あなたの前世について
投稿者名:(NO NAME)
投稿日時:(04/ 2/16)
はじめまして。早速だが、あなたの前世について話をしよう。
私のことなど気にしなくても良い。私はこの話では語り部であり、ただの記録者でしかない。これはあくまで私の善意だから、ここから先の話は読まなくてもかまわない。自分の前世について知りたくなければ、どうぞウィンドウを閉じたまえ。
――さぁ、どうする?
――前世を知りたいかい?
――知りたいのだね。
それではあなたの前世について話をはじめよう。
ここ『ザ・グレート・展開予測ショー』で語る以上、あなたも見当はついているだろうが、あなたの前世にはGS美神という漫画が関係している。
そもそも漫画や小説などの物語はどのようにして作られるか、あなたは知っているだろうか。
物語は作者が作る、あなたはそう思っているはずだ。いや答えなくても構わない。文章と言う表現媒体を用いている以上、あなたの返答は私には伝わらない。
さて、では一方的ではあるが正解を言おう。作者は物語を作るのではない。物語を知っているのだ。
様々な反論があるだろうが聞きたまえ。物語とは世界だ。作者の知っている別の世界をそのまま書き記したものが物語なのだ。
さてさて、私はただの記録者でしかないからあなたが作者と言う立場に立ったことのある人間かどうかはわからないけれど、あなたはおそらく私の言葉に反論するだろう。私は記録者で語り部でしかないから、あなたに意見を押し付けるつもりはない。役目の放棄と嘲笑われても仕方が無いが、文章と言う表現媒体では私の意見を理解してもらうには心もとなさ過ぎるからね。
私はただ、私の知る世界を書き記すだけだ。それがあなたの前世だと言うだけなのさ。
あなたの前世では、あなたは主役ではなかった。主役は知っての通り美神令子という女性だった。世界は彼女のために回っていたよ。
だけど、気落ちすることはない。私はあなたよりほんの少しだけあの世界については詳しいから断言できるのだけれど、あなたがいなければあの世界は終わっていた。あなたは前世で一つの世界を救ったのさ。
世界と言うものは酷く脆い物だ。物語において主役が死ぬときは作品の終わりであるように、世界は主役のためにだけ用意されている。あなたがいて私のいるこの世界すら例外ではない。私はきっと脇役でしかないのだろうけれど、あなたはもしかしたらこの世界では主役かもしれないね。なにせあなたは世界を救った英雄だ。
前置きが長すぎたね。それではあなたの前世について話をはじめよう。
美神令子が15歳のときだ。母親の葬式の次の日だよ。あなたの知るとおり母親は死んではいなかったのだけれど、そんなこと当時の彼女は知らないからね。彼女は泣き疲れた迷子のように憔悴していた。
その日、そんな美神令子を狙う影があった。彼女は主役だから、生きているだけで事件に巻き込まれる。脇役たる人間がそれこそ一生で一度出会うか出会わないかのような大事件が、次々と彼女の周りで起こるのさ。
影は美神令子を主役とした物語には珍しく、悪霊でもなければ妖怪でもなかった。だからこそ作者は記録したのに我々に発表しなかったわけだが、そんな話はどうでもよろしい。商業主義なんてものはこの際捨て置こう。私が代わりに語ってやろうさ。
影の名は――いや、名前なんてどうでも良いか。それは男で、美神令子に対して邪な考えを持っていたと言うことだけ語ろう。あまりに醜悪な男だったから私も長くは語りたくないのでね。
その男は美神令子を狙っていた。語るだけで穢れるような劣悪な考えさ。母親を亡くしたばかりの少女を狙うなどと言う非道を、その男は実行しようとしていた。それだけ知っていればよろしい。
美神令子は強い人間だけれど、だからと言っていつだって強いわけじゃない。それにまだ子供だったから無用心だった。彼女はつい母親の面影を探して、夜中に町を出歩いていたのだよ。
少女の夜遊びは危険だ。町中にも町外れにも危険がある。美神令子が男に捕まったのは町外れだった。男はその右手にとても大きなナイフを持っていたよ。
――おや、少しは思い出してきたかな?
ふふ、察しの通り、そこに颯爽と現れたのがあなただ。まるでヒーローのように、といいたいところだけれどあなたは脇役だったからね。ただの通りすがりさ。
この世界でのあなたがどんな人物なのか、私は知らないけれど――少なくともあの世界でのあなたは、少女が暴漢に襲われそうになっているのを黙って見ているような人間じゃあなかった。あなたは美神令子を助けようとして――
そして刺されて死んだのさ。
あなたの前世は、これでお終い。
――おや、不満そうな顔だね?
いやいや、文章と言う表現媒体を使う以上私からあなたの顔を見ることなんてどだい不可能な話なのだが、まぁ言葉のあやという奴さ。あなたは美神令子がそのあとどうなったかを知りたいんだね。
美神令子は男を蹴り倒してあなたの骸に駆け寄った。あなたは既に事切れていてね、彼女はまた泣いたよ。
男は逮捕され、あなたはあなたの家族によって葬式に出された。美神令子はあなたの葬儀に参列し、あなたの遺影の前でありがとうと呟いたそうだよ。
美神令子がそのあとどう成長し、どんな事件に巻き込まれるかはあなたも知ってのとおりだ。あなたはあの世界では脇役にしか過ぎなかったし、美神令子は主役だった。だけど彼女は、間違いなくあなたに感謝していたことだろう。
これで本当にこの話は終わりさ。あまりにもあっけなくて、きっとあなたはつまらないと思っただろう。作者もその辺の理由からこの物語を発表しなかったのだが、あなただけは知っておいた方がよいと思ってね。私がおせっかいを焼いたと言うわけさ。
あなたは前世で、間違いなく世界を救ったんだよ。
では、さようなら。
今までの
コメント:
- うまい(^^
こういう、歴史に関わるけれども歴史に名前を残さない人の話を読むと、マンガでは「TPぼん」を、史実ではリンカーンに樽を売った人の話を思い出します。 (黒川)
- こういった感じのSSは余りあれませんが、好きですv (紅蓮)
- あれませんではなく、ありませんでした。すいません。 (紅蓮。)
- 私こと(NO NAME)はこの話において『名無し』を名乗ったけれど、ハンドルネームに対して軽軽しい気持ちを持っていたわけではないとここに断言する。あくまで作品の完成度を高めるために(つまりは『名称不定の誰かに語りかけられる読者』を演出するために)あえて『名無し』を名乗ることにしただけなのだ。 ((NO NAME))
- あなたの呼び掛ける「あなた」とは誰の事でせう?
これを読んでる私?遠く離れた別の街でこのページを見てる他の誰か?それとも・・・?
ひょっとしたら私の所には私の後ろで画面を覗き込んでいる誰かがいて、あなたはその彼(彼女?)に向かって呼び掛けて
いるのではないでせうか?読み返してる内に時折背後から「違うよ!」とか「世界の、中心・・?」とか呟く声の様な気配が
して来る・・・そんな気がする。
作者だけが知っている、「物語られる別世界」のリアリティーが強く染み入って来る感じの、不思議な作品ですね。
賛・反評価は中立としますが、このコメントを以ってこの物語そのものの評価とさせてもらいます。 (フル・サークル)
- どうも〜はじめまして(かな?)ヒロです〜
思うに・・・これはギャグじゃないんですね(失礼)いえ、世界を救った・・・言われながら、たった二行ほどで息絶えた『あなた』モロ噴出しました。いえ、ここは笑い所じゃないんですが。ちなみにあなたって誰だろう?対象となる人物が多すぎて、え〜ぼくは世界を救ったって言うよりは〜そんな人物を遠くのほうで見ているような人がスキだ!!←きっと僕の前世はこんな感じで(ホントかよ)
であであ〜これからも頑張って下さいませ〜 (ヒロ)
- 良くわからんというのが正直な感想なのですがな。
わが盟友全知魔に言わせると、
ありふれた話であるらしい。
この類、神、悪魔ですら感知しない、
何者にもとらわれぬ「意思」があるらしい。
所詮はあるらしいであって、
明確ではないのだ。
せめて眠れ、その者よ。 (トンプソン)
- 取り敢えず、初めまして。…なのかしら?(^^;
本作を読んでの感想は、「微妙」でしょうか。アイデアは面白かったのですけど…。
原作世界を完全に突き放した視点により、却って話への、と言うより「あなた」への感情移入ができませんでした。
語り部の正体をラプラスなり、神魔最高指導者なりに設定した方が、個人的には良かったかな?
でも、それだと『語りかけられる(現実世界の)読者』を演出しにくいですし、難しい所ですね。(^^; (dry)
- 初めまして、志狗と申しますm(_ _)m
面白い趣旨の投稿でした。
現実の、読者に語りかける口調で展開されていくお話は、読者を登場人物の一人として巻き込むもので、作品を予想もしない方向に突出させていると思います。
しかし、その特殊な性質から、逆に切り捨てられてしまう部分が在るのは仕方が無いことなのでしょうね(^^;
文章が描く雰囲気。内容。お話の意図。それぞれに楽しむ事が出来ました。 (志狗)
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