ザ・グレート・展開予測ショー

長編・GS信長 極楽天下布武!!(9)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 2/23)

大義を思ふ者は
仮令首を刎ねらるる期迄も命を大切にして
何卒本意を達せんと思ふ















「信行……!」
「ホント……久しぶりだな,兄貴。俺の顔,覚えてるか?」
京都市内へ突入した信長を待っていたのは。
嘗て自らの手で誅した,実弟の顔だった。
「お前……何で……」
いや,落ち着け。此奴もそっくりさんだろ?親父や兄貴のそっくりさんが居たんだから,当然の事だろ。
「……」
「信行?」
「兄貴」
「何だ」
「気付いてたと思うけどよ……。俺,あんたの事が大嫌いだったんだぜ」
「あ?」
「俺と兄貴は同母兄弟。生まれた年もそう違わねえ,織田家の後継者候補だ」
「んな事ぁ,分かってるよ」
やっぱりそうなのか……。
「子供の頃から馬鹿ばかりして“虚け”と呼ばれてたあんたと違って,俺は真面目に生きてきた」
「……」
「修行も,勉強も,作法も!全てを真面目にこなしてきた,あんたと違ってな」
「……で?」
「母さんも,周りも,あんたより俺を高く評価してた。なのに!親父は小さい頃から兄貴ばかりを可愛がってきた。挙げ句に,矢張りあんたに家督を譲ると言う。何故だ!?先に生まれたと言うだけで!」
「……」
丸っきり同じかよ……。敵わねえな。
「あんたのお陰で,俺は一生日陰の身だ。これ迄も,そしてこれからも!そうなる位なら……」
「……何だよ?」
「そうなる位なら,正が邪に,邪が正になる魔都でやり直すのも良いかと思ったのさ……。これが,俺が此奴等と……『魔流連』として在る理由さ」
「はっ!」
「な,何が可笑しい!」
額に手を当て,くっくっくと笑い出した信長に,信行が激昂して問う。
「くくく……,これが笑わずにいられるかよ。馬鹿じゃ無ーのか?お前」
「な,何だと!?」
「室町時代じゃあるまいし,家督が継げない位で何だってんだよ。それで,お前の人生終わっちまう訳じゃ無ーだろ?」
「あ……,あんたに何が分かる!?織田家の嫡男たる立場も弁えず,何時も何時も虚けた振る舞いをして……!」
「そうなのか?今,俺記憶喪失になってて分かんねーんだが」
「巫山戯るな!その癖,あんたは軽々と持っていった。織田家の家督を,俺の一番欲しかったものを!」
「知るかよ」
「黙れ!」
「訊いたのか?」
「何?」
「親父に訊いたのかよ。俺が家督を継ぐ理由をよ?」
「そんなの……!あんたが先に生まれたから以外に有るか!確かに,あんたの霊力が高いのは認めるが,それは只の遺伝だ。それに驕って何の努力もしなかったあんたに,織田家を継ぐ資格等無いッ!」
「はあ……,やれやれ」
「何だよ?」
「知ってるか?信行」
「何を」
「所詮秀才は,幾ら努力しても天才には敵わないものだぜ」
「……っ!」
信行の顔が,朱に染まる。
「殺す!!」
巨大な霊波砲が,信行の掌から迸る。
次の瞬間,クレーターは二つになっていた。
「……っと,危ねえ危ねえ」
ヒナタを抱えた信長は,後方に着地した。
「安い挑発だ,落ち着け」
「輝虎さん……」
猛り狂い肩で息をする信行の後ろから,僧体の男――植椙輝虎が現れた。
「……兄貴は,俺にやらせてくれる筈だったでしょう?」
「分かってる」
その遣り取りを見ていた信長達。
「だそうだ。あっちの親爺は任せて良いか?黒巫女,天回」
「勿論!役立たずの汚名を返上してみせますッ」
「この状況で,儂等に拒否権は無かろう」
大穴の両端で,兄と弟が睨み合う。
信行が消えた。
次の瞬間,信長も。
穴の真ん中で,火花が散る。
「俺が家督を継げないのは仕方無いにしても,あんたが継ぐのだけは許せない。俺が,此処で殺してやるッ!」
「馬鹿野郎が……!」



「いざ,勝負!」
景勝が藤吉郎に斬り掛かる。
バチィ!
振り下ろされた『兼続』を藤吉郎が文珠で作った霊波鎌で受け止め,霊子が散った。
「くっ!」
「……!」
両者跳び退って,一旦間合いを取る。
「やっ!」
間髪入れず,景勝が飛び掛かる。
対して,藤吉郎は再び文珠を生成し,地面に投げる。
刻まれた文字は,

『跳』

瞬間,藤吉郎の身体が垂直方向に高く浮き上がった。
景勝が放った大振りの一撃は,空を切った。
「ちっ!」
体勢を立て直すべく,受け身を取って藤吉郎の姿を捉えようと上を向く景勝。制空権を握られては堪ったものではない。
「ぶ……」
その顔に,藤吉郎の足が降りてきた。
当然である。藤吉郎が使ったのは,『飛』ではなく『跳』の文珠だったのだから。
ザッ!
降りてきた藤吉郎が,景勝の顔を蹴り飛ばし再び間合いを取った。
「くっ!舐めた真似を……ぉっ!」
鼻を押さえながら景勝が吠える。そんな景勝の様子を見て,藤吉郎は思った。
良い感じに頭に血が登って来たな……。と。
まあ,戦闘時の景勝は最初からラリってる様なものなのだが,殺し合いと言う非常事態の中で,どれだけ自分を保てるかと言うのは勝敗を分ける重要なファクターである。逆に言えば,相手の精神状態を乱す事が出来れば,それは勝ちに繋がると言う事である。
「このっ……!」
ガション!
怒りに任せて景勝が一歩を踏み出した時,その足が虎挟みに挟まれた。
「いっ……」
ベチャ!
痛い!と叫ぶ間も無く,何処からともなく飛んで来た鳥餅が景勝を襲う。
「ぎゃ!?」
ゴイーン!
更に,雲と空以外何も無い筈の頭の上から降って来た金盥が,これ以上無い程見事に景勝の頭に直撃した。
「な,何なの……?」
先程藤吉郎が景勝を蹴った時に彼女の足下に転がしておいた,『罠』の文珠が発動したのである。
ドゴ−ン!
「がっ……!」
無防備過ぎる景勝に,藤吉郎の放った霊波砲がクリーンヒットした。
ドサッ……
景勝は倒れた。
『返』や『眠』の様な,相手に働きかける効果の文珠では,相手の霊力次第で無効にされてしまう公算が高い。藤吉郎が敢えてこの様な文珠を使い,相手を疲弊させる事を選んだのは,そう言う訳である。無論,霊波鎌を作り勝負を挑んだのは,景勝に搦め手に対する隙を作らせる為だ。
「ふ……ふ……巫山戯んじゃ無いわよーーーーーーーーっ!!!?」
起き上がった景勝が遂にキレた。身体から放出される巨大な霊気が,右足の虎挟みを破壊する。
「もー,怒った。キレた。あんたの茶番に付き合うのもこれ迄よ。全力を以て,今此処であんたを殺す!」
景勝が『全力を以て』等と言う事等滅多に無いのだが(と言うか,スイーパーライセンスを取ってから一度も無い),自分のペースを乱された挙げ句に最大級の屈辱を貰って,それ程怒っていると言う事だろう。
「喰らえッ!」
ゴッ!
巨大な霊波砲が放たれる。
「くっ!」
バババババ!
藤吉郎は,『護』の文珠を使って結界を張り,何とか受け止めた。
「甘いッ!」
余りにも巨大な霊波砲の威力に,結界に全神経を集中せざるを得なくなった藤吉郎の背後に,景勝が回り込む。
「これで,終わりよ!」
しかし,藤吉郎の背後,景勝の足下で,又たもや文珠が光り輝いた。
「何……っ!?」
又たか,とは。今迄の展開からして,藤吉郎が斯う言う様な罠を仕掛けているとは充分に予想出来た事だが,藤吉郎の策に嵌り冷静さを欠いた景勝には,其処迄思慮が及ばなかった。
刻まれた文字は,

『柔』

「きゃ……!?」
突然,地面がぬかるんだ。
いや,と言うかこれは,トランポリンの様な……?
等と分析する間もなく,景勝は前のめりに転倒した。
そのダメージで『兼続』は再び消えた。続いて,制御を失った霊波砲が爆発する。
ドォン!
「うお……!?」
その威力で文珠結界が解け,藤吉郎は景勝諸共吹っ飛ばされた。
「痛たたた……」
「くっ……!未だ勝負は着いてないわよっ……!?」
体中に鈍い痛みを感じながらも,景勝は毒づく。
「だから……早く退きなさいよっ!」
……藤吉郎の下で。
「ちょっ……!何処触ってるのよ,変態っ!さっさと退け!」
「うわ,御免!わざとじゃないんだっ!」
「良いから,退けーーーーっ!」
ドカッ!
景勝が藤吉郎を蹴り飛ばした。今,密着してた時が最大の攻撃チャンスだった事等,最早考えも至らない。
「はぁはぁ……もう何か,馬鹿らしくなってきたわ……」
「でしょう。じゃ,もう止めない?」
此処ぞとばかりに藤吉郎が懐柔を始める。戦は七,八分を以て勝ちとす。人心収攬術こそ,藤吉郎秀吉の真骨頂である。
「冗談!今更止められないわ」
「何で,其処迄……?」
「あんな屈辱を受けて,黙っていられると思うの!?」
「いや,そうじゃなくて」
「何よ?」
「何で,其処迄『魔流連』とか言うのに拘るの?」
「……別に」
「別に?」
「養父上が居るからよ。只それだけ」
「それだけって……」
「気紛れな養父上に逆らって,折角手に入れた植椙家の跡継ぎの座を取り上げられるのも嫌だしね」
「え……」
「幼い頃に養父上に引き取られてから,植椙家の跡目を巡って,訳も分からずに義妹と争ってた……。心を殺し,表情を殺す術を覚えて,義妹を陥れて,やっとこの地位を手に入れたのよ……」
「……」
「それにどれだけの意味が有るのか知らない。『魔流連』のこの行為が,私に何をもたらすのかも分からない。……もしかしたら,待っているのは破滅だけかも知れない。けど,私の人生は最早養父上と……いえ,植椙と共にしかない……」
「そんな……」
「退けないのよ,今更……」
「そんな事ない……っ!」
「あるのよ。……ふっ。私も何言ってるんだかね……。今から殺す相手に,身の上話をしたって,何にもならないわよね……」
「……」
景勝が,『兼続』を作る。
「茶番は終わりよ。もう,死んで」
台詞は勇ましいが,その表情には,疲労の色が濃く見える。
その眼は,辛そうに潤んでいた。
「終わりにするわ……!」
意地に支えられたなけなしの気力を振り絞って,景勝の足は地面を蹴った。
と同時に,藤吉郎は文珠を投げた。
刻まれた文字は,

『萎』

「あ……!?」
ドサッ……
精神状態ガタガタの今の景勝なら,文珠の霊力で充分効く。
景勝の身体から力が抜け,景勝は腰砕けに座り込んでしまった。
「はあ,はあ,はあ……」
景勝が,荒い息を吐く。
「……ふーっ」
妙な形で機先を制され,もう完全に戦意を喪失してしまったらしい景勝を見て,藤吉郎もその場に座り込んだ。
「……『萎』か。何処迄も人を小馬鹿にした男ね……」
「そうでもないよ。小馬鹿にしてるんだったら,力押しで行くでしょ」
「ふん……」
景勝は,何処かさっぱりした顔で藤吉郎の方を眺め,彼のそのきょとんとした顔に眼を細めた。
「……私は,幼い頃から家督争いを続けていたから,周りの人間は味方か,それとも敵――義妹派の者かしかなかった……。揚げ足を取られぬ様,常に無口を通し……,何時からだったかな,笑い方を忘れたのは」
景勝は,再び身の上話を始めた。
「だから……,その反動で,戦闘中は酷く饒舌になってね……。ふふ,今は戦闘直後だからアレだけど……。あは,もう駄目ね。戦意が無くなっちゃってるし」
「え?」
「……」
「あの?」
「……」
「お〜い……」
「……斯ういう事」
「無口?」
「……」
「ねえ」
「……そう。責任,取ってね?」
「せ,責任?」
「……」
「えと……」
「……もし,次期当主の座から降ろされたらそれと……」
「それと?」
「……」
「お〜い」
「……それと,今迄の色んな事の……ね」
「はい……」
「……」
景勝は,静かに頬を染めた。
「……リーダー達は,御所に居るよ……早く行きな……」
「え,でも……」
「……」
「君……が……。えと,その」
「……私なら大丈夫。貴方のお陰で,大した怪我じゃ無いわ」
「そう……。でも一応,これ置いとくね?」
そう言って藤吉郎は,文珠に『治』の文字を刻んだ。
「……」
「何か良く分からないけど,御所に行けば良いんだね?じゃあ!」
馬鹿ね……,文珠だって無限じゃないでしょうに。貴重な武器を倒した敵の治療なんかに……。
「……」
遠離る藤吉郎の背中を見つめる景勝の眼から,一筋の涙が零れ落ちた。



「証明してやるよ,兄貴。俺が,あんたなんかより強いって事をな!」
そう言って,信行は腰に差した真剣を抜いた。
信長と信行は,未だ数米の間合いを保っている。
「霊剣……か?」
信長は,一昨日覚えたばかりの単語を呟いた。
「そうだ。兄貴も知ってるだろ?俺は剣の腕も一流だ。俺の居合いは正に紫電!この間合いじゃ,避けられねーぜ」
「自分で言うなよ」
「ふん……。どの道,兄貴にゃ避けられないさ」
「如何かな?」
「……」
霊剣の鍔に手をかけた信行。
無行の位を保つ信長。
「……」
「……」
兄弟の間を,一陣の風が吹き抜けた。
ザッ!
信行の間合いから出ようと,後退る信長。
その瞬間,信行が居合いを抜いた。
充分な鞘走り。
完璧なタイミング。
やった!
信行は,そう確信した。
しかし。
ガキイィィン!
「な……に……?」
「へっ」
信行の剣は,信長の持つ神通根の柄に受け止められていた。
「なっ……柄で!?」
「悪ぃな。俺は,お前の兄貴じゃないんでね」
「くっ……!」
ギィン!
信行は強引に剣を振るうと,そのまま一回転して再び斬りつけた。まあ,要するに○巻閃である。
が,その隙に信長は神通根を伸ばしていた。
「試合で勝つ奴が,戦場で生き残れるとは限らないぜ?信行」
バチィ!
神通根の一撃を受け,信行が吹き飛んだ。
「ぐはあっ!」
それを見下ろし,信長は言う。
「分かったろ?お前じゃ俺に勝てねーよ。もう止めようぜ」
「ふざ……っけるな!こんなもので良い気になるなよ!?」
「ちっ……」
たく,やっぱ俺は説得とか懐柔とか言うのは向いてねーな。猿二号とか金柑頭辺りが得意なんだがな。……居ねー奴をがちゃがちゃ言っても仕方無ーか。
「見せてやる……!俺の力をっ!」
「はいはい。好きにしな」
「舐めるなッ!」
信行が立ち上がり,霊剣を天に向ける。
ゴオッ!
「おおおおおお!」
霊剣を中心に風が集まり,それはやがて竜巻となる。
「ちっ!霊波の竜巻かよ」
確かに,凄い技だ。
「喰らえっ!ドリル・タイフーン!」
掛け声と共に竜巻のベクトルが信長に向けられ,荒々しく放たれる。
ゴオオオォォ!
その鋭い牙が,信長の姿を周辺の建物毎飲み込み,消し飛ばした。
「は……ははは……。やったぞ,兄貴を殺した!」
「んな訳ねえだろ……」
「!?」
竜巻の彼方に消えた筈の兄の声を背後に聞いて,信行は飛び上がった。
「な……っ!何で?」
「あのなあ,信行。あんな至近距離であんなモーションのでかい技使うなんざ,殴ってくれっつってる様なもんだぞ?頭に血ィ登ってて気付かなかったのか?」
「くっ……」
「……あんなでかい技を使った後だ。もう,霊力は大して残ってねえだろうな?」
信長が意地悪く問う。
「たく……,人騒がせな奴だぜ」
「……っ!あんたに何が分かる!?」
「分かんねーけどよ。お前の言ってる事が子供の我侭だって事ぁ分かるぜ?」
「なっ……」
「自分で真面目だの努力しただの言うんじゃねーよ。それって,自分じゃ分かってるって事だぜ?そんなものでも持ち出さなきゃ,自分にゃ取り柄が無ーってな」
「……!」
「手前ぇだけが頑張ってるなんて思うんじゃねーよ。何様のつもりだ,お前ぇ?お前こそ,俺の何が分かるってんだよ」
「そんなものっ!分かりたくもないッ」
怒りに任せて,信行は抜き身の剣を振るった。
バチィ!
が,それが信長に届くより早く,信長の神通根が信行を捉えていた。
「ぐはっ!」
その一撃で,信行は意識を失った。
「……ふう」
結局,俺の声は届かなかったな……。
信行の手から霊剣を拝借し,鞘にしまう。
「でも,今度は殺さなかったぜ。親父,お袋……信行……」
そう呟くと,信長は霊剣を腰に差し,内裏へ向かって歩き出した。

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