ザ・グレート・展開予測ショー

いつか見た星空 その2


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/ 2/18)



シロはご機嫌であった。

お邪魔虫が一名ついてきているとは言え、大好きな横島とこれから4日間は一緒に
居られるかと思うと、なにも背負っていない背中が軽く感じられる。

そして後ろからシロ、タマモの荷物まで背負った横島がついて来る。

「くそ、いいじゃないか男のロマンだ。おキヌちゃんだって見逃してくれたぞ。」

ぶつぶつと文句を良いながら歩く。

「あでっ」

黙れとばかりに子狐状態で頭の上に居座っているタマモが噛み付く。

「止めろタマモ痛いだろ。」

「先生が悪いでござるよ。拙者の修行にあんなもの持ってくるなんて、
ふしだらのうえにかいしょうなしと言うやつでござる。」

喋れないタマモに変わってシロが横島に文句を言う。

「お前意味分かってるんだろうな。
それによ〜こんな人っ子一人いない場所なんて文明人の俺にはきついぞ。
せめておなごが居ればな〜」

「そんなに見たいのであれば拙者のプリチーな体を見れば良いでござる。」

シロは自分なりのセクシーポーズを取ってみせる。

「却下だ、却下。もう少し大人の色気出せるようになってから出直せ。
俺を犯罪者にしたいのか。」

日ごろから十分犯罪者みたいな事してるじゃない。
タマモはそう言いたいのだが狐に戻っているときには喋れない、代わりに目の前の頭に噛み付く。

「タマモ痛いって。」

「大体、荷物が減ったおかげで拙者とタマモの荷物を増やしたところで、先生が最初から持ってきた
荷物より少ないではござらんか。」

そう、エロ本が燃やされた横島の荷物は、見違えるほど少なくなりシロの荷物を増やしても
まだおつりが来るのであった。

最初シロとタマモは、罰として二人の荷物と元に戻った自分達を運ばせようとした。
しかしシロが喋れないと案内が出来ないので、仕方なくは自分で歩く事にしたのだ。

「まあ、もうそれは良いけど。いい加減キャンプの用意をしないと日が暮れだすぞ。」

横島はだいぶ日が西に傾いた空を見上げた。

「昔から使っている場所はこの坂を上ればすぐでござるよ。」

シロはこっちこっちと横島を引っ張る。

「まてシロ落ち着けって」

横島も引っ張られて少し駆け足になる。

坂を上りきるとひらけた場所になっている。
山の中腹になっているためか木々の間からは、ほかの山々が見渡せて眺めもかなり良い。

「昔に何度か使った事があるでござるよ。
もうちょっと先に行くと崖があるので注意するでござる。
で、そこに川が流れているでござるが、
先のほうで滝になっているので修行にはちょうど良いでござる。」

「へ〜滝まであるのか」

横島は荷物を降ろしながら、思ったより良い場所なので驚く。

「当然でござる。修行といったら滝は必要でござるよ。」

「眺めが良いのね気にいったわ」

目的地に着いたことで横島の頭から降りていたタマモが
いつの間にか人間に変身していた。

「ま、取り合えず寝床の準備でもすっか。急がないと日が暮れちまう。」

「そうでござるな。それまでには用意しないといけないでござる。」

「じゃ、俺がテントの準備を進めておくからシロとタマモで薪拾ってきてくれよ。」

荷物からテントを取り出しながらシロとタマモに指示をだす。

「了解でござるよ」

「分かったわ」

二人が薪を拾い終わるころには横島も自分と二人のテントを仕上げていた。
だいぶ日が暮れてしまったので、その日は缶詰類で食事を済ますと明日のために寝る事にした。




がさがさ

横島は物音で軽く目を覚ます。
時計を見ると時刻は午前1時を少し過ぎたところだった。

がさがさ

再び音がするので寝ぼけながらも何の音か確認しようとする。
横島がそっとテントの間から外を覗く。
空にはだいぶ欠けた月しか無かったが、取り合えず回りを見るには困らないぐらいの明るさはあった。
外の様子を確認すると隣に作った二人のテントからシロが這い出して来るところだった。
なんだシロかと思ったが、何をするのか興味はあったので黙って見ている。
するとそのまま森の奥へと入っていった。

こんな時間になにやってるんだあいつ?
まあトイレだな

そう思うとほっとく事にした。
その後シロが気になって眠れず。帰ってくるのを待って寝ようとしたが15分が過ぎても
シロは帰ってこなかった。
トイレにしては長すぎるので、いい加減心配になった横島は自分のテントから外に出る。
軽く伸びをするとシロが入っていった森の奥へと足を進めた。
道を掻き分けたような跡があったので追う事に問題は無かった。
だんだんと川の音が聞こえてくる。

ああ、そういえば川が近いって言ってたっけ

ついた時にシロが言っていた事を思い出すと横島は納得する。

バシャ

魚が跳ねるような音が聞こえてくる。
横島は音のほうへと近寄っていくと、森が途切れちょうど川の曲がりかどになっていた。
川は思ったより流れが速く、カーブになっているこの辺はだいぶ下がえぐれて深くなっているようだった。

バシャ

今度はすぐ近くで聞こえてくる。
なんだと思い水面に目を凝らすと、水の中から何かが出ようとしている。

「ん?」

さっっっばっっん〜

いきなり目の前に水柱が出来た。

「う、うわ〜〜」

驚いて後ろに飛びのくと水の中から何かが飛び出してきた。
それが目の前に立つとやっと何か分かった。

すっぱだかで大量の水を滴らせているシロだった。
水を吸った髪が唯一体に巻きついて申し訳程度に隠している。
シロの方も驚いたのかお互いなにも言えずにただ見詰め合ってしまった。

ごくっ

横島は息を飲み込んだ、月明かりに照らされたシロは一言で言えば美しかった。
銀髪の髪は水を吸っている状態だからなのか月明かりによって光り輝いている。
それに、ただ黙って横島の事を見つめるシロは普段想像もつかないような大人びた雰囲気を出していた。
シロは横島に微笑むとそのまま横島の胸へ抱きついてきた。

「先生〜ちょうど会いたいと思っていたところでござるよ〜 運命を感じるでござる。」

喋ったらおしまいだった。全ての雰囲気をぶち壊してシロが横島の胸に自分をこすり付ける。
抱きつかれた横島の服はあっという間にびしょ濡れになってしまった。

「こら、離せシロ。お前裸じゃないか。」

「そんなこと拙者は気にしないでござるよ。拙者今先生に会いたくてたまらなかったでござる。」

横島の言葉なんて気にしないで、なおも自分をこすり付ける作業を止めない。
何気に膨らんでいる胸が横島に押し付けられる。

「落ち着けシロ〜理性が〜」

ガンッ

「ぐえぇ」

シロの力が突然無くなりそのままずり落ちる。

「えっ、おいシロどうした?」

なんとか抱きかかえて地面に倒れるのを防ぐとどうしようか迷う。
シロは気絶しているのかまったく意識が無い。
裸のシロを抱きかかえているので嫌でも白い肌が目に入るのだ、
先程シロに感じた気持ちや胸の感触を思い出すと・・・・・・・

「だめだだめだだめだ〜〜シロは範囲外だろ〜〜」

ガンガンガンガン

シロを抱えたまま木に頭を打ちつける。
額が割れ血だらけになったが取り合えず煩悩を追い出す。
シロに自分の上着を被せるとひとまず落ち着ける場所を探した。
少し歩くとちょっとした丘になっている場所があり見晴らしが良い場所があった。
そこに慎重にシロを寝かせると見てはいけない場所を見えないように服で隠す。
そしてそのまま横島も草の生えた地面にねっころがって空を見る。

「くそ〜なんで俺が我慢しなけりゃいけないんだ」

愚痴を言ってみる。横島はなんだかんだ言っても決して他人の事を考えていないわけではない。
自分の事を良い人間だなんて思ったことは無いが、ひどい人間にはなりたくなかった。

来る者拒まずかもんかもんを心情にしているが、どうしてもシロに手を出す事は出来ないと思っていた。
もちろん年齢的にも範囲外である、だからといって、じゃ後何年かして範囲に入ったらどうかと言われれば
やはり手を出せないと自分で思っている。

変わってしまうのが怖いと思う。だれかと恋人になってしまったら、誰かの気持ちに気づいてしまったら、
もう今までのようには行かないかと思うと、一歩も身動きが出来なかった。
今がなにより楽しいから、今のみんなが好きだから、
今のままで居られる様にいつまでも自分は馬鹿をやっていようと思う
でもそんな自分のために傷ついてしまう者が居るかも知れない。

「いや、そんな奴は居ないか・・・そう俺は嫌われ者だそれで良い」

だがそんな自分の事を好きだと言ってくれた人を思い出す。あの時、俺は変われるかと思った、
一歩踏み出せると思った、でも出来なかった。
幸せにしてやりたかったあいつは、結局俺のために死んだ。
一歩も動けなくなってしまった、動く勇気をもてなくなってしまった、
馬鹿な自分しか演じられなくなってしまった。

「あの時から俺は一歩も踏み出せない、周りの気持ちにも気づいてやれない、
だからと言って一人になる勇気も無い、結局俺は弱虫なんだよな。
いつまでも強くなんてなれないよルシオラ・・」

「う、う〜〜ん」

横のシロが呻く
聞かれたかと思ったが、気づいた様子は無いようだ。
横島は起き上がるとシロの頬を軽く叩く

「おい。シロ起きろよ」

「せ、先生」

シロの手が何かをつかもうと宙を彷徨うので、横島がその手をつかんでやる。

「おい、しっかりしろシロ」

「先生、も、もう」

「もう、どうしたシロ」

苦しむようにしているシロに横島が一生懸命話しかける。

「もう食べられないでござる。むにゃむにゃ」

バシ

取り合えずシロの頭をおもいっきりはたく。

「痛いでござる」

頭を抑えながらシロが起き上がる。

「当たり前だぼけっ、お約束過ぎる発言いいやがって、
それになにがむにゃむにゃだ、普通言うかそんなこと!」

「は、先生、どうしたでござるか? なにをそんなに怒っているのでござるか?」

意識がはっきりしたのかシロが横島に向かって尋ねる。

「いいから取り敢えず服着ろ。」

起き上がった拍子に、胸に掛かっていた上着はすでに外れていたので、
シロの胸の膨らみは横島の目にぜんぶ見えていた。

「せ、先生こんな事をせずとも拙者は言ってくれれば何時でも。」

シロが頬を染める。

「うるさい、いいから着替えろ」

「は、はい」

怒られた事にびっくりしながら急いで服を出す。
元々人間に変化するときに一緒に服を出しているぐらいなので、出すのも消すのも一瞬で出来るのだ。
シロはいつも通りの服を着る。

「着たでござるよ。」

横島は川でシロに抱きつかれた事や、その後突然気絶したのでこの場所までつれてきた事を
シロに伝えた。

「なんだそうだったでござるか。目が覚めたら裸で先生と一緒だったので勘違いしたでござる。」

「美神さん達には内緒だからな、こんな事ばれたら殺されちまう」

取り敢えず事務所のみんなが怖いのでシロに口止めをしておく。

「分かったでござるよ。」

「それにしても、なんでいきなり気絶したんだよ。」

「ん〜分からんでござるな〜。いきなりこう、がつんと頭の後ろが痛かったでござるよ。」

頭の後ろをさすりながら、見てと言わんばかりに寄ってくる。

「まあそれは良いとして、ここはどの辺かな休める場所と思ってうろついちゃったから道が分からん」

寄ってくるシロを手で押さえながら周辺を見渡す。
今いる場所は見晴らしの良い丘になっている場所だが、
横島達がキャンプしている場所は見えそうも無かった。

「大丈夫でござる、ここはよく知っている場所でござる。」

「知っているのか?」

そっと横島の横に座ってくるシロに聞いてみる。

「昔、父と修行に来た時、一緒に星を見た場所でござるよ。」

シロはそう言うと上を見上げた、中途半端に月が出ている状態であったが、それでも
光る星達の輝きを消しきれず都会では決して見れない星の海だった。

「欠けてるとは言え月が出てるのにすごいなこれは。」

横島も一緒に空を見上げえると驚いたように呟く、そんな横島を横目で見ていたシロは
何かを思い出したようにすると四つん這いで近寄っていく。

「先生、先程の口止めにご褒美がほしいでござる。」

目をきらきらさせながらシロが言ってくると、横島はちょっと嫌そうな顔をする。

「ご褒美ってなにねだるんだよ。金なら無いぞ」

「大丈夫でござるよぅ、物ではござらん」

シロはすばやく横島の前に出るとそのまま背中を見せて後ろに倒れこむ。
つまりどうなるかと言うと、横島の胸に背中を預けてしまった。
恋人だっことでも言うのだろうかその体勢にさすがの横島も驚く。

「お、おいシロなんのまねだよ。」

「こうやって空を見上げると気持ち良いでござる〜。ご褒美でござるから
しばらくこのままでいさせてくだされ。」

そう言われてしまったので横島としても跳ね除けるかどうか迷ってしまう。
それに横島も男であるからシロやわらけ〜な〜とか思ってしまった。

「ちが〜う、どきどきなんてしてないしてないしてない。」

シロを抱きかかえたまま右手の霊波刀で自分の頭を殴る。

「どうしたでござるか先生!」

シロはびっくりして後ろの横島を見るが、頭を血だらけにしながら平気と手を振る。

「大丈夫、大丈夫なんでもないから気にするな。は、は、は」

「そうでござるか。」

シロもなんだか分からないので元通りに星を見上げる。
少しばかりの間二人とも黙って空を見上げていたが、突然シロがまるで独り言のようにそっと呟く。

「昔もこうやって父に寄り掛かって星を見上げたでござるよ。父は修行のためによく山篭りを
していたのでござるが、子供だった拙者はなかなか連れて行ってもらえなかったでござる。
結局連れて来て貰えたのは数回しかなかったでござるが、そのたびにこうやって星を見たでござるよ。
父上、父上と言ってよく困らせてしまったでござるが、困った顔ひとつせず一つ一ついろいろな事を
教えてくれたでござる。」

横島はなにも言わずにシロの話を黙って聞いていた。
シロは右手を空へと上げるとまるで何かを掴むように動かす。

「昔はもしかしたら星をつかめるかと思ったでござるが、ちと遠いでござるな。」

「まあな、ちょっと遠すぎるな。」

横島も同じように星を掴もうと手を伸ばすが、宙を掴むだけで結局何も掴めない。

「拙者、先生とここに来れてよかったでござる。」

「そうか? 俺と来たってたいした事ないだろ?」

横島はそっとシロの頭を撫でてやる。先程まで濡れていた髪はだいぶ時間がたったので乾き始めていた。
頭を撫でられているシロは、うれしそうに目を細めると上げていた手を下ろした。

「先生は日向のような人でござる。」

シロは横島の質問には答えずにそう言い返す。

「日向か・・なんでそう思うんだよ?」

「先生は暖かくて、心地よくて、良い匂いがするでござる。」

「汗臭いだけだろ」

苦笑しながらそう返す。
シロの頭を撫でる手は相変わらず動かしたまま横島はもう一度星を見上げる。
星座とかは横島には分からなかったが、それでもまた見たいと思うぐらいには綺麗だと思った。

「先生のお父上はどのような方なのでござるか?」

「ん、俺の親父か?そうだな〜」

自分の親父を思い出してみる、お袋の前では猫かぶっていやがるくせに美神さんに手を出し
会社では浮気しまくって、海外へ飛ばされるような駄目社員と思っていたらやたら切れ者で・・・・

「いつか勝って亡き者にしないといけない敵だ。」

横島は空を見上げながらきっぱりと言い張る。

「な、亡き者にでござるか。」

シロはちょっと驚くと体をそらしながら上下反対に横島を見上げてくる。

「うむ、やつは敵だ手加減なんてしたら、殺(や)られるのはこっちだな。」

「そうでござるか、きっとすごいお方なのでござろうな。」

「まあ、俺の親父なんてどうでも良いよ。シロの親父はどうだったんだ?」

ほんとにどうでもよさそうに横島は言うと、見つめているシロへ話を戻してみる。
見つめ返されてしまったシロは、ちょっとテレながらまた星を見上げると、
少しずつ思い出すように考えて横島の質問に答える。

「強い人だったでござるよ。人狼の里で一番の使い手だった父は、拙者が知っている中では
最後の最後まで負けた事は無かったでござる。
拙者もいつかは父と勝負して勝ちたいと思っていたでござるが・・
もう、絶対勝てない人になってしまったでござるな。」

横島はなんて言って良いのか思いつかなかったので、そのまま黙っている事にした。
シロは別に返事なんて期待していないだろうし自分もまた、今のシロを慰めるなんて
変だと思った。

「拙者は美神どのの事務所で過ごす今の生活がとても好きでござるよ。先生がいるし美神どの
おキヌどのもいる。いつも喧嘩するタマモだって拙者にとってはなくてはならない友でござる。
だから、今がいつまでも続けば良いと思ってるでござるよ。」

「ああ、そうだな。俺もそう思うよ。」

横島はもう一度星を見るために空を見上げる。決して都会では見る事の出来ない
満天の星達は、騒いでいるばかりいる自分達にはちょっとだけ似合わないなと思ってしまう。
まだ来た初日の夜だというのに美神さんやおキヌちゃんにちょっとだけ会いたくなってしまった。

「取り敢えず〜明日からの修行でお前の野生を取り戻さんといかんのだ〜〜が。無理かもな〜」

横島が今までの雰囲気が無かったように、にやにやしながら叫ぶ。
それにびっくりするシロは飛び上がると横島にすがりつく。

「そ、そんな先生〜〜拙者一生懸命がんばるので見捨てないでくだされぇ〜」

あははは、と笑いながら立ち上がると丘を下りるために歩き出す。

「ほらシロ道案内しろよ。俺には場所が分からんのだ。」

横島はすがりつくシロの頭を乱暴に撫でると道案内をさせるために自分の前に出す。
さすがに乱暴な手をどかそうとするが、横島の手はシロにはどかせそうになかった。

「分かったでござるよ〜。先生止めて下されぇ」

「ほれほれ、早く案内しないともっとやるぞ。」

さらに乱暴に撫でる。だがシロも口では嫌がっているが顔はずっと笑っていた。
そんなじゃれあいをしながら二人は丘を下りて行った。








そんな二人を遠くから見つめる者が居た。
木の上に座り物音を立てないようにじっと闇に溶け込んでいるその姿は、結んだ髪が後ろで9個に
分けている。
時折流れる風に自慢の髪が揺れるが、身動き一つしない。
そして夜目が利き遠くの物を見れるその目を丘の上の二人に向け
人とは比べ物にならないぐらい性能の良い耳を二人が喋る言葉に向ける。
立ち去る二人を眺めながら話していた内容を思い出す。

「父か・・・」

自分の親を考えてみるがまったく思い出せない。封印される前の記憶はぜんぜん思い出せないし
別に思い出そうとも思っていない。
そもそも自分が親から生まれたのかすらさだかではない。

寂しいなんて思ったことは無いそれはほんとだ。だがあんな話を聞いてしまうとなんとなく
意識してしまう。
自分の親とはどんなだったのだろうかと、答えなんて出ないと分かっているのに考えてしまう。

少し考えやはり意味がないと結論付ける。
馬鹿犬も言っていた、今の生活だ好きだと、自分もそう思う。
いつもガミガミ言う今の巣穴の持ち主も、影は薄いが面倒見が良い同じ居候も、
喧嘩ばかりしている馬鹿犬と言う名の友も、頼りないはずなのにいつでも自分を支えてくれる
あの人もみんな大好きだから。
今は前さえあれば、それで良いと思うことにする。

「ま、だれにも言わないけどね。」

さて急いで戻らないと馬鹿犬が帰ってくる。
さすがにそれはまずいので寝床に戻る事にした。
次々と木の間を飛びながら先程まで考えていた事とはちがう悩み事を思い出す。

「ルシオラか・・・」




それが山篭り1日目の夜の出来事でした。

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