ザ・グレート・展開予測ショー

『GS志望浦見枡太郎(うらみ・ますたろう)・一番湯のカナタ極楽大作戦!!』(三)


投稿者名:学僕
投稿日時:(04/ 2/18)


        ◇

「……ナ、ナ・リタ軍?」
 浦見はきょとんとした。全然聞いたこともない軍隊の名前だ。
「隊長、こいつは手配目標一〇一〇番、カナタではありません」
「もう一度確認事項〇〇〇から生態照合」
「了解、確認事項〇〇〇、生態照合開始。──やはり誤認です。ただ単に、背格好が似ているだけです」
 浦見を無視して、兵士たちはつづける。
「…………」
 浦見の第六感が、彼らを敵だ≠ニ告げていた。それもこうして対峙しているだけで、総毛立つほどおそろしい強敵>氛氈B
 浦見は自分に目もくれない三人の兵士をしっかりと見据えた。その視界の端で、先刻忍者たちにばらばらにされた式神がよろよろと動きだす。両手足を失ったそれを再構成し、ひとまわり小さくなったが、ヒトの形にする。新たにつくりだした式神は、産まれたての仔馬のようにぎこちない。だが、しかし。
「…………」
 ──まだやれる。
『浦見、お前は、早くここから逃げて』
 今度はボクがあのふたりを守るんだ。
『あなた、早くここから逃げて』
 今度こそ、逃げちゃだめだ。
「──隊長、前方の材質不明の物体に、カナタ同様手配目標である、ワネットを確認!」
「よし、連行しろ」
「はっ」
 浦見は彼らを機械のようだと思った。──こいつら『カナタ』じゃないと判った途端、自分には興味をなくしたようだ。このまま捨て置くつもりだろうか。莫迦にするのもいい加減にしろ。目にもの見せてやる。
「…………」
 もう少し、もう少し、もう少しそばに忍び寄ってから、襲いかかってやる……
「いまだ!」
 浦見の式神が、兵士の背後から襲いかかった。
「あっ」
 浦見は呻いた。瞬く間に浦見の式神は、ひとりの兵士が構えた突撃銃によって、全身蜂の巣にされてしまった。最早、念じても動かないほど、粉々にされた。
「なんだ、貴様。抵抗するのか」
 浦見の式神に毛ほども動じた様子はなかった。先ほど火を噴いた銃口から硝煙があがっている。ものすさまじい火力である。
「…………」
 浦見は突撃銃の威力を目の当たりにしてぶるりと震えあがった。いまになって、ようやく気がついた。──こいつらはなんなんだ? どこか自分の知らない外国の軍隊か? なにか特殊任務でも果たしにやって来たのか?
 それにしては、彼らの身体ははがねのような光沢を帯びている。まるで金属のような肌だった。どうにも常軌を逸している。得体が知れない会話の内容、得体が知れない能力、得体が知れない──
 恐怖。
 浦見は身も凍るような恐怖に襲われた。莫迦みたいに身体がかたまって身じろぎひとつできなかった。もうまともに指一本、動かせなかった。突きつけられた指先ほどの銃口に、吸い込まれるようだった。まるでそれが地獄につづく洞穴のように見えて仕方がなかった。
「……あ、あ、ああ!」
 浦見は、言葉にならない悲鳴をあげた。あまりの恐怖に。いや、それは確かに、恐怖といえる。いま、自分が感じているのは、恐怖にほかならなかった。だがそれは、目前に迫った自分の死≠ノ対するものじゃない。
(──どうする?)
 自分がつくった式神ケント紙の檻ごと、シロとワネットという少女が連れ去られていこうとしている。
(──どうする?)
 このまま自分がなにもしなければ、ふたりとも奪われてしまう。
(──どうする!?)
 そしてそのふたりにはもう二度と会えないかもしれない。そう、あのふたりを、この先永久に失ってしまうかもしれないのだ。
(──だったら、どうする!?)
「……やるしか、ない!」
 浦見は自分のふところを確かめた。そこに忍ばせているのは、真新しい式神ケント紙である。けれど、ほとんど式神ケント紙の切れ端だ。正真正銘切り札≠セった。
 こんなてのひらにおさまる程度の式神ケント紙では到底真っ向からこいつらを相手にすることはできやしない。だが。
「ぺっ!」
 浦見はなにを思ったのか、隊長とおぼしき兵士に向かってつばを吐いた。
「なんのつもりだ、貴様? 勲章につばを吐きかけおって」
 するとそれまで冷静沈着だった兵士の声が、神経質なものになっている。
「お前らのほうこそなんのつもりだ。こんな子ども相手に銃を使うのかよ。
 ──素手で来い」
 浦見は皮肉っぽく笑った。
「ふん。まったくいったいなにを企んでいるのか知らんが、小ざかしいわ。くそガキの下手な挑発には乗らん。それに我々は兵士なのだよ。相手が小便臭いガキだろうがなんだろうが、銃を使うことにいささかのためらいもないのだ」
 浦見は冷や汗をたらり、と流した。
「……貴様は銃殺刑に処す、死ね!」
 浦見の目と鼻の先に銃口が突きつけられる。刹那。
「──ばーかっ!」
 浦見はさっと胸元から式神ケント紙を取りだした。すぐさま式神ケント紙に念を込めて銃口に詰める。
「なっ!?」
 兵士が引き金を引いた途端、霊力で硬度をました式神ケント紙が詰まり、当然のごとく銃は暴発した。同時にパトロール・ユニットの腕は粉微塵に吹き飛んだ。その上浦見の霊力が起爆剤となり、パトロール・ユニットの動力源に誘爆を引き起こして、爆発したのである。
「き、貴様ーッ!?」
 すぐ後ろに控えていたふたりの兵士が銃を構えて、浦見に狙いを定める。一斉射撃をくらえば一巻の終わりである。とは言え万策尽き果てた。絶体絶命だった。
 恐怖のあまり目を閉じた浦見は、ふっ、とシロの言葉を聞いた気がした。──『GSは、諦めないでござる』──
「──ま、まだだ、まだだめなんだっ!」
 浦見は死んだように動かなくなった式神に、一か八か念を込めた。
「……ちくしょう!」
 式神はびくりとも動かない。
「まだ、やらなきゃいけないんだ!」
(まだできる、まだまだいま以上に自分はやってやる、って気合いでござるよ!)
「シロがいるんだ!」
(そうそう、『なんでもいいから、自分に合った集中法を見つけるんだ』とも教わったでござる)
「シロがッ!」
(拙者はこう想うんでござる。オオカミは群れの仲間を、いのちと引きかえにしても、ってね!)
「どんなにかっこ悪くたって……!」
 浦見の必死の想いが通じたのか、最後の力を振り絞るように、満身相違の式神が立ちあがった。不屈の闘志で立ちあがった式神はしかし、
「あがいて、あがいて、あがきまくってやるんだ!」
 浦見の言葉も空しく突撃銃の猛火を浴びて、式神が穿たれていく。
「──ボクは」
 そう言った浦見はなみだと鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっている。いま、自分が直面している現実が、こわくてこわくて、堪らなかった。死神の骨張った手が、自分の心臓をわしづかみにしている。いつ、死が訪れてもおかしくない状況だ。だから、覚悟を決める必要があった。
「ボクは、横島先輩なんかじゃない!」
 浦見はまるで背後の檻へ、シロに向かって叫んでいるようだった。
「ボクはリョウって人みたいに誰の騎士でもない!」
 浦見は心底悔しそうに歯ぎしりした。
「ボクはただの、GS志望のガキだ!」
 浦見が子どものようにぽろぽろなみだする。
「でも、だけど、それでもボクはシロ、お前の友だちなんだから!」
 だから、決して逃げださないんだ!
「絶対、ボクが守るんだ!」
 浦見はキッと前を睨みつけて、しっかりと足を踏ん張った。すでに浦見の式神は、朽ち果てた枯葉のようにその場に倒れふしていた。残りふたり、頼りになるのは自分の身体ひとつだ。浦見は深く息を吸い込んで、自分の小さなこぶしにぎゅっと力を込めた。──
 そのとき。
「──坊主、よく頑張ったじゃねえか!」
 浦見と兵士たちのあいだに、ひとりの青年が飛び込んできたのである!
「このあとは俺に任せておけ!」
 繰りだしたこぶしの一撃が兵士たちに炸裂し、吹き飛ばす!
「え、え?」
 浦見は目をぱちくりさせた。目の前にいたのは詰め襟の学生服に身を包んだ、ひとりの高校生だった。決して、横島じゃなかった。髪の毛を逆立てた、あごひげを生やした、目つきの悪い青年だったのだ。
「俺は星野、星野涼ってんだ」
 浦見の髪の毛をぐしゃぐしゃとなでると、青年は口にした。
「この近所にある銭湯、星乃湯が俺んちだ。セイリュートと連絡取るのに手間取って、カナタとワネットの居場所見つけるのが遅れちまってな!」
 へへ、とリョウと名乗った青年は笑った。
「あ、あんたがリョウ、先輩。──あのっ、その、クローン忍者の風呂敷のなかに、ワネットって人が閉じ込められていて!」
 浦見はこれまでのことを口早に説明した。
「──お前がひとりでナ・リタ軍のパトロール・ユニットを一体倒したのか?」
 突然の闖入者に慌てふためいているパトロール・ユニットを睨んで、リョウが訊ねる。
「あ、は、はい」
 浦見は初対面のリョウに、緊張していた。
「すげえな、どうやったんだ」
 浦見を見つめるリョウの顔がほころんだ。
「ボ、ボク、ちょっと霊能力があるんです」
 浦見はこの人、普段きつい目つきだけど、笑うととても優しい目になるんだと思った。
「はっはー、霊能力か。じゃあお前の将来はゴースト・スイーパーってわけか」
「あ、は、はい」
「すげえな、俺にはそんな才能これっぽっちもねえからなあ」
 浦見のことを、尊敬の眼差しでリョウが見つめる。
「で、でも、ワネットって人が、あなたのことを『わたくしの騎士さま』って」
「あっはっは! 俺はただ喧嘩っ早くて、ちょっとばかり腕っ節が強いだけさ」
 浦見は、初めて気がついた。そういえばリョウは素手である。この人は霊能力もないという。武器も持たずにどうやってあいつらを倒すというのだろう?
「だけどな」
 浦見は真っ直ぐ見つめられてドキッとした。
「え?」
「気合いと、根性で、やるんだ!」
「…………」
 浦見はリョウと言う青年に力がみなぎるのを肌で感じた──。
「俺にはお前みたいな才能はない。はっきり言ってただのどこにでもいる普通の高校生。それもまともに銭湯も経営できず、母ちゃんにも逃げられて、それでもキャバクラに通いつめやがる、酒浸りの毎日を送っている、だめ親父の息子だ。……だけど気合いと根性でやってやるのさ。
 なあ、お前の友だちも、あの檻んなかにいるんだろ?」
 浦見は大きく目を見開いた。
「は、はい! あの檻のなかには、……ボクの、ボクの友だちがいます」
「さっき調子に乗って『俺に任せておけ』なんてでかいこと言っちまったけど、俺もひとりじゃそんなに強くないんだよな」
「は、はいっ」
「だからさ、ちょっとばかり、お前の霊能力を、お前の力を、俺に貸してくれないか?」
 次の瞬間、浦見は、リョウの口にした言葉に、力強く頷いたのである。その言葉を聞いたとき、なんでもできそうな気がしたのだ。
「へへへ、そうさ。俺たちは、ヒーローになるんだ!=v
                      
 ──そしてその日、夕立が通り過ぎて、雲間から晴れ間が覗いたとき、確かにふたりのヒーロー≠ェ、ふたりのヒロインを救ったのである。

                                      <了>

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