ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(21)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(04/ 2/15)

『君ともう一度出会えたら』 −21−



 俺が目を覚ましたのは、病院のベッドの上であった。

「ヨコシマ!」
「横島君!」

 ルシオラと美神さんが、心配そうな表情をして俺の顔を覗きこんでいた。
 体を起こそうとするが、頭を動かそうとすると激痛が走る。

「ここは……?」
「病院よ。ヨコシマは、パピリオの蝶の鱗粉を吸い込んで、意識を失っていたの」

 俺は痛む頭を押さえながら、意識を失う前のことを思い出そうとした。
 突然、押し寄せた蝶の大群。
 事務所の外に出て戦う俺とルシオラ。
 そこに美神さんも飛び出してきて、一瞬視線をそらした瞬間に──

「そうだ! 美神さん、パピリオはどうなりました?」
「大丈夫。文珠で雨を降らせたら、眷族の蝶と一緒に逃げていったわ」

 雨で退散か。以前と同じ結果だな。
 でも俺は、あのとき病院に担ぎ込まれたっけ?

「でも、なんで俺は病院にいるんですか?」
「パピリオの鱗粉を吸い込んだ横島君は、一時は呼吸も止まっていたわ。
 息はすぐに吹き返したんだけど、意識が戻らなかったから、念のために病院に運んだのよ」

 そういうことか。前回は意識もすぐに戻っただけど、今回は違ったんだな。
 まあ、これくらいは誤差の範囲か。

「俺はもう大丈夫です。急いで、パピリオを探さないと!」

 しかし、起き上がろうとした時、ルシオラが俺の肩を手で押さえた。

「ダメよ、ヨコシマ! ここは私たちだけで何とかするから」
「そうね。横島君は、明日まで病院で休んだほうがいいわ」

 なんか俺、以前と比べてずいぶん扱いがよくなってるな。
 ルシオラだけじゃなくて、美神さんまでずいぶん俺に優しくしてくれる。
 だが、ここで甘えるわけにはいかない。

「ルシオラ、美神さん。明日ゆっくり休みますから、今晩だけは行かせてください!」

 そういえば前回も、パピリオの件の後で西条と同じ部屋に入院したっけ。

「……しかたないわね。でも、まだパピリオの居所がわかっていないわ。横島君、心当たりはないかしら?」

 あれ!? ここで美神さんが、推理をするはずなんだが……。
 まあ、いいか。ヒントだけ出しておこう。

「パピリオは、眷族と一緒に逃げていったんですよね?
 都内で多くの蝶と一緒に、雨宿りができる場所は限られると思うんですが……」
「公園だと雨宿りはできても、花が少ないから蝶がお腹を空かせてしまうわね。
 そうすると……植物園だわ!」

 美神さんは携帯を取り出すと、事務所に電話をかけた。

「もしもし、おキヌちゃん? 私だけど、急いで調べて欲しいことが。
 あのね、都内にある植物園の場所を調べてくれない? 連絡待ってるから」

 約五分後、おキヌちゃんから電話がかかってきた。

「そう、わかったわ。行く途中で拾っていくから、事務所で待っててね」

 美神さんは携帯の通話を切ると、俺とルシオラに向かって振り向いた。

「今晩中にケリをつけるわよ」




 ガサッ ガサガサッ

 草むらの一角が、揺れて音をたてた。

「どうですか、美神さん」
「やっぱり、ここにいたわ」

 美神さんは、暗視ゴーグルを使い池をはさんで反対側にある建物の中を覗き込んでいる。
 植物園の一角にあるその建物は、熱帯性の植物を育てるために、壁と天井がガラスで作られていた。

「まかせて大丈夫ね、ルシオラ?」
「ええ。今夜は月も出ていないし、私一人でやれます」
「それじゃあ、私とおキヌちゃんで連中を追い込む。横島君はルシオラのサポートね」
「了解ッス」

 美神さんとおキヌちゃんが、建物に忍び込むため、その場を離れた。
 前回と同様、俺とルシオラは、しばらくの間二人きりとなってしまう。

 美神さんが行動を起こすまで、まだ少し時間があった。
 俺はチラリとルシオラに視線を向けてみた。

「あ……」

 俺の視線に気がついたルシオラは、照れた表情をしながら、そっと視線をそらした。
 実はちょっとばかり、気になるセリフを言ってみたかったりする。

「ルシオラ……。今、俺たち二人きりだよな」

 前回はここで勢いにのってキスを迫ってみたら、「流れを読みなさい!」とか「仕事中は禁止!」と怒られ、さらに平手打ち一発を食らってしまった。
 まあ、怒ったルシオラも、けっこう可愛かったりしたんだけど。

「そ、そうね……」

 あれ!? ルシオラの反応が違う。ひょっとしてOKだったりするとか?

「ちょっとだけなら……かまわないけど……」

 なんかすごく嬉しかったりする。それじゃあ、ちょっとだけ……

「ルシオラ……」

 俺はルシオラの頤(おとがい)に手を当てると、唇を重ね合わせた。

「……」

 数秒間触れ合ったあと、そっと唇をはなした。

「ヨコシマ、聞いていい?」
「ああ、いいけど」
「私のこと、好き?」
「も、もちろんさ」
「それだけ……?」

 上目使いで俺を見つめるルシオラの瞳が、わずかに潤んでいた。

「あ……あのさ……愛しているよ……ルシオラ……」

 俺がたどたどしい口調で、その言葉を口にしたとたん、ルシオラが俺の胸の中に飛びこんできた。

「あの……」

 ルシオラは、俺の胸に顔を埋めながら涙を流していた。
 よくわからない。俺はルシオラに、何か悲しませるようなことをしたのだろうか?

「その……ゴメン」
「ちがうのよ、ヨコシマ……」

 ルシオラの唐突な反応に、俺は驚いていた。こんなにも彼女が感情を高ぶらせるなんて──

「私、嬉しいの。だって、あなたは──」

 ルシオラの話の続きが気になるが、ここは彼女を落ち着かせる方が先決だと思う。
 俺は黙って彼女の背中に手を回し、軽く抱きしめた。




 しばらくそのままでいるうちに、ルシオラのすすり泣く声が少しずつおさまってきた。
 俺は彼女の髪の毛を、そっと手で撫でてみる。

「どう、落ち着いた?」
「ごめんなさい、ヨコシマ」

 俺はしばらくこのままでいたかったが、しばらくすると池の向こうの建物の中から、サーッとざわめく物音が聞こえてきた。

「はじまったな」
「行きましょう、ヨコシマ!」

 俺とルシオラは、すぐに真剣な表情になった。
 不意打ちを食らった昼間と違い、今回の行動で俺たちが危険な目にある可能性はかなり低い。
 だが俺たちがパピリオを説得できなければ、パピリオを始末する破目に追い込まれることも十分にありうる。
 パピリオを救えるかどうかについては、これからの俺たちの行動ですべてが決まってしまうのだ。
 俺は気持ちを切り替え、パピリオが建物の外に出てくるのを待っていた。


(続く)

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