ザ・グレート・展開予測ショー

いつか見た星空 その3.1


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 2/21)




突然シロが騒ぎ出したのは三日目の滝つぼでの事だった。

「先生、死臭がするでござるよ。」

水遊びをしながら、夕食用の魚を捕まえている最中のシロが、突然横島に叫ぶ。
最初横島は滝つぼの近くに浮かんでいたので、シロの叫びが聞こえないようであったが
もう一度叫ぶとシロに近寄ってくる。

「ししゅう? ああ、前に西条の事件に付き合った時言ってたやつか?」

「そうでござる。人が死ぬ時に出す霊波でござるよ。」

最初横島はなにを言っているのか分かっていないようだったが、すぐに思い出したようだ。
シロの叫びで近寄ってきたタマモも、周りを嗅ぎだすとちょっと驚いたような顔をする。

「ほんとだ、注意して嗅がないと分からないぐらいに薄いけど確かに臭うわね。
でもどこからだろう? 薄すぎて分からないわ。」

「たぶん、風に流されてきているでござる。薄すぎるため拙者もそれ以外は分からないでござるが
そうとしか考えられないでござるよ。」

シロとタマモは周りをきゅろきゅろと見渡すがいつも通りの風景しかそこには無かった。
横島も二人の様子にちょっとだけ真剣な顔をする。

「シロ、それって近いのか?」

シロはちょっとだけ考えると周りをもう一度だけ見渡し横島を見る。

「いや、たぶんそれほど近くには居ないでござるよ。死臭を垂れ流している相手が、どれほどの濃さで
まとっているかにもよるでござるが、たぶんこの近くには居ないと思うでござる。」

「死臭だけがここまで漂って来るんだもん、臭いの元は相当濃いはずだわ。それがここまで薄いって事は
たぶん相当離れていると思う。」

横島は心配そうにする二人を見てどうしようか迷う。
死臭がするということは殺人を犯していると言う事だ、なんとしても二人を守らないといけない自分としては
そんな危険な相手は正直勘弁してほしかった。

「強いかなそいつ?」

横島はどんな相手なのか想像もつかないのでためしに二人に尋ねてみた。
最初シロとタマモはお互いの顔を見て迷っているようだったが、シロがなにも言わないのを見て
タマモが代わりに質問に答える。

「強いかどうかは分からないわ、でもこれだけ臭うからには
殺した相手は一人や二人じゃないでしょうね。」

今すぐの危険が無い事が分かったのか、警戒を解きながら答える。
少しぐらい横島を見つめる余裕はあるようだった。
またシロもたいぶ落ち着いたのか、横島にさり気なく近寄って、
寄り添おうとするが、タマモに邪魔をされて近寄れないでいた。

「そうか〜どうすっかな〜」

そんな二人にはまったく気がつかない様子で横島は宙を見上げる。
そしてちょっと考えるようにしてから横島は二人をみる。

「向こうってこっちに気づくと思うか?」

横島の質問に再び二人は顔を見合わせると今度はシロが質問に答える。

「おそらくそれは無いと思うでござるよ。拙者でも気づいたのは相手の死臭が強いからでござるし、
相手が犬族の妖怪でも無い限りこの距離を見つけてくる感覚を持っているとは思えないでござる。
また持ってたとしても風下にいる拙者たちを見つけるのは、ほぼ無理でござる。」

横島は考える、人間として犯罪者を捕まえてやろうと言う正義の心と、危険なことはいやだな〜と言う
本音のどちらを取ろうかと。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

そんなに悩まないでも結論はすぐ出てしまう横島だった。
だてに美神除霊事務所で働いてはいない。

「俺達修行に来てるんだよな。」

「・・・そうでござるな。」

そんな横島の質問にそれなりに付き合いが長いシロは、言いたい事を理解して返事をする。

「この後はどんな修行だっけ? 」

「狩りは昨日ので十分でござるから、鍋に入れる山菜類を取ろうかと予定していたでござるよ。
ちなみに、どんな事があっても生き残ってくるための行動力と知識を覚えるための修行でござる。」

「それは重要だな。」

「とても重要でござる。」

「私も重要だと思うわ。」

淡々と会話をしている横島とシロを見ていたタマモだったが、やっとなにを言っているのか理解すると
会話に参加してくる。
タマモだって余計な事で命なんて賭けたくないのであった。

「そっか〜じゃあしょうがないな〜。あははは」

「しょうがないでござるな〜。あはは」

「しょうがないわね。あはは」

三人は乾いた笑いを辺りに響かせると、なにも無かったかのように自分の作業に戻っていく。
3人とも正義の心より本音が勝った瞬間であった。

「先生、拙者と一緒に魚を取りながら泳ぐでござるよ〜。

「お前と泳ぐと疲れるから嫌だ。」

「そ、そんな〜」


とりあえず今は平和な滝つぼであった。










山菜取りを済ませた横島達は、キャンプに戻って夕食の準備に入る。
主に食事の準備は横島がやっているのだが、横島に少しでも良いところを見せたい
シロは率先して準備の手伝いをしていた。
またちゃっかりしているタマモもいる。

「先生、鍋が沸騰してきたでござるよ。」

鍋をかき混ぜていたシロが横島に叫ぶ。
すると横島にナイフの持ち方を教わりながら肉を切っているタマモの姿が見えてしまった。
当然シロとしてはそんな姿を見て黙っていられるはずも無く、二人へ詰め寄る。

「こら〜タマモなにやってるでござるか!」

シロは二人、とくにタマモに向かって殺意の視線を投げ掛けるが、
タマモは平然とそれを受け止め余裕な表情で答える。

「なにって横島の手伝いよ。シロも手伝っているようだから私も手伝っただけなんだけど、
なにか文句あるの?」

「あるでござる、なぜそんなにくっついて教わっているでござるかぁ!」

いまのタマモと横島は、ナイフの持ち方を教わっているためかタマモの右手に横島の手が添えられていた。

「タマモが包丁は少し使えるけど、ナイフは初めてだって言うから教えていただけだ。
変なふうに誤解するんじゃない。」

横島は急いで手を離すとちょっとだけ赤くなってしまった。
純粋にタマモが手を切らないように無意識に添えてやっただけなのだが、
そう見られると逆に意識してしまう。
タマモも横島が手を添えてきた時に気がついていたが、
なんとなく黙っていた。当然頬を染める。

そ〜んな二人を見てこめかみに青筋を立てるほど気に食わないのは、ヤキモチやきのシロであった。

「先生ぇ〜 拙者にもナイフの使い方教えてくだされ〜」

横島に抱きつきながら催促をする。

「あ〜もうナイフ使うような作業は俺がやるから、お前らは鍋と飯盒を見てろ。」

横島はシロを払い除けると、タマモからナイフを受け取り昨日の鹿肉へと戻ってしまった。

「ああ〜 せ、せんせ〜〜」

涙を流しながら横島を見送る。シロに邪魔されたタマモは仕方が無いのでおとなしく鍋に
向かうが、嘆きながら戻ってきたシロと睨み合う事になった。

「ここは拙者の仕事でござる。タマモは向こうに行ってるでござるよ。」

「横島は二人で見てろって言ったのよ。」

「キツネ野郎は邪魔なだけだから要らないでござるよ。」

あきらかにタマモを挑発しながら鍋の前を一歩も譲らない。

「なんですって馬鹿犬、上等じゃないやろうって〜の。」

そこまで言われて黙ってはいられないタマモは、真っ向からシロの視線を受け止めると戦闘態勢に入る。
それを見てシロも当然戦闘態勢に入った、鍋をまたいで緊迫した雰囲気が流れ出す。

それを見つけた横島は焦って二人の間に入ろうとした。

「こら〜喧嘩なんかするんじゃない。」

ドゴォ〜〜ン

すると突然すごい音がして、周りの森から鳥が勢いよく飛び立つ。

「な、なんだ。」

横島がびっくりして声を上げる。
シロとタマモもびっくりしてお互いを見る、まだ爆発音が響くような事はなにもやってはいないのである。

「先生、あれでござるよ。」

シロが逸早く隣の山に煙が上がっているのを見つけると、横島へ知らせる。
夕食の用意をしているとは言え、まだ日が落ちるには時間があったので
横島の目でも十分に隣の山の煙は見える。

煙の上がった場所から何か巨大な物が飛び出してくる。そして、それはそのまま周りの木をなぎ倒しながら
谷側へと下りていく。

「なにか追いかけられてるわ。」

「木が邪魔でよく見えないでござるな。」

目を細めながらタマモとシロが叫ぶ、横島の目では見えないが超感覚を持っている二人には
巨大な何かに追いかけられている物が見えるようだ。

「あいつ昼間の死臭を垂れ流している奴でござるな、
いつの間にか風下に回られて気がつかなかったでござる。」

「うわぁ〜やばいじゃね〜かよ」

横島が慌てる、死臭がすると言うことは人を殺していると言う事だ。横島の目には一体何なのか
よく見えないが遠目から見ても大きさだけははっきりしている。
あんなのと戦わないといけない状況になるかもしれないと思うと、正直逃げ出したくなる。
いや二人が居ないのならもうすでに逃げているだろう。

「大丈夫、今はまだ何かを追いかけるのに夢中になってるわ。
こっちに気がついてないから今のうちに逃げれば平気なはず」

「シロ火を消せ、さっさと逃げるぞ。荷物はシートをかぶせて後で取りに来よう、命の方が大事や。」

取り敢えず誰も横島の提案に不満は無いので、シロは急いで火を消しタマモは荷物の整理をする。

ドゴォ〜〜ン

再び音がするので振り向くと、こっちの山と向こうの山の間の谷で煙が上がっている。
巨大な物体、だいぶ近寄っているので横島でもなんとなく見えるのだが巨大なゴリラに見える。
なぜゴリラが・・なんて思ってる暇は無いようだ。

ゴリラはしばらく煙が上がった場所をうろつくと、こちらに振り向いた。

・・・・・

「あ、こっちに気がついたでござる。」

火を消していたシロが顔だけをゴリラに向けて呟く。

「気がついたわね」

荷物をシートでかぶせていたタマモが同じように顔だけを振り向かせて呟く。

急ごうと二人を手伝っていた横島が泣きそうな声で呟いた。

「まじっすか・・・」






あとがき
いつか見た星空の3回目となりました。
うぅ、前回もぎりぎりでしたが今回はどんなにがんばっても駄目って
言われちゃった。;;
こんな中途半端な別れ方に・・
一応次回で最終にしようと思っています。

内容ですが、今回でシロとタマモと横島の山篭り実働編みたいにしたのですが
ちょっと苦しかったのが本音です。
鹿って食べたことないな〜思うのですが、細かいツッコミはご勘弁を
すこしでも面白いと思ってくれれば幸いです。

青い猫又でした。

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