ザ・グレート・展開予測ショー

長編・GS信長 極楽天下布武!!(7)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 2/21)

卑劣は末代迄武門の笑いの種

我は兵を以て戦ひを決せん
塩を以て敵を屈せしむる事をせじ















瞬間,雷鳴が鳴り響いた。
同時に,信長の傍らに在った岩が弾け飛ぶ。
「……!」
「敵襲!?」
重治が叫び,全員が臨戦態勢を取る。
そして,鴨川の流れを堰き止める即席の堤防の上に,“敵”が姿を現した。
「ゴーストスイーパー,か?」
“敵”が問う。
「ああ,そうだ」
「何をしに来た?」
「何をしに来たと思う?」
「……鴨川を元に戻そうと言うのなら,悪いが出直してくれ。せめて今日一日だけは,このままにしておきたいのだ」
「戻す!……と言ったら?」
「させぬ」
“敵”は――女だった。背中迄有るライトパープルの髪を無造作にロングでおいた,なかなかにスタイルの良い女だ。――そう言うと,前方に手を翳した。
バチィ!
“敵”の掌に放電したかの様に火花が飛ぶと,次の瞬間には再び雷鳴が轟き,信長の足下が煙を噴くクレーターとなっていた。
「……帰るなら敢えては追わん。しかし,如何してもと言うなら――」
「へっ!如何するって?」
「……力尽くで排除する!」
バチィ!
今度は,ヒナタの足下が弾け飛んだ。
「ふん……!」
脅迫されていると言うのに薄く笑みを浮かべている信長に,天回が問いを発した。
「如何するのじゃ?」
「知れた事。此処で俺等が取るべき行動は二つに一つだ」
「……とは?」
「一つは,彼奴をぶちのめして鴨川を元に戻す。……女殴るのは,気が進まんがな」
「もう一つは?」
「彼奴を無視して都へ行き,彼奴の仲間をぶちのめす。したら,これも意味無くなるだろ」
「引くと言う選択肢は?」
「有り得ねえ!」
“敵”が,再び掌を翳した。
「どちらも,させぬわ」
バチィ!
四度,雷鳴が轟く。
「……次は当てる」
「へ……」
「魔都の東を護りし四方守護聖獣・青龍の役目を負いしこの私――『木帝』(リーフ・ダイナスト)萌娘氏康(ほうじょう・うじやす)の名において」
物凄い苗字である。
「さて,如何すっかな?」
「……オダは,女殴ったりはしたくないんでしょ?」
「あ?何だよ,仔狐」
「だったら……」
考高が,前に進み出て狐火を灯す。
「行きなよ。此奴の相手は,私達がするから」
重治が,霊波刀を構える。
「……」
「何よ。同じ事務所の仲間が信用出来ないの?」
「いや――」
信長が,照れ臭げに頬を掻いた。
「じゃあ,行きなさいよ。大将は,敵のボスを倒すものでしょ?」
「雑兵は拙者達に任せて,先へ進むでござる」
「……良いのか?」
「勿論」
「分かった。……天回!黒巫女!行くぞ」
そう言って,信長は車へ戻る。
「勝三郎。後,頼んで良いか?」
「あ,はい……」
「ま,待て!」
氏康が,それに向けて掌を翳す。
「!」
すると,跳躍した重治が氏康に霊波刀を振り下ろした。
「ちっ!」
氏康は身を捻ってかわすが,その間に信長達を乗せた車は,重々しい排気音を引き連れ遠方へと消えていった。
「くっ……!」
その方向を向いたままの氏康の鼻先を,閃光が掠める。重治が霊波刀を横薙ぎに振るったのだ。
「貴殿の相手は,拙者達と申したでござろう?」
「小妖が……!」



霊圧に耐えかね,吉乃が“ぷっつん”した。

「うわ〜〜〜〜〜〜ん!」
「げ……」
「しまったぁっ!」
吉乃が泣き叫び,長政と加江が同時に後退る。
「あ〜あ……」
眼前にフルパワーで攻撃をしようとしている『水王』雫手政宗が居るにも関わらず,五右衛門は手を額に当て溜息をついた。

ゴッ!

次の瞬間,吉乃の影から式神“十二天将”が飛び出した。
吉乃の興奮をダイレクトに受け取った式神達は,今の吉乃そのままに,暴走を始めたのだった。
「もう駄目だ……」
言うが早いが,長政は魔装術を纏い,加江は武装式術で五右衛門を自らの鎧と化した。
こうなってしまっては仕方無い。彼等に出来る事は,せめて自分の受けるダメージを最小限に押さえる事だけだ。
「な,何だぁ!?」
突然の強烈な霊波と飛び掛かって来る式神に,政宗は霊波を収縮していた事も忘れ立ち竦んだ。
「ヒ……ヒヒヒ」
十二神将“心眼”の眼が,場に居る主人以外の三人で最も防御が低く,最も動いてる政宗に照準を合わせ,その姿を捕捉する。
「さあ,心の中を開いて見せて……!」
“幻夜”の眼が,幼い政宗の精神におぞましい幻覚を見せ,トラウマを抉っていく。
「私の人形達の力,存分に御覧有れ」
“宙象”の彫り出した人形達が,その念力によって動きだし,幻に紛れ政宗に群がっていく。
「逃げよう等とはお考えにならぬ様に……」
……あー……えーっと,そう“藤吉郎にやられた奴”が,人形に紛れて的確に急所を狙った攻撃を撃つ。
「に,逃さないんだな」
“信玄にやられた奴”が,政宗の小さな身体を力任せに殴りつける。
十二天将が,思い思いに,しかし絶妙なコンビネーションで政宗を襲う。
数が足りない気がするのは気の所為だ。
天回の異能の“同士”達に似てる気がするのも多分気の所為かも知れない。
「く……そ……!」
こんな所で……っ!
「俺は……こんな所で……くたばる訳には……!」
政宗の心が絶望に支配されかけた時,
「!」
彼の身体が,宙に浮いた。
ゴッ!
同時に,宙象の人形達の内幾つかが斬り倒され,政宗の身体は数瞬の後に地面へ着いた。
「あ……」
政宗は,自分を抱えていた人物を見上げた。
「久秀さん!」
「よっ!大丈夫だった?政宗君」
茉長久秀だった。
「ど,如何して此処に……!?」
「話は後!結界張るよ」
「あ。は,はい!」
二人共,結界なぞ滅多に張らないし専門でも無いのだが,それでも二人分の霊力を使えば何とか十二神将の攻撃を防げる位の結界は張れた。
やがて,霊力を使い果たした吉乃は眠りに落ち,十二神将も彼女の影の中へと戻って行った。
「……ふう」
長政が一旦,魔装術を解く。
「終わったな。ま,あのとんでも無えガキに少なからずダメージ与えられた事だし,結果オーライって所か?」
「でも,新手が来たみたいよ」
加江の声と共に,政宗と久秀も結界を解いた。
「彼奴は……」
「知ってるの?浅井君」
「“聖なる暗殺者”だ。裏の世界じゃ結構な有名人だぜ……」
「そうなんだ」
表情を消した久秀が口を挟む。
「茉長久秀よ。浅井長政君」
「へ……,光栄だな。俺の事,知ってんのかい」
「まあね」
「……まあ,良いや。あんたも,其奴の仲間なんだな?」
「そうよ。邪魔しないでもらえる?」
「そうはいかねえ。こっちも仕事でな」
「大変ね,未だ高校生位でしょうに。生きるって大変よね」
「そうだよな。分かってんなら,あんた等こそ諦めてくんねえか?」
「……ふふ。でも,名が有るならばそれは幸せよ」
「え?」
「私はね,世界が欲しいの。みんなが,私の名前を呼んでくれる世界が……」
「な……」
長政は其処で気付いた。久秀の目が,虚ろになっている事に……。
「“聖なる暗殺者”なんてコードじゃなくて,親から貰った“茉長久秀”で呼んでくれる世界がね……」
「……!」
虚ろな霊圧が高まっていく。長政は,無言のまま魔装術を纏った。これは殺し合いだ。一瞬の逡巡が死に繋がる。
「でも,良いと思ってる。手段が目的になっても。私を名前で呼んでくれた,『魔流連』のみんなの為だもの。だから……」
久秀の霊圧が更に高まる。
「だから,命に替えても任務を果たす」
ゴッ!
尋常で無い霊気が,久秀の身体を包む。
「なっ……!?」
長政の目が,驚愕に見開かれる。
「そう,例え理性を失っても……ね」
バシュウゥゥ……
霊波が,鎧の形を成した。
いや,これは鎧と言うよりきぐるみと言った方が正しいか。
「馬鹿な……魔装術……だと?」
長政が,譫言の様に呟いた。
「おいっ!分かってるのか!?魔装術は悪魔と契約した者だけが使える技!それをそんな精神状態で使ったら如何なるか……!」
長政が声を荒上げる。
「分かってるわよ……」
「!」
「言ったでしょ。命に替えても,ってね」
そう言うと,久秀は何やら取り出した。
「何だ……?」
「ふふ……光佐特製の霊波爆弾よ。霊力を媒介にするから,小さくても強力よ」
「それで何するって……」
長政が言いかけた時,久秀が地面を蹴った。
「くっ……!」
久秀の強襲を何とか受け止めた長政と五右衛門だったが,明らかに力負けしている。
「お,重い……っ!」
「くっ!駄目だっ!」
バキィ!
二人の身体が宙を舞い,久秀の拳は彼等の護っていた山頂の石碑を叩いた。
そして,
「やり直せるかもと,思ったんだけどな……」
                      そんな呟きが,聞こえた様な気がした。
    辺りが,閃光に包まれた。



「う〜む。如何やら道を間違えた様だね」
「申し訳ありません,先生!僕が地図を逆様に見ていたばかりに……」
「おにーさま?それ以前にそれ,世界地図なんですけど」
その頃,道に迷った利政達は既に京都を通り過ぎていた。
「行き止まりだね……」
「ええ……。如何したんでしょう,これは」
「高速道路が崩れてますね」
「兎に角,戻って道を聞いて……」
「……先生?」
「いや……待て」
利政が,車から降りた。
「如何なされたのですか?先生!」
ミツヒデとアラキも,後を追って車を降りる。
「感じぬかね,ミツヒデ君」
「え?」
「この,強い霊圧を……」
瞬間,一陣の風が吹き抜け,三人の前に一人の老人が姿を現した。
「ゴーストスイーパー……かね?」
「あ,貴方は……,嶌柘義久翁!?」
「む,君は確か……斎藤利政君,だったか」
「義久翁,何故こんな所に?」
「ふぉっふぉっふぉ。決まっておろう」
「え?」
「爆破された山陰道にわざわざ存在しておる者と言えば,考える迄もあるまい」
「と,言うと?」
「儂が,魔都の西を護る四方守護聖獣・白虎『金皇』と言う事じゃよ」
「何ですって?」
「ふむ。君は,何故此処へ来た?」
「それは……オカルトGメンからの協力要請で,京都へ行く途中で」
「つまり,儂は君の敵と言う事じゃな」
「それは一体……」
「分からんか。詰まり,君達が殲滅を要求された一味は,儂の同士達と言う事じゃよ」
「何と……」
「さて,如何する?」
「これは,貴方がやったのですか?」
「ああ」
「……自首して下さい」
「断る」
「何故!?」
「何故?訊く迄も有るまい。そうする位なら,この様な事をしでかしはせんよ」
「く……」
「それに,悪いが儂は切支丹では無いでな」
「ならば……」
「ならば,如何する?」
「幾ら嶌柘翁とは言え,この様な暴挙,許されるものでは有りません」
「ふむ。それで?」
「……仕方有りません。力尽くでも」
利政は,聖書を開いた。



キン……!
勝竜姫が,神剣を抜いた。
「勝竜姫様,いけません!」
「信盛!?何故,止める」
「確かに勝竜姫様が参戦なされば,勝敗はそれで決まったも同然でしょう。しかし,此処は俗界です。龍神族に連なる勝竜姫様が人間達のいざこざに関わっては,後でどんな事になるやら……」
「くっ……!」

対等とは見ておらぬのです――

「だが!」
「ご自重下され!もしもあの者等が敗北した場合は,殺される前に連れて逃げましょうぞ」
「……っ!」
「余り小難しく考えますな。皆,斯うしておられるのですよ」
「……」
勝竜姫の脳に,師である豊国大明神の言葉が浮かぶ。

――勝竜姫よ,お前は真面目過ぎる。幾ら神族は人間に比べて頭が悪いとは言っても,それでは世の中渡ってはいけぬし,武神としてもやってゆけぬぞ。お前の攻撃は教科書そのままじゃ。読みやすい事この上無い。敵とお前の剣の腕が同程度ならば,お前は勝てはせぬぞ――

「私は――」
「勝竜姫様!」
「ねーねー,左鬼ぃ」
「む?何じゃ,タツリオ殿」
「タツリオは戦っても良いのぉ?」
「ええと……タツリオ殿は純粋魔族であり妙神山預かりの身ですからなあ。矢張り拙いのでは」
「ええー」
「でもまあ……手助け位なら」

「ふふ,後ろの神様と物の怪は参戦せぬ様だな」
氏康が哄笑した。
「ならば,私の勝ちは疑うべくも無いな」
そう言い放った氏康の眼には,所々に火傷を負った重治と考高が転がっているのが映っていた。
「な……何で,人間の手から雷が出るでござるかあ〜?」
「あんた……ホントに人間なの?」
息も絶え絶えな重治と考高が問う。
「人間だよ」
氏康が答えた。
「只,人より少しばかり発電細胞が発達しているのさ。それに因って作り出した電気を,観念動力(サイコキネシス)を使って飛ばしているんだ」
「な……」
「信じらんない」
「ふ……,信じようが信じまいが結果は同じだよ。お前達が此処で死ぬと言う結果はな」
「己……!」
「……」
「希少種である人狼と妖狐をむざむざ殺してしまうと言うのもアレだが,しかし我等が理想を邪魔する者を生かしてはおけん。少なくとも,今日一日はな」
バチバチバチ……
氏康が胸の前に翳した両掌の間に,見る見る内に電気が堪っていき,それはやがて,球の形を成していく。
「これで終わりだ……」
氏康が,それを重治と考高の方へ向けた。
「死ね」



小笠原帰蝶GSオフィスのメンバーは,巨椋池へと来ていた。
「この池は京都の南を護る“朱雀”を表す『沢畔』だけど……」
帰蝶が,辺りを見回して言う。
「この池を今日明日中に埋め立てるなんて,無理な話よねえ」
「そうでも無いさ」
「!?」
突然後ろから声を掛けられ三人が振り向くと,金色に染めた髪をつんつんに立て,革ジャンを着た若い男が立っていた。垂れた眼に,締まりのない顔で飄々と立っている。
「例えば,鴨川へ繋がる流水口を広くしてやれば良い。そうすれば此処は,“沢畔”ではなくなる」
「な,何ですかいノー。あんたは」
「梢甦霞邊元親(ちょうそかべ・もとちか)――」
「え?」
利家が男に問い掛けた答えを,帰蝶が返した。
「ゴーストスイーパーよ。確か,パイロキネシスト(発火能力者)だったかしら?」
「そう。そして,魔都の南を護る聖獣・朱雀――『魔流連』の『火君』(フレイム・ロード)でもある」
男――梢甦霞邊元親が口を挟んだ。
「あんた達,俺を捕まえに来たんだろ?」
「……そんな所ね。分かってるなら,大人しく投降してくれる?」
元親は,薄く笑ったまま下品に舌を出した。
「やだね」



船岡山に響き渡るのは。
ゴッ!
爆音。
そして噴煙。
「な……そんな……」
「まさか……自爆……!?」
石碑は,基盤毎跡形も無く消し飛んでいた。
そして,久秀の肉体も。
「何てこった……」
長政が一人ごちる。
「旦那,無事か?」
「ええ,何とかね」
傍らには,吉乃をお姫様抱っこで抱えた加江が居る。
「とんでも無え事しやがるぜ……」
「ホント……何て言うか,凄いわね……」
「ああ……」
目の前で起こった惨劇に呆然とするばかりの二人の間に,突然水柱が立った。
「!?」
「許さない……」
声に振り向くと,顔を俯けた政宗が此方へ向かって歩いて来ていた。
「良くも久秀さんを……。あんた等,絶対に許さない……!」
政宗が,キッと顔を上げた。
「俺が殺してやる。久秀さんの仇を討つんだ……!」

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