ザ・グレート・展開予測ショー

#挿絵企画SS『Dr.シロの献身的治療!でござる』


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(04/ 2/15)



  「全治二ヶ月・・・長いよなあ・・・。」

 呟きながら病室のベッドに伏せているのは全身包帯姿の横島。こんな目には何度も遭っている彼だったが、今回の負傷は
いつもの様に仕事や痴漢行為への制裁によるものではなかった。

  「あの、バカ犬・・・・。」




 ここすっかり彼の日課にもなってしまっている早朝―と言うより夜明け前―の散歩でシロが、またも調子に乗って赤信号の
交差点だろうが、狭い路地裏だろうが止まらずスピードも落とさずに爆走し始めた。

   どどどどど・・・・っ!

  「――止まれっ!・・止まれーーーっっ!!」

 ぴたりと止まった。・・・だが横島の体はそのままの勢いでシロの頭上を飛び越え、電柱二本と走行中のトラックとに続け様
に衝突した後、ガラス張りのビルに頭から突っ込んで行ったのだった・・・。




 ノックの後にドアが開き、二人の少女が病室に入って来た。

  「横島さん、またお見舞いに来ちゃいました。・・・具合の方はどうですか?」

  「横島もあれでよく生きてるよね・・・少し呆れるわ。」

  「おキヌちゃん・・・タマモも・・・あれ、シロは?今日も、来なかった・・・?」

 二人に顔を向けた横島はふと浮かんだ疑問を口にする。このケガの元凶があれから一度も顔を出さないなんて・・・と思う
反面、彼自身にその原因として思い当たる節もあった。

  「シロちゃん・・・あれっ?さっきまで一緒だったんですけど・・・?」

  「トイレの前通った時、あいつだけ入った・・・それにしても遅いわね。・・・ますます顔見せづらくなったんじゃないの?」

 タマモは横島の顔を見て少し意地悪そうに笑う。

  「ううっ、分かってるよ・・・あれは言い過ぎだったって。」




  「せんせえっ!大丈夫でござるか・・・せんせえっっ!!」

  「―うるせえ・・こっち来んなバカ犬。てめーなんかもう知らねえ・・・。」

 生きてるのが不思議な位の肉塊と化して担架に乗せられた横島は、遠ざかる意識の中、駆け寄って縋り付こうとする
シロにそう言い放ってしまったのだ。




  「ふっ・・・まあ、そんな事をいつまでも引きずる神経持ってないから、バカ犬だって言うんだけどね。」

  「もーっ!またケンカになっちゃうよ?・・・横島さんも、シロちゃんが来たら言い過ぎた事を謝って下さいね?シロちゃん
  だって十分反省して・・・」

 再びノックの音が響き、ドアが開いた。――三人の表情が、ドアの所へ視線を釘付けにしたままで、固まった。



  「さあ、回診のお時間でござるっ!」


 そこに現れたのはシロ―何故か丈の長い白衣を着て、首に聴診器をぶら下げ、小脇にカルテらしきものを抱えていた―。


  「シロ・・・その格好・・・何やってんだ、お前?」

  「シロではござらん。拙者、横島先生の主治医の女医さんなのでござる。」

  「・・・いや、シロだって。」

  「先生の言付けでここに来ていないシロに代わって、女医さんの拙者が先生を元気にする為、頑張るのでござるよ!」

  「いや、シロだってば・・・。」


 まだ呆然としている横島とおキヌ。タマモは頭痛がするのか、手で額を押さえていた。


  「まずは、この超神器で先生の体内の音を調べるでござ・・・る、な?」

  「俺に聞くなよ・・・それに、何だか字が違うぞ。」

 シロは聴診器の耳管を耳に当てると、ベル面を手にじりじりと横島へ近付く。

  「何故、そんなに構える・・・?」

  「失礼、布団をめくるでござる。ふむ、確か服を脱がせて肌の上から当てるのでござったが・・・包帯は取れないので、
  その上から当てるでござ・・・る、か?――いざっ!」

  「だから何故、俺に聞く?・・・何故、そんなに気合を入れる?」

 横島の質問には答えず、「やあっ!!」と掛け声高くベル面を振り下ろして・・・ぴたっと胸に当てる。目を閉じて聴診器からの
音に耳を澄ませていたシロが突然目を見開き、表情を険しくした。

  「―――むむっ!?先生の心臓が・・・!」

  「どうしたのシロちゃんっ!?・・・何か横島さんに・・・」

  「俺に・・・ヤベー事が・・・?」

  「先生の心臓が・・・・・・動いてるでござるよ!先生らしい、雄々しい音なのでござる!」

  「――動いとらんかったら大変じゃあっ!!」

  「・・・アンタ、それで何診るのか、本当は分かってないでしょ・・・?」


  「次は、お腹を診るでござ・・・(ぐう〜〜〜っ)はっ!せんせえっ、さてはお腹が空いてたでござるなっ!?丁度、拙者も
  お腹が空いてた所。すぐに夕飯にするでござるよ!!」

  「それ使わんでも聞こえるだろ・・・つうか、そーゆーの聞く道具じゃねーだろ・・・つうか、医者が自分の腹も減ってるとか、
  普通言わねえ・・・」

  「そうでござった。夕飯の前にこれを。」

 患者の話を全く聞いていない女医さん・シロは白衣のポケットから細長い物体を取り出した。

  「拙者が用意している間、この体温計でお熱を測るでござるよ・・・測る場所がないでござるな。鼻も怪我してるから、口に
  入れても息苦しかろうし・・・残るは・・・。」

 そう言いながら、横島の布団を今度は足側からめくり、彼のはいているパジャマズボンに両足をかける。

  「おい・・・ま・さ・か・・・?」

  「両足が吊られているから好都合でござる。もう少しお尻を上げてくだされ。・・・恥ずかしがらなくても良いのでござる。
  拙者、女医さんなのでござるから。」

  「―――きゃあああああっっ!!」

  「―――やめろおおおっ!やめてくれええええあえあっっっ!!」

  「・・・見たくないもの見ちゃう前に、帰るね・・・。」


   ずりずりずりずり・・・・・・・・・ぷす。




  「ふう・・・エラい目に遭った。本物の医者や看護婦さん達はどこ行ったんだよ・・・?」

 結局、あの検温でおキヌも両手で顔を覆いながら(指の隙間からチラッと見てた様だったが)、タマモに続いて病室を
逃げ出してしまった。ちなみに本物の医者と看護婦は、シロが横島担当を申し出た時に「金にもならない厄介な患者/
セクハラ」からの解放を喜んで彼女に一任してしまったのだが、それは知らない方が横島の為であろう。



  「せんせえっ!お待たせでござるっ!!」

 両手に二人分のトレーを乗せてシロが足でドアを開け、入室する。―そんな事する女医さんはいない、と横島は思った。

  「二人分って・・・お前もここで食うのか?」

  「先生一人じゃ不便でござろう?」

 そう言う趣旨の質問じゃなかったのだが・・・。横島はトレーの上に目を向ける。

  「病院食なのに・・・何かやけに肉料理が多いっつうか、油っこくねえか?」

  「うむ。一見して何か味気ない献立でござる、これでは先生が元気になれない・・・と思って、拙者が厨房を拝借して
  付け加えたでござるよ。」

 勝手に病院食のメニューに変更を加える女医さんもいない。シロはベッドの脇に腰掛けると、自分の膝の上に横島の分の
トレーを置いた。スプーンで一口取り、彼の口に近づける。

  「はい、あーーーんでござる・・・。」

  「右手は動くんだから自分で食えるってば・・・それに、体温計が、まだ刺さってるんですけど・・・。」

 言いながらも目の前のスプーンを咥える。

  「・・・うまいでござるか?」

  「ああ・・・うん。」

 横島が照れくさそうに答えるとシロは嬉しげに尻尾をパタパタ振りながら二口目をスプーンに取る。こんな時に「食べさせて
もらう」のは横島にとっても満更ではない。しかもスプーンを運ぶのは白衣姿の女医さん・・・シロだけど。

  「何で女医さんだったんだ・・・?こーゆー事するなら看護婦さんじゃ・・・?」

  「前に調べたでござる。先生の蔵書やびでおてーぷには看護婦さんが写ってるものより女医さんが写ってるものの方が
  少しだけ多かったでござる。そしてその中に『女医さんが男を元気にする』との見出しがあって・・・」

  「・・・・・・・・・。」



  「さて、食事の後はお薬でござる。」

 シロはそう言うとベッドから降りて部屋を出て行く。数分後、ガラガラとキャスターを押しながら戻って来た。キャスターの
上には消毒液の入ったコップと綿、薬の入ったシリンダーに・・・注射器と針。

  「おちうしゃの時間でござる♪」

  「――いやだあああああっっ!!」

  「怖がってては駄目でござるよ。拙者だって散々逃げ回ったのにされたのでござるから、先生もちうしゃするのでござる。」
 
  にっこり。

  「のおおおおおおっっ!!」

 横島は普段、特に注射嫌いではない。だが今、注射器を持っているのはシロだ・・・。逃げる事も暴れる事も出来ない彼は
振り上げた右手をしっかりとシロにキャッチされてしまった。

  「さあ、観念するでござる。痛いのは一瞬でござるよ。」

  「嘘だーーーっ!お前に限ってそれはねえ!大体何の注射だそれ!?スケジュールにないぞ!」

  「拙者のスペシャルコースでござる・・・先生を元気にするちうしゃなのでござる・・・フフフ・・・」

  「訳分かんねえよ!・・・目が据わってるし・・・。」


   ・・・ちくっ。ちくちくっ。・・・ちくちくずりっ・・・ぐさっ。 ―――すーーーっ。


  「ぐがが・・・おい、シロ。」

  「女医さんなのでござる。」

  「どっちでも良いけど・・・注射器の中に・・・泡、入ってるぞ・・・?」

  「心配ないでござる。拙者、泡が入ってようときちんと残さず入れるでござる!」

 横島の言葉にシロからそんな自信に満ちた答えが返って来た。


  「――入れるなああああああっっっ!!」



 数分後、シロの注射した薬で元気になった・・・もとい、元気になり過ぎた横島は他の患者の検温に来た看護婦に本能の
まま飛びかかろうとして、シバかれる前に自分のケガで血の海に沈む破目となった・・・。

 「厄珍どのに『先生を元気にする用』に処方してもらった漢方、効いたではござるが、何故こっちではなくそっちへ飛ぶで
 ござる・・・?」




 何だかシロが来る前よりも悪化してる感じの横島。身動きが全く取れない。

  バアンッ!!
  「せんせえっ!おトイレの方は大丈夫でござるかあっ!?」

  「シロ・・・右手のしびんはともかくとして、左手のスコップとビニール袋は一体、何のつもりだ・・・?」

 最早、「やめろ」「自分でやるからいい」とか言う気力もない横島。

  「再びお熱も測りたいでござるが・・・用を足すのに邪魔でござるな・・・やはり、息苦しいかもしれんが今度はお口の
  方で・・・。」

  「おい!その体温計さっき使ったやつじゃ・・・やめろっ!やめれええええっ!!」

 ・・・言う気力は回復したらしいが、体温計は口の中へ・・・。




  「やはりケガの治療と言えばこれでござる。」

  「やめんかーーー!!ここじゃイヤああああっ!」

 横島の包帯を外し、傷口や骨折箇所を舐め回そうとした所で、シロは見かねた白井院長によって病室からつまみ出された。

  「我が病院内でその様な行為だけは許さん!その治療法は現代医学じゃない!!」

 ・・・それ以前の理由で怒れよ、とか思う横島だった。





 ―――消灯・就寝。
 
 真夜中、微妙に布団を引っ張られる気配がして横島が目を覚ますと、シロが白衣姿のままベッドの横に顔を突っ伏して
眠っていた。

  「う〜〜ん、むにゃむにゃ・・・・。散歩でござる・・・。」

  「懲りんやっちゃなあー。・・その格好で寝てたらカゼひくぞ?」

 彼は苦笑いを浮かべながら、彼女を連れ出してもらう為ナースコールのスイッチを入れようとする。


  「・・・せんせえ、早く元気になるでござる・・・・拙者が側についてるのでござるよ・・・」


 横島の手が止まった。彼はその右手をシロの頭の上に持って行くと、いつもする様にくしゃくしゃっと撫でてやる。

  「・・・・この前は言い過ぎてごめんな、シロ。」

 頭を撫でながら横島がそう言うとシロの寝顔は、更に嬉しそうになった。霊波で自分の布団一枚だけを軽く弾いて
彼女の背中に掛けてやると、彼は再び眠りについた。

  「せんせ・・・・・・、くうーーーん・・・。」




  おやすみなさい・・・・。



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 『Dr.シロの献身的治療!でござる』 FIN
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