ザ・グレート・展開予測ショー

君を待つ〜鏡想迷宮〜


投稿者名:梨音
投稿日時:(04/ 2/21)





某月某日PM8:30。とあるレストランにて。





「遅い………」


本来の待ち合わせ時刻は午後7時半。


「………」


既に一時間が経過。


「………遅い」


相手は未だ姿を現さず。





『君を待つ〜鏡想迷宮〜』






「何やってのんよ、あいつは…」

イライライライラ。
時計を見て呟く。何度目か、回数は数えていない。

目の前には空の、さもそれが当然であるかのような、空の席があるだけ。


『貴女にお似合いのお席じゃないですか?』


ふざけんな。


ムカムカムカムカ。

待つのは性に合わない。
だが、相手に連絡しようにも、


「携帯……は無理か」


これは彼女のせいでもあるが。


「アパートの部屋には居ない…みたいね」

携帯電話をしまいこみつつ考え直す。
これから行く、という類の電話はかかってきていない。
しかし、部屋には居ない。
こちらに向かっている最中?
いや、それなら遅れるという連絡をして来るはず。
寝過ごす、ということは時間的に有り得ないだろう。
だが、少なくとも連絡――電話による連絡ができない状況にある。


「……まさか十円玉すら持ってないなんてことは……」


有り得ない、と言い切れないところが、彼女の良心をチクチク刺激する。



だが、たとえそういう状況にあったとしても、約束の時間からもう二時間も過ぎている。
確かに、時間にルーズと言えばルーズな奴ではあるだろうが、ここまで遅れる理由があるだろうか?


「………」


それなりの理由が必要だ。
何故なら、自分を待たせているのだから。
それ相応の理由が“なくてはならない”。


「何だろう……?」


オーソドックスに悪霊退治?
まさか。
それに、今の彼はそれなりに腕も上がっている。
前とは違う。
二時間……考えられなくはないけれど。


「怪我とか…してないわよね…」


流石にそれは心配しすぎだと思うのだけど。


「アイツ、馬鹿だから……」



『た、助けてください!悪霊が!』

『大丈夫、大船に乗ったつもりで任せなさい!』


妙なところで優しいところがある。
そのせいで割を食うことが多いのに、いつでも元気なアイツは馬鹿だ。

元気すぎる、というのもあるが。

時計を見る。
二時間半経過。


「………」


たとえば他の…他の…


「他の……」


元気すぎるから。
節操無し。
だから、他の…



『大丈夫ですか?お嬢さん。』

『あ…ありがとうございます。あの…お名前を…』


「いや、それはない。」


多分。

心中では弱気だけど。
でも、おそらく確か。である。はず。
彼はそんなに器用じゃない。

不器用で…一生懸命な奴で。


「駄目だ…ドツボにハマッてる…」


杞憂。
とも言い切れないが。
変な思考にとりつかれてしまった。
アイツが一人で待たせるから。


まだ来ない。



「まだ来ない……」



時計に一瞥をくれ、天を仰ぐ。
三時間半経過。
オーダーストップ。


「あー……」


今日は彼女から誘ったのだ。
はじめて。


「なーんでこうなるかなー……」


なけなしの勇気、というか気合と根性と言おうか。
自分から言い出すのはとても大変だった。
彼も意外そうで、でも頬を赤く染めるのが可愛くて。
気恥ずかしさもあったけれど、嬉しさと期待の方がずっと勝っていた。


「どうしよ……」


そろそろ閉店時間である。
淋しさと落胆。
未だに相手は来ない。


店から出ると、途端に凍みるような夜の風が吹き付けてきた。
地味に辛い。
寒いし。


「明日仕事休んじゃおうかな…」


溜息は街灯に照らされて白く。
兎にも角にも歩き出す。
静寂。
よりにもよってこんな冷え込む夜に、足音一つだけとは。


「ん……?」


もう一つ足音が聞こえる。
駆け足。
ひどく急いでいるらしい。

真っ直ぐに、さっきのレストランへと。


「あ……」


視界に白く息がかかる。

見慣れたバンダナ。
その割りにスーツ姿で。
相変わらず似合っていない。

その上、何故か全身ボロボロ。
上着を抱えて息を吐かせて。

店の入り口の『Closed』の文字を、切なげに見つめている。


「あの馬鹿……」


全く。
遅いっての。





ふざけんな……





「遅いっっ!!」

「ああっっ、美神さん!すいませんすいません!!
いえなんか雪之丞の奴がいきなりアパートに来て飯くれろとか!そんでラーメン食わしてやったら仕事手伝えとか言ってきて!
断ったんですけどどうしてもって言うから五時くらいだったしだからついでだってついてったんですけどなんかこいつが結構強くて、
いやスーツでってのもあれだったんですけど簡単な仕事だって言うしでもなんか手間取っちゃって、
それでおキヌちゃんの同級生の弓さんも応援に来てくれたんですけど、除霊が終わったらなんか二人がいきなり口喧嘩し始めて!
巻き添え食わない内に待ち合わせの店に行こうと思ったら、何故か冥子さんと鉢合わせしちゃって令子ちゃんは?とか聞かれたんで、
ああこらいかんと思って挨拶もそこそこに逃げたんですが、何故かカオスのじいさんと厄珍が実験に付き合えとか言って来て、
いや付き合ってられるかと振り切ろうとしたんですが、マリアが何気にしつこくてそしたら西条のあほが……」

「もういい、分かった。」

「それで西条のアホはどうでもよくて……って、はい?」

「あんたの言いたい事は、じゅーぶん!分かったって言ったの。」

「え、あ、あの……」

「………」

「怒ってます?……よね………」

「………」

「すいません……」

「………」

「駄目な奴ですよね、俺……ほんと…」

「ラーメン」

「え?」

「埋め合わせにラーメンおごりなさいよ、横島くん。チャーシュー。餃子つけて。」

「あ、あの……」

「それでチャラにしてあげる。」

「あ、美神さん……」

「何よ!文句あんの!」

「なんで泣いてんですか?」

「泣いてない!!!馬鹿!ほら、行くわよ!さっさとついて来い!」

「は、はい!!」















「ところで、大盛りネギだくチャーシュー抜きってのはアリですか?」

「あぁ?」

「だぁぁぁぁああああ冗談ですって冗談!」

「まったく!馬鹿な事ばっかり言ってんじゃないわよ。」

「ホントすいません…それと、あの……ありがとうございます。」

「………馬鹿な事ばっかり言ってんじゃないわよ。」

「馬鹿な事なんですか?」

「うるさいなぁ、もう!さっさと歩く!」

「すんませんすんませんわあぁぁぁぁああ!」


ったく。


………。


ま、いっか。





Fin.

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