ザ・グレート・展開予測ショー

長編・GS信長 極楽天下布武!!(2)


投稿者名:竹
投稿日時:(04/ 2/15)

人は城
人は石垣
人は堀
情けは味方
仇は敵也















妙神山修行場……が有った所。
辛うじて使える状態にある一室。
藤吉郎は,負傷した勝家を此処に運び,手当てをしていた。
「う……」
「あ,気が付きましたか,権六様」
「こ,小僧……?如何して此処に……」
「いや,何か嫌な予感がして戻ってきたんです。そしたら,植椙何たらとか言う女が,権六様を殺そうとかしてたもんで」
「……あの女は?」
「逃がしちゃいましたけど」
「そうか……」
追っ払ったと言えば良いものを……。
見かけに拠らず,善い漢だ……。勝竜姫様は,此奴のこんな所に惚れたのかも知れないな。
「うっ,つっ!」
「あ,駄目ですよ。未だ動かない方が」
「……私は良い」
「え?でも……」
「この程度の傷……,いや,酷いには酷いが,じっとしていれば治る。それより勝竜姫様だ」
「勝竜姫様が如何かしたんですか?」
「タツリオ殿や信盛と共に俗界へお逃げなされた。……俗界では不都合も有ろう。頼まれてはくれぬか」
「いや,と言われても……」
「何,別に命に代えてもお守り致せとは申さん。只……,勝竜姫様がお前を頼って来られた折には,手を貸してやってはくれぬか」
「あ。はい,その程度ならお安いご用です!」
「うむ……」
「でも……権六様は本当に大丈夫ですか?」
「心配するな。そんな事より,お前にはあの女の方が大事だろう。……奴は,いや奴等は,俗界で何か“でかい事”をやらかすつもりの様だぞ」
「ですね……」
て言うか……,俺,あの人に覚えとけとか言われたんだっけ……。次に会ったら,殺されるかも……。
「……早く行け!」
「は,はい!じゃあ,薬は此処に置いときますんで」
「ああ……」
「――っと,そう言えば」
「何だ?」
「秀……豊国大明神様は如何なされました?」
「老師は,残念ながら今朝から神界にお帰りになられている。神界への扉が破壊された今,お帰りは何時になる事か……。老師がいれば,あの様な輩,如何と言う事も無かったろうにな」
「そっすか……。じゃ,じゃあ,お大事に!権六様!」
「うむ……。お前の方こそ,気を付けるのだぞ」
「はいっ!」
こうして,藤吉郎は再び下山の途に付いた。
しかし,この後に彼を待っているのは,穏やかな学園生活では無かった……。



p.m.1:40。東京,皇居広場。
「へえ。此処が竹千代の城か。なかなか立派なもんじゃねーかよ」
「……今は天皇の家だけどね」
信長と帰蝶。一週間耐久デート,二日目。
「ま,俺の安土城に比べりゃ未だ未だだけどな」
「安土城は本能寺の変で全焼しちゃったけどね」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……お濃。金柑頭が暗殺されたら,お前の所為だぞ」
「何言ってんの?」
「んな事より……」
「何よ?」
「なーんか,臭わねぇか?」
「そうね……。不自然に強すぎる“負”の臭いがプンプンと臭ってくるわね」
「……如何する?」
「如何したい?お金にはなんないけど」
「決まってんだろ……。火薬庫の中で火遊びってな,スリルが有るからな!」
「……言うと思ったわ」


皇居広場のほぼ中心に位置するその霊穴に,真っ黒いコートと帽子で身を隠した,怪しげな男が立っていた。
「此処が江戸城の中心……。此処を封じてしまえば……ふくくくく……」
口元を綻ばせ,男は不気味に含み笑いをする。
と……
「なーに,やってんだ。お前ぇ?」
「うわ!?」
「此処は立入禁止だろ?」
「て,私達も入ってるけどね……」
突然後ろから声を掛けられた男が振り向くと,信長と帰蝶が立っていた。
「な,何時の間に!?このコートとキャップは,霊波を完全に絶つ筈なのに!糞,彼奴め,試作品とか言って,失敗作を持たせたのか!」
「……霊波を絶っても,気配を絶たなきゃ意味無ムよ」
「序でに言うなら,あんたから強烈な“負”の臭いがプンプンしてたからね。私,職業柄そう言うのを嗅ぎ取るのは得意なの。……何をしてたの?答えなさいよ」
「おい,聞くのか?」
「火遊び,したいんでしょ?只ぶらつくだけのデートも退屈だしね」
「へっ……」
「だ,誰だ,お前達!」
「俺は天下一のゴーストスイーパー(予定),織田信長様だ」
「同じくゴーストスイーパーの,小笠原帰蝶よ」
「な,何……」
「で?此処で何してた?」
「……」
信長に詰め寄られ,男は少し探る様な仕草をし,その後こう言った。
「別に……“中央”を,少しずらしただけさ」
「何……?」
「江戸の町の“四神”は,開発の為に殆ど機能していないが……まあ,念の為だ」
「あ?そりゃ如何言う――」
「……何の為に?」
問いを発しかけた信長を制し,帰蝶が男に問うた。
「……この後,“我々”と同じ事を考える者が出ぬ様にする為さ」
「如何言う事?」
「これ以上は答えられないな!」
そう言うと,男は身を翻し逃げ出そうとした。
「あ,こら,待ちやがれ!」
逃げようとする男を,信長が掴みかかって止める。
「く,このっ!離せっ!」
「るせ,離すかっ!」
しばし揉み合いを演じている内に,男の帽子が取れた。
「あ……お前は……!」
「し,しまった!」
「朝倉の……!」
その男の顔は,信長の天下布武に立ちはだかった嘗ての敵,朝倉義景そのものだった。
「ま,そっくりさんだろうがな」
とは言え,妹婿の浅井長政を自分と争わせる様に仕組んだ男である。単に同じ顔なだけと分かっていても,度し難いものは有る。
「あ,此奴……」
「知ってんのか?お濃」
「前に一緒に仕事した事ある人だわ。確か,ゴーストスイーパーの淺鞍義景(あさくら・よしかげ)さんとか言ったっけ」
「顔を見られたからには仕方ない!」
義景が,飛び退って身構える。
「可哀相だが,二人とも此処で死んでもらう!」
「へっ!面白ぇじゃねえか」
「何で,いきなりこんな事に……?」
信長が勇み立ち,帰蝶がぼやく間に,義景は懐から式符を取り出した。
「行くぞっ!」
「応!何時でも来いやぁっ!」
と言いつつ,信長は思っていた。此奴は大した事ない,と。
此奴の力が強いのか如何か,自分には分からない。しかし,今から殺そうとしている相手に対し,わざわざ行くぞと予告するなんて,間抜けと言う他ない。奇襲は兵法の基本ではないか。
恐らく此奴は,人殺し等した事無いのだろう。若しくは,これはポーズでそもそも俺達を殺す気が無いか。……何れにしても,余り身構える必要も無さそうだ。
此奴は囮なのかも……とも思ったが,俺達が話しかけてくる自体,此奴には予想外の出来事だった様だから,それは無いと考えて良いだろう。
「ぉぉお……っ!」
信長がそんな事を考えている内に,義景は術を発動した。
義景の右手の式符が光り,替わりに巨大な剣が形を成していく。
「これが私の技……『魂魄の剣(スピリット・オブ・ソード)』だ!」
「麻倉違いだーーーーーーっ!」
「まあ……霊能力には変わりないけどねえ……」
取り敢えず突っ込みを入れてみる,信長と帰蝶。
「五月蠅い!食らえッ!」
ブンッ!
義景が『魂魄の剣』を振るう。
巨大な剣は更に面積を増やし,周りの木々を刈り取っていった。
「ちっ……!おい,お濃!彼奴のあの技は何なんだ!?」
上に飛んで辛うじて斬撃を避けた信長が,隣の帰蝶に問う。
「あの人は“式神使い”……。それも,ちょっと珍しい“武装式術”を使うのよ」
「“武装式術”ぅ?何だ,そりゃ」
「要するに……式神を,そのままの形じゃなくて,あんな風に武器の形に実体化させて使うのよ」
“式神”とは,基本的に何かを媒介にして,それに低級神や妖怪,幽霊等を閉じ込め,使役する術の事だ。
“武装式術”は,閉じ込めた“モノ”を実体化する時に,術者の“気”で武器の形を成させ,それを自ら振るう術なのである。
「つまり,それなりの技術が必要な技なワケ。とは言え……,相当な理由が無い限り,余り意味の無い術だったりするのよね。式神を実体化させるには術者の“気”を使うけど,武装式術もそれは変わらないし。術者と式神の両方から攻撃出来るのに,わざわざ術者だけになるんだもの」
「へえ……」
「ま,とすると考えられるのは,術者に霊的格闘の自信がないか,式神自体の能力に問題が有るか……」
ドン!
信長と帰蝶の間に,義景の第二撃が振り下ろされた。
「……何を悠長に話し込んでいるんだ?」
少しばかり怒気を含んだ声を発し,義景は再び『魂魄の剣』を振り上げる。
「けっ!要するに,彼奴は弱いって事だろう!?」
「にしたって,あの技が強い事には変わりないわ」
「望む所よ!」



その頃。名古屋市のとある蕎麦屋。
「っあ〜,美味かった!」
妙神山を下りた藤吉郎は,東京へ帰る前に,腹ごしらえをすませていた。
「ん〜,今から帰っても学校には間に合わないな〜」
独り言を呟きながら藤吉郎が歩いていると,例の如く(?)後ろから声を掛けられた。
「ねえ」
「え?」
藤吉郎が振り向いた先には,中学校に上がるか上がらないか位の少年が立っていた。
「えっと,俺?」
「そう」
「何か用?」
「あんたが,“豊臣秀吉”?ゴーストスイーパーの」
如何やら,今度は知り合いではないらしい。
しかし,生意気そうだが,無邪気な悪意を宿す少年の眼に,藤吉郎は何か薄ら寒いものを感じた。
「えっと……そうだけど……」
「ふ〜ん……」
少年は,如何にも生意気そうに,藤吉郎に品定めをするかの様な視線を送った。
「あの……?」
「ま,此処じゃなんだから」
付いてこい,と言う風に,少年は藤吉郎を一瞥した。



更に同じ頃,織田除霊事務所。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
「誰か来た」
「先生でござろうか!」
「さあね」
そんな会話を交わすと,重治と考高は玄関へ向かった。
「はぁ〜い」
ガチャ……
重治が玄関のドアを開けると,其処には妙齢の女性と少女,そして中年の男性が立っていた。何れも,人間の臭いではない。
「……何方でござるか」
「あ,私,妙神山修行場の管理人,勝竜姫と申します!織田さんはご在宅でしょうか!?」
「オダなら,今デートに行っちゃってるけど」
勝竜姫の問いに,考高が返す。
「じゃ,じゃあ豊臣さんやヒカリさんは!?」
「ヒカリ殿は学校でござる。豊臣先生は,先日外出なされたまま,未だ帰って来ておりませぬ」
重治が,胡散臭そうに返す
「帰ってない……?」
藤吉郎は,東京から妙神山迄,数時間で走り抜けた。そして彼が妙神山を出たのは朝。ならば,もう東京に着いていなければおかしくはないか?
何故だ?考えられる理由は――
「まさか,あの者達,豊臣さんを……?」
「えっ!如何言う事でござるか!?」
「ちょっと,何よ!トヨトミに何か有ったの!?」
慄然として呟く勝竜姫に,重治と考高が詰め寄った。
「無礼者!気安く勝竜姫様に触れるでない!」
「何よ,このおっさん!」
「お,おっさんだと!?」
「止めなさい,信盛!」
「そうでちゅよ。未だムラマサが襲われたと決まった訳でないでちゅし。右鬼が何とかしてくれたかもでちゅよ」
「あ,そ,そうですね。豊臣さんも何処かに寄り道してるだけかも知れませんし」
「ムラマサが心配なのは分かるけど,早とちりにも程があるでちゅよ〜」
「え,ええ……」
「あの……?」
何時の間にか話に置いて行かれた重治と考高が,怖ず怖ずと勝竜姫達に話しかける。
「結局,どちら様な訳?」
「あ,えっと……織田さん達が帰ってくる迄,待たせてくれませんか?けして怪しい者ではないですから」
とは言え,怪しい客等珍しくもない訳で。
「は,はい。それは構わんでござるが……」
「すいません」
「失礼するでちゅ!」



藤吉郎が連れて来られたのは,あの公園――藤吉郎が名前を変えた場所だった。
「こんな所で何を……」
「……」
少年は,相変わらず不気味な笑顔を浮かべたまま,藤吉郎の前に立っている。
「あの……?」
「あんた,“豊臣秀吉”でしょ?植椙のねーちゃんに一泡吹かせたって言う」
「えっ!?」
藤吉郎は驚愕した。
自分があの植椙景勝と名乗る女と戦った事を知っているのは,自分と勝家のみ。ならば何故,この少年がその事を知っている?
考えられるのは……,景勝から聞いたとしか……
「君……あの人の知り合い?」
「そうだよ。僕は景勝ねーちゃんの“仲間”」
「“仲間”……?」
「そう言う事。って言っても,街であんたを見つけたのは偶然だけどね」
「……で……何の用かな?」
「ふふ。あんたは,景勝ねーちゃんの顔,見ちゃったからね。ま,俺の顔もだけど」
「え……?まさか……」
「そう言う事。僕は雨姫蛇秀家(うきた・ひでいえ)。一応,『魔流連』の幹部の一人さ」
「『魔流連』……?」
「んー,あんま気にしなくても良いと思うよ。如何せ,あんた此処で死ぬんだから」
「え……?」
「鈍いなー。それとも,すっとぼけてるだけ?認めたくないの?」
「……」
「分かってるでしょ?僕が,此処であんたを殺すって言う事さ!」



「うおぉぉぉ!」
ゴォッ!
義景の何撃目かの攻撃が,周りの木々を完全に刈り取った。
「ひゅーっ。随分とさっぱりしたなあ」
「良いの?」
「ま,やったのは俺等じゃないしな」
「まあ,ね……」
「ははは,如何したあ!先程から逃げ回ってばかりじゃないか!」
「るせー」
「あんたこそ,一発も当たって無いじゃないの!」
「な,だ,黙れっ!」
激昂した義景が,『魂魄の剣』を振り下ろす。
「おっと!」
「そんな大振り,当たらないわよ!」
「糞っ!ちょこまかと……」
だが,義景の攻撃は信長にも帰蝶にも当たらない。
「とは言え……,これじゃこっちも近づけないんだけどね」
「だな」
「如何するの?」
「んー……」
「ねえ」
「良いんじゃねえの?何もしなくても」
「え?」
「うおおぉぉ……お?」
ポヒュッ……!
突然,義景の『魂魄の剣』が掻き消え,式符が宙を舞った。
「え,な,何よ?突然」
「あの技,凄ムんだろ?」
「え?そうねえ。凄い霊圧を感じたわね」
「それをあんな長時間作ってたら,霊力が枯渇して然るべきだろ?」
「……そっか。間の抜けた話ね」
「全くだ」
二人の視線の先では,義景が慌てふためいて式符を振り回していた。
「な!?おい,小金弥!如何した!?出てこい,返事をしろっ!」
「いや,だから霊力が底ついてるんだってば」
「霊力を媒介に注ぎ込まなきゃ式神は実体化出来ないわよねえ」
「な……私の霊力が尽きたというのか!?」
「うん」
「く,糞……」
「で?如何するよ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……きょ,今日の所は此処等辺にしといてやる〜!」
「逃げる!?」
帰蝶が転けた。
「させるかよぉっ!」
その場から逃げ出そうと走り出す義景を,信長が追いかける。
走りながら,荒縄を巻いた神通根の腕抜きに手を通す。
「おらあっ!追いついたぜ!?」
「ひ,ひいっ!?」
目前に迫った義景の背中に,信長は神通根を抜いた。
そして,義景の後頭部に思いっ切り振り下ろす。


「是非に及ばず!」


「ぐわああぁぁ〜〜!」
「けっ!今日はこの辺にしといてやるぜ」
追いかけてきた帰蝶が信長に声を掛けた。
「……殺ったの?」
「ばっきゃろ,落としただけだよ」
「如何する?これ」
「さあな。何か,気になる様な事言ってやがったけど」
「そうねえ」
「お前は如何したら良いと思う?」
「まあ,GS協会に引き渡すべきなんでしょうけど……。協会も,上の人達は何げに信用出来ないからねえ。あんたの親父さんにでも預けたら」
「だな……。そうすっか」


これが,信長と『魔流連』との出会いであった。

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