ザ・グレート・展開予測ショー

長編・GS信長 極楽天下布武!!(3)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 2/16)

我は弓也
乱世の用也


治世なれば
川中島の土蔵に入らるるなり















「こ,殺すってそんな……。何かの冗談だよ,ね……?」
藤吉郎は,目の前の少年に,懇願するかの如く訊いた。
だが,目の前の少年――雨姫蛇秀家は,にべもなく一蹴した。
「本気だよ」
「ええっ!?」
藤吉郎とて,普通なら信じなかったろう。こんな年端もゆかぬ少年に,お前を殺すと言われても。
しかし,あの植椙景勝なる女は,間違いなく自分を殺そうとしていた。
そして,この少年は彼女の“仲間”だと言う。恐らくは,少年の言った,その『魔流連』とやらの。
「ふふ。にーちゃんもついてないね。あんな町中で,偶然僕に会っちゃうなんて。同情するけど,でも駄目」
「……如何して?」
「だって,“僕達”の計画を,駄目にしちゃうかも知れないもの」
「何を言って……」
「例え白蟻の穴でも,もしかして其処から崩れちゃうかも知れない。だから,穴が開く前に,白蟻を退治するんだ」
「ちょ……」
「そう,『豊臣秀吉』って言う……!」
「……!」
やばい。
この子はやばい。
あの目。あれは狂信者の目だ。
一見して,侍の目に似ている。主君に忠誠を誓う侍の目。そう,自分が殿に仕える時に示す様な。
でも,違う。決定的に違う。
狂信者は,信ずるものの為等思っていない。信じる事で,自らのアイデンティティを示そうとしているだけなのだから。
だから,諫言等しない。狂信者にとって,自分の信じるものは神だから。絶対に間違い等犯さない,絶対正義の執行者なのだから。
そして,彼等は時に暴走する。先走り,周りの人間を傷つける。それが,自分の信ずる“神”の御心に叶うと信じているから。
“神”を信ずる自らも,又た神なのだから。
「っ!」
ドヒューン!
秀家の放った霊波砲が,藤吉郎の髪を掠めた。
「……!」
この少年は間違いなくその類だ。
そして,彼の“神”とは,恐らく『魔流連』であろう。
それが分かった所で如何しようも無いが。此方が何を言った所で,聞く耳等は持たないだろう。
「如何したの?ぼーっとして。未だ信じられないの?それとも,大人しく殺される覚悟が出来たのかな?」
しかし,少年の口振りから察する限り,これはその『魔流連』とやらの上の人達からの命令ではないのだろう。
であれば,此処を上手く纏めれば,誤魔化せる。そう。此処は,三十六計逃げるにしかずだ。
「逃げても無駄だよ。まあ,関係の無い街の人達が巻き込まれても構わないってんなら,話は別だけどね」
駄目か。
「さあ,如何したの?にーちゃん。やるの?それとも,大人しく殺される?」
なら,力ずくで止めるしかない。



「――!」
「?如何した,ヒナタちゃん」
「早く帰りましょう」
同時刻,六道女学院,正門。
「……」
「ヒナタちゃん?」
「大丈夫ですこと?顔色が悪いですわよ」
昼前にも感じた,この悪寒。
寒い。
頭がギンギンする。
「……よし」
「え?」
「日吉に,何かが……」
日吉だ。
日吉に何かが起こっているのだ。
何か,悪い事が。
「日吉……?おい,ヒナタちゃん」
「ほ,保健室に行った方が……」
それは判る。
如何してかは分からないけど,判る。
でも,何も出来ない。
「……しは……」
「ヒ,ヒナタちゃん?」
「ちょっ……!し,篠原さん。私が見てますから,先生を呼んできて下さい!」
「ああ!」
無二の親友の窮地に。
恋い焦がれる男の危機に。
手も足も出ない。
「私は……」
「大丈夫ですこと!?気をしっかり持つんですよ!今,篠原さんが先生を呼んできてくれます!」
なんと,無力な事か。
トキヨミでない,自分は。
私自身は。

「私は,なんて無力なの……」



I.C.P.O.超常犯罪科(通称,オカルトGメン),日本支部。
「ほう,四神か……」
総責任者,織田信秀。信長の実父である。
「如何言う意味だよ?親父」
「『我々と同じ事を考える者が出てこぬ様に』と,言ってましたが」
皇居広場で怪しげな行動をとっていたゴーストスイーパー,淺鞍義景と戦い,倒した信長と帰蝶は,義景を此処に運び込んだ。
「ふん……!成程な」
「何なんだよ,親父」
「……風水だよ」
「風水?……そう言う事か!」
信長とて,賤しくも前近代の知識人である。東洋の英知,風水説を知らない訳はない。

風水説。
 都城,住居,墳墓等を築くに当たって,地形や方位の吉凶を判断して適当な場所を占い求める理論。これに拠れば方位を青龍(東),朱雀(南),白虎(西),玄武(北)の四方に分け,山川堂宇等はこれらの動物を表すとする。そして地中に流通する正気が,水によって限られ風によって散らぬ場所を山川の形勢に拠って選び,其処に生者の住家を建てるか,又たは死者を埋葬すれば,子孫はその気を受けて富貴福寿を得ると信ぜられている。

「ふむ。確かに嘗て江戸開府の折り,江戸の町は四神相応の土地に作られた。しかし,近現代の開発の波でそれも捨て置かれ,替わりに都庁の地下に心霊災害管理施設が置かれる様になったのだが……」
「未だ名残は残ってるってか?それで?『我々と同じ事』ってのは?」
「……詳しい事は,此奴が目を醒ましてから,訊くしかないな。おい!誰か,此奴をぶちこんどけ」
「良いんですか?」
「構わねえよ」
「……此処等辺は,矢っ張り信長の親父さんだわねえ……」
「如何言う意味だよ?」
「いや……」
「そう言や,おなべは如何したんだ?」
「西条君なら今,事件の捜査で出張しとる」
「ふーん」
「ほら,テレビとかでやってたろ?山陰道が爆破されて,通行止めになってるって奴。あれに如何やら,超常犯罪の臭いがするらしくてな」
「へえ」
「で?あの年増の行方を訊いて,如何するつもりだったワケ?」
「へ?」
「へじゃないわよ!私が目の前に居るのに,如何言うつもり!?」
「い,いや。俺は,そう言うつもりで言ったんじゃ……」
「じゃあ,如何言うつもりで言ったのよ!?大体あんたが,あのショタコンにホイホイ引っ掛かるから,ややこしい事になったんでしょ!?」
「い,いや,あのな?」
「何よ!」
「いや……」
「はっはっは。未だ未だ青いな,信長」



「……やるよ」
「そう。そうこなくっちゃ。やっぱり,“狩り”は逃げる獲物を追いつめるのが醍醐味だもんね」
秀家は,少年のものとは思えない様な醜悪な――いや,この形容は妥当ではないだろう。そう,丸で肉食獣の様な,凶暴な光をその眼に宿らせた。
「……!?」
その眼に,身震いする藤吉郎。
あれは。
戦場で見た,“猿”達にも似たあの瞳は。
「――行くよ」
あれは,危険だ。

瞬間,秀家が藤吉郎の視界から消えた。
「ちっ!」
その場に居ては危険だ。
そう察知し,咄嗟に飛びすさる。
次の瞬間,先程迄藤吉郎のいた場所には,秀家が立っていた,
「へえ。良く避けたね」
「いや……,当てずっぽうだったんだけどね」
「それにしても凄い反射神経だよ。僕の攻撃をかわすなんてさ。流石は有名なゴーストスイーパーなだけは有る」
「あ,有り難う」
「……あんたになら,この姿,見せても良いかな」
「え……?」
「これが,俺の術さ……!」
秀家の身体が,変色していく。
犬歯が伸び,爪が伸び,目つきが鋭くなっていく。
そして,耳が消え,替わりに頭の上に猫の様な耳が生える。尻には,尻尾も。
「ね,猫又……!?」
猫又。言う迄もなく,猫の変化した妖怪。所謂,獣人(ライカンスロープ)の一種である。
「ふふ。驚いたでしょ。妖気なんて,全然感じなかっただろうからね」
「え……」
「僕はね,猫又のクォーターなんだ。魔族因子も,其処迄行くと大して濃くは出ないんだよ。だから,普段,人間モードでいる時は,全く普通の人間と同じ」
「えっと……?」
「でも,迫害はきちんと受けるんだよ。小学校では,毎日酷いイジメに遭った。陰険で,卑怯で,そして,限度を知らない……ね」
「……」
「勿論,例えば喧嘩なんかしたら,僕が勝つに決まってる。僕の父さんはゴーストスイーパー,母さんは猫又のハーフなんだから。けど,加減が出来ない僕が“力”を使えば,相手は死んでしまう。そしたら,困るのは父さんや母さんだ。僕の,唯一の味方の父さんと母さんだ」
似てる……。
「その父さんと母さんも,もうこの世には居ない。僕の居場所なんか,もう何処にも無いんだ……」
この子は,俺と似てる……。
「居場所が無いなら,作るしかない。正を邪に,邪を正に。そう,魔都だ。京都を魔都にするんだ。その為に僕の“力”を求める,『魔流連』の仲間達と共に。僕の住む場所は,其処しかない……」
誰からも必要とされず。
誰かに必要とされる事を望み。
「それを邪魔するかも知れないあんたを,僕は,生かしてはおけない」
そして,深く傷付いていく。



オカルトGメン・西条鍋子捜査官は,驚愕に目を見張った。
「こっ……これは……!」
山陰道爆破事件。鍋子は,その現場にいる。
爆破されたのは,京都市内へ向かう高速道路周辺。
それの捜査及び事後処理に向かった警察官や自衛官等は,皆,怪我を負った姿で発見された。彼等の証言によると,突然,金色の竜が天空より飛来し,その鋭い爪で彼等を切り裂いていったと言う。
普通なら眉唾物の話だが,鍋子の霊感が,ただ事でない事を告げていた。
更に爆破事件の犯人が,未だ特定されていないと言う事実。
してみると,只の恐怖から来る幻覚とは取り難い。
そして,その考えは当たっていた。
鍋子の眼前には,今,金色の竜が迫っていた。
「くっ……!」
鍋子は,愛用するレイピア型の霊剣『ハイファーム』を抜くと,その柄に嵌め込まれている精霊石に念を込めた。
キィン!
精霊石を中心に,鍋子の周りに簡易結界が張られ,竜の攻撃を防いだ。
竜は一旦上昇し,体勢を立て直そうとしたその瞬間……
竜は,跡形も無く崩れ去った。
いや,溶け去ったと言う方が適切だろうか。
そして,それは瓦礫の頂上に立つ,一人の老人の掌の中に吸い込まれていった。
「あ,貴方は……!」
鍋子は,老人に見覚えが有った。
「元・日本ゴーストスイーパー協会副会長,嶌柘義久(しまづ・よしひさ)!?」
「ほう。儂を知っておるか。もう何年も前に引退したのじゃがのう」
「な……そうです!何故貴方が此処に!?まさか,この騒動は貴方の仕業……!?」
嶌柘義久。
民間GSを総括する,日本ゴーストスイーパー協会の副会長を数年前迄務めていた男である。勿論,ゴーストスイーパーとしての腕は超一流で,その除霊方法から,“黄金使い”(ゴールデン・マスター)なる異名を持つ。
彼の武器は一握りの金塊。しかし,余りにも特殊な特性を持つその黄金は,強靱な精神力を誇る彼以外の者が持てば,精神崩壊の危険も有ると言う代物である。
「弱者を助け,社会に奉仕すべきGS協会の副会長迄務められたお方が,何故この様な事を!?」
「GS……か。それも昔の話。今の儂は何れ魔都となるこの平安京の西を守護する者。言うなれば四聖獣・白虎よ」
「な,何を言って……?」
「お嬢さん。悪いが訳有りでの。この道を修復させる訳にはいかぬのだよ。諦めて,高速道路は別の道に引いてはくれぬか」
「何を馬鹿な……!」
「今退けば,敢えては追わん。されど,刃向かうと言うのなら,儂とて自らを護らねばならんの」
「嶌柘翁とも有ろう方が,公務員を脅迫なさると言うのですか……!」
「そう取りたければ,そう取るが良い」
「良いでしょう!この私が,正義の名の元に貴方に鉄槌を加えて差し上げましょう!」
鍋子はこう言う女である。
けして悪い人間ではないが,必要以上に規則を重んじ,殊更に正義を振りかざす。
それは彼女の長所であり短所である。その性格故に,一部の知り合いには煙たがられているのも事実なのだ。
「……良かろう。魔都の西を護る『金皇』(ゴールド・エンペラー)の名を負いしこの儂の力,見せてやろうかの」
ギィン!
先手必勝とばかりに鍋子が繰り出した『ハイファーム』の強烈な一突きは,しかし,黄金の盾に阻まれ義久には届かなかった。
「な……!?」
「この黄金は……,人の欲望に反応し,それを溜め込み己が力とす。これ迄に吸い込んだ際限の無い人の欲望が我等が力となり,此奴は自在に姿を変え,何処迄も大きくなれるのよ」
「ちぃっ!」
やはり,格が違う。
「でも,負ける訳にはいかないっ!」
「ふむ。気の強いおなごよの。良い事じゃ。しかし……」
義久の黄金が,見る見る内にその体積を増し,虎の形を成していく。
「勇気と無謀は違う事を,知った方が良い」

「お主の,負けじゃ」



秀家の身体がブレたかと思うと,次の瞬間,藤吉郎の胸は,その鋭い爪で引き裂かれていた。
「ぐあっ……!」
大量の血を流し,藤吉郎がその場に崩れ落ちようとした瞬間,後ろから斬撃が来た。
「がっ……!」
背中にも傷を作り,藤吉郎は膝をついた。
「い,痛ぇ……っ」
「ははは,如何したの,にーちゃん。景勝のねーちゃんをやっつけた技を見せてみてよ!それとも,ホントに死ぬ覚悟が決まったの?」
駄目だ,速過ぎる。
俺の反射神経じゃ,あの動きには反応出来ない。
と,すれば……
そんな事を考えつつ,藤吉郎は二つの文珠を生成した。
「……」
「……何だよ,その目?気に食わないなあ。反撃してこないんだったら,もっと良い顔して見せてよ。有るだろ?絶望するとか,命乞いしてみるとか」
「……君にそんな事する必要なんてないよ」
「……っ!と,むかつくなぁ……!」
藤吉郎を再び自らの爪で引き裂くべく,秀家は藤吉郎に飛び掛かった。
それを見て,藤吉郎は思う。
よし!
挑発に乗ってくれた。
この傷じゃ動けない。あの場所から霊波砲でも撃たれていたら,避ける術は無かった。
そして藤吉郎は,爪を振りかざした秀家が目にも留まらぬ速さで自分に肉迫した瞬間,文珠を発動させた。
刻まれた文字は,

『爆』

ゴッ!
文珠の発生させた爆発でおきた風に,藤吉郎と秀家は吹っ飛ばされた。
「ぐ……」
「つ……」
両者ダメージを受けたが,先に爪による傷を負っていた藤吉郎の方が不利だ。
それを示すかの様に,先に立ち上がったのは秀家だった。
「へへ……捨て身の攻撃か……。やってくれるね……。でも,こんなんじゃ未だ,僕は倒せないよ」
未だ体勢を立て直していない藤吉郎に,止めを刺すべく飛び掛かる秀家。
しかし,爆発のダメージは確かに有り,秀家の動きは藤吉郎の反応出来ないものではなかった。
「くっ……!頼むぞ……っ」
藤吉郎は,秀家に向かいもう一つの文珠を投げつけた。
それは,秀家の眉間に当たり,効力を放った。
刻まれた文字は,

『眠』


数秒の後,その公園には,流血に顔を歪ませる藤吉郎と,平和そうに眠りこける一匹の子猫の姿が在った。

「……ふう」
藤吉郎は悲鳴を上げる身体を無理矢理起こすと,眠っている子猫を抱き上げた。
どの道,このままでは屹度又た襲われる。
その『魔流連』の連中の元へ返したりなんかしたら,多分まずい。何となくだが,そうすべきではないだろう。
それに,この子は何か放っとけない。
「そう……。居場所が無ければ,探せば良いんだよ……」
そうして探した居場所が,蜃気楼だったと言う事も有るのだろうか。



「ん?電話だぜ,親父」
オカルトGメンのオフィス。
「はい,織田。……何?それで……?……そうか。……わかった。すぐ行く。……ああ。……頼んだぞ」
何やら大変そうな会話を交わし,信秀は電話を切った。
「何だよ?」
「……西条君が,現場で何者かに襲われ,意識不明の重態らしい」
「何!?」
「そう言えば……有ったな。江戸の町より古く,そして完璧な四神相応の都が……」
「平安京……か?」
「ああ……。山陰道は風水説における白虎――西の護りを司る“大道”……。これを壊す輩となりゃ,あの馬鹿スイーパーと無関係ってこたぁ無ぇわな」
「へっ……!何か,面白そうじゃねぇか」
「かもな……。俺は今から向こうへ行くが……,お前達は如何する?」
「決まってんだろ?こんな面白そうな事,見逃す手はねぇよ」
「ふ……それでこそ,俺の跡取り。織田の嫡男だ……!」
「それに,巻き込んだのは俺の方とも言えるしな。お前は如何する?帰蝶」
「……ま,乗り掛かった船だしね」
「決まりだな」


そうだ,京都へ行こう。

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