が……っ!」
「だったら,もう少し慎重に生きるべきだったわね」
「嫌だ……。死ねない……こんな所で……」
「さようなら」
ゴッ!

元親の肉体が燃え尽きた頃には,彼の念で作られた炎も,すっかり沈火していた。
「ふう……」
「う……」
「如何したの?マエダー」
「いえ,その。一寸……」
「……そっか。あんた,人が死ぬ所見るのは慣れてないもんね」
「帰蝶サンは,慣れてるんですかいノー」
「私は昔,殺し屋だったからね」
「あ……。その,すいません」
「良いのよ」
そう。
両の手を血で汚した私を。
信長だけは抱いてくれた。
私には,貴方しかいない。
だから。

「絶対……逃がさないからね……」

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