ザ・グレート・展開予測ショー

長編・GS信長 極楽天下布武!!(4)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 2/17)

我等が昼夜の心遣いを察してみよ

汝等鶴を羨まず
雀の楽しみを候え















斎藤利政(クリスチャン名・ドウサン)は,その日,外務省に招かれた。
ある国の元・全権大使が任国でとある呪いを受け,それを解除してくれる様,急遽招かれたのだった。
そう,急遽の事だった。
故に,“暗殺者”はその事を知らなかった。
知っていれば,延期したかも知れないが,“暗殺者”は知らなかった。
そして,予定通り行動を起こした。


外務省。
「父と子と精霊の御名に置いて命ずる!汝,悪魔ヨリアキトキ!その者を解放せよ!」
掲げられた利政の左手が光り,元・某国全権大使の男に降り注ぐ。
「サッキャアアアーーーー!?」
「フィアト!フィアト!フィアト!」
「サキャッ!?」
信ずる心が生む聖なる光は,男に取り憑いていた悪魔の憑依を解いた。
「草よ木よ花よ虫よ――我が友なる精霊達よ!邪を砕く力を分け与え給え……!」
利政に,力が集まってくる。生身の人間でこれ程高出力のエネルギーを生み出せるのは,世界でもそうはいない。
「汝の呪われた魂に救いあれ。……アーメン!」
「サッ……ケエェェェ!」
悪魔は,虚空へと消え去った。


「いやー,助かりました!流石は世界でも指折りのエキソシスト(悪魔払い)と呼ばれる,斎藤先生ですなあ。いや,はっはっは」
「礼には及びません。それより,今後はああ言う呪いを掛けられない様,人の恨みを買う様な事は控える事ですね」
「いや,ははは……」
男がバツ悪そうに頬を掻いた(現地人の恨みを買って呪いを掛けられる様な男が素直に自分の行いを恥じる事が出来る“何か”が利政の柔和な笑顔には存在する。……顔は恐いが)時,
「きゃああああっ!?」
近くで,悲鳴が聞こえた。


利政達が悲鳴の上がった方に駆けつけると,職員と思われる女性が,腰を抜かして震えていた。
「如何しました!?」
「あ……あ……あれ……」
「あれ……?」
譫言の様に呟く女性の,震える指先が指し示すものは。
「……!」
胸にサバイバルナイフを突き立てられた,外務大臣の刺殺体だった。
「な,外相!?」
「し,死んでる……!?」
「いやぁ〜〜〜〜〜っ!」
集まって来た職員達が,口々に騒ぎ出す。
「昨日,防衛庁長官が出張先で殺されたばかりなのに!」
「きゅ,救急車……いや,警察だ!」
「マスコミの連中は閉めだせっ!」
そんな中,利政は何か引っ掛かるものを感じ,外相の遺体に跪いた。
「これは……霊波?外相のものではないな……」
突き立てられたナイフ,そしてその傷口から,強い霊波が発されていた。
「……」
何処かへと続いているその霊波の痕跡を,利政は静かに追い始めた。


「……ふう」
外務省の屋上で,女は溜息をついた。
肩迄の髪をポニーテールに纏めた,色黒の女である。年の頃は二十代前半であろうか,色気と幼さの入り交じった表情をしている。その造作は,豪華ではないが間違いなく美人の部類に入るであろう。
「取り敢えずこれで,任務完了よね」
女は,伸びをしながら呟いた。
外相を“明らかに殺人と判る形で”葬るのが,今回の女の仕事だった。
自らの霊能力を駆使し,数々の“仕事”をこなしてきた彼女だったが,こんな条件を付けられたのは初めてだ。自然死を装う事が出来ると言うのは,ターゲットが誰であれ暗殺としてはこれ以上無い大成功であると言うに。
だが今回は,少し勝手が違った。
外相を明らかに殺されたと判る形で殺害する事によって,一時的に外務省を混乱に陥れる事こそが,今回の仕事――いや,任務の目的なのだ。
それにより,本の暫くの間,本の少しだけだが国内での“有事”に海外からの援助が滞る事となる。
昨日防衛庁の長官を殺した事で,自衛隊も少なからず混乱しているだろう。そして,国の守りは本の少し手薄となっている事だろう。その本の少しが,今回のクライアント――そして自分が欲するものなのだ。
クライアントは,自分も所属する“組織”――

その時は,近い。


「君がやったのかい?」
「!」
突然に後ろから声を掛けられた女が振り向くと,其処には壮年の男性が居た。
禿げ上がった脳天に蝮の如き形相――斎藤利政であった。
「……何?」
「君が,外相を殺したのか。と訊いているんだ」
「……」
「答えたまえ」
「……呼んで」
「何?」
「呼んで。私の,名前を……」
「名前を……?」
女は,名を呼ばれた事が無かった。
幼い時,本当に幼い時,未だ両親が生きていた頃には名を呼ばれた事も有ったろうが,少なくとも裏の世界に足を踏み入れ今の仕事に従事する様になってからは,名前で呼ばれた事等無い。
彼女を示すのは,“聖なる暗殺者”(セイント・アサシン)と言うコードのみ……
「……でも,違う。今の私は,『魔流連』の暗殺者,茉長久秀(まつなが・ひさひで)。呼んで,私の名前を……」
「『魔流連』……?」
「違う。茉長久秀,よ……」
裏の世界に充満する濃厚な障気は,何時しか久秀の精神を蝕んでいった。
『魔流連』は決してカルト集団と言う訳ではないが,それがそんな彼女の心を掴むのは簡単だった。
「呼んで……」
虚ろな瞳で,久秀がブレスレットを掴む。
「!」
ブレスレットの装飾に霊気が収束し,霊気の弓がその形を成した。
「呼んで……!」
久秀が弓を引き絞る動作をすると,霊気の矢が現れる。そして放たれたそれは,無数に分裂し利政に降り注いだ。
「くっ!」
咄嗟に聖書を開き,結界を張る利政。
これにより初撃は何とか防げたものの,久秀は無言のまま次の攻撃に移ろうとしている。自分が,近距離の相手に飛び道具を使うと言う愚を犯している事も,本人は気付いていないだろう。
「落ち着きたまえ!」
「……」
その時,下から声が聞こえてきた。
「何だ,今の音は!」
「もしかして,外相を殺した奴か!?」
「屋上だ,急げっ!」
どやどやと言う人の話し声と,階段を上る音。如何やら,騒ぎを聞きつけた職員達が此方へ向かっているらしい。
「……!人が来たか」
久秀が,正気に戻った様な声で呟いた。
利政に背を向け,フェンスを飛び越えようと足をかける。
「待ちたまえ!茉長君と言ったね?君は何故こんな事を……」
「……」
名を呼ばれ,久秀は一瞬動きを止めた。
そして,振り向くと言った。
「それは……何れ判るでしょう。次,会う時が有れば……その時は,下の名前で呼んで下さい」
「え……」
「では」
そう言うと,久秀は風の如く立ち去った。
「……」
呆然とする利政の背後で,扉の開く音がする。
「あ,神父!?」
「何ですか,今の音は!」
「こ,この壁の傷は!?」
しかし,彼等の質問は利政には届かなかった。

「……一体,何が……?」



藤吉郎の通う高校。
除霊委員の面々は,委員会の仕事を終えて,帰宅の途に着こうとしていた。
「豊臣君,結局今日来なかったわね」
「お仕事だったんですかいノー」
「大変ですね」
と,その時,教室の黒板が音を立てた。
ミシッ……!
「え?」
一瞬遅れて罅が入っていく。
そして。
ドカーン!
……破壊された。
「ミツヒデおにーさまー。一緒に帰りましょー!」
「あ,アラキちゃん……」
黒板の向こうから現れたのは,対吸血鬼メカ『ヒツアン』に身を包んだ,アラキ=ヘルシング嬢だった。
何か色々有って,ミツヒデに惚れているらしいメカオタク娘だ。
「ミツヒデさんも大変ですノー」
「だから,『あ』しか合ってないじゃないの……。強引すぎるってば」
「と言うか,荒木村重は『ジパング』に出てな……」
それ以上言うな。
「ア,アラキちゃん?学校の修理代だって,庶民の血税からね……」
「?何の話ですかー」
「青春よねー」
「うーん。そうなのかノー」
まあ,何時もの事なので平然とそんな話をしていると,何処かで電子音が鳴りだした。
「何の音?」
「あ,ワッシのポケベルですケン」
「マエダー君,今時ポケベル……?」
「仕方ないですタイ。携帯電話なんて高価な物,ワッシには持てませんからノー」
「はあ,そう。で,何て?」
「あ,女華さんからですタイ。仕事があるからすぐ帰れだそうですケン」
「そう,じゃあ,又た明日ね」
「失礼しますケン,ミツヒデサン,南サン」
「うん,さよなら」
「だからね,アラキちゃん……」
「ほら,一緒に帰りましょっ」
「……聞いてツカァサイ,ミツヒデサン……」
「……これも又た,青春よねー」



織田除霊事務所。
「今日わー。バイト来ました」
「応……今日は白巫女か」
「いや……,さっき迄ヒナタだったんだけどね」
これで,藤吉郎以外のメンバーは揃った。
今,事務所内に居るのは,事務所メンバーの他に勝竜姫,タツリオ,信盛。
「何か有ったのか?」
「ん……自分の無力さに失望したらしいわよ」
「何だ,そりゃ」
「日吉が今朝から二度も命の危機に陥り,自分にはそれを感じ取る事が出来たのに,何ら手を打てなかった……。それがショックだったみたいね」
「ふん……」
「日吉って,先生の事でござろう!?」
「矢っ張り,トヨトミに何か有ったの?」
「ええ……。まあ,自力で何とかしたみたいだけどね」
「しかし……,矢張りあの者達か……?」
「まあ,無事なら良いじゃないでちゅか」
「そうですなあ」
「……」
信長の霊感が,何かを告げている。
「へっ……!勝三郎の言ってた連中と,猿の命の危機とやらが関係有るとしたら,俺等が捕まえたあの野郎とも,無関係じゃねえかもな……」
「え?」
「いや……」
信長も,内に溜め込む所が有る。戦国大名となれば,当然の事であろうが。
「――兎に角!これ以上は待てねえ。猿抜きで行くぞ」
「小僧は置いていくのか?」
「書き置きでもしときゃ後から追いかけて来るだろーよ。そん位の根性も無ぇ奴なんざ,俺の部下には要らねえ」
「そう言うものか」
「応よ。行くぞ!白巫女,子犬,仔狐,天回」
「――あの」
「あ?何だ,勝三郎」
「その勝三郎ってのが今だに何だか分からないんですが……,いや,それは兎も角。私達も連れて行ってくれませんか?」
「何?」
「私達には俗界で他に身寄りも有りませんし……,それに,今回の事も私達と無関係ではありませんから」
「ふん……!まあ,足引っ張んねえでくれよ?」
「大丈夫です。こう見えても私は誇り高き龍神族の端くれ,戦を生業とする武神です。剣の扱いには自信が有ります」
「そうかよ……」
「はい……!」
しかしそう言う勝竜姫の脳裏を,勝家の言葉が過ぎる。

……勝竜姫様は,人間を“護る対象”としか見ていない。対等の存在と見てはいないのです。そんな心持ちで戦う等,相手にとって失礼極まりない……。それを払拭出来ぬ限り,貴女は戦うべきではない……。

「……」
「如何した?」
「いえ……,何も」
「……じゃ,行くぞ」

織田所除霊事務所及び妙神山修行場メンバー,京都へ。



「つ……,駄目だ,動けない……」
藤吉郎は,未だ公園にいた。傷の所為で動けなくなっていたのだ。
今は件の大木に背を預け,子猫――雨姫蛇秀家を抱いている。
「糞……痛みで文珠も出せない……。痛みが引く迄,こうしてるしかないか……?」
しかし,その前に秀家が目を醒ます可能性の方が高い。
「如何するか……」
そんな時,藤吉郎の目はある人影を捉えた。
「万千代様!?」
「あら,豊臣さん」
藤吉郎の姿を認めた万千代めぐみが,此方へ駆け寄ってくる。
「如何したんですか,豊臣さん。こんな所で。……って,わあ!血塗れじゃないですか。如何したんですか,こんな傷!」
「いえ,ちょっと……万千代様こそ,こんな所で何を?」
「薬草を摘みに来てたんです。日本では,ハーブや薬草の類は手に入り辛いですから」
「はあ〜,成程」
「て,それ所じゃないでしょう!その傷っ!早く手当てしなければ」
「いや,それが……情けない話で,傷が痛んで動けないんすよ」
「まあ,大変。……一寸待って下さい。確か,摘んだ薬草の中に切り傷や火傷に効くものも有った筈ですから」
そう言うと,めぐみは持っていた籠を漁り始めた。
「い,いや。でも良いですよ,そんな」
「何言ってるんですか。そんな怪我で,遠慮して如何するんです」
「でも……」
「良いから!」
めぐみは,籠から薬草を取り出すと,口に入れて噛み砕き始めた。
「万千代様……」
それを,藤吉郎の傷口に塗りつけていく。
「すいません」
「良いですって。当然の事でしょう」
「はい……」
「じゃあ,そっちの猫さんも」
そう言ってめぐみが藤吉郎から秀家を受け取った時,秀家が目を醒ました。
「フギャー!」
「きゃ……!」
めぐみの手を引っ掻き,秀家はその手から逃れた。
「万千代様!」
「痛たた……」
「……」
秀家は,そのまま立ち去ろうとする。
「ちょ,ちょっと待った!」
「!」
「ちょっと……待ってよ」
藤吉郎に呼び止められ,秀家は猫又モードへ変化した。
「……何?」
「何処行くの?そんな怪我で」
「何処って?『魔流連』のみんなの所に決まってるじゃないか」
「如何して?」
「其処が,僕の“居場所”だからさ。そして,“居場所”を作る術なんだ」
「違う!」
「何が?」
「其処は,君の居場所なんかじゃない……」
「はあ?何言ってんの。あんたに僕の何が分かるってのさ」
「分かんないよ。でも,何となくそう思うんだ。行っちゃ駄目だ」
「何を馬鹿な……」
「如何しても無いと言うなら,俺が“居場所”になってやるから……」
「あんたが?何,自惚れてんの」
「俺は……!」
「……」
こんな真剣な目で,僕を見てくれた“他人”は初めてだ……。
「……ったく……」
良いかな?
逃げても。
「其処迄言うんなら,責任取れよな?」
居心地の良い場所へ。

秀家は,人間モードに戻った。
「つっ……!」
「あ,そうだ。未だ傷が」
「あらあら」
「糞,人間モードだと傷の治りが遅い……」
「じゃ,いっぺん猫になれよ。そしたら使う薬も少しで済むし」
「そうだな……」
と言う訳で,秀家は再び猫になった。
「もう,噛まないでね?猫君」
「そうだ,万千代様。薬代……」
「良いですってば」
「でも,商売道具でしょう?」
「構いませんよ」
「でも……」
藤吉郎は,経済感覚が有る分,こう言う事はキッチリしないと気が済まない性分だ。
「くすくす……。分かりました。其処迄言うなら,お代代わりに仕事を手伝ってはくれませんか?」
「仕事?」
「はい。私,ゴーストスイーパーもやってるんですよ。それで,明日お仕事が有るんです」
「あ,構いませんよ。やります」
「そうですか。じゃあ,今夜はこの辺で泊まって,明日現場迄行きましょう」
「現場って,遠いんですか?」

「ええ,京都です」



「ん?」
「如何した,黒巫女」
京都へ向かう信長達。その車上。因みに,重治,考高,タツリオは原形モードである。
「いや,何か……むかむかする……?」
「何だ,酔ったのか?」
「いや,そう言うんじゃないんですけど……。って,そう言えば信長様,如何して車運転出来るんですか?」
「え?ああ,勘だよ」
「えっ!?」



二条城,天守。
『魔流連』の幹部達が,会合を開いている。
「東京へ送った義景が帰ってこない……」
「如何やら,オカルトGメンに囚われた模様です」
「久秀の外相暗殺は成功しました。行動は,早い方が良いでしょう」
「うむ」
リーダー格の男が,皆を見渡して言い放つ。
「全ては明日だ。今迄の雌伏の活動の全てが,明日実る!京都御所の占拠を以て,魔都誕生の狼煙としようぞ!」

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