ザ・グレート・展開予測ショー

長編・GS信長 極楽天下布武!!(6)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 2/20)

己が屋敷の雨落ちを出る時
早敵なりて我を窺ふと心得べし















そして一夜明けて,火曜日。
決戦の日。



京都市郊外。オカルトGメン臨時本部。
「……糞っ!」
織田信秀は誰とも無く吐き捨てた。
足りない,全てが。
先ず人が足りない。故に情報も足りない。
無いもの尽くしだ。
「……」
京都は,間違い無く不穏の影に包まれている。
それが人災で有る事は明白だ。そして,彼等が何を企んでいるかも,ある程度推測出来る。
しかし,それが出来た所で如何しようも無い。
公務員である部下達にその程度の根拠で労働させる訳にもいかないし,第一その為の充分な人手も無い。今の日本は民間GSの天下である。オカルトGメンの人材は,量においても質においても信頼出来るものではなかった。
プルルル……
携帯の呼び出し音が鳴った。
「はい,織田……,応,可成か。……そうか,吐いたか」
電話の相手は東京に残った,部下の森 可成からのものだった。彼に任しておいた淺鞍義景が口を割ったらしい。
「――で?……そうか。概ね予想通りだな……。……ああ。お前は,引き続き其奴の尋問を頼む。仲間にどんな奴がいるかとかな」
取り敢えず,これで裏は取れた。Gメンの兵隊なら使えるが……,相手の戦力が分からないこの状況で,只でさえ少ない人員を割くのは得策ではないだろう。
とすれば……
「隊長!」
「如何した,服部」
「はい。民間GSの応援が来ました。……と言っても未だ三人だけですが」
「そうか。通せ」
「はっ!」
こんな時に頼りになる駒がいるだろう。金さえ積めば,どんな危険なヤマでも己のプライドを懸けて取り組んでくれる者達が。
そう,それは嘗て自分も名乗っていた称号。
ゴーストスイーパー。


「何だ,俺等が一番乗りか?」
そう言って信秀の元に現れたのは,六道吉乃,鬼道加江,そして浅井長政の三人だった。
「良く来てくれた三人共」
威厳を込めて信秀が挨拶する。
「隊長さんの〜〜〜,頼みですもの〜〜〜」
「運が悪かったんです。て言うか,私はお呼びでないですか?なら帰りますけど」
「ビビリやしたよ,全く。もうすぐ香港行く所だったのに」
それに対し,余りにも余裕綽々の反応。
命懸けの仕事等,彼等にとっては日常茶飯事だ。彼等はこんな時,必要以上に緊張しても仕方無い事を知っている。油断ではない。この期に及んでのこの飄々とした彼等の態度こそ,実力の証しなのだ。
やはりGSはこうでなければ。部下達にも見習わせたい位だ。
「で?何をすれば良いんですか」
長政にとって,信秀は恋人の父親だ(因みに加江は恋人の担任)は。滅多に敬語を使わない彼も,信秀と信長に対してだけは別である。
「ふむ……」
如何すべきか。
手駒が何処迄手に入るか分からない以上,この三人は有効に使いたい。
とすれば,三人をバラバラに使うか?既に壊された,山陰道は抜きにして……。
いや,駄目だ。敵の戦力が読めていないのに変わりは無い。ならば,三人を同じ場所に投入して,一角だけでも崩すべきか……。
消極的だが,欲張っても仕方が無い。此処は,地道に外堀から埋めていく他無い。
……こんなに勝算が読めないヤマは久しぶりだ。“あの件”以来か。
「君達には,ある場所へ行って其処に居る“敵”と戦って欲しい」
「ある場所って?」
長政が聞き返す。“倒して”欲しいではなく,“戦って”欲しいと言うのが気になるが……。まあ,この人なら俺等がやられた場合の手も,二の手三の手と考えてんだろうなと長政は思う。
勿論,負けるつもりは無いが。死ぬつもりも。
「うむ」
投入すべきは,残る三カ所の内,最も破壊に時間がかかると予想される場所……。
「――船岡山だ」



二条城。
「いよいよね……」
決行迄後二十分。
茉長久秀は,これ迄どんな危険な仕事でも感じ得なかった,不思議な高揚感に包まれていた。
「いよいよ……」
高ぶる心を静める様に,来るべき京都御所襲撃に思いを馳せる久秀は,自分を呼ぶ声で我に返った。
「おい,ちょっと……」
「え?」
「船岡山の政宗から連絡が無いんだ。少し,見に行ってくれないか?」
「あ,はい。お安いご用です」
「……大事な日だ。無理は,せんでくれよ?」
「約束は出来ませんね。必要とあらば」
「……」
「じゃあ,行って来ますね。後,宜しくお願いします」
普段なら絶対に見せない様な屈託の無い笑顔で,久秀は二条城を後にした。



「侭ならぬ物。賽の目,鴨川の水,荒法師」
「白川上皇の言葉ね」
「お?頭悪いんじゃなかったのか」
「これでも,元・武田忍軍ですから」
「ふん」
「でも,可笑しいですね」
「ああ,可笑しいな」
「鴨川に,水が無いなんて――」
信長達は,京都へ向かう途中で奇妙な光景を見た。
それは,完全に干上がり只の溝と成り果てた鴨川の姿だった。
「織田殿ムムムムムっ!」
「応,如何だった。子犬,仔狐」
上流の方へ様子を見に行っていた重治と考高が帰ってきた。
「それが大変でござるよ!」
「……ずっと向こうの方で,河が堰き止められて強引に流れを変えられてた」
「……!」
予想通りだった。信長は,自分の推測が当たっていた事を確信する。
「けっ……!どんな連中か知らねえが,無茶しやがるぜ」
「如何言う……事ですか?」
「勝三郎,風水説って知ってっか?」
「勝竜姫ですってば。それは……まあ」
「つまり……,おっと」
「殺気!?」
「如何やらお客さんが来た様だな……。風水の講釈は,この方にしてもらおうや」



NHK京都。
「……?おい」
モニターでニュースを見ていた番組プロデューサーが,調節をしていた部下に声を掛ける。
「何ですか?」
「これ……何だ?」
「え?」
部下がモニターに目を移すと,其処には見た事も無いキャスターが原稿を読んでいた。

『京都市全域に,避難勧告が出されました。京都市民及び京都市で働く労働者の皆さん,警察の指示に従い,速やかに市内から避難して下さい。繰り返しお伝えします。京都市全域に避難勧告が――』


京都タワー。
携帯テレビを持った青年が,自分の視界斜め前で蹲り,何やら自分には良く分からない機会をいじっている少女に声を掛ける。
「成功だな……。テレビもラジオも,全局この放送が流れている」
すると,少女が振り向いて誇らしげに微笑んだ。黒髪のおかっぱ,派手な色だが飾り気の無いカチューシャに丸眼鏡。一見,何処にでも居る様な所謂“優等生タイプ”の少女である。
「当然ですよ!この光佐ちゃんの手に掛かれば,電波ジャックなんて朝飯前ですってば」
「朝飯前……か。全く,恐ろしい娘だ」
「えへへー」
絹女光佐(けんにょ・こうさ)。
霊能ハッカーにして,『魔流連』の技術開発を司る幹部メンバーの一人。淺鞍義景の着ていた“霊波を遮断するコートと帽子”を作ったのも彼女だ。最も,あれは着ている本人も周りの霊波を感じ取る事が出来ないので,発想の段階から義景の言った通り失敗作だったのだが。
時間と金銭を気にせず,好きなだけ研究開発が出来るからと言う短絡的且つ有りがちな理由で『魔流連』に入った,とっても分かり易いマッド・サイエンティストである。彼女の思考回路は同級生の腐女子の皆様と大して変わらないが,その才能と集中力はそれとは比べ物にならない。
だがそれ故に,他の事には気が回らないのか今日この時においても,彼女の通う高校の制服である,セーラー服に身を包んでいる。曰く,服なんかに気を回してる余裕があったら霊気の実体化における公式を科学的に立証してみるわ,との事だ。
「ふんふふんふふ〜ん♪」
鼻歌等口ずさみながら作業を続ける光佐から,青年は窓の外へと目を移した。
「……」
下では,家財道具を抱えた京都市民の皆様が,警察官に変装した『魔流連』の下っ端構成員達の誘導に従って,大わらわで市内からの脱出を試みている。
「上手くいっている様だな……」
青年は呟いた。
偽の放送を流し,市民を京都市内から退去させる。彼等『魔流連』の計画に彼等を巻き込むとややこしい事になるだろうからだ。
加えて,『魔流連』の悲願が成った暁,魔都と化した京都に一般人である彼等が存在していて無事である保証は無いのだ。
そして,この混乱の内に,京都の“中心”――京都御所を占拠する。それが彼等のシナリオだった。
「……光佐」
「はーい。何ですかぁ?」
「私は,一足先に御所へ行く」
「リーダー達の助っ人ですか?」
「まあ……大丈夫だとは思うのだがな。此処は,一人で平気か?」
「はい!この天才光佐ちゃんにお任せあれ」
「……頼んだぞ」
「はーい」



京都御所。
京都タワーを後にし,此方へやって来た青年が着いた頃には,御所内は血と死体の海と化していた。
その中央に佇むのは,六人の男女……。言う迄も無く,『魔流連』の幹部メンバー達である。
「応,来たか」
その内の一人が,青年に声を掛ける。
「助っ人にと思ったが……もう終わった様だな」
「ああ」
「上手くいって何より」
「いや……,部下達が何人か殺られたよ。流石は京都の“中心”たる御所を護る神兵達だ。精鋭だったよ,正直苦戦した」
「そうか……」
「逃げれば命は助かるものをな。血塗れになっても刃向かうものだから,結局皆殺しだよ。公務員だと言うのに見上げた忠誠心だ」
言う迄も無い事だが,京都御所は国によって管理されている。そして,日本でも有数の霊場であるこの場所を職場とする者達が,只の神主である訳はない。霊場というものは,オカルト犯罪に使われる事の多い場所なのだから。
「リーダーは如何した?」
「ああ。もう“行”に入ったよ」
「もう……?早くないか。未だ四方位さえ崩れてないんだぞ」
「早いに越した事は無いだろう」
「むう……」
「考え過ぎだよ。それより,外の様子は如何なんだ?」
「ああ。もう誰も居なくなっている頃合いだが……」
別の人物が手を挙げる。
「やってみようか」
「ああ,頼む」
その頼まれた人物は,メンバーの中で,最も探知能力に優れた者だった。霊能者は勿論,そうでない者の微弱な霊波をも,半径数粁以内なら捉える事が出来る。
「……」
古い京都の地図を広げ,目を閉じ念を込める。
「……」
稍有って,静かに口を開く。
「……うん。誰も居ないよ」
「そうか」
「いや,待って!でかいのが居るよ。三つ!」
「霊能者……?Gメンの手の者か!?」
「いや……其処迄は分からないけど……」
「……私が行く」
植椙景勝が,名乗りを上げた。戦闘直後の為,未だ高ぶりが冷めないのか,何時もより喋りが早い。
「景勝。いや,まあ……それは構わんが」
「……霊感が疼く。私が行くべきだ」
「そうか……。じゃあ,頼んだ」
「……ああ」
そう言って,景勝は御所を出た。



オカルトGメン臨時本部,信秀の部屋。
「小笠原氏が到着致しました」
信秀にそう連絡が有り,暫くして帰蝶が入ってきた。
「おや,信長と一緒ではないのか」
「さあ?彼奴,未だ来てないんですか」
「ああ。自分の女に先を越されるとは,全く情けない奴だ」
「……それで。私達は何をすれば?」
「うむ……」
鴨川は,既に干上がっているとの情報が入っている。
ならば。
「“南”に行ってくれ」



朱雀大路。
その中央に,呆然と佇む三つの人影。
「ええ……?」
「一体,何が有ったんでしょう」
「……」
藤吉郎,めぐみ,秀家の三人だった。
めぐみの依頼人を訪ねて京都へやって来た三人だったが,何故か大騒ぎの市内に呆気に取られて固まっていたのだ。そうこうしている内に,何時の間にか周りには人っ子一人居なくなっていた。
「其処彼処で,霊波が動く気配はするんだけど……」
「でも……皆さんお忙しい様ですね。私達等目にも留めない」
「と言うか,こっちに来ないんですけどね……」
「何なんでしょう……?」
「……」
無言で二人の話を聞いていた秀家が,徐に口を開いた。
「始まったんだよ……」
「え」
「何が?」
「『魔流連』の計画がさ」
「其処迄だ!」
「!?」
突然の声に三人が前方を振り向くと,霊波鎌『兼続』を構えた,“死神人形”植椙景勝が立っていた。
「やはり,お前か。豊臣秀吉。会えて嬉しいわ」
「景勝のねーちゃん!」
「秀家?……何故お前が其奴と共にいるの」
「御免,僕は……。『魔流連』を抜ける!にーちゃんと一緒に居たいんだ」
「……そう。ま,私にはそんな事は如何でも良いわ」
「ねーちゃん……」
「私が用が有るのは,お前だけよ,豊臣秀吉」
「いや,俺には無いんですけど」
「私には有るのよ。豊臣秀吉。昨日の雪辱,今,此処で晴らしてやるわ!」
言うが早いか,『兼続』を振り下ろす景勝。
「待ちなさい!」
めぐみの霊力を帯びた箒が,それを横から受け止めた。
「何!?」
「豊臣さんは嫌がってるでしょう!」
「五月蠅い!部外者は黙ってて!」
「なっ……!」
何か,カチンときたらしい。
「関係ないわ!大した理由も無しに人に斬り掛かる様な無法者,魔女として放ってはおけません!」
「ま,万千代様!」
「へえ……?放ってはおけないの。じゃあ,如何するって言うのよ」
「知れた事……!」
「……手出ししなけりゃ,逃がしてやろうかと思ってたのにね」
景勝が,めぐみに『兼続』を向ける。
「ねーちゃん……」
「秀家?」
「僕も……にーちゃんに死んで欲しくないんだ」
そして,秀家が猫又モードとなった。
「面白い……!纏めて相手してあげるわよッ」
景勝は,抜ける様な青天の空に叫んだ。



船岡山。
京都市北区紫野北舟岡町にある,標高百二十米程の小さな山だ。織田信長を祀った健勲神社が有るが,只それだけの何の変哲も無い小山である。
しかし,この小さな山は,平安京を護るべく設置された聖獣・玄武――即ちそれを表す“高山”の役目を負わされているのだ。
そして今,この山の山頂付近で爆音が轟いていた。
「さっさと死ねよ,この野郎っ!」
叫ぶのは,肩迄の長髪を後ろで纏めた隻眼の少年。年の頃は中学生位だろうか。表情には,未だ幼さが垣間見える。
彼の攻撃を受けているのは,浅井長政と,鬼頭加江の式神・石川五右衛門だった。
「くっそ。きついぜ,こりゃあ。狙いは甘いが威力が有りやがる」
得意の魔装術に身を包んだ長政が,敵の攻撃を受け止めつつぼやく。魔装術とは,鎧状の霊波で身体を包み,自らを一時的に魔物に変える事によって人間以上の力を発揮する技である。
「確かにな……。このまま防御に徹してても埒があかねーぞ」
五右衛門も長政に同調する。
「仕方無いでしょ?今,防御を解いたら……」
そう反論する加江の隣には,
「吉乃が“ぷっつん”するわ」
「ふ……ふええ……」
涙目になった,六道吉乃が居た。
「もう,いっその事六道の旦那に任せねーか?」
「駄目よ。私達の目的は先ずこの石碑を守り通す事。吉乃が“ぷっつん”したら,石碑所か山毎崩れかねないわ。この山も,霊波が弱まってきてる様だし……」
元弘元年に北朝後光厳天皇が内裏を変えてから,“中心”を失った京都の“四神”は衰退の一途を辿ってきた。とは言え,力を持っている事に変わりは無いのだが。
「確かに。石碑は兎も角,山自体が崩れたらゲームオーバーだぜ」
「じゃ,如何すれば……!」
「ふえ……」
「あー,吉乃。泣かないの!」
六道吉乃。
国内でも有数の名家,六道家の一人娘だ。六道家は特にオカルト方面に長けていて,当主は代々式神“十二神将”を操り,日本でも唯一の“霊能科”を持つ『六道女学院』を経営している。
だが,彼女自身は非常に気が弱く,更に精神年齢が幼い。得意技(?)は,式神のコントロールを手放し暴走させる通称“ぷっつん”である。
「ホント……如何する?」
「如何しようか……」
そんな事を話している長政達に,少年の怒声が飛んできた。
「あんた等の相手なんかしてる暇無いんだ!頼むからさっさと死んでくれよッ」
「死ねと言われて死ぬ訳には……」
「……糞っ!」
少年は,吐き捨てると体勢を整え精神を集中し始めた。
「!まずい,彼奴……」
「何か,しようとしてる……!?」
これ迄よりもでかい攻撃が来る……!
焦る二人と一霊に,少年が口を開く。
「俺は,あんた達なんかに構ってる暇は無いんだ。悪いけど,本気で行かせてもらうよ。魔都の北を護る聖獣・玄武――『水王』(ウォーター・キング)たる,この雫手政宗(だて・まさむね)の全力を以て……!」
「……っ!」
空気がピリピリと震える。
少年――雫手政宗に,凄まじい迄の霊力が集まるのが感じ取れた。
「喰らえ……っ!」
そして,政宗が集めた気を放とうとした瞬間,
「ふえ……っ!」

霊圧に耐えかね,吉乃が“ぷっつん”した。

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