ザ・グレート・展開予測ショー

いつか見た星空 その3.0


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 2/21)


「さて、みんなに相談したい事がある」

2日目の早朝は昨日と同じく雲ひとつ無い青空だった。横島達が来る前の日まで雨が降り続いて
いたので全体的に湿気は多いのだが、とくに問題は無く朝露に濡れる森はきらきらと輝いて美しかった。

横島たちは朝食の用意をすませ(用意したのは9割横島だったが)昨日の焚き火跡を前に
それぞれちょとした雑談をしながら食べ始めている最中だった。

そんな中突然横島が思い出したように立ち上がると、シロとタマモに質問を投げ掛けたのである。

「なんでござるか先生?」

「なに?」

タマモは横島を見上げると食べていた朝食を止めて聞くのだが、シロの方はちょっと名残惜しそうにしながら
それでも先生のためにとかなり迷って箸を止める。
そんなシロの様子にちょっと苦笑しながら横島は話を進めた。

「いやな。実は昨日からずっと考えていたんだが、とうとう思いつかなくてさ、
それで二人に相談しようと思ったんだよ。」

横島は顎に手を当てるとちょっと考えるように首をひねった。

昨日から?そんな素振りはタマモはぜんぜん感じていなかった。
シロを見るがぼけ〜と横島を見てるので気づいてはいなかっただろうと思う。
取り敢えず話を聞いてみることにする。

「なにを相談したいのよ。言ってくれないと分からないわよ。」

「そうでござるな、ぜひ言ってほしいでござる。」

シロもタマモに同意して横島へ話の続きを促してくる。
シロとしては横島を心配する気持ちも当然ちゃんとあるのだが、ちょっとだけおあずけをくらっている
朝食にも興味があった。

「ああ、そうだなすまん。相談したい事は簡単で、俺山篭りって初めてなんだがいったいなにやるんだ?」

・・・・・・

ちょっとの間誰も話せない雰囲気が漂う、二人は横島を見るが間違いなく本気であることは顔を見れば分かる。あれで冗談を言っているのであれば横島はすごい大物であるとタマモは思った。

「えっと〜、一応確認なんだけど横島本気?」

「ああ、本気だけど? いや修行って言ってもおれ妙神山でしかやったこと無いしさ、あれも
ちゃんとした修行って感じじゃ無かったしな〜」

そう横島は妙神山以外での修行は一回もやったことが無い、全て実戦で覚えてきたのである。
人はこつこつと日々の修行で自分の力を育てていくのに、その過程がめちゃくちゃな横島は普通の
やり方など知らなかった。

「タマモお前しってるか?」

「知ってるわけ無いでしょ! 修行なんてやったこと無いわよ。」

横島はタマモに話をふってみるが、ふられたタマモにしても困ってしまう。
大抵の妖怪は、生まれた瞬間に自分の力をどのように振るうかを本能で知っている。
あとは生きた年数で妖力が増え力を増すので修行の概念が無いのだ、自分を鍛えて力をつける
人狼の民の方が妖怪としては珍しかった。

「そっか、知らねえか。」

「先生、拙者何度か父と一緒に修行をしたでござるよ。今回はそれを参考にすれば良いでござる。」

シロが尻尾を力いっぱい振りながら手を上げてくる。

「おぉ、そうだったな、お前がまともな修行の唯一の経験者だな。」

よくやったと言わんばかりにシロの頭を撫でてやる、シロはうれしそうに尻尾を振ると
目を細めながら喜ぶ。もっと撫でてもらうために頭を横島のほうへ持って行くシロを、タマモは
ちょっとだけ羨ましそうに見る。

「山篭りして修行だって騒いでる馬鹿犬が、知らないって方がおかしいじゃない!」

なんとなく悔しくてタマモは叫ぶが、馬鹿犬と呼ばれてもご機嫌なシロは相手にせず横島に
尻尾を振って撫でてもらう。
一頻り撫でると横島はシロに話の続きを促す。

「で、シロ修行ってどんな事するんだよ?」

「えっとでござるな。」

シロはちょっと考えるように首を傾げながら、数を数えるように一つ言うたびに指を折っていった。

「まず、出来るだけ朝早く起きるでござる。」

「まあ、そうだろうな」

横島はふむふむと頷く。タマモは取り敢えずおとなしくしている事にしたようで、
シロの話を聞きながら朝食の続きを食べている。

「二人で朝ごはんの用意をすませご飯を食べたでござる。その後に午前中の涼しい間に目的地を
決めて二人で歩いたでござるよ。」

「目的地?」

はてと横島は不思議に思いシロに尋ねてみる。

「そうでござる。その日によって違うでござるが、今日は向こうの山の頂上に行ってみようとか
ちょっと離れた場所に珍しい洞窟があるでござるが、そこを見に行こうとか決めるでござる。
父が言うには歩く事で足腰の鍛錬になるそうでござる。」

「へ〜そんなことをするのか。」

横島はいつもの散歩とどこが違うのかちょっとだけ迷ったが取り敢えず納得しておく。

「んで、ほかになにやるんだよ」

「お昼ごはんを食べた後は、滝に打たれながら滝つぼで泳ぐでござるよ。
水泳は全身を使うので良い鍛錬になるって言っていたでござる。」

「ほ、ほぉ〜〜」

シロは一生懸命に話してくるのだが、さすがの横島もだんだんと不安になってくる。
まさかな?いやいやまさかな?そんな思いが心に芽生えてくるが、
一応最後まで聞いてから結論を出そうと考える。

「夕方まで泳いでるのか?」

「いやいや、夕ご飯の材料を探すゆえ、探せる時間を残して止めるでござる。
そして日があるうちに山で狩りの練習をするでござるよ。父と協力してウサギや鹿などを
仕留めたでござるよ。」

シロは父と狩りをしたのを思い出したのか懐かしむように笑う。
それを聞いていた横島は取り敢えず疑問に思った事だけを聞くことにした。

「ウサギや鹿なんて山に入ってすぐ狩れるような動物だっけか?」

「人間には無理でござるが人狼なら問題は無いでござるよ。
狩りに関しては誰にも負けないでござる。」

自信満々に断言をしてくる。
たしかに人狼の嗅覚や追跡能力を持ってすれば、動物の狩りは問題が無いような気もする。
そう横島は考えると納得する事にした。

「んで、夕飯か?」

「そうでござる。父と一緒に作って食べたご飯はおいしかったでござったな〜
ご飯を食べた後に草むらにねっころがって、父といろいろな事を語ったでござるよ。
父が言うには、たくさんの事を知っておかなくてはならないと勉学の時間でござったが、
父の昔の話など教えてくださってたいへんためになったでござるよ。
でも拙者、昼間の修行の数々で疲れていたため、よくそのまま眠ってしまうのでござるが
父がちゃんと寝床まで連れて行ってくれたでござる。懐かしいでござるな〜」

シロは普段見せないような表情を見せる、懐かしいような、それでいて寂しいような、
そんななんとも言えない顔をすると横島を見つめ微笑む。
さすがの横島もその顔にちょっとだけどきりとした。

それを見ていて面白くないのはタマモである。完全に自分の事を忘れ去られてる気がする。
箸で横島の作った玉子焼きを半分にしながら、ちょっとだけむっとすると横島とシロの会話に割り込む。

「修行ってずいぶん楽しそうなのね。私もやろうかしら。」

「そうでござるな、ぜひタマモも一緒に修行をするでござる、修行はみんなでやったほうが
良いでござるよ。」

シロも今はご機嫌なので、タマモが一緒にやることに賛成をする。
しかしご機嫌なシロとは対照的に、何かを悩むように考えていた横島は再びシロへと向くと
質問を投げ掛ける。

「シロ、最後に質問したいんだが良いかな。」

「なんでござる先生、なんでも聞いてください。」

シロは元気よく尻尾を振りながら大好きな横島へと振り向く。
そんなシロの表情に横島はちょっとだけ罪悪感を覚えるが、聞かないと駄目だと思い心を鬼にする。

「あ〜なんだ、シロが親父さんに修行に連れてってもらったのって、今と同じように夏の入り始め
とか夏本番じゃなかったか?」

「どうして分かるでござるか! その通りでござるよ、父は大体一年を通して修行の山篭りをしていたで
ござるが、拙者を連れて行ってくれるのは大体今ぐらいの季節でござったな。」

シロは横島の質問に驚くと、今度は心配になったのか急に暗い顔をして横島を見上げてくる。

「父は、なにか不味かったのでござろうか?」

そんなシロの急変に驚いた横島は両手を振って否定する。

「いや、そんな事無いって。ぜんぜん立派な人だって、
立派過ぎて俺の親父に爪の垢でも飲ませてやりたかったよ。」

シロはほっとした顔になったので、振っていた手をシロの頭に乗せて撫でてやる。
それを見てやはり面白くないのはタマモだった、なんでさっきから二人だけの世界を作るのだろうか!
飲んでいた油揚げ入りの味噌汁を飲み干すと二人に向かって叫んでみる。

「わ・た・しも一緒に修行するわ!」

「うぉ、びっくりした。なに突然大声出すんだよタマモ?」

横島はびっくりして撫でていた手を引っ込める。シロは名残惜しそうにその手を見ていた。

「横島が人の事無視するからじゃない。良いの?悪いの?」

「いや、そりゃ〜一緒にやるのはぜんぜんかまわないのだが・・」

横島は散々無視されて怒っているタマモにちょっと押され気味だった。

「が?」

煮え切らない横島にタマモはさらに詰め寄る、横島は困ってしまった。
シロの今までの話を聞いて一つだけ分かった事がある。だがそれを正直に言えば
シロがショックを受けることは目に見えて分かる。

言うべきかシロが連れて行かれたのは修行じゃなくて家族サービスだとはっきり言ってしまう
べきなのか、シロの親父さんは修行の真似事みたいにしてかまってやったんだろうが、いまだに
それを修行と信じているとは・・・・・あぁ分かっているぞシロ、お前は決して馬鹿なんかじゃなくて
純粋なんだよな無垢なんだよな人を疑う事を知らないだけなんだよな。

時間にしてほんのちょっぴりだけ悩むがすぐ答えが見つかる。

「そうだな、みんなでシロの言った修行をやるか!」

横島は何の迷いも無く二人に言ってやる。
もともと、修行のやり方なんて知らないし横島もきついより楽なほうが良いに決まっていた。

その発言に当然二人とも喜ぶ。

「修行でござるぅ〜がんばるでござるぞぉ〜」

「私も、もうちょっとは力取り戻したいしね。それに修行って面白そうだし付き合うわ。」

二人の喜ぶ顔を見て横島は満足していた、ああ俺は正しい事をしたのだと自分を褒めてあげたくなった。
そっと横島は空を見上げると今日も良い天気になりそうで雲一つ無い晴天だった。





そこから時間の流れなど速かった。

午前中はシロが周りの名所を知っていたのでいろいろ案内してもらった。
天狗の腰掛と呼ばれる木(じっさい本物の天狗が腰掛けていた)とか、
鍾乳洞などかなり珍しい物もあった。
途中で見つけた木の実や、川でシロとタマモが捕まえた魚をお昼ご飯にした。

日が高くなり暑くなってくるとみんなで滝に行き、ふざけて滝に打たれたりしながら水遊びを楽しんだ。
横島は念の為にと海パンを持ってきたので問題は無かったし、シロとタマモは服に関してはいくらでも
出せるのでやはり問題は無かった。
横島の気を引こうとシロは積極的にがんばったり、タマモはさり気なくがんばったが横島にとって
範囲外の二人の行動に気付く事は無かった。

日が暮れる前に3人で山に入り夕食の狩りをした、主にシロが活躍したのだがタマモも意地になって
がんばったので横島は見ているだけで十分な量が手に入った。
また二人の奮闘によって猪を生け捕る事に成功したのだが、誰も猪のさばき方など
知らなかったしすでに鹿を捕らえていたので、食べ切れないと判断されて泣く泣く逃がす事になった。
横島は売れば高いのにな〜などと嘆いていたが、捕まえる事で満足した二人はちっとも聞いてなかった。

最初横島は夕食をレトルトや缶詰で済まそう考えていたが、二人が捕まえた獲物のために
考えていたよりもずっと豪華な夕食になった。一応調味料を持ってきた横島の勝利である。
さすがに鹿などを捌く時に一瞬ためらったが、シロやタマモにやらせないぐらいには
男のブライドが存在した横島は、すまんと心で呟いて料理した。

夕食を食べ終わった後はみんなで昨日の夜の丘に行き、星を見ながら眠くなるまでのたわい無い話で
盛り上がった。学校なんて行った事の無い二人は、横島の学校の事についてかなり興味深そうに聞いていた。
今度遊びに来いよなんて軽口まで出てしまうぐらいに横島も楽しかった。
二人ともこくこくと頷いていたので、もしかしたら本当に来るかも知れないな〜と横島は思った。

そしてあっと言う間に修行の山篭り二日目が過ぎ去った。


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