〜 『キツネと姉妹と約束と 第3話・前編』 〜
投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/ 2/21)
「ファミレスかよ・・。お前、金持ってんならもうちょい奮発しろよ・・。」
「・・文句があるなら君には奢らんぞ。」
・・そんなやりとりともに、場にそぐわない高級車のドアが閉まる。
そこは・・
もう、都内なら星の数ほど点在するのではないかという程メジャーなファミリーレストラン・・
『ミルキーロード』だったりするのだが・・
とある事情で彼らは、今日、ここで夕食をとることに決まったのだ。
先行して前を歩くタマモとスズノにを見やりながら、西条は少し腕を組んで・・・・
―――・・・。
「・・ねーさま・・この建物からは油揚げの匂いも、いなり寿司の匂いもしない・・。」
「案ずることはないわ、スズノ。
うどんはあるんだから、この持参した油揚げをのせれば、キツネうどんが完成するもの・・。」
「・・お〜・・さすがはねーさま・・。」
・・・。
いや・・そこまでするか?とい話もあるし、どこらへんが流石なんだ?というつっこみもあるが・・
・・2人は割りに仲良く歩調を合わせて・・・・
・・・。
「ふむ。なかなかどうして・・うまくやってるみたいじゃないか。案外、本当に姉妹なのかもしれないな。」
「・・・だな。」
横島と西条は・・そろって苦笑をもらすのだった。
〜『キツネと姉妹と約束と その3・前編』〜
「正気かっ!!君は、サービスだからって12回もスープのおかわりに行くバカがどこにいる!!」
「ここにいるだろ!・・いいじゃねぇかタダなんだし・・。」
「よくないっ!!!」
「・・・2人とも・・視線が痛いから静かにして・・・。」
「・・こ・・この水は・・ドロドロしてる上に黄色く変色している・・・・・。」
「・・スズノ・・。それコーンポタージュなんだけど・・。」
店内でなされるこんな会話。
このメンバーが揃うとタマモがノーマルに見えて不思議だ。
もともと彼女はつっこみ属性の上、横島が絡むと西条までがボケに転じるため本当に休むヒマがない。
・・いや、そんなことはどうでもいいのだが・・・
「・・やれやれ。」
いい加減、疲れたのかタマモは静かに席を立って・・
「横島。私、飲み物取ってくるから・・スズノも行く?」
「・・うん。ねーさまと一緒。」
なんてことを言いながら、スズノを連れてスタスタと歩いていってしまう。
・・・・。
その様子を見送りながら・・・西条は低く声をもらした。
「・・タマモ君は勘付いてるだろうな。君も流石に分かっただろ?危うくどんな仕事を回されそうになったか。」
「まぁ・・これだけあからさまなこと、されたらなぁ。
で?なんでスズノをとっ捕まえるなんてお達しが出たんだ?」
・・どうにも・・納得がいかなかった。
スズノがそれほど危険な魔物だろうか?
彼女が人間に害を為すとは思えないし・・それどころか恐ろしく友好的な気がするのだが・・
唯一の欠点は、あの常識の無さだが・・それも致命的な問題とは思えない。
「・・さぁね。僕も詳しくは聞かされていない。
ただ、今のスズノちゃんが外部と接触をとるのは危険・・・・らしい。」
「・・・危険ねぇ。」
◇
そろって通路を歩きながら、タマモとスズノはドリンクコーナーへと向かっていた。
せっせと隣を歩くスズノ。
ペースを合わせようとすると・・『気を遣わないで』・・なんてことを言ってきて・・
そんな彼女に目をやりながら、タマモは自分に対して半ば驚き・・半ば呆れていた。
・・・見事にスズノの姉を演じきっている。
それどころか、この娘の姉であるという現状に少しも違和感を感じていない。
(姉さま・・・・か。本当のところはどうなのかな・・。)
金毛白面九尾に血縁者などいない・・それは揺らぎようのない事実である。
・・・だとしたら、やはりスズノは・・・・・
・・・。
「・・・・ねーさま?」
「・・あ・・どうしたの?スズノ・・。」
突然、呼ばれ少し声が震える。見れば、スズノは興味深げに自分を見上げていて・・
「?どうしたの?・・私の顔に何かついてる?」
・・・。
「ねーさまは横島のことが好きなのか?」
・・・・。
・・・・・・間。
そして・・
・・・ガッシャーーーーーーーン!!!!
タマモの手にしていたガラス容器が、派手に床へと飛び散った。
不意打ちに彼女はドリンクバーへと頭をつっこみそうになり・・・・
「な・・なななな・・なんで急にそんな・・・!」
「さっきから、ずっと横島のことを目で追ってたから・・やはりそーなのか?」
首をかしげる小さな妖狐。末恐ろしい・・この短期間でそんなことを・・一体、どういう観察力なのだろう?
「・・そ・・そんなわけ・・・」
そう、口にしようとして・・しかし、タマモははた、と思いとどまる。
・・・そうなのだ。
ここ最近、思うのだが、人に聞かれて頭ごなしに横島への好意を否定することに・・果たしてメリットなどあるのだろうか?
『将を射んと欲すれば、まず馬を射よ』・・なんて諺もある。
ここはまず、周りに「自分が横島を憎からず思っている」という認識を定着させて・・ジワジワと・・・
(・・まるでどこぞの城攻めチックなノリだが、彼女は真剣である。)
・・ということはスズノが、そのお試し第一号となるわけで・・・・
「・・・それは・・」
「それは?」
「その・・・好き・・・かな?」
あさっての方向を向きながら、タマモはなんとかそれだけ口にして・・・
次の瞬間、スズノは嬉しげに顔をほころばせる。
「・・そーなのかぁ・・・。」
「な・・なんでスズノが喜ぶのよ・・。」
頬をかきながら、意味も無く気恥ずかしさを覚えてしまう。
ひょっとして、自分はこんな小さな子供にからかわれているのだろうか?
「ねーさまと横島が恋仲になってくれれば・・・私も・・嬉しい・・。」
「・・・ハイハイ。」
タマモは嘆息しながら、少し頭を抱えた。
・・自分で招いたとはいえ、やはりこういった話は性に合わないというか・・とにかく早く打ち切りたかった。
スズノを軽くあしらってから、スズノはドリンクバーから背を向けて・・・・
「・・・・ねーさまは・・昔、誰のことも好きじゃないって・・そう言ってたから。」
・・・?
そこで、予想外の言葉に立ち止まる。予想外というのは・・・少し違うか。
そのセリフにはどこか自分も聞き覚えがあった。
「『妖狐は人を欺くことでしか生きていけない。だから愛さない、愛してはいけない。』
・・ねーさまの・・口癖だった・・。」
「・・・・・。」
「・・だけど・・今のねーさまは違うみたいだから・・横島が好きみたいだから・・それは嬉しいこと。」
・・・。
・・・花のように笑うとは・・・・こういうことを言うのだろうか?
きっと目の前の少女は、自分より『昔の自分』のことを知っていて・・・・
(・・・私はスズノのことを何も思い出せないのに・・・)
それが分かっても、この娘は本心から自分を祝福してくれている・・。
「・・・スズノ・・・。」
それは特に意識したことではなかった。・・自然に・・ごく自然に・・・・タマモはスズノへと手を伸ばして・・・・
そういえば、昔・・こんな場面を見たことがある。
・・あれは・・いつのことだったろう?たしかに自分は小さな少女を・・・
記憶をたどるようにタマモはスズノを腕いっぱいに抱きしめようとして・・・・
「・・・・!・・・」
「・・?ねーさま、どうかした・・・・・・・・・・・!?」
・・しかし、突如としてそれは遮られる。
・・・・。
「―――・・・・!!」
肉が裂かれる鈍い音と・・・鮮血によって・・・・
「・・・タマモ・・・・ねーさま・・・・?」
・・・ドサリという・・・音がした。
スズノの目に飛び込んできたのは・・崩れ落ちる姉の姿。
・・そして、その姉の胸を背後から貫く凶刃。よく見れば、それは爪だった・・・猛禽類を思わせる鋭利なカギ爪。
「・・・なんだぁ?大きい方も妖狐だったのかよ・・じゃあ殺す必要はなかったなぁ・・。」
つまらなそうに言い放つ声には、何の感慨も浮かんではいない。
瞬間、店内に悲鳴が木霊する。
客の誰か・・・あるいは全員が目の前で起きた惨劇に叫び声を上げたのだ。
「妖狐スズノだな・・・?オレたちと共に来てもらおうか。」
〜中編へ続きます〜
今までの
コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa