ザ・グレート・展開予測ショー

魔女とコタツと想い(と黒猫)


投稿者名:浪速のペガサス
投稿日時:(04/ 2/22)




「えっと…地図の通りだと、確かこのあたりのはずね…。」

「ホントに行く気ニャの?」

左眼の下の泣き黒子が目立つ女性が、黒猫を脇に従え歩いていた。
女性はいまどき珍しい(?)魔女の格好をしていて、左手に鞄、右手に地図を持っている。

「当たり前じゃない!!
西条先輩が風邪をひいたのよ。
後輩としてお見舞いに行くのは当然じゃない。」

先ほどからこの女性、誰と会話をしているかと言うと実は脇にいる黒猫にである。
この猫、実は彼女の「使い魔」であり、それゆえに人語を解しているのだ。
黒猫は半目でじとーっとした目つきで女性を見つめた。

「なに?何かご不満なの黒猫さん。」

頬をプンプンと膨らませながら女性は答える。
その姿はまるで子供のようで。
黒猫は溜息をはぁとつくと、小さな声で呟いた。

「ホントにお見舞いだけニャら僕もなんにも言わないニャ。」

「何か言った?」

「な、なんでもないニャ…!」

ある意味爆弾発言をかました黒猫。
泡や本人に聞こえてしまったかと思い慌てる。

「まぁ、良いわ。あら、ここね♪」

その女性、魔鈴めぐみは黒猫に向け万面の笑顔を向けた。
それを見た黒猫は再び、今度は深くため息をついた。

―――魔鈴ちゃん楽しそうだニャア。当然ニャンだけど…―――













―――――魔女とコタツと想い(と黒猫)―――――












「は…、はぁ…!はっくしゅん!!!」

豪快なくしゃみをした人物、知る人ぞ知る天下のオカルトGメンの一員西条輝彦その人は風邪をひいた。
実は彼、バレンタインの前後に出張で北国に言って除霊活動をしてきた。
不慣れな東北の寒さに流石の西条もダウンし、今に至っている。

「こんな状態の時に限ってキヨが故郷に帰ってるとはな…。
こんなことならもう暫らくホテル生活でも良かったか?」

実は彼、Gメンの経費で自宅を購入した。
というのも、先のアシュタロスとの戦いで西条は住んでいたホテルが全壊してしまったのだ。
マンションを借りるのもアレだしいっそのこと家を買おう、そう思った彼は即家を購入した。
都内に一軒家、購入の際に横島から「この道楽公務員が!」とさえも言われた。
だが、いざ家を購入してみても、やはりいるのは使用人と自分の二人だけ。
しかもキヨには家族があり、自分は仕事でろくに家にも帰れない。
なんとなく寂しいだけになってしまった。
そこで自分が今回出張なのをこれ幸いとし、キヨに暇を出させた。
しかしそれが今回裏目に出たようである。
布団の上で横になる西条は一人呟く。

「はぁ…、家というものも一人だと寂しいものだな。
こんな時にキヨがいたら、いや愚痴ってもしょうがないか。
令子ちゃんに頼んだら…きっと金を取られるだろうな(汗)。」

ピンポン♪

突然家のベルが鳴った。
西条は居留守を決め込もうとして布団を頭からかぶる。
暫らくして音が止んだ。

ピンポン♪

まただ、西条はやはり無視する。
これまた暫らくして、ベルの音が止んだ。
ふぅとため息をついて布団から頭をひょっこり出す西条。

ピンポン♪ピンポン♪ピンポン♪ピンポン♪ピンポン♪ピンポン♪ピンポン♪ピンポン♪

「なんなんだいったい!?」

あまりにもけたたましくなるベルの音についに西条が布団から出る。
ふらふらとした足取りの中、やっとのことで玄関に行きドアを開けると、底には魔鈴が立っていた。

「魔鈴君…!?一体どうしたんだい?」

「僕もいるニャ!!」

「あぁ、すまない黒猫君。」

自分もいたのに気づかれず、ふてくされ気味の黒猫。
それを軽く一蹴した西条は再び魔鈴を見る。
本当に何故ココにいるのか全く持って理解できない。
すると魔鈴はにこっと笑いかけ、ずかずかと家に入ってきた。

「おいおい魔鈴君…!?
ちょっと、今僕は風邪なんだよ!?
看病してくれる人が、キヨがいるんだから良いって。」

もちろん大嘘である。
だってキヨは故郷にいるのだから。
これは、魔鈴に風邪を移さないように、心配させないようにするための嘘。
大事な後輩にそんなことさせられない。
だが、魔鈴は再び西条の方を向きニッコリ笑った後に囁いた。

「そんな嘘バレばれですよ?西条先輩。
ほら、何か作りますから居間にでもいてくださいな。
うんと精のつくもの作りますからね♪
あと、これお土産です♪中のもの、私がご飯を作るまでに飲んでてくださいね?
あ!お台所はどこですか?」

そう言って持ってきた鞄を西条に渡すと魔鈴はきょろきょろ首を振った。
こうなった時の彼女は、てこでも動かないことを西条は知っていた。

「そっちだよ。
君のことだから何も心配は要らないと思うけど、十分気をつけて。」

「ハイ!ありがとうございます。
おいで、黒猫さん。」

今度こそ台所へと向かう魔鈴。
相変わらずというかなんというか、そんなことを言いたげに西条は肩をすくめた。
そして頭をぽりぽり書きながら、居間へと向かった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



こちらは魔鈴&黒猫ペア。
魔鈴はとても楽しそうに、鼻歌交じりで料理していた。
それをじとーっと見つづける黒猫。

「あら、私の顔に何かついてる?」

あまりにも自分を見つめつづける黒猫に対して、自分が今どんな顔になってるのか気になった魔鈴。

「……顔が笑顔だニャ…。」

「あら?そんなことなの?
そんなの私は料理が好きなんだし、いつもでしょ?」

「そうニャンだけど……。」

今の魔鈴ちゃんはいつも以上に嬉しそうに料理を作ってるニャ。
そういいかけて黒猫はやめた。
そんなことしたってこの顔はかえられそうもないし。
そして何より魔鈴は、一度こうと決めたら絶対に引き下がらない。
口ゲンカで負けるのは、いつも自分なのだ。

「ところで魔鈴ちゃんは何を作ってるんだニャ?」

黒猫は魔鈴が作っているものが不思議でたまらなかった。
ひとつは知ってる、「おかゆ」とか言う食べ物だ。
どろどろにしたお米を食べるものだったと思う。
個人的に黒猫は普通に米を食べるよりもおかゆのほうが好きだ。
だがもうひとつは分からない。
なんだか妙に太くて白いパスタのようなものを、土鍋のようなものに入れている。
其処に色々なものを入れて。

「ふふふ…ひ・み・つ♪
さ〜て!出来上がったし西条先輩のところにでも行きましょう!!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「西条センパ〜イ!どこにいるんですか?
返事をしてくださ〜い!」

「こっちだよ、魔鈴君!」

土鍋を持った魔鈴が、西条を探す為に声を出すと返事がすぐに返ってきた。
返事のする方向に向かう魔鈴と黒猫。
居間につくと、そこにはテレビとみかんとコタツ、そしてどてらを着た西条。
英国真摯を気取っている西条だが、この姿は日本のあるべき姿そのものだ。
思わず魔鈴は吹き出した。
それを見て、赤面してあたふたする西条。

「いや、これはだなぁ!
英国紳士たる僕の趣味には合わないんだけど、キヨがどうしてもと。
そ、それに、一応僕も日本人だし。
こういう情景も悪くないかなぁとか思っていたし…。」

しどろもどろになりながら答える西条を見て微笑む魔鈴。
そして持ってきた土鍋をコタツの上にドンとおき、西条に促す。

「魔鈴特製鍋焼きうどんです!
ちゃ〜んと元気の源をたっくさんいれたからすぐに元気になれますよ!」

「元気の源ねぇ…。
そういえばさっきのアレ、苦すぎやしないかい?
もうちょっと僕としては甘いほうが…。」

「ダメです!良薬は口ににがしというでしょ?」

さっきのアレとは、実は魔鈴が持ってきた鞄の中身だったりする。
してソノ中身とは数々の薬草を調合して作った風邪薬。
流石は魔女、といったところだ。
じゃないと、正直風邪の時に鍋焼きうどんなんぞ食べたくても食べられない。
元気をあり余しているような西条の様子から、効果は抜群だろう。
相変わらず魔鈴は笑顔で、黒猫は不機嫌で。
西条はなんだか妙な気分になりながら鍋焼きうどんを食した。

「っ!?美味い!
魔鈴君は本当に料理が得意だなぁ…。
しかし、日本料理まで作れるとはねぇ…。」

「フフッ…。良かった。」

よほど腹が減っていたのだろう、うどんをがっつく西条。
それを見て、微笑む魔鈴。
黒猫は自分がこの場にはそぐわないような雰囲気に少しご立腹のご様子。

「よッく味わうといいニャ。
魔鈴ちゃんの手料理をお店以外で食べられるニャンて滅多にニャいんだぞ!」

「分かってるよ、黒猫君。」

うどんをはふはふとしながら食う西条は軽く黒猫の言葉を受け流した。
その様子を見た黒猫は余計腹立たしさを覚えたのか、魔鈴の脇で丸くなった。
家の中はうどんを食べる音だけが響く。
そうこうしているうちに、西条は食べ終わりふぅと一息つく。
再び魔鈴は台所へ向かうと今度は先ほど作ったおかゆを持ってきた。

「はいっ!今度はデザート粥ですよ。
胃にも優しいですし、どうぞ召し上がれ♪」

「すまないね、なんだか至れり尽せりで。」

と、いいつつレンゲを持ち上げる西条。
そこでふと頭に疑問が思い浮かぶ、何故魔鈴はこんなにも手際が良いのか、と。

「そういえば…、君はどうしてこんなにも手際が良いんだい?
というよりも僕の自宅を知っているのは確か先生と美神除霊事務所の人間だけのはず。
君はどうして僕の自宅を知っていて、しかも風邪の事まで?」

自分は誰にも話していなかったはずだ。
というよりも、出張に行ったことすら美智恵以外の誰も知らない。
こう言ってはなんだか、美神除霊事務所の面子ならともかく、魔鈴がいる理由が見つからない。

「あら?私は魔女ですよ。
そんなこと魔法で簡単に分かるに決まってるじゃないですか?
風邪の事は、なんていうのでしょう?
女の勘ってヤツですわ♪」

「エッ(汗)?」

冷や汗を混じらせ、マヌケな回答をする西条。
よほどやましい事があるのだろう、特に女性関係で。
何を考えているのか、魔鈴はにっこりとして話を続ける。

「魔女を、そして女の人を甘く見ないことですよ?西条先輩?」

「ハハハハハ……。」

乾いた笑いをする西条。
よほどやましい事が満載なのだろう。
黒猫はすやすやと眠りこけてるのか、西条にツッコまない。
冷や汗をだらだら流した西条は微妙な空気に包まれていた。
しかしそんな空気もあまりの料理の美味さにかき消えた。
というのも、西条がしきりに美味い美味いと連呼する為、魔鈴が機嫌を良くしたからだ。

「ふぅ…。ご馳走様。おいしかったよ魔鈴君。
お陰で体力もかなり回復したし、風邪も治ってきたよ。」

「お粗末さまです。
でも、その為に来たんですから回復してもらわないと!」

ハハハ、と笑い声が響く家。
ふと西条は、こんな生活も悪くない、そう考えた。
と言うよりもこんな生活があったら、其処まで考えが発展していた。
そしてその横にいるのは…。
そう思うと自然笑みが零れた。

「僕にもこんな生活がいつか過ごせたらなぁ…!」

その言葉を聞き、顔が真っ赤になる魔鈴。
西条はそれを見て風邪がうつってしまったかと思い慌てる。

「魔鈴君大丈夫かい!?顔が真っ赤だよ!?」

「お、お片づけでもしますか。
さっ!先輩は休んでいてくださいな!!」

そういって西条を無理やりコタツに縛り付ける魔鈴。
いくら回復しかけているとは言え西条はまだ病人。
何もできないし、体力がなかったために彼はおとなしく引き下がらざるをえなかった。
それに実は彼は家事がダメなので、行っても役立たずなのだが。
しかし折角体力が回復したので何かしたいのも現実問題。
彼は思案した、ただ寝ているばかりではなく何ができるか。

「そうだ!たまっていた書類に手をつけるか!
……かなりの量になりそうだな……。」

冷や汗を流す西条は、膝に手を当て立ち上がった。
片付けなければいけない仕事は、彼には山ほどある(涙)。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


さて場面変わってこちらは魔鈴サイド、彼女は今洗い物をしている最中。
黒猫は、先ほどの場所で寝ている。

「いつかこんな生活ができたらな…か…。
そしたら……、って何想像してるのかしら私は?」

さっきからこれの繰り返しである。
よほど西条の先ほどのセリフが響いたのだろう。
横島も真っ青な妄想、もとい空想力である。
しかしその空想も実は、すぐに終わってしまう。
西条輝彦、彼の好いているのは美神令子その人であり、自分ではない。
実は彼女がここに来たのも、西条の事を本気で心配しているから。
霊能力者の持った、異常なまでに発達した第六感がそれを知らせたから。
そして先ほど言ったように女の勘といったところか。

「西条先輩…。」

自分は彼のことを手に入れることはできるのか?
彼は自分をどう思っているのだろうか?
切ないその想いは叶う時はくるのだろうか?
思わず自問自答してしまう。
しかしその考えも食器を洗い終わるうちには消えていた。
明るい彼女は、物事をすっぱり割り切って台所を後にした。
せめて、彼の前では明るい自分を見せたかったから。
彼女は居間に向かった。

「西条せんぱ〜い!終わりましたよ〜!
何かお飲みになりますか?
さいじょ……。」

魔鈴が居間に行くと、西条は眠っていた。
コタツの上いっぱいに広げた書類の上に突っ伏して。
そのあまりにも仕事の熱心さに呆れる魔鈴。
しかしふぅ、と一息つくと彼女は近くにあった毛布をそっと彼の肩にかけた。
そして、西条の向かい側に座り、寝ている彼の手をそっと握った。

「いつもいつも無茶や無理ばかりして…。
私じゃ、貴方の支えになることはできませんか?西条先輩…。」

そう言って握り締めた手を彼女は強めた。
優しく、そして寂しげな微笑を浮かべて。

―――バカだニャアァ……。―――

寝ていたはずの黒猫は気づかれること無く起きていた。
そして右耳をピンと立て、右目を半目だけあけた。


―――あの横島とか言う男のことを散々言うけど、この男も一緒ニャ。―――


―――魔鈴ちゃんはこんニャにもお前のことが好きニャのに…。―――


―――第一、横島じゃあるまいし、好きでもニャい男に誰が抱きつくかニャァ……。―――


黒猫は魔鈴の側に歩み寄った。
そして彼女の脇で丸まり、気持ちよさげにしながら想った。







―――人間の男ってホント、バカで鈍感だニャア。―――






黒猫は欠伸して、再び眠りに入った。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa