ザ・グレート・展開予測ショー

#挿絵企画SS『抱擁』


投稿者名:ハルカ
投稿日時:(04/ 2/17)



「拙者、成長してるでござるよ。」








「シロちゃん、成長期なんだから成長くらいしますよね。」

まともな反応のおキヌちゃん。


「まあ、ちゃんと修行を積んでるんだからGSとして成長するのは当たり前よね。」

一流GSらしい反応の美神さん。


「せせせ、成長っていったらもしかしなくてもアレのことなのか!?
 シロはまだAだと思ってたけどいつの間にやらBにっ!?!?」

アホである。
こいつ、絶対アホだ。



「………もう、ちゃんと聞いてほしいでござるよ。
 本当に成長してるでござる!!」


そういって右手に霊波刀を出現させるシロちゃん。
その出力は横島クンや美神さんを裕に上回っている。

「見てほしいでござる。この出力!!
 拙者も順調に成長してるんでござるなぁ。(じーん)」


「すごいすごい!
 シロちゃん、これなら1人前じゃないですか!?」

「うーん、こうもあっさり弟子に抜かれると嬉しいような悲しいような………」

シロちゃんの成長ににわかに活気づく事務所。
事務所であるいつもの風景である。

「はいはい!雑談はそれくらいにして除霊に行くわよ!!
 この辺りに月からの隕石が落ちてきたとかで最近大忙しなんだから!!!!」

☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★ 

「じゃあ、いつも通りの配置について。
 シロは前衛に、横島クンは私のサポート。おキヌちゃんは後方で援護してちょうだい。
 今日のエモノはいつものヤツよりも強力だから油断するんじゃないわよっ!!!!」

「あのー、ずっと気になってたんですけど
 なんで月からの隕石が落ちてきたら仕事が増えたんっすか?」

古い廃ビルの中で悪霊を探しに見鬼君をもって配置につく美神除霊事務所一行。
横島クンが不思議そうな顔をして美神さんに尋ねると呆れ顔で返事が返ってきた。

「アンタね〜、月に行ってきたんじゃないの?
 月は高密度な魔力のカタマリだったじゃないの。
 そんな魔力のカタマリがこの辺りに落ちてたら
 その魔力を吸収して強大になっちゃった悪霊も出てくるわよ。
 今回のケースは報告書によると元は大したこと無かった浮遊霊が
 月の隕石に含まれる高密度の魔力を吸収して手が付けられなくなったらしいわ。
 ちなみに月が悪霊の巣窟にならないのは神族と魔族があそこを
 中立地帯に指定してるのと迦具夜姫さま達の月神族の活躍ってわけね。」


「……………………っ!!
 美神さん!見鬼君に反応が出ました!!近いですっ!!!!」

おキヌちゃんが叫んだのが早かったか悪霊が飛び出してきたのが早かったか、
一体の悪霊が物陰から飛び出してきた。

おそらくは元々人間霊だったのだろう、道具らしいモノをもってはいるが
すでに原型がほとんど分からないほど変形している。
形を保てないほど肥大していると言った方がいいかもしれない。


……………ヒュッ!!


美神さんが反応してふり返ると既にシロが悪霊の攻撃を防ぎ、
喉仏に霊波刀を突き刺していた。

「成仏、してくだされ。」

突き刺した霊波刀をそのまま内側にねじり込み、
上を向いた刃を跳ね上げて頭蓋を真っ二つにする。
頭を吹っ飛ばされた霊はそのまま霧散するように浄化された。





「………………す、すごいじゃない!!
 いや、ホントは『これはちょっとヤバイかなー』なんて思ってたのよ。
 助かったわ、シロ!!
 反応もできなかった役立たずな師匠とは違うわー………うん?シロ、どうかした?」

チロリと横島クンを見ながらシロの頭をワシワシと撫でて誉める美神さん。
だけどシロの顔色が少しおかしい事に気が付く。

「な、なんでもないでござるよ。
 少し疲れてしまったみたいでござる……」

「ふーん…………まっ!あれだけの戦いをしたんだからね。
 事務所に戻ってゆっくり休みなさい。今夜はアンタの好きな焼き肉にしてあげるわ。」

☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★ 

〜数日後〜

「今日も陣形はシロ中心で行くわよ!!
 私と横島クンが結界を張って悪霊を閉じこめるから
 シロはその中に突入してちょうだい!!
 おキヌちゃんはネクロマンサーの笛で援護して。」

「最近、ずいぶんシロに頼ることが多くなりましたね。
 今回のはちょっとヤバいんじゃないっすか?途中でなんかあったら………」

確かにここ数日の除霊はずっとシロ中心で行ってきている。
だけどその度にシロは霊力を増し
そのスピードを操るための集中力や技術は目を見張るばかりに向上していた。

「だーいじょーぶ、だって。
 私だってシロの力と今回の霊の力を考えて作戦立ててるんだから。
 それに何かあったら私と横島クンが突入すればいいだけの話でしょ?
 それよりもうすぐ結界を作動させるわよ。準備はいいっ!!??」

『ヴン……ッ』という音とともに建物の中に鈍い光が溢れ結界が作動した。

今回のターゲットは哀れな食人鬼と化したゾンビ達だ。
本来なら人は死ねばその大半が成仏して来世へと旅立つわけだが
例の月からの隕石の所為で魔力が高まったためか
死んだ人間の多くが成仏できずにこの世にさまよっている。
さまようだけなら問題もないのだが自分が黄泉返ろうとするためか、
他人を引きずり込もうとするためか、とにかく奴等は生きた人間を食い荒らす。

――――――――――――――そんなことをしても決して生き返ることは出来ないのに。


「結界が作動したわ!!
 すぐに建物の中はゾンビ達でいっぱいになるからドンドンやっちゃいなさい!!」

マイク越しに美神さんの声が響いた。
その合図とともにシロも戦闘状態に入る。

(一度ゾンビ化してしまった人達を救う手だては……ないでござる。
 斬って浄化してあげることだけが、
 唯一の救いでござるか。すぐ楽にするでござるよっ!!)

疾風よりも速く駆けぬけながらゾンビ達を切り裂いてゆくシロ。
一瞬で間合いを詰め、まるで舞を舞うかのように相手の前でターンする。

ゴトリ…

右腕から伸びた霊波刀によって切り落とされたゾンビの頭部が床に落ちた。
次第に速度は上がり次々とゾンビ達は単なる屍へと還っていく。

次から次へと死体の山を築き上げていくシロ。
その表情に…シロの表情に………

シロの表情に小さな変化が生まれた。


笑っているのだ、狩りを楽しむかのように。


戦い方も霊波刀を使って斬り裂いていたさっきまでとは違って
徐々に霊波刀がツメやキバのような形に変形して
獣が狩りをするような戦い方に変わってきている。

ツメのように変形した霊波刀で敵を引き裂き、押し倒してから踏みつぶす。
シロの表情は明らかに悦楽に満たされている。
敵を殺し、支配する。圧倒的な強者のみが持ち得る悦楽に満たされていた。

すでに屍へと還っているゾンビを斬る。斬り裂く。斬り刻む。
もう、いつもの脳天気な顔をしているシロじゃない。


「もういいっ!!
 もういいんだ、もう終わったんだよ!!……シロっ!!!!」

「…………………あっ。」


見かねて飛び出してきた横島クンがしがみつくようにシロを止めた。

まわりを見渡し、はじめて正気に戻ったシロ。
その表情は先ほどまでのものとは違い怯えの色が色濃くでていた。

つぶらな瞳には涙が溢れ
もう、何をどうして良いのか分からない。

「拙者……何をしたでござるか………?」

☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  

あの日から、シロが………いなくなった。
一枚の置き手紙を残してシロはいなくなってしまった。

『自分を戒めるために旅に出るでござる。
 探さないでくだされ。           シロ』



「まさかとは思ってたけど……こんな事になるなんて………」

「な、何か心当たりがあるんですか!?美神さん!!??」

美神さんの言葉に激しく反応する横島クン。
可愛い愛弟子が失踪したとなれば冷静さを失うのも無理はないかもしれない。

「ここ最近、
 悪霊が異常発生してるのは月からの隕石が原因だっていうのは知ってるわね?
 人狼族のシロはその影響をモロに受けちゃってるのよ……
 そりゃあシロが成長するのって嬉しいし
 なによりあれだけの成長を見るのって師匠の師匠としてはすごく楽しかったけど……」

「だったらなんでっ!!なんで………………」

「そんなっ!美神さんを責めないでください!!
 美神さんだってこうなることを望んでたわけじゃ………
 それに早くシロちゃんを見つけてあげましょうよ!きっと寂しさで震えてるはず……」

美神さんに食いかかる横島クンを必死で止めるおキヌちゃん。
とにかくシロを見つけるのが先決だと3人で別れてシロが行きそうな場所を探す。
いつもの散歩コース、人狼の里、唐巣神父の教会、etc………

見つからない。
シロを探しているうちにいつの間にかすっかり日も暮れてしまった。

焦りと苛立ちがピークに達する。
どこに……どこに行ったのか………シロ…………


プルルル!


美神さんから渡されていた業務用の携帯電話が鳴る。
着信のランプに『おキヌちゃん』と書かれている。

「シロちゃんが、シロちゃんが見つかりました!
 今から言う場所にすぐに来てください!!ちょっと……大変な状態なんです!!」

☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  

「シロ……!!こんなところに………」

見つかった場所は人気のない神社の社の中。
社の入口には野良犬だろうか?進入しようとした動物たちが真っ二つにされていた。


「せ、せんせえ!!??
 見ないでくだされ!拙者の姿を見ないでくだされ………っ」


暗がりの中でよく見えないが膝を抱え、ぶるぶると震えているシロの姿は
かつてアルテミスが乗り移ったときのようにも見える。

「き、来ちゃ駄目でござる!
 近づくものにはみさかい無く攻撃してしまうんでござるよ…………っ!!」

何かに怯えるように社の中に入ってくることを拒むシロ。
その顔色は不安定で、まるでなにかに身体を乗っ取られそうな感じだった。

「美神さん……シロちゃんは一体どうしたんでしょう………?」

「分からないけど……
 もしかしたらシロの中にあるアルテミスの遺伝子が活性化したのかも……
 月の魔力に引きずられて霊力が暴走したら……………」

青い顔になるおキヌちゃんと美神さん。
横島クンに至っては頭の中が混乱してしまって
とにかくシロを落ち着けることしか頭に浮かばなかった。


「ま、まずは落ち着けっ!!
 な?力を抜いて楽になるんだ。いいな、できるか?」

「ひぐぅ!だ、駄目でござるよう…
 現状を維持するのが精一杯で……
 無理にやろうとすれば力に身体を乗っ取られるでござる……」

息も荒く苦痛の声をあげるシロを見て意を決した横島クン。
社の中にゆっくりと………足を踏み入れた。


「俺さ……バカだからお前が悩んでることとか苦しいこととか全然分からなかったんだ。」

「ち、近づいちゃ…それ以上近づいちゃダメでござるよ………せんせえ……」

シロの制止も振り切りゆっくりと一歩一歩シロに近づく横島クン。
その声は震え、今にも泣き出しそうだった。

「だからさ、苦しいときは苦しいって悲しいときは悲しいって言ってくれよ。
 お前の苦しさを代わってやることはできないけど、そしたらこうやって………」

一歩、また一歩と。

「せ、せんせぇ…………」

「こうやって慰めてやることくらい、できるだろ?」


ぎゅっ……


「せんせぇ、せんせぇ、せんせぇ……………」

☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★ 

〜翌日〜

「もう、バカバカ!!!!
 心配したじゃないか!体調がよくなったら軽く説教だからなっ!!」

「ク〜ン………
 反省してるでござるよぉ…………」

白井総合病院のベットで真っ白なシーツを頭までかぶって隠れるシロと
怒った口調でも安心した顔で口元が緩みきってる横島クン。

「なんであの時シロちゃんの霊力が急におさまったんでしょうね?」

「さあ?愛の奇跡ってヤツじゃない……………って何言ってんのよ、私!?」

ポロッと自分が口に出してしまったセリフに赤面する美神さん。
当然、そのはけ口は横島クンになることに………


「こんの…………バカ横島ぁ―――――っ!!!!」

「俺が何したってゆーんじゃぁ――――――――――っ!?!?」








……………………まっ、愛の奇跡とゆーことで。
             
                                   fin

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